大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ポナの季節・76『世界で一番熱い夏』

2020-10-27 05:50:49 | 小説6

・76
『世界で一番熱い夏』
        



 アリスの広場にアリスがいるわけではない。       

「ア」はあらかわ遊園、「リ」はリバー、「ス」はステージを現している。
 夏は小学校の四年生まで、そのことを知らなかった。

「ア、アリスいるよね!」

 玄関から出ていくお父さんに聞いてみた。

 ほんとうは「出て行かないで!」と叫びたかった。でも、そんな直接的な言い方をしたら全てぶち壊しだと思い、アリスのことがとっさに口をついて出た。
 お父さんは、アリスの広場の本当の意味をボソリと言い、そのまま出ていってしまった。
 夏は幼いころからの夢とお父さんの両方を一度に失った。
「なにも最後の最後に言わなくっても…………夏、お母さん夏のためにがんばるからね。めそめそしないの!」

 たしかにお母さんはがんばった。

 駅一つ向こうのスナックから始め、今は銀座のクラブで働いている。ホステスの仕事が合っているのか、夏の目から見てもお母さんはイキイキしている。今ではチイママというのになり「夏のため」というのはお題目になってしまった。
 夏は中学の二年生になってから学校を休みがちになり、ほとんど不登校のまま夏休みに突入した。
 学校には行かなくなったが、それに反比例してあらかわ遊園に足を運ぶようになった。

「……もう一人で遊ぶのは限界かな」

 家族連れの子どもが多い中、中学生の夏は一人で遊ぶのに抵抗が出てきている。メリーゴーランドや豆汽車に乗っていると大人たちの視線を感じることが多くなった。
「でも自転車で来れて、千円でお釣りが出るようなとこ他にないしな……」
 そう言ってはいるが、園内を歩いていても幸せそうな家族づれに目がいく。かつての自分ちと近似値の親子たちに。
 観覧車に乗ると一枚のチラシが目に入った。

――SEN48サマーライブ! アリスの広場で!――

 タイトルを見て少しだけ心が躍った。ユーチューブで見た売り出し中の女子高生ユニットだ。
「あ、字まちがえてる。熱い夏じゃなくて暑い夏でしょ」
 それだけの興味で夏は、しばらく行っていないアリスの広場に足を運んだ。

「すごい……( ゚Д゚)」

 定員八百の客席に千人ほどが入っている。幼いころ、この広場で観たどんなショーよりも多い観客だ。

「それでは最後の曲聞いて下さい! あたしたちSEN48この夏のテーマ曲『世界で一番熱い夏』でーす!」
 
 浜崎安祐美が叫んで、巻き起こる拍手と歓声。

 夏は迫ってくる音楽に圧倒されながら、この曲は自分に投げかけられたものだと感じた。
 ギターもベースもドラム、キーボード、そしてボーカル、全てが新発見。メンバーのみんながアリスに見えた。

「今日は、あたしの一番熱い夏だ!」

 夏は初めて握手会というものに並んだ。誰にしようかと迷ったら、流れのままにポナの愛称の寺沢新子のところに並んだ。
「寺沢……あたしの平沢にちょっと似てる」
 ささいなことが嬉しかった。
「どうもありがとう!」
 ポナのキラキラした目にしびれた。
――あたしも、こんな目になりたい! アリスの瞳だ!――

 握手が終わって振り返ると、列の向こうに知った顔があった。お母さんの店のママさんの顔が……。

 

ポナの周辺の人たち

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢 夏  未知数の中学二年生

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かの世界この世界:114『落花狼藉の大騒ぎ』

2020-10-27 05:38:36 | 小説5

かの世界この世界:114

『落花狼藉の大騒ぎ』語り手:テル       

 

 

 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ

 

 太宰治の『右大臣実朝』の一節だと思うのだが、太宰治が何者で右大臣も実朝もよく分からない。どこか夢の中で出てきた言葉なのかもしれないが、目の前で繰り広げられている光景は、まさに、この言葉通りだ。

「おかえり、ヤコブ! しばらく見ないうちにいい男になって! お母さん嬉しいよーーーー!」

「おかえり!」「久しぶりいい!」「やあ!」「ウッス!」「ほんとにおかえり!」「おかえり! グラス持って!」「グラスこっち!」「あーーもーージッとしてらんない!」「歓迎のポルカだ!」「サルサだ!」「ヨサコイだ!」「ヤコブを真ん中に!」「となりはあたし!」「ずるい!」「あんた小学校でもとなりだったじゃん!」「となりはあんた!」「膝の上でもいいよお!」「まずは胴上げだ!」「そーだそーだ、胴上げだ!」

 なんだか分からないうちに胴上げになり、阪神タイガースの優勝みたいになった。お調子者が川に飛び込む代わりに片っ端からシャンパンやビールの栓を抜いてアルコールの雨を降らす。

 って、阪神タイガースってなんだ? 時々分からない言葉が浮かんでくる……。

 子どもたちも、一瞬四号に目を輝かせるが、大人たちの乱痴気騒ぎに載ったり載せられたりで飛んだり跳ねたりしている。

 胴上げを八回もやられて「ちょっと助けてえ!」とヤコブがこちらも見るものだから、舞い上がった参加者がいっせいにこちらを見た!

「次は、あんたらだ!」

 数十人の矛先が、四号の乗員に向かった。

 ロキとポチはノリノリで喜んだが、あとは軍服は着ていても女だ。あちこち触られまくりの胴上げには抵抗がある。

「ウ」「キャ!」「グエ!」「ウヒョー!」「フグ!」「ギョエ!」

 為すすべがない。

「え、あ、ちょと……」

「ボタン外さないでえ!」

「ベルトおおお!」

 胴上げされながら服を脱がされていく。

 もう身を任せろ。

 横を見ると、ほとんど下着だけにされてしまったタングリスが、どこか楽しんでる顔でウィンクしている。

 えーい、ままよ!

 身体の力を抜くと、あっという間に裸にされて、恥ずかしがる間も有らばこそ、別の衣装に着替えさせられた。

 

 もう一回、カンパーーーイ!!

 

 参加者と同じヘルムの民族衣装に着替えさせられて、飲んだくれたちの仲間入りをさせられてしまった。

 それから、いっしょにポルカを踊ったり、何十枚も写真を撮ったり撮られたり、食べたり乾杯したり歌ったり。落花狼藉の大騒ぎの渦になった。

 さすがに酔っぱらって尻餅を突いたところにヒルデが倒れ込んできて意識がなくなった。

 

 まるで玉砕した部隊の中で、たった一人生き残ったような感じで目が覚めた。

 ウンコラショ……っと、ヒルデのお尻をどかせ、脚にまとわりつくケイトを引き剥がして首を巡らす。

 ヒソヒソ ヒソヒソ……

 二つ向こうのテーブルで密かに話し合う声が聞こえてきた……。

 

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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銀河太平記・015『修学旅行・15・児玉元帥・4』

2020-10-26 14:01:49 | 小説4

・015

『修学旅行・15・児玉元帥・4』   

 

 

