大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・132『AKIBA-01発射!』

2022-04-03 11:45:01 | ライトノベルセレクト

やく物語・132

『AKIBA-01発射!』 

 

 

 今度は犬だ!

 

 凛とマナジリを上げるメイド王・アレクサンドラ!

「は、はい……」

 アカアオメイドから聞いてますって言おうと思ったけど、そういうのは許さない雰囲気がみなぎっている。

「これを見てくれ!」

 メイド王が右手を上げると、秋葉原クロスフィールドのディスプレーが、ズビーーーーンて感じで大きくなって、ついに壁面一杯になる。

 大昔の映画みたく、カウントダウンの数字が表れて、5、4、3、2、1……ジャーーーン!!

 ディスプレーいっぱいに3Dのワンコが現れる。

 ワンコは、白いモヤモヤの上に、サーフボードに跨ったみたいに突っ張って、目はらんらんと広場のみんなを睨み据えている。

 オオオオオオオオオオオ(꒪ȏ꒪)

 広場のみんなが、恐れて一歩引きさがる。

 無理もないよ、壁面いっぱいの3D映像で、ワンコはゴジラとでも格闘できそうな大きさだからね。

「こんなにおっきいのと戦うんですか!?」

「これはディスプレーに映しているからだ、じっさいは見ての通りの中型犬。ただし、動きは素早い。心してかかってくれ」

「わ、分かりました…………」

「なにかな?」

「え、いえ、実物はどのあたりにいるのかと……」

 広場の大きな空をキョロキョロするけど、ワンコの姿は見えない。

「今は土星軌道のあたりを周回している」

「ど、土星!?」

「ワープすれば、あっという間に目の前だ。地球の周回軌道に入るまでにやっつけて欲しい。よろしく頼んだぞ」

「ハ、ハヒ……でも、どうやって土星軌道までいけばいいんですか?」

「それは、あの者たちに……」

 メイド王が目配せすると、アカアオメイドを従えて滝夜叉姫のトラッドメイドが進み出る。

 三人は、それぞれ大きさの違う段ボール箱を抱えている。

「その箱は?」

「アキバ子が用意してくれましたものです」

 そろって段ボール箱を回すと、お馴染みのネット通販のニヤついたマークが付いている。

 トラッドメイドのが一番大きく、次にアカメイド、そしてアオメイド。

 ポン ポン ポン

 手際よく積み重ねると、グングン大きくなって、あっと言う間に三段ロケットになった。

「ひょっとして、あれに乗っていくの?」

「ちょっと、用事を思い出し……」「わたしも……」

 パフ!

 ポケットから逃げようとしたチカコと御息所をポケットごと押さえ込む。

 ムギュ!

「えと、どこから乗ればいいのかしら?」

「エスカレーターを上ります」

 トラッドメイドが示すと、アカアオメイドがササッと動いて、エスカレーターの登り口で上を指し示す。

「わ、わかったわ!」

 もう、こうなったら、矢でも鉄砲でも持ってこい!

 今までも、数々のアヤカシをやっつけてきたんだ、なんとかなるさ!

 トラッドメイドに先導されてエスカレーターに足を載せると、アキバマーチングバンドが聴いたことのあるアニソンマーチを演奏。

「わたしたちもお付き合いします」

「ほんと!?」

「「わたしたちもです」」

 アカアオメイドも後ろに付いてくれていて、頼もしいことを言ってくれる。

 う、うれしい!

 ロケットの方を見上げると、ロケットの二段目のところが開いて、ラッタルがスルスルと下りてくる。

 あっと思って見上げると、ハッチの所からアキバ子が身を乗り出して手を振ってくれている。

「やくもさま、わたしもお供いたします!」

 嬉しいことを言ってくれる。

 やっぱり、青龍と共に戦っただけのことはある!

 ガシャン

 ハッチが締められて、みんなでシートに着いてベルトを締める。

「発射します!」

 操縦席のコンソールに秒読みの数字が現れ、モニターには秋葉原クロスフィールドの屋上に据えられたと思えるカメラの映像が映っている。ボディーにはニヤリマークとAKIBA-01のしるし!

 白い煙がもうもうとあがる。

 ロケットのボディーに描かれたニヤリマークが縦になって……ニヤリが真っ直ぐに伸びて……矢印に……いや、これってロケットが飛んでいく姿だ!

 ドドドドドドーーーーーーーーーーーン

 AKIBA-01は、はるか土星軌道を目指して飛び立った!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・5『鳥居をくぐって』

2022-04-03 09:16:13 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

5『鳥居をくぐって』     

   

 

 鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れると別世界であった。

 伊邪那美神社は、この地の産土神(うぶすながみ)である。

 旧集落そのものが、古い摂津の村の佇まいを残しているが、こんもりとした森の中の神域に入ってみて、乙女先生は息を呑んだ。
 一の鳥居をくぐって石畳の道が「く」の字に曲がって、五メーターほどの石段を登って、二の鳥居。それをくぐったところから見える境内は、一面の玉砂利で、ちょっとした野球場ほどもあった。

 正面彼方に拝殿、手前上手に御手洗所(みたらしどころ)。

 そこで口をすすぎ、手を清めて振り向くと、拝殿の前で二人の若い巫女さんが境内を掃いている。

「あのう……ご祈祷をお願いしたいんですけど」

 背の高い方の巫女さんに声をかける。

「そこの社務所の窓口の鈴を……鳴らしておくれやす」

 京都弁に近い摂津言葉で巫女さんが答えた。岸和田の神社に慣れた乙女先生は、少しドギマギした。

「ほう、それはご奇特なことですなあ」

 神主は、拝殿の板の間で感心した。

「青春高校の前のS高校のころから、先生が来はったことなんか初めてですわ。お若いのに、よう気いまわらはりましたなあ」
「岸城神社には、しょっちゅう行ってましたから」
「ほう、岸和田の……」
「はい、だんじりの引き回しが生き甲斐です。それと、わたしそんな若いことありませんよって」

 正直に答えた年齢に、神主は目を丸くした。

「わたしより、四つ若いだけですか……いや、それにしても……ご立派なことです」

 神主は「ご立派」に敬意といろんな意味の興味をこめてため息混じりに言った。その素直な反応に、乙女先生は思わず笑って、いい神主さんだと思った。

「そこいくと、うちのカミサンは……」

 神主は、廊下続きの社務所に目をやった。
 
 吉本のベテラン女優によく似た奥さんが、横顔でパソコンと睨めっこしていた。

「あ、えと、ご祈祷は、なんでしたかいなあ?」
「青春高校の生徒の学業成就と、すこやかな成長を……」
「は、はあ、そうでしたな。ほんならさっそく」

 神主はCDのスイッチを入れ、大幣(おおぬさ=お祓いに使うハタキみたいなの)を構えた。

「すんませんなあ、貧乏神社やさかいに、巫女もおりませんのでなあ。若い頃はカミサンが巫女もやりよったんですがな。まあ、こんなとこで堪忍してください」
「は、はあ」

「オホン」

 神主は居住まいを正した。

「かけまくも~かしこき伊邪那美の尊に~かしこみかしこみ申さく……」

 祝詞は五分ほどで終わり、玉串料をご神前に供えると、神主は笑顔で振り返った。

「ほな、お茶でも持ってきますさかいに、お楽になさってください」
「あの……」
「は?」
「この神社には、巫女さんがいらっしゃらない?」
「ええ、さっきも申し上げましたが、カミサンの巫女姿は氏子さんからも不評で。本人も、今はネットで、御札やらお守り売るのに一生懸命。いや、シャレで始めたんですけど、このネット通販がバカにならん稼ぎになりましてな。いやはや……あ、正月なんかは、アルバイトの子に巫女さんやらせてますけどな。どないです、先生も正月にバイトで……」