 普通、ゲストへのもてなし程度だったら汎用のレプリケーターを使う。

 レプリケーターというのは、飲食物の自動生成器だ。インタフェイスに品目や条件を示せばたいていの飲食物は間に合う。

 元帥に指示された接遇の女性兵士は事務所の厨房に向かった。

「レプリケーターは同じ味しかしないからね、ここでの飲み物は、毎回当番兵に作ってもらうんだ。彼女はロボットだけど、やる度に変化があるのは面白いって喜んでいる」

「え、ロボットにゃの?」

 テルが遠慮なく驚く。ロボットが人間的だということで驚いたり感動したりを口にするのは無作法で、時には差別ととられかねないんだ。分かるだろ? 人間的って感動するのはロボットが人間以下だという感受性が前提だもんな。でも、見た目が幼児のテルが聞くと、目くじらをたてられることがない。

「気になるかい?」

「あ、とっても自然だかりゃ(#ω#)」

「人の思念もロボットの知覚も煎じ詰めれば電気信号、固着させていれば人もロボットも変わりはない」

 そうなんだ、児玉元帥は満州戦争で瀕死の重傷を負い、JQというロボットにソウルをダウンロードさせて、戦闘指揮を続けて日本軍を勝利に導いたんだ。

 絶世の美女の外見をしたオッサン(失礼な言い方だけど、分かりやすいからな)というのは変態とか気持ち悪いってカテゴリーに入るんだけど、児玉元帥は、そういう世俗的な感性を吹き飛ばしてしまう凄みと経歴がある。

 それまで、ロボットに移植できるのはスキルとパターンだけだと言われていた。ソウルとは魂の事で、こればかりは移植とかダウンロードという概念規定される処置は不可能だと言われていた。

 道徳的に不可と言うだけではなく、技術的にも成しえない処置だとされていた。

 元帥は肉体的には戦死したが、そのソウルはJQというロボットの中で生き続け、壊滅の危機にあった満州駐留軍を立て直して漢明軍を壊滅させて奇跡の勝利をつかみ取った。その満州戦争の功績で元帥府に列せられている。

 当時の満州駐留軍は児玉司令を除くほかはロボットで構成されていた。人間の将兵を駐留させては漢明国をいたずらに刺激するということで、腰の引けた日本政府は、そうせざるを得なかった。

 ロボットの思考と行動はプログラムされたスキルとパターンに依拠しているので、同等規模同士の軍隊は作戦も戦闘行動も読まれてしまって、ロボットに勝ち目はないと言われていた。一方の漢明軍は半数近くが日本軍の指揮と戦闘行動を熟知した人間で構成されていて、世界的な軍事常識から言って日本軍に勝ち目はなかったんだ。

 日本軍のロボット将兵は戦闘終了時には僅か48名に減っていた。

 この作戦と戦闘指揮はロボットに出来る技ではなく、その肉体は滅んでJQと置き換わったが、ソウルは児玉司令そのものと国の内外から称揚された。

 戦後、元帥となった児玉司令の働き掛けもあって、ザックリ言ってロボットの人権が認められるようになった。

 以上は、修学旅行に備えてヒコの祖父ちゃんから聞いた内容だ。

「わたしの部隊では人とロボットの区別はしない。それで四半世紀やってきた。すると見た目にもロボットどんどんは人に似てきてな。怠けていると、すぐに生体組織に贅肉が付く。子どもたちを相手に水泳教室をやっているのは自分自身のためでもあるんだ。歳のせいか、三日も休むと肉が付いてしまってな……なんとか腹のハミ肉は解消したかな……ところで、ひとつ聞きたいんだが」

 元帥はグイと身を乗り出す。

 胸の谷間が迫って、狼狽えてしまった。

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 

 

 

 

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まりあ戦記・021『4%の脂肪が落ちるまで』

2020-10-26 06:29:11 | ボクの妹

・021
『4%の脂肪が落ちるまで』    



 

 箱根には、ヨミの爪痕がない。

 東京を中心に、関東地方のほとんどが完膚なきまでに叩きのめされたのとは対照的だ。

 いや~~極楽極楽~~~(#^.^#)

 三度目の温泉に浸かったまりあたちは、もう蕩けそうだった。
「やっぱ、三人一緒に浸かるのがいいよね~~~グビグビグビ……プハー!」
 浮かべたたらい酒に喉を鳴らして、みなみ大尉はご満悦だ。
「お酒がいっしょなのが一番うれしいんでしょ~?」
「いやいや、そうだけどね~ お酒が美味しいのも、こうやって三人水入らずで寛げているからじゃ~ん」
「でも、お湯の中だっていっても、女が立膝っていうのは、どうかと思うわ」
「マリアのくせして、細かいこと言うんじゃないわよ~」
「今は晋三です」
「男の晋三が、女湯に入ってるわけないでしょ」
 さっきまで、マリアは男湯に入っていたが、一人ではつまらないので女の体に戻って入っている。髪の長さは晋三のままなので、ボーイッシュな女の子にしか見えない。
「せめてタオルで前を隠そうよ」
「あ、ごめんごめん」
 お体裁だけ、タオルを前に持ってくるが、タオルは直ぐにほぐれてしまい、水面にホワホワと浮いてくる。
「あーーー、ダメだって眠っちゃ!」
 みなみ大尉は、大の字になって浮かんでしまう。器用に顔だけは沈めずに溺れる心配はないようだ。
「みっともないわよ、写真撮っちゃうわよ」
 マリアは、目に内蔵されているカメラで大尉の醜態を記録し始めた。

 大尉は年季の入った酔っぱらいで、マリアとまりあの世話にもならないでロビーに戻った。

「お、卓球やろうぜ! 卓球ぅ!」

 卓球台を見つけると、嫌がる二人を相手に三十分、酔っぱらいとは思えない気合いと身のこなしで、二人をやっつけた。

「ねえ、みなみさん。あたしたちも上手くなりたいからさ、そこに座って悪いとこチェックしてくれないかなあ」
「そー、コーチコーチ!」
 まりあは、フロントでもらったメモ帳とボールペンを渡した。
「おーし、チェックしたうえでビシバシ鍛えてあげるからね!」
 これは二人の作戦だ。みなみ大尉はツーセット目には舟をこいで眠ってしまった。

「もー、もっかい温泉に入ろう!」

 やっと大尉を寝かしつけた二人は四回目の露天風呂に浸かった。
「ねえ、マリアなら卓球なんてお茶の子さいさいでしょうに?」
「今はリラックスモードだから、遊びに関しては普通の人間レベルなの。それにさ、あたしが勝ったら、みなみさん熱くなっちゃって、コーチやらせたぐらいじゃ寝てくれなかったわよ」
「なるほど、深慮遠謀なんだ」
「でもさ、なんで、みなみさん、突然休暇になったんだろ」
「あたしにも分からない。ベースのCPUにリンクしても、司令の決定としか出てこない。ま、司令には、なにか思惑があるんでしょ、あたしたちペーペーは休暇を楽しんでりゃいいと思うわよ」
「そっかーー」
「ね、ちょっとマッサージとかしてあげようか?」
「え、なんで?」
「まりあ、4%ほど脂肪が付きすぎ。ま、平和が続いてるせいなんだろけど、影武者としては、ブタになったまりあをコピーするなんて真っ平だからさ……」
「……なに、その目」
「覚悟!」
「ギャーー!」

 まりあの手が伸びてきて、4%の脂肪が落ちるまでマッサージ地獄に堕ちるまりあであった。
 

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ポナの季節・75『㊙コーヒー牛乳の作り方』

2020-10-26 06:18:59 | 小説6

・75
『㊙コーヒー牛乳の作り方』
       


 