 社務所のほうで、奥さんの咳払いがして神主はいそいでお茶を淹れにいった。

 ご神前に目を向けると、そこにいた……。

 アルカイックスマイルで、さっき境内を掃いていた二人の若い巫女さんが座っている……。

 

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魔法少女マヂカ・266『マヂカ風呂上がりの憂愁』

2022-04-02 10:06:10 | 小説

魔法少女マヂカ・266

『マヂカ風呂上がりの憂愁語り手:マヂカ  

 

 

 敵わないと思ったのか、詰子は浴槽の反対側に泳いで行ってノンコと遊び始めた。

 二人とも精神年齢が近いせいか、コロコロとじゃれ合っている。

 それが、なんとも母性本能をくすぐるというか、霧子とJS西郷にはいいおもちゃのようで、二人の姉と二人の妹が仲良く入浴……オ、思わず韻を踏んでしまって『仲浴』なんて、シャレめいた造語が湧いてきた。

 まあ、仲良きことは良きことだ。

「先に上がるよ……」

 いちおうことわっておくが、気いちゃいない(^_^;)。

 キャハハ アハハ ウフフの嬌声をガラス越しに聞きながら、頭と体を拭いて身づくろい。

 虎ノ門事件まで一か月。

 敵は、予想の何倍も力が強い。

 わざとステッキ銃を盗ったり盗らせたり。あの銃には魔法めいた呪が掛かっていて、そういうゴタゴタが起こる度に威力が増していくのだ。浴室で嬌声をあげている詰子のようだ、かまってもらうほど、テンションが上がっていく。

 詰子の方は、風呂から上がって、布団に潜り込めば十秒もかからずに眠りに落ちて一件落着だろうが、敵は、そうはいかない。

 ステッキ銃の威力が上がるばかりではない。あの怪人の取り巻きたち。一体はやっつけたが、残り十二体。

 いや、そもそも、あの怪人だ。

 正体は読み切れないが、おそらくはトキワ荘。

 あそこで、没になったマンガの怨念たちが、この過去の大正時代まで侵食して悪さをしている。

 あまつさえ、虎沢クマを誘拐し、自らの傀儡に仕立てて、我々に敵対させようとしている。

 ブリンダに加え、JS西郷と詰子。それに、大連武闘会を経て力を増した霧子。いちおうノンコもいるが。

 これで勝てるか?

 いや、勝つだけではダメだ。虎ノ門で敵の目標になっている摂政宮殿下をお救いしなければならない。

 正直、手に余る。

 せめてブリンダがいてくれれば……。

 ブリンダは、この瞬間に向こうでの仕事が終わっても、サンフランシスコから船に乗って、戻ってくるのは一か月先。

 困った……困った時の神頼み……というと関東総鎮守の神田明神が浮かんでくるが、神田明神は、この震災で社殿が壊滅。鉄筋コンクリートの社殿が完成するのは、大正の末年……いや、昭和に入ってからではなかっただろうか?

 いずれにせよ、ここは、自分たちで踏ん張るしかないな……。

 風呂上がりだというのに、水に落ちたように浮かない気持ちで自分の部屋に戻る。

 階段の下で田中執事長、上がったところで春日メイド長に出会うが、お気の毒という感じで会釈されるばかり。

 二人は人間だから、魔法少女の悩みなど知る由もないのだろうが、何カ月もいっしょに暮していると、惻隠の情というのだろうか、何事かは分からぬままに同情はしてくれている。

 よし、頭を切り替えよう!

 自分の頬にピシャっと気合いを入れて、ドアを開ける。

 

 部屋に入ってビックリした。

 神田明神のクロ巫女が、巫女服姿で、恭しく頭を下げて挨拶するではないか!?