 コーヒー牛乳を作ろうと思ったら、パックのコーヒーが切れていた。

「あ、風呂上りに飲んじゃった」
「もうーーーーーーーーーーー!」
 アッケラカンと言うチイネエにポナは子牛のような声をあげた。お母さんがクスッと笑う。

「代わりにいいこと教えたげる」
 チイネエは、冷蔵庫から牛乳と麦茶のリキッドポーションを出した。
「エー、こんなの飲めるの!?」
「ポナは甘党だからガムシロ入れてかき回す……飲んでみそ」
「エエー……!?」
「いいから、いいから」
 チイネエの勢いに押されてチビリとやる。
「……オ、コーヒー牛乳だ!」
「でしょ」
「なんで、こんな裏技知ってんの?」
「だてに大学いってませーん」
「社会学部って、こんなことも習うの?」
「まあね」
 
 で、夕べのポナは夢を見た。

 コーヒーと麦茶が互いに驚いている。
「まさかこの組み合わせでコーヒー牛乳にされるとは……!」
 なぜかコーヒーはお母さんで、麦茶は真奈美さん。コーヒー牛乳は一人ニコニコしている。
「コーヒー牛乳、コーヒーさんと牛乳さんに感謝しなさい!」
 そう言うと、コーヒー牛乳はつるりと顔を撫でてポナになってしまった。
「なんで!?」と叫んで目が覚めた。

 朝起きるとポナは胸がつかえていた。

――一人で乗り越えたと思ってたけど、きちんと言いなさいってことかな……――

 ポナは洗い物をしているお母さんに声を掛けた。
「コーヒー牛乳としては、麦茶さんに言っておかなきゃいけないと思うの……」
「え?」
「じつは……」

 ポナは生みの母である真奈美のことを不器用に話した。

「ああ、そのことなら真奈美さんからお父さんに連絡があったわ。恐縮してらっしゃった、ポナにはお母さんて呼ばせないそうね」
「……知ってたんだ」
「すこしギクシャクするかもしれないけど、時がたてば落ち着くと思うわ」
「落ちついちゃっていいの?」
「ポナには二人のお母さんがいる、それを前向きにとらえればいいとお母さんは思う」
「そうなの?」
「そう思うわよ、それより朝ごはん食べてしまいなさい。コーヒー牛乳もまとめて作っておいたから」
「お母さんもチイネエに習ったの?」
「ハハ、バラエティーでやってたの優里といっしょに観てたのよ」
「なんだ、ちょっと尊敬したのにな」
 ちょっぴり萎んで、ポナはトーストをオーブントースターに放り込みスクランブルエッグを作る。
「あら、今日は立秋なんだ」テレビを点けたお母さんが言う。
「ええ、まだこんなに暑いのに?」
「ポナ、換気扇回しな」起き抜けのチイネエ。
「ヘイヘイ」
「なによ、そのぞんざいな返事は。ああ朝から暑いなあ」
「これ優里、女の子が胸をはだけるんじゃありません」
「ヘイヘイ」

 ちょっとおかしくなって冷蔵庫を開ける。フワっと冷気が零れてきて秋の予感がするポナだった。

 

ポナと周辺の人々 

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母

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かの世界この世界:113『我が食のトラウマ』

2020-10-26 06:08:42 | 小説5

かの世界この世界:113

『我が食のトラウマ』語り手:ブリュンヒルデ      

 

 

 大通りをヤコブの家に通じる道に曲がった時からいい匂いがしている。

 

 ちょうど昼に差しかかっていたので、レストランかなにかがあるんじゃないかと思った。

 オーディンの娘に生まれたが、贅沢に育ったわけではない。

 父のオーディンは元来放浪の神であるので、生活は質素だ。ヴァルハラは大きくて立派な城だが、七歳まで、父の事は城の管理人くらいにしか思っていなかった。むろん、平の管理人ではないが、せいぜい管理部長くらい。城にいる者たちも七歳まではブリュンヒルデとかヒルデとか、ひどいのになるとブリと呼び捨てだった。管理人の娘なら、そんなものだろうと疑うことも無かった。

 食事も城に仕える者たちといっしょ、当たり前のように大食堂で食べていた。大食堂はバイキング形式で、トレーを持って自分の好きなメニューを取る……というのは建前で、子どもが大人たちに交じって好きなものを取るのは至難の業。なんとなく子ども用、大人用、大人用でも戦士のテーブルとか女官たちのテーブルとか事務職のテーブルごとに集まる傾向があった。

 小さな子は大きな子が面倒を見てもらうので、知らず知らずのうちに大食堂での作法が身についていく。

 トール元帥の戦士たちが食べているのがとても美味しそうで、早く大人になって食べてみたいと、他の子どもたち同様にヨダレを垂らしていた。

 七歳になって王女の待遇になった。

 王女の待遇と言っても、呼ばれ方がブリュンヒルデから殿下に変わっただけと言っていい。改まった時に『ブリュンヒルデ殿下』とか『ブリュンヒルデ姫』とか、儀式の時は『天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花にしてヴァルキリアの陣頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫』と伝統的尊称で呼ばれる。学校に上がって侍女が付くようになって、その侍女が融通の利かない奴で、呼ぶたびに尊称で呼ぶ。そのうえドンクサくて、しょっちゅう間違う。間違ったら言いなおしだ。登校前の忙しい時に五回も六回も言い直されると遅刻してしまう。じっさい遅刻してしまうんだけど「侍女のやつが、何度も言い間違えるからあ!」とは言えない。ただ「すみませんでした」と謝って廊下に立たされる。

 この侍女が交代すると言うので「誰でもいいけど、天の下知ろしめすオーディンの娘にしてグラズヘイムの花にしてヴァルキリアの先頭に立つ我らが麗しのブリュンヒルデ姫とは呼ばない人にして!」とだけ注文を付けた。

 すると、次の侍女は「殿下」と簡単に呼んでくれる。

 いいっちゃいいんだけど、そのころ、よく便秘になって朝のトイレが長くなることが時々あった。すると、その侍女はトイレのドアを叩いて「殿下! 殿下! はやく!殿下!」と叫ぶ。むろん「遅刻しますよ!」いう意味なんだけど、わたし的には「早く出んか!」に聞こえる。

 まあ、そんな少女期が過ぎて、なんとか姫騎士と自他ともに認められるようになって、大食堂でもトール元帥の戦士たちの列に並んで好きなものが食べられるようになった。

 で……不味かった。

 憧れの騎士飯がこれかあああああ……というくらい不味かった。

 子どものころからの期待が大きすぎたせいかもしれない、わたしが早くにブァルハラを出ることになった原因の一つは、この大食堂の不味さにあることは確かだ。

 そういう食の原体験があるせいか、ヤコブの家から漂ってくる美味しそうな匂いは凄まじかった!

 グ~~~~~~~~~~~

 四号の乗員全員のお腹が鳴った。

 もし、大食堂のトラウマのように食べたらぜんぜん違った! ということになれば発狂するに違いないぞ~!

 

 この香りは、この匂いはほとんど犯罪的だあああああ!