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

  

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・4『学校のご近所づきあい』

2022-04-02 08:08:11 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

4『学校のご近所づきあい』             

 

 

「申し訳ありません、すぐになんとかいたします」

 乙女先生は、集まっていた近所の住人にまず頭を下げた。

「早よ来てくれはったんはええけど、そんなノコギリやったら、間にあわへんよ」

 近所のボスらしきオバチャンが、下げた頭を押さえ込むように言った。

「でも、とにかく、なんとかします」

 真美ちゃんがノコギリをひき始めた。オバチャンたちの失笑。乙女先生は真美ちゃんを目で制止して、すぐに携帯をかけた。学校の事務に技術員室につないでくれるように頼んだ……待つこと数十秒。

『誰も出はりません』

 主査の答えに、乙女先生は事態を簡潔に説明した。

『そんなら、教頭さんと相談しますわ』

 気のない主査の答え。凡才教頭の暗い顔が浮かんだ。

「女の先生二人じゃ無理でしょ。消防署に電話しますわ」

 学校の対応の悪さに業を煮やしたボスが携帯を出した。

「ちょっと待ってください。なんとかしますから」

 そう言うと、乙女先生は空手の構えになった。

「ちょ、ちょっと先生……」

 ご近所さんたちが一斉に身を引いた。乙女先生は空手三段ではある。

 が、久しく使っていない。

――岸和田でダンジリ引き回してんねんや。これくらいのもん……と、思いつつもこめかみから汗が伝い落ちた。

 キエーーーーーーーー!!

 バキッ

 横綱の太ももほどの幹が二つに割れた。

「ヒエー……」

 アウェーな観衆から、驚きの声が上がった。伝い落ちる乙女先生の汗は脂汗になった。
 桜の幹は二つになっただけだが、自分の右手の骨はバラバラになった気がした……。

「先生、あとは任せてください!」

 技師の立川さんが、リヤカーにチェ-ンソーを載せてやってきた。

「やあ、青春高校にしては対応ええね」
「ええ気合いやったわ」
「モモレンジャーみたいやった!」

 ご近所が姦しくなってきた。

「先生ら、あんまり見かけへん顔やけど、転勤してきた人ら?」

 ボスがトドメの質問。

「あ、はい。今日赴任してきました。わたしが天野真美、こちらが佐藤乙女先生。で、こちらが技師の立川談吾さんです」

 真美ちゃんが元気に答えた。立川さんは手際よく、桜の幹を解体していった。

 乙女先生は小枝を拾うふりをして、石垣の下の側溝を流れる水で手を冷やした。ご近所さんたちも好感をもって手伝ってくれだしたので、痛みを気取られることはなかった。


「いやあ、お世話になりました」

 校長は自ら紅茶を入れながら、乙女先生をねぎらった。


 真美ちゃんは新任研修。立川さんは「職務上、当然のことですから」と、この場にはいない。乙女先生も好きこのんでブリトラにつき合う気は無かったが、こう見えても職場の人間関係には気を遣うほうなのだ。

 校長は本格的に紅茶を入れている。ティーポットに三杯の紅茶の葉を入れた。

「ワン、フォー、ユー。ワン、フォー、ミィー。アンド、ワン、フォー、ザポットですね」
「ほう、お詳しい。さっきの桜の件といい、かなり学校のありようにもいい勘をなさっておられるようですね」
「年相応の程度です」
「こんな言い方をしてはいけないんでしょうが、佐藤先生はお歳より、ずっと若く見えますね」
「わたし、若い頃から老けて見られたんです。二十歳で三十くらいに見られて、で、ずっとそのまんま。どこか抜けてるんでしょうね」
「いやいや、うちの家内なんか子どもを生んだとたんに大変身でしたよ」
「女って、そういうもんです。大変身は勲章ですよ」
「佐藤先生は?」
「亭主はいますが、子どもは……個人情報ってことで」
「ああ、これは申し訳ない」

 乙女先生は、亭主の娘である茜のことが頭をよぎった。しかし仕事中なので、すぐに頭を切り換えた。

「この学校は、人間関係がむつかしい……」
「そのようですね」
「わたしは、いわゆる民間校長です。元は銀行に勤めていましたが、思うところがあって応募したんです。さ、どうぞ」
「ダージリンですね……」

 乙女先生は、香りを楽しんだ後、用意されたミルクも砂糖も入れずに口に含んだ。

「ストレートでいかれるとは、紅茶にも通じておられるようだ」
「学生のころ紅茶屋さんでバイトしてたんで、ほんの入り口だけですけど」
「この学校も、やっと入り口です。統廃合から四年目、そろそろ中味を変えませんとね」
「総合選択制では、むつかしいですね」
「ま、鋭意努力中です。今年から、文理特推の教科を増やしました。良い結果が出ると確信しています。あとは……」

「校内のチームワーク、ヒュマンリレーションの問題ですね」

「いかにも。佐藤先生は、そのへんの平衡感覚も良いとお見受けいたしました」
「買いかぶりですよ。以前おった学校ではいろいろ……やらかしてきましたから」
「だいたいのところは承知しております。で、前任校の校長さんに無理を言って来て頂いたんです」
「あとは、ご近所との関係ですね。あまり良くないことは桜の一件でも、よう分かりましたから」
「地区の交流には、気を付けてはいるんですがね。先生方のご協力が、もう少し頂ければ」
「先生、この地区の一番の神社は、どこですか?」
「神社?」

 というわけで、乙女先生はこの地の鎮守伊邪那美(イザナミ)神社の鳥居の前に立っている。

 桜事件から三日がたっていた。

 乙女先生は岸和田の出身。だんじりで有名な岸城神社が、地元の要であることをよく分かっている。青春高校のある地区は旧集落と、新興住宅地に分かれているが、全体への影響力という点では旧集落の地区との繋がりが第一。

 で、その要である伊邪那美神社に御神酒(おみき)と玉串料を持ってやってきたのである。

 地元の人たちの心を掴むため、ほんの第一歩であるつもりであった。

 しかし、乙女先生は、ここで本物の神さまに出会うことになる……とは、夢にも思わなかった。

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・3『桜の枝』

2022-04-02 05:05:48 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

3『桜の枝』    

              

 


 職会のあと、社会科の教官室に行った。教科主任の前田から六人の同僚を紹介された。

―― まあ、この人達となら、なんとか波風立てずにやっていけそう ――

 乙女先生は、そう感想を持った。次に受け持ちの教科の方が気になった。

「日本史A」これは普通。しかし、「映画から見た世界都市」には驚いた。この希望ヶ丘青春高校は総合学科の学校であるので、社会科以外の教科も覚悟はしてきたが「映画から見た世界都市」。これはまるで、映画か観光の専門学校の科目である。新転任者に教科を選ぶ権限などない。取りあえずはアテガイブチと納得。

 職員室は管理職のお達しであろう、みんなの机の上は、昔の学校のように雑然とはしておらず。パソコンと小さな本立てのようなものがあるだけで、民間会社のオフィスを思わせたが、教官室は……地震のあとをとりあえず片づけました。と言う感じ。

 各自の机の上は、カラーボックスや本立てが二階建てや三階建てに。それだけで机の上1/3は占められ、残った2/3の半分も、うず高く、書類やプリントの山になっている。まあ、社会科の教師の机とはこんなものであるが、ここの乱雑さには、少しすさんだものを感じた。すさみようは六人の教師で微妙な差があったが、互いに干渉しないでおこうという、社会科独特の相互不干渉主義が生きているようで、取りあえず安心。

 社会科というのは、数ある教科の中で、最も個人の政治・社会に対する主観が出やすく、教授内容の統一などはとても出来るものではない。で、たいていの学校で社会(地歴公民などという長ったらしい名前は、現場では、まず使わない。会議などで教科予算などの利害が絡むときは別)の教師は個人商店のようなものである。乙女先生といっしょに日本史Aを担当する東野も、「よろしく」とだけしか言わなかった。