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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せやさかい・175『大阪一の残念さんは木村重成やで』

2020-10-25 13:57:20 | ノベル

・175

『大阪一の残念さんは木村重成やで』さくら   

 

 

 大阪一の残念さんは木村重成やなあ( ^^) _U~~。

 

 お茶をすすりながらテイ兄ちゃんが言う。

 木村と言うとパンの木村屋しか知らんうちはポカンとしてるけど、他のみんなは「おお!」という顔をしてる。純粋のヤマセンブルグ人のソフィアさんまで「おお!」と言うのにはひけ目を感じる。

 こういう時に黙ってるとくすぶってしまうんで、陽気に手を挙げる。

「キムラシゲナリさんて、なに?」

 みんなは「え?」という顔をするけど、聞くは一時の恥やからヘッチャラな顔をしとく。

「木村重成いうのは、豊臣の家来でな、秀頼と同年齢の若者や。大坂夏の陣で大坂城がいよいよあかん言う時に出陣してな、若江いうとこで討ち死にしたんや。首は家康の前に運ばれて首実検したんやけどな、家康は『敵ながら惜しい若者を死なせてしまった』と涙ぐんだらしい。どうも、以前から重成を見込んで引き抜き工作をしとったらしい。それで、首を自分のそばまで持って来させると……」

「知ってます! です」

 ソフィアさんが手を挙げる。

「わたしに話させてください、です!」

「うん、そんならどうぞ……」

「シゲナリの首からは、とってもいい香りがしたんだそうデス。イエヤスが不思議に思って調べさせると、シゲナリのヘルメット……えと、カブトには香が焚きしめられていて、いい匂いがするようになっていました。大坂の陣は五月、いまの暦では七月だったので、打ち取られた首が腐った臭いさせないためにという気遣いだったそうです。それで、イエヤスは『サムライとはこうありたいものじゃ!』と感激したという話です!」

「うん、その通りや。ソフィアさん、よう知ってるなあ」

「領事館で習いました、ボスが大阪や日本のあれこれレクチャーしてくれますデス。でも、シゲナリがザンネンサンは知りませんでした。デス」

「そうか、それやったら、ちょうどええわ。重成さんのお墓見にいこか!」

 アホのテイ兄ちゃんは、さっそくポケットから車のキーを取り出す。

 鼻の下が伸びとおる。

「今からやと、戻ってきたら夜になるんちゃう?」

「あ、あかんかな?」

 留美ちゃんと銀之助が顔を見合わせて「ちょっと……」いう目をしてる。

 テイ兄ちゃんは、理屈をつけて頼子さんといっしょに居たいだけやから、あたしも反対する。

「ほんなら、日を改めて、みんなで行くことにしようよ」

 そう提案して、日取りはメールのやり取りで確認することにした。

 まあ、頼子さんもテイ兄ちゃんを嫌ってるわけやないさかい、ええねんけどね。

 なんか、やってこましたいあたしは、ちょっとイケズなんかもしれへん。

 

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まりあ戦記・020『突然の休暇』

2020-10-25 06:18:24 | ボクの妹

・020
『突然の休暇』    



 ここのところヨミの攻撃が無い。

 首都駅に着くなりヨミの攻撃に晒され、命からがらたどり着いたベースでは、いきなりウズメに乗せられ、命がけの戦闘をさせられた。
 もう、なんでもかかってこい!
 まりあは覚悟を決めていたが、こんなに平穏な日々が続くと、いっそこのまま穏やかに生きていければと思ってしまう。

 せめてお兄ちゃん(俺)の法事が済むまではこのままで……。

 そう願うのは、まりあの愛情……と言ってやりたいが、十六歳の少女らしい怯えからだろう。
「休暇は休暇、楽しまなくっちゃ!」
 みなみ大尉は、五分で準備した荷物を景気よく車のトランクにぶち込んだ。
「さ、行くよ!」
「うわーーーー!」
 まりあがドアを閉めきる前に車は急発進した。
「家の外で朝ごはんを食べるなんて新鮮だ!」
 まりあの横で男の子のナリをしたマリアが興奮している。

 徹夜で仕事をしていたみなみ大尉に突然休暇の許可が下りたのは、ほんの十分まえだ。

 頭の片隅で「なんで!?」という疑問が無いわけではなかったっが、詮索したら仕事が増えそうな気がしたので、瞬間で頭を切り替えた。
 箱根にある軍の保養施設の空きを確認し、二秒で予約を入れると、八分でマンションに帰り、まりあとマリアを急き立てて車に乗せたのである。
 まりあは戸惑ったが、マリアの反応は早かった。
「まりあ&マリアじゃまずいわよね」
 マリアはまりあの影武者だ。いっしょに出かけるのははばかられる。
「エイ!」
 小さく掛け声をかけると、髪の毛が縮んで肌の色が変わった。
「え、そんな技があったの?」
「あたしも初めて知った」
 自分でも驚いたマリアの声は、一オクターブ低い少年の声だった。

「マリア……じゃまずいわよね」

 高速に入ったところで、まりあが呟いた。男のナリでマリアはまずい。
「じゃ、マリオって呼んで」
「それじゃ任天堂のゲームだ」
「よし、晋太郎だ!」
「ウプ!」
 まりあが吹き出しかける。晋太郎は親父の名前だ。
「えと、泊まりになるのよね、みなみさん?」
「学校なら、明日の朝一番で連絡入れる。軍務は最優先事項になってるから、ドントマインよ」
「え、これって仕事なの?」
「休暇も大事な任務よ。しっかりホグシておかなきゃ、いざって時に力を発揮できないでしょ! ガハハハ!」

 高笑いしながら宣言するみなみ大尉の圧に呑み込まれていくマリアであった。 

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ポナの季節・74『てっきり……だと思った』

2020-10-25 06:08:09 | 小説6

・74
『てっきり……だと思っていた』
        


 てっきり屋外で撮るのかと思っていた。

「このカンカン照りにロケなんかできないよ、さあ、こっち」
 田中ディレクターに促されて入ったスタジオは壁も床もライトグリーンだった。
「入浴剤入れたお風呂の中みたい」
「あ、この段差って、歩道と車道なんじゃない?」
「ほんと、学校の前のと同じだ」
「どれどれ」
「ちょっと、挨拶!」
 由紀に言われ、五人揃って「よろしくお願いしまーす!」

 今日はCM撮影の最後、歩道でふざけていたポナたちが車道にはみ出し、T自動車の新型車に危うく撥ねられそうになるくだり。

 五人バージョンから始まって、三人、二人、一人のバージョンを撮る。
 車は別撮りで、撮影にはスクリーンに車が迫ってくるところを写し、ポナたちは、それに合わせてリアクションをとる。
 演技は素人なので、三回もやると慣れて新鮮なリアクションができない。
「じゃ、出てくるもの変えるから」
 迫ってくるものはトラックになったり戦車になったり、いきなり進撃の巨人が飛び出したときはリアルにビックリした。
「今度は轢かちゃうとこ撮りまーす」
「え、轢かれるんですか?」
「仕上げは見てのお楽しみ。じゃ、ぶっつけ本番!」
「え、いきなりですか!?」
 もう何が写されても新鮮なリアクションがとれそうになかったが、スタッフはポナたちの予想を超えていた。なんとプテラノドンがスクリーンを破って飛び出し、ポナたちの頭をかすめ後ろに飛びさっていった。
「ジュラシックパークだ……」

 てっきり、女子高生の姿だと思っていた。

「……ここよ、新子ちゃん」
「え……」
 真奈美は品のいいシフォンのワンピを着て銀座の風景の中に溶け込んでいた。
「よかった、来てくれて!」
「今日は意表を突かれることばっかし」
「え?」
「ハハ、いろいろあって。真奈美さんのお店見てみたいです!」
「……どうしても」
「はい、そのために銀座で待ち合わせにしたんです」