「じゃ、わたし、一年の生指主担やりますんで、ホームベースは生指の部屋に置きますので」
「でしょうね、あとで、教科の歓送迎会の日取りの打ち合わせだけ確認させていただきます」

 主任の前田の声を、聞いたとき、各分掌の会議が始まる放送が入った。

―― ああ、このせいか ――

 乙女先生は、生指の部屋に入ったとたんに理解した。

 生指部員のだれもが、部長の梅田と微妙な距離をとって座っているのだ。

 どうやら梅田は、部長として浮いている様子である。十二人の部員が揃って、学年当初の生指のスケジュ-ルを確認している間も、だれも梅田の顔を見ようとはしない。血の巡りのいい生指なら、学年の主担同士の情報交換や、最低でも挨拶があってしかるべきなのだが、それも「職会でやりましたから」の梅田の一言で省略された。連休前までのスケジュ-ルが確認されたところで、生指の電話が鳴った。

「はい、生活指導です」

 電話をとったのは、三年の生指主担の山本であった。

 あやうく電話で言い争いになるところであった。

「それは、生活指導の仕事ではありませんので、係りのものに繋ぎます」

 山本は、電話相手の話が終わるやいなや、そう答えた。応対の内容から、学校外部からのクレームであることはすぐに分かった。で、今の山本の一言で、相手の頭の線が切れたであろうことも、乙女先生には容易に想像できた。山本が、相手が再び喋り始めたとき、有無を言わせず内線電話を切り替えようとした。

「ちょっとかして」

 乙女先生は山本から受話器をふんだくった。

「はい、お電話代わりました。生活指導部の佐藤でございます……」

 相手は、すでに頭にきていた。生指に繋がるまで、いささか待たされ、そのあげくが山本の木で鼻を括ったような応対で線が切れたことは明らかであった。

 乙女先生は、丁重に電話の主に詫び、すぐに技術員室へ向かった。その背中を見送る生指部員の目は冷たかった。

「すんません。ノコギリと、ホウキと大きいゴミ袋三枚ほどお願いします」
「なんに使いはりまんねん?」

 技師のボスらしきオッサンがウロンゲに乙女先生に聞いた。乙女先生は簡単に事情を説明して、必要なものを受け取った。

――最初は、このオッサンのとこに電話があったはずやろ。と、思った。しかし転勤初日。イザコザは避けようと思った。

 玄関まで行くと、真美ちゃんが所在なげに立っている。

「乙女先生、何か仕事ですか?」
「ちょっとね」
「わたしも、いっしょに行きます。新任指導は午後からなんで、ヒマなんです」
「いいわよ」

 乙女先生のにこやかな返事は、真美ちゃんには逆の意味にとられたようで、正門に向かう乙女先生の後を、おニューのパンプスの足音が追いかけてきた。

 どうやら、道を逆に回ってしまったようだ。切り通しの石垣にぶつかって、回れ右をして再び正門前に戻り、学校の外周を時計回りにそって歩いた。東の角を曲がると、それがドデンと転がり、数名のオッサンとオバハンが待ちかまえていた。

 ドデンと転がっていたのは、学校の校庭から、折れて道に落ちた桜の枝だった。

 ただし、それは枝などというカワユゲなものではなく。幹と言ったほうがいいシロモノで。四メートルほどの生活道路を完全に塞いでいた。

 で、その桜の向こうで軽自動車が立ち往生していた。

 軽自動車のフロントグリルは、なんだか怒った小型犬のように見えた……。
 

 

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せやさかい・291『今日から高校生!』

2022-04-01 16:30:47 | ノベル

・291

『今日から高校生!』さくら     

 

 

 今日から高校生!