「おはようございます」
 店に入ると早出のホステスさんたちが品よく挨拶してくれ、ポナは、ちょっと気後れした。
「きれいな人ばっかり……」
「あたしは?」
「真奈美さんは……化け物です」
「ありがとう、誉め言葉ね」
「あの……」
「うん?」
「やっぱ、お母さんて呼んじゃだめですか?」
「うれしいけど、それじゃ寺沢先生にも奥様にも申し訳ないわ。こうして会ってくれるだけで十分。もう変装しなくてもいいだけで十分」
「あら、もう女子高生姿見られないんですか?」

 女子高生姿という言葉にホステスのお姉さんたちが暖かく笑う。とりあえず一山乗り越えた真奈美とポナだった……。
 

ポナと周辺の人々 

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母

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かの世界この世界:112『ヤコブの家まで』

2020-10-25 05:56:03 | 小説5

かの世界この世界:112

『ヤコブの家まで』語り手:テル           

 

 

 ヤコブが心配していた子どもの飛び出しは無かった。

 

 確かに、四号の姿に目を輝かせる子どもは多かった。子どもどころか大人まで立ち止まって「オオ」とか「ホオオ」とか感心してスマホで撮影する者も多い。子どもたちは反射的に車道に飛び出しそうになるが、親や年長の子どもが引き留めて、我々を煩わせることが無い。親子関係や子どもたち同士の関係がうまくいっている証拠だろう。

「行儀の悪いのは、お前ひとりだったな」

「仕方ないよ、衣装脱いで着替えるのに手間取ったんだから。おしとやかにしてたら置いてかれる」

「家の準備はできてるのか?」

「うん、歓迎式典に出かける前にやっといた」

「まさか、おまえが料理とかしてないだろーな?」

「アハハ、そんな無謀なことはしないよ。お母さんがやってくれてる」

「それより、みなさんのこと紹介してよ、お兄ちゃん。式典じゃ口もきけなかったし。まずは、わたしの胸元ばっか見てる坊やから」

 指名されたロキがひっくり返りそうになる。

「通信手のロキ、子どもだが、なかなかの苦労人だ」

「よろしく、わたしのスリーサイズなんか通信しちゃダメよ。国家機密なんだから」

「し、しないよ(;'∀')。あ、あんたほんとに、さっきのクイーンなのか?」

「そうよ、島の人たちはいい人ばかりだから、オフの時は自由を尊重してくれるのよ」

 微妙に問題点をズラされたようだが、さすがに追及はしない。

「ロキの肩に停まってる妖精さんは?」

「ヒック!」

 しゃっくりを一つしてロキの服に中に隠れるポチ。

「こ、こら、くすぐったいポチ!」

「へー、ポチって言うんだ!」

「い、犬じゃないからね!」

「分かってるわよ、点という意味だよね。点がどこにあるかで全然意味がちがっちゃうものね。大の字の肩に掛かれば犬だし、又の所にくれば太いだし、丸まって肩に戻ったら、ポチのポだよね」

「ハハ、ポはカタカナだよ。足の付け根に隙間があるし」

「そっか、オーディンの文字は難しいからね」

「おまえが不勉強なんだ」

「テヘ。いいじゃん人柄はとってもいいからさ!」

「自分で言うかあ」

「いいのいいの、わたしって可愛いからね!」

「砲塔の右っかわから身を乗り出しているのがケイト。装填手。歳はユーリアと同じくらいだ」

「光栄です、お目にかかれて」

「あ、敬語禁止。私服の時はただのユーリア。ヤコブ兄ちゃんにはもったいない美人の妹」

「は、はい」

 不思議だ、ユーリアは自然に振る舞っているようで、威厳……気品……口にすると違うのだが、人に一目置かせる何かがある。ベイクイーンの称号は伊達じゃないようだ。

「わたしに何かあるみたいに思ってるオネエサンは?」

「テル、砲手をやってる。世話になるけどよろしくね」

「よろしく、ケイトとテルは……二人で一組なのね」

「え……ああ、砲手と装填手だからね」

「そうね」

 なにか本質的なことを言われたような気がしたが、自分でも分からない、気のせいだろう。

「運転中だから顔は見えないけど、操縦手のタングリス」

 そこまで聞くと、ユーリアは器用に車内に潜り込みタングリスに挨拶する。

「本当は、この中でタングリスさんが一番綺麗な人なんだと思う……」

 ポツリというユーリアに苦笑で応えるタングリス。

「えと、これでいいかなあ?」

「よくない!」砲塔のキューポラから声がする。

「失礼だよ、お兄ちゃん」

「あ、車長のブリュンヒルデ」

「見知りおけ、主神オーディン娘にして堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士ブリュンヒルデである」

「冗談みたいに長いお名乗りだけど……いいえ、お目にかかれて光栄です殿下」

「畏まるのはこれきりでいい。これからはブリュンヒルデあるいはヒルデでいい。ブリという呼び方はNGだぞ」

「心得ました殿……ブリュンヒルデ」

 

 自己やら他己やらの紹介をやっているうちにヤコブとユーリア兄妹の家に着いてしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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魔法少女マヂカ・181『魔法をかける・2』

2020-10-24 13:22:16 | 小説

魔法少女マヂカ・181

『魔法をかける・2』語り手:高坂霧子    

 

 

 またご先祖様の夢だ。

 

 質素な書院に座布団も敷かず、燈明の光一つを唯一のぜいたく品のようにして積み上げた本を読んでおられる。

 夢には後姿しか出てこないけど、この中年のお侍はご先祖の従五位の下左馬介高坂光孝さまだ。

 毎夜、お城でのお役目が終わった後、未明まで机に向かってお勉強されている。

 ご先祖ながら、あまり利発な方ではない。

 御本を読んで、難しいところに差し掛かると、反古紙の裏に何度も書きつける。とにかく書くことで憶えるんだ。何日か調べたりしても分からない時は朋輩の石田さま(石田三成)にお聞きになる。

 石田さまは近江に居たころからのお友だちで、天下様(豊臣秀吉)にお仕えしたのもいっしょ。

 光孝さまは石田さまのように利発な方ではないけれど、実直な方で、人からものを教えられると曇り空にお日様が顔を出したように喜ぶお方で、その無垢な笑顔を石田様も天下様も愛でて下さり、従五位の下左馬介の位を頂き、石田様の五奉行の位には及びもないけれど天下様の馬廻役(うままわりやく=警護役士官)を務めておられる。

 このご先祖さまのお姿は、わたしが挫けそうになった時に夢に現れる。

 霧子も挫けずにがんばりなさい。

 そんなお心が、ひたすらな後姿に現れて――はい、がんばります――という気持ちになる。

 でも……いまの霧子は……申し訳ありません、心が奮い立たないのです。

 いつもとは心の淵が違います、とても深くて真っ暗で、覗き込む勇気もないんです。

 

 あ!?

 

 また、あれがやってきたのかと思った!

 足元に一瞬グラリときたかと思うと、周囲のあれこれがギシギシユラユラと揺れて軋めいて、ゴーーーという轟に変わったかと思うと、メキメキ、ガシャガシャ、ズゴゴーン、グシャ、ボキ、と、ありとあらゆる不快な響きになって降り注いでくる!

 え、光孝さまも揺れておられる。

 机の両端をガシっとお掴みになって、揺れるお部屋と天井を睨んでおられる。

 ここでも地震!?