 

 企んだわけやないけど、早起きしてお風呂に入る。

 朝の色々で、面白いこともあったんやけど、ここからは入学式。

 

 入学式にはテイ兄ちゃんとおばちゃんが来てくれる。

 お祖父ちゃんとかも来たがってたんやけど、新入生一人につき一人の保護者しか認められへんので仕方がない。

 

 まずは、昇降口の入り口に貼ってあるクラス表を見る。

「「あった!」」

 留美ちゃんと声が重なる。

「同じクラスだ٩(๑^o^๑)۶!」

 一年に一回するかどうかの笑顔で喜ぶ留美ちゃん!

 中学の時と同じく、前と後ろ(うちの苗字が『酒井』で、留美ちゃんは『榊原』やから)の席。

「え、うそ……」

「え、どないしたん?」

「担任の先生……」

「え……あ!?」

 

 一年B組  担任 月島さやか

 

 物覚えのええ人は憶えてると思うねんけど、月島さやか先生は、二年の時から担任やってもろてる先生。

 新任で、うちらのクラス持ってくれはった笑顔の素敵な先生。

 その特徴的な笑顔から、生徒からはペコちゃん先生と呼ばれてる。

「同姓同名だよね?」

 先生言うてた――うちの近所は月島が多いの。昔から住んでるから辿っていけば親類なんだけどね――

 先生の家は神社やさかい、当然古い家系で、近所が親類だらけやっても不思議やない。

「先生の『さやか』は漢字やったかなあ……」

 教室で待つこと五分、むろん緊張のしまくり!

「「あ!?」」

 思わず声に出てしもて、教室の注目を浴びてしまう。

 せやかて、入ってきたピンクスーツの担任は、まごうかたなきペコちゃん先生!

「担任の月島です。自己紹介とかは後程にして、入学式についての注意をします」

 めっちゃポーカーフェイスというか、アナ雪のエルサが雪の女王になった時みたいな冷たい顔で、事務的に説明する。

 いよいよ時間になって、廊下に並んだ時も、うちのピースサインも無視して、みんなの服装チェック。

 ひょっとして、パラレルワールドからやってきた中学の先生をやってないペコちゃん先生?

 

 やがて威風堂々のBG……と思たら吹部の生演奏流れるうちに式場へ。

 

 やがて、全員が揃ったところで教頭先生のMCで入学式が始まる。

 国歌斉唱から始まるのは、小中学校といっしょやねんけど、校歌斉唱でぶったまげた!

 なんと、伴奏のメインがパイプオルガン!

 おお! なんという荘厳な響き!

 今にも、天使さんに先導されて、聖母マリアさんが天下ってきそうな。

 いっしゅん、阿弥陀来迎図を思い出してみたけど、阿弥陀さんには合いません。

 理事長、校長先生始め主だった先生がウィンプル被った修道女姿いうのんも感激!

 仏教界で、こういう場面に耐えられるのんは、去年、お亡くなりになった瀬戸内寂聴さんくらい。

 

 で、式は進んで担任紹介。

 

「B組担任、月島さやか。本日4月1日付で、堺市立安泰中学からの転職……」

 MCの教頭先生の解説で、ホンマモンのペコちゃん先生やということが判明!

 なんや、胸がサワサワしてきたとこで、生徒会長の挨拶。

「あ、百武真鈴!?」

 紹介は、生徒会長田中真央やったけど、頼子先輩から話を聞いてたうちと留美ちゃんは、田中真央が『恋するマネキン』の人気声優やということを知ってる。

「さくら、くち、くち!」

 留美ちゃんに注意される。ビックリしたうちは、口を半開きにしたままでした(^_^;)。

 さすがは百武真鈴。きれいな声と読み方やったけど、声優らしさは感じさせへんかった。

 生徒の中には気ぃついてる子ぉも居てると思うねんけど、うちみたいに口を半開きにしてるアホは居てませんでした。

 

「さくら! 留美! 入学おめでとう!」

 

 式が終わってピロティーに出ると、我が先輩、頼子さんがお日様みたいな笑顔で待ち構えていてくれました。

 一歩下がったとこには、ガード兼ご学友のソフィーもニコニコの笑顔。

 ソフィーって、ご学友モードでは、こんなフレンドリーな表情するんや!