 わたしは、去年のあの時と同じように頭を抱えて蹲ってしまう。

 揺れが収まって、目を開けると、書院は瓦礫と化して、周囲の建物に無事なものは一つもない様子だ。

「殿! 殿! 御無事でございまするか!?」

 宿直(とのい)の者と老臣が駆けつけてくる。

「儂は無事じゃ、具足を用意して馬を廻せ!」

「いずこに参られます!?」

「知れたこと、お城に参る!」

「しかし、お屋敷も凄まじきことに……」

 遠くに女子供たちの叫び声や、下敷きになった者を呼ばわる声が響いている。

「捨て置け! 我が家の事は私事じゃ! 具足と馬を早くせよ!」

「ハッ、ただちに!」

 光孝さまは、クルクルとお召し物を脱がれれ下帯一つのお姿になった、同時に具足櫃が持ち込まれ、ほんの二分ほどで黒鎧の具足姿におなりになった。

 その間も、屋敷うちに沢山の犠牲者が出たことが告げられたが、光孝さまは眉一つ動かすこともなく、宿直の者が回してきた馬に飛び乗られた。

 数瞬の後には大手道に出られる光孝さま。

 あちこちのお屋敷も阿鼻叫喚の地獄で、主や郎党を呼ばわる声、助けを求める弱き者たちの断末魔の悲鳴が木霊する。

 山之内家の脇を駆けている時には、日ごろ温厚なご当主一豊さまが一人っ子の姫さまの名を叫ばれる声がした。おそらくは、今の地震でお屋敷の下敷きになってしまわれたのだろう。

 わたしは、半年前の震災の光景と重なって、とても息苦しくなってきた。

 お城に着くまでは、わたしが体験した以上の阿鼻叫喚の地獄絵だったけれど、光孝さまはひたすら天守脇の奥御殿を目指して馬を進められる。

 途中、一度だけ戸惑われた。

 天守が崩壊し、御殿への道も郭が倒壊したり石垣が崩れたりで、見当がつかなくなったご様子。

 周囲の様子を探りながら馬を輪乗りされ「よし!」と見当をつけられると、瓦礫を飛び越えて、本丸に駆けこまれた。

 天下様は天守と御殿の間に残った庭に幔幕をかけ、千成瓢箪の馬印を立て、近習や宿直の者たちに囲まれて凌いでおられた。

「誰か!?」

 光孝さまを見とめた近習の者たちが槍を突き出して天下様の前に躍り出た。大地震の直後、漆黒の具足に身を固め、騎乗に槍を小脇に構えて現れたのである。不審に思われて当然。

 光孝さまは鞍から飛び降りられると、槍を逆しまにして蹲踞された。

「左馬之介光孝にございます、突然のなゐ(地震の古語)にお城も大変の様子、ただただ太閤殿下の御身を案じてまかり越した次第にござります!」

「おお、でかした左馬之介! そなたが見舞いの先駆けじゃ! 城内も様子もつまびらかにならん、そなた、余に代わって、城内を見分し、見回りの采配を振るえ!」

 言うと天下様は腰の采配を抜いて光孝さまに差し渡された。

 

 これで、天下様の覚え目出度くなられた光孝さまは石田様には及ばないまでも、一城の主への道を歩まれたんだ。

 でも、でも、わたしは拭いがたい違和感をおぼえた。

 これって、おべっかだ。

 家のことも、ご近所の手助けも放り出し、ううん、あちこちで下敷きになった人や怪我した人に顔色一つ変えることもなく、天下様のご機嫌だけを窺って……とってもやりきれない。

 もう夢はいいから!

 目を覚ませ霧子!

 そう思ったら、采配を持ったまま光孝さまが振り返られ、ズズッとわたしに近づいてこられる。

 とっても怖かったけど、わたしは胸を張って光孝さまを睨んだ。

 こんなこと許せないもの。

 

「霧子、それは違うぞ」

 

 兜の目庇ごしに睨んで、真っ赤な口を開かれた。

「この天下の大変に、一番大事なことは、天下が揺るがぬことだ。たとえ石垣は崩れ天守が倒れようと、天下の礎は微動だにしておらぬことを示さなけれなならぬのじゃ。天下様の御威光に揺るぎはなく大丈夫であることが、復興への力になるのじゃ。天下様が御無事お元気に采配を振るわれてこそ、諸侯も天下万民も、秩序をもって復興に力をつくそうと思うのだ。我らが気ままに己が不幸だけ目を向けていては、この世から秩序が無くなる。そうは思わぬか」

 そういうと、光孝さまはわたしの頭をグシャグシャと撫でられるのだった……。

 

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まりあ戦記・019『カルデラの外』

2020-10-24 06:31:40 | ボクの妹

・019
『カルデラの外』    



 首都(新東京)はベースの北側にある。

 ベースは最前線基地だが、隣接する首都には、あまり緊迫感が無い。
 ベースがカルデラの中に収まっていて、カルデラの縁が衝立のようにベースの姿を隠しているし、ヨミとの戦闘が縁を超えて首都に及ぶこともめったにない。だから、首都の住人は意外に呑気に暮らしている。

 そうそう、専光寺を探さなきゃ。

 いつの間にか散歩気分になっていたまりあはスマホのナビを見直した。
「あっちゃー、通り過ぎてるじゃん」
 音声を切っていたので、散歩気分のまりあは見落としてしまった。
「仕方ない……!」
 まりあは駆け足になった。約束の時間に遅れそうなのだ。
 音声を切っていたのは恥ずかしからだけど、制服姿で走るのはもっと恥ずかしい。
 女子高生が体育の時間や部活以外で走ることはめったにない。街ゆく人々は、そんなマリアを振り返る。中にはスマホを構えて写真だか動画だか撮っている人も居る。ちゃんと防御はしているけど、短いスカートが翻るところなどを撮られてはかなわない。

 ここだ!

 たどり着いた時は、髪もばさばさになり、寒さしのぎに着こんでいたヒートテックが肌に貼り付いて気持ちの悪いことこの上なかった。
「ちょっとタンマ……」
 通りに背を向け、リボンを緩めると、ハンカチで胸から腋の下まで拭きまくる。通学カバンからペットボトルを取り出し、半分ほど『おーい お茶』を飲んで人心地つく。
「よし!」
 汗を拭き終って、身づくろいをして、やっとインタホンのボタンを押した。

「コホン、ごめんください、アポをとっておりました安倍でございます……」

 よそ行きの声を出して損をしたと思った。
「アハハ、悪いけど笑っちゃうわ」
 座敷に通され待つこと三分。現れたのは作務衣こそ着ているが、クラスメートの釈迦堂観音(しゃかどうかのん)だったではないか!
「だって、電話した時は男の人だったもん」
「檀家回りで出てるのよ。いちおうわたし、この寺の副住職だし。だいたいさ表札見て気づかない? 釈迦堂なんてめったにない苗字だわよ」
「そんなの、お寺の看板しか確認しないわよ」
「それにさあ、このあたりのお寺って二軒しかないのよ(まりあも言っていた)、かなり高い確率で、わたしんちだとは思わなかったの?」
「むーーーー」
「ふくれたまりあもなかなかね。アハハ、怒らないの、誉めてんだから」
「じゃあ、これからは檀家ですのでよろしくお願いします」
「こちらこそ、これも御縁です、よろしくお願い申します」
 互いに頭を下げあい、やっと本題に入る。

「じゃ、来々週の日曜ということで、お兄様の三回忌を務めさせていただきます」

「よろしくお願いいたします」

「過去帳はお持ちかしら?」

「うん、これ」

 俺はまりあの胸ポケットから出されて、ちょっと肌寒い。

「あれ……『舵』になってる」

「あ、それが本当なんだけど、学校じゃお母さんの『安倍』で通してるから」

「あ、そうなんだ」

 あっさり受け止めると、まりあの親友は、こだわることもなく用件のことに話題を変えた。

 用件と言っても、俺の三回忌の日取りを決めるだけだから簡単なものである。ドライに割り切れば電話で事足りるのだけれど、ズッコケながらも足を運んだのはまりあの気性だ。

 そのあとは、まりあが御挨拶に持参した海老煎餅を齧りながらのガールズトークになった。

「お饅頭でないところが、さすがね!」
「お寺にお饅頭ってピッタリだけど、持て余しちゃうでしょ」
「大きな声じゃ言えないけど、ご近所やら老人ホームとかに回しちゃうのよね」
「でしょうね……でも、落ち着くわね、カノンのお寺」
「広いし緑が多いものね……手入れたいへんなんだけどね、ヨミ以前は街中(まちなか)の鉄筋のお寺だったのよ。庭なんて、今の十分の一も無かったって」
「そうなんだ……」
「カルデラがあるから、ヨミとの闘いなんて他人事みたいに感じるのよね。グーグルアースなんかで見たら、地獄と隣り合わせみたいなものなんだけど……」

 話題が湿っぽくなりそうな気がして、二人は小気味よく海老煎餅を齧った。

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ポナの季節・73『ちょっと待ってください』

2020-10-24 06:13:29 | 小説6

・73
『ちょっと待ってください』
        


 

 もうやめようと思いながら真夏になってしまった。

 SEN48は、この一か月でビッグになった、なってしまった。
 最初の頃、東北慰問ライブはトレーラーの舞台だったが、先々週からは学校の体育館を使っている。
 第一に観客の人たちが熱中症などで倒れないためであるが、仮設住宅の広場などではとても間に合わないくらい人が集まるためでもある。

 真奈美はライブの度に着るものや髪形を変えている。雇われとは言え新宿のクラブママ、化けることには自信がある。

 学校の体育館でやるようになってからは大胆にも女子高校生のナリでやっている。

 観客の多数が高校生なので一番目立たないこともあるが、真奈美自身の青春が高校生で停まったままなので、三十分ほどかけて身づくろいすると違和感のないハイティーンになれる。Tプラザ公演のときには数人の女子高生と友だちになったぐらいである。
 ライブは当初三十分だったが、四十五分の二回公演に延びている。屋内になったこともあるが、それだけ人気が出て、ファンが増えてしまった証拠でもある。

 暑さしのぎの氷柱や扇風機が置かれているが、ライブが始まると文字通り焼け石に水。真奈美は他の観客といっしょに汗だくになるが心地いい。
 今日も高校生の集団が集まってオシメンに声援を送る中に混じりサイリュウムを振りながら「新子! 新子! ポナ! 新子!」と連呼している。
 最後の曲が終わると握手会の列に並ぶ。ほんの一瞬だけど手のひらを接して新子を体感できる。
 タオルで汗を拭いながら順番を待つ。
「あれ~~新子ちゃんいないみたい。あんなに応援してたのに」
 仲良くなった高校生が気の毒そうに真奈美に言う。
「いいわよ、アユミン(安祐美)も同じくらい好きだから」
 明るくかわすが、暑さで倒れたんじゃないかと気にかかる。スタッフに聞いてみようかと思うが「ここが限界」と諦める。

 校門を出ると駅までの長い道、電柱二本分ほど先で逃げ水が揺れている。逃げ水は真夏のシンボルだけど、真奈美には神さまが「このくらいの距離を取りなさい」と言っているように思えた。陰ながらの応援で我慢、そうすることで新子を間近に見られるならば我慢のしどころである。
 仲良くなった高校生といっしょにため息をつく。それがおかしくていっしょにケラケラ笑った。

 笑いながら、こういう感性は大事だと思う。ケラケラ笑える神経があるからこそ、ここまで来られたし、十五年前の別れにも耐えてこられたんだと思う。

 
「じゃ、あたしこっちだから」

 車を置かせてもらっている家に向かう。シャワーを使わせてもらって着替えてしまえば、十五年の歳月を駆け戻って銀座のママに戻る。

「ちょっと待ってください」

 ポニーテールの女子高生が声をかけてきた。真奈美はさっきいっしょに笑った高校生の一人かと首を捻った。
「なあに?」
 さっきまでいっしょだった高校生たちの顔が頭の中で点滅し、目の前のポニーテールと照らし合わせた。
「お母さん…………でしょ」
 ポニーテールはシュシュを外した、キリっとした目と眉が程よく下がって新子の顔になった。

 真夏の奇跡にしばらく息も停まってしまい、やっと吐いた息は上ずるだけで言葉を載せてはくれない。

 真奈美はこのまま太陽に照らされて蒸発してしまいたくなり、つい今までのケラケラが薄汚くみじめなものに感じられた。
「あたし急いでいるから」
 そう言うのが精一杯だ、駆けだそうとした、すでに腕を掴まれている。

 南中した太陽は真奈美を蒸発させてはくれず、新しい局面に入った母子の現実を地面に焼き付けていくように輝きを増してきた……。
 

ポナと周辺の人々 

父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母

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かの世界この世界:111『歓迎式典』

2020-10-24 05:59:38 | 小説5

かの世界この世界:111

『歓迎式典』語り手:タングリス          

 

 

 ベイクイーンのユーリアが笑顔と共に歓迎の花束を船長に捧げて歓迎式典が始まる。

 

 ユーリアは岸壁の中央に設えられたステージほどの高さの玉座に収まり、その玉座の前にとっかえひっかえエライサンが出てきては挨拶する。ヘルム島副首相 ヘルム議会議長 ヘルム裁判所長官 ヘルム警察庁長官 ヘルム商工会議所会頭……などなど。

 長くなってはたまらんと思ったが、それぞれ長くとも一分ほどのスピーチで助かった。

 スピーチの前と後にきちんとユーリアに敬礼する。なんだか本物のクイーンのようだ。ただの観光や親善のための役割としては大げさな気がしないでもないが、答礼するユーリアの所作もなかなか堂にいっていて気持ちのいいものだ。

 プロジェクターにも、ときどきクイーンの様子がアップされる。そのたびにブリュンヒルデ姫が対抗心剥き出しの目になるのが、恐れながら面白い。

 式典の最後に復員兵たちの寄宿舎が紹介され、警察が先導して、そちらに向かった。我々には四号があるのとヤコブ伍長の手配もあって、四号に乗ったままヤコブの家を目指すことになった。

 シュネーヴィットヘンには島の水先案内人が乗り込んで、静々と一キロほど離れたドッグに向かった。

 

 ゲートを出て二キロほどです。

 

 ヤコブが地図を広げて港のゲートからヤコブの家までをなぞった。

「とくに気を付けなければならない交通規則とかは無いのか?」

 初めての土地なので、操縦手としては気になる。

「……子どもですかねえ。島の子は戦車なんて見たこともありませんから、間近で見ようと飛び出してくるのがいるかもしれません」

 なるほど、接岸の時も幼稚園児が飛び出して一騒動になったところだ。

「みんな、警戒をおこたらないように」

「「「「ラジャー(^^ゞ」」」」

 元気な声が返って来る。指示しておくまでもなく、乗員たちも島が珍しく、車外に全身を晒したり、ハッチから半身を出して景色を楽しんでいる。

 オーディン王国とちがって戦火にまみれたことのないヘルムは長閑だ。

「オーディンの四号戦車だ、ゲートを開けてくれ」

 眼鏡のガードマンに頼む……が、ガードマンは椅子に座ったまま身じろぎもしない。

「警備員、聞こえないのか💢」

 気の短い姫の声が尖がる。

「任せてください……」

 ヤコブが下りてガードマンの前に立つ、何をするのかと思ったら、そっと奴の眼鏡を外した。

「「「「「あ!?」」」」」

 驚いた、目をつぶって寝ているではないか。眼鏡のレンズにはパッチリ開けた目がプリントされていて、ちょっと目には分からない。

「あ、いや、これはすみません」

 目覚めたガードマンは素っ頓狂な声をあげてゲートを開けてくれる。

 いやはや、我らの国ならば懲戒ものだ。

 

 ゲートを出て大通りに出たところで急ブレーキを踏んだ!