 いっぱい発見したりビックリしたり。

 ペコちゃん先生のことは、まだ謎やったけど、目くるめく驚きのうちに、酒井さくらの高校生活が始まった!

 

☆ なんとか、さくらの中学時代を終えて、高校時代に突入することができました。根気よく付き合ってくださった読者のみなさんのお蔭です、ありがとうございます。まだまだ未熟な物語ですが、これからも、読んでいただければ嬉しいです。

                  大橋 むつお 

 

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銀河太平記・101『及川軍平の新生活』

2022-04-01 13:25:10 | 小説4

・101

『及川軍平の新生活』及川軍平   

 

 

 及川軍平の失脚で、西ノ島の本土化は頓挫してしまった。

 へき地開発法など、西ノ島に課せられていた法律や条例は、ことごとく停止になり、当分の間は島の自治に任せられることになったのである。

「及川さん、人生は山あり谷あり。生きていれば、またいいこともありますよ」

 及川が淹れ換えてくれたお茶をうまそうに飲みながら、孫大人は優しく言葉を掛けた。

「いいえ、わたしは、残りの人生、この島の食堂でフロアー係を務めていきます」

「そうですか、それも人生ですね。わたしも、これからはちょくちょく島には来ることになると思います。なにか不自由なことがあれば言ってください」

「いよいよ、本格的に島を支配……いえ、関わってこられるのですね」

「及川さん……」

「わたしは、西ノ島を外国資本から守りたい一心でした。ここは、脛に傷持つ外国人たちにいいようにされてきました。ナバホ村もフートンも指導者は外国人。氷室カンパニーだけが日系だとは言われていましたが、構成員は多国籍、中には月や火星からの流れ者も居て、このままでは……」

「ひところの満州のようになると思いこまれたんですなあ」

「このままでは、また満州戦争のようなことが……」

「お父上は、あの戦争で亡くなられたので無理もないとは思いますが。ここは、そうはなりませんよ」

「孫大人、あなたがおっしゃっても……」

「いかにも、西ノ島には投資しています。だが、口は出さない。わたしも、幾たびかの戦争を経験しました。まだまだ手探りではありますが、戦争をしないで、共にみんなが栄えるような道を探っていきますよ」

「五族共和ですか」

「ワハハハハ、三百年も前のスローガンですなあ(´∀`) もっと古い言葉で申しますと『厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど』でしょうかな」

「徳川家康ですか!?」

「はい、聖徳太子と並んで尊敬しておる日本人です」

「『和を以て貴しとなし』のあとは『忤う(さからう)こと無きを宗とせよ』……が続きますね」

「それほどに『和』が貴いということですなあ……まあ、それほど時間はかかりません。カンパニーの食堂に務められたのも奇遇でありましょう。しばらくは見ていてください」

 

「孫さん、お迎えが来ましたよ!」

 

 厨房のオタキばあさん、いやお岩さんが目ざとくゲートに入ってきた迎えを見つけて、孫大人を呼ばわる。

「軍平、いつまでも喋ってないで、アイドルタイムは終わりだよ!」

「はい、ただいま!」

 入り口から入ってきたのは、秘書然とした美人だ。

 子どもの頃、父親に連れて行ってもらった北大街の、なんとかいう店で見たような……いや、もう二十年以上も経っている。他人の空似。

 孫大人と秘書は、落盤事故のあと、まだ引き取り手のない祭壇の遺骨に手を合わせると、飄々とゲートを出て行った。

「こらあ、グンペイ!」

「はい、ただいま!」

 

 カンパニーは午後の作業が本格化したのだろう、ウインチやドリルの音がかまびすしくなり、食堂横のファクトリーではメグミが、パチパチたちの再義体化の作業を開始した。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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