 

 急に短パンの少女が飛び出してきたのだ。

 25トンの四号がつんのめり、車外に出ていた乗員は振り落とされそうになる。

「家まで載せてって!」

 しゃあしゃあと満面の笑顔でのたまうのはバイト帰りのような少女だ! 

「ユーリア!」

 ヤコブが声をあげる。

 え……!?

 そいつが、さっきまですまし顔で玉座に収まっていたクィーンだとはすぐには分からなかった……。

 

☆ ステータス

 HP:9500 MP:90 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・70 マップ:7 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高25000ギル)

 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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オフステージ・141「先輩のレクチャー」

2020-10-23 14:16:10 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)141

『先輩のレクチャー』小山内啓介 

 

 

 空堀高校のグラウンドは地平線が見えると噂されるくらいに広い。

 その広いグラウンドの真ん中に無事にヘリコプターは不時着した。ごっついヘリだがグラウンドが広いので、そんなには大きく見えない。北浜高校が合同練習を申し込むだけのことはある。

 せやけど、ヘリコプターが巻き起こす風ははんぱやない。

 女子のスカートが翻るのは御愛嬌。グラウンドの砂がトラック一杯分くらいは吹き飛ばされてしもて、白線で引いたダイヤモンドがベースごと吹き飛ばされる。なんとかホームベースは残ったけど、試合再開には時間がかかりそう……と思ったら、警察やら消防やらが来て現場検証があるとかで、九回の裏にして試合は中止。

 試合の相手は京橋高校やった。

 府立高校で一番グラウンドの狭い北浜高校が、校舎の建て替えにともなってうちの学校のグラウンド使うための名目で合同練習を申し込んできて、素直に受けたら実力が違いすぎる空堀の野球部は、北浜のボール拾いにしかなれへん。

 そこで、マネージャーの川島さんらが奮闘して、府立高校の二番目にグラウンドの広い京橋高校との試合になった。負けた方が北浜にグラウンドを使わせる、つまり北浜の球拾いをやることになった。

 昔取った杵柄で、川島さんの策略でピンチヒッターに立ったところでヘリコプターの不時着というわけや。

 緊急の校内放送でグラウンドに居てるもんは校舎に引き上げならあかん。

 さっさと逃げよ!

 そう思ったら、車いすのトラブルで取り残されてる千歳が目に入った!

 ミリーと須磨先輩が付いてるけど、車いすを動かすどころか千歳を連れていくこともでけへん。

 えらいこっちゃ!

 バットを放り出して三人のとこに全力疾走、俺がやる!

 そう言って、千歳を抱え上げて避難した……。

 

「というわけですよ」

「ふーーーん……」

 須磨先輩はつまらなさそうに缶コーヒーを飲み干した。

「こんな感じでええでしょ」

「まあね……」

 

 今度のヘリコプター不時着事件で、PTA新聞から取材を受けることになっているのだ。PTA新聞担当のオバサンは元新聞社勤務だったとかで、取材能力に長けているだけではなく、引退後も系列の週刊誌なんかにも寄稿していて、まあ、その道のプロなんだとか。

 だから、あらかじめ整理しておかないとどこから突っ込まれたり、色の付いた記事を書かれかねないというのが先輩の心配で、先輩相手に予行演習というわけなんだ。

 

「千歳をダッコして、校舎に着くまでのとこ、もうちょっと聞かせてくれる」

「そんなん、ほんの一分ほどやから……無我夢中で、気ぃついたら本館の玄関やったし」

「……でもね、みんな直ぐ近くの南館に避難したのよ。本館まで逃げたのは啓介と啓介に抱っこされた千歳だけ」

「それは……ほ、本館の方がより遠いし、ほら、保健室とかも近いでしょ(;^_^……というか、夢中やったんで憶えてないんですよ」

「じゃあ……わたしの想像でトレースしてみるわね」

 そう言うと、先輩は腕と足をを組んで俺と同じ姿勢をとった。

 

 無我夢中で、そのあと校舎の中に行くまでは記憶がない。

 というのは嘘だ。

 千歳を抱え上げると思いのほかの軽さに衝撃を受けた。

 この年頃の女の子は見かけよりも重たい。妹とケンカするとプロレス技をかけられることがある。本気になってはいけないので、たいていやんわりと投げ飛ばして終わりにするんだけど、妹はもっと重たい。

 やっぱり車いすの生活が長いから腰から下が萎えていて、その分軽くなってるんだろう。

 右の腕(かいな)に感じた千歳の足腰は華奢過ぎて、人形を抱いたみたいに頼りなくて、それでも、血が通っていて暖かくて、それに、なんだかいい匂いがして、ドキドキして。

 クンカクンカ……なんてしちゃいけないから、顔は横向けて息は必要最小限に、でも、人を抱えて走るんだから、やっぱり激しく呼吸はしてしまうわけで。

 千歳も自由の利く手を回してしがみ付いてくるし、もう息のかかる近さに千歳ん顔が迫って、なんか、ちょ、ヤバくって……。

 

「ちょ、先輩!」

 

「なに、もうちょっと描写したいんだけど、千歳のオッパイがムギュって胸に当って狼狽えたとことか」

「う、狼狽えてませんから!」

「狼狽えてたよ、だからトチ狂って本館まで走ったんだし。そんなに否定したら、かえって勘ぐられるわよ」

「いや、だーかーらー(^_^;)」

「啓介、あんた童貞だろ」

「なっ(;'∀')」

「こういうとこ突っ込まれるとオタオタするだけだから。ね、取材で触れられたら、面白おかしく誘導されて、実際以上に熱っぽく書かれてしまうって。思うでしょ?」

「そ、それは……」

「するとね、啓介も千歳も、実際以上に自分の気持ちを誤解してしまうって」

「誤解?」

「あの子を……千歳を好きになるのは、もっと覚悟がいる。あの子の人生丸抱えしてやる勇気がね……」

「そんなことは……」

「アハハ、だーかーらー『夢中やったんで憶えてないんですよ』なんて言わないで、ありのまま喋った方がいいよ。その方が余裕があって、シリアスな突っ込まれ方しないから。ね」

「は、はあ」

「じゃ……あ、飲んじゃったんだ。ごめん、なんか飲むもの買ってきてくれる? できたら午後の紅茶無糖がいいなだけど、 お代はレクチャー代ってことで(o^―^o)」

「はいはい」

 俺は、食堂前の自販機まで走っていくのだった……。

 

 

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