大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・133『エマージェンシー!』

2022-04-11 09:42:10 | ライトノベルセレクト

やく物語・133

『エマージェンシー!』 

 

 

 あ、カップ麺忘れた!?

 

 思い出したのは火星の脇を抜けて木星軌道に向かっている時。

 コルトガバメントには仁義礼智信のカップ麺のエッセンスを装填しなきゃならないんだ。

 夢見てる間に来てしまったから、そういう準備をする余裕もなかった。

 どうしようとアセアセになっていると、チカコと御息所がポケットの中でゴソゴソ。

「ちょ、なによ、くすぐったいよ(#^O^#)」

「「ほれ!」」

 ふたり同時に飛び出て示したものは……ドングリ?

「なに言ってんのよ!」

「コルトガバメントの弾に込めておいたわ!」

「「義のエッセンス!」」

「あ、ありがとう!」

 カチャ カチャ

 弾倉に弾を込めていると、アキバ子が想念で語り掛けてくる。

―― じつはね、夜中におなかの空いた二人が、こそっとカップ麺を開けてしまったんですよ ――

「え!?」

―― 心で話して、二人に聞こえるから ――

―― それで、弾が入っていたの? ――

―― ま、そういうわけです ――

―― でもさ、なんでアキバ子が知ってるわけ? ――

―― わたしはアキバ子です。空き箱さえあれば、どこからでも覗けます(^_^;) ――

―― あなたって、ひょっとしてアキバの妖精じゃなくて空き箱の妖精なんじゃない? ――

―― アハハ、アキバはなんでも詰め込める巨大な空き箱です ――

 なんか、ちょっと哲学的かも。

 アキバ子と心の会話をしていると、胸元でゴニョゴニョと声。

『やくもの胸が大きかったら、弾なんか持ち込めないとこよ』

『そもそも、わらわや、チカコが潜り込むこともできなかったぞえ』

『そうよね』

『やくもも第二次性徴期、対策を考えなくてはならないかも』

『それは大丈夫、やくものは、これ以上大きくはならないし』

『そんなことは無いぞよ』

『え、どうして?』

『どんなペチャパイでも、子を授かれば、天然自然に大きくなるものよ』

『え、そうなの!?』

『そうじゃ、あたりまえじゃろうが。あ……すまぬ(;'∀')、チカコは結婚はしたが、子はなしておらなかったなあ』

『ちょ、御息所(;`O´)o!』

 なんかすごい話になってきたので怒るのも忘れてしまった。

 

『エマージェンシー! エマージェンシー!』

 

 ロケットのAIが警報を告げる。土星にはまだ間があるのに、なんだろう? キャビンのみんながコンソールを注目する。

『ロケットのバランスが崩れてきています、乗員のみなさんは、二段目のキャビンに移ってください』

 みんな一段目のキャビンに入ったものだから、ロケットの頭が重くなって軌道を離れ始めているんだ。

「すぐに移りましょう」

 トラッドメイド(滝夜叉姫)が立ち上がる。赤メイドは二段目へのハッチを開け、青メイドはアキバ子を抱えてくれる。やっぱり明神さまのメイドなので、テキパキと連携がとれている。

 わたしは、カバンを抱え、チカコと御息所が落ちないように気を付けながら、遅れてハッチに向かう。

 ガシャン!

 ええ!?

 ハッチの向こうとこっちで声が上がる。

 わたしが、ハッチに入ろうとしたら、いきなり閉じてしまったんだ!

『二段目を切り離します 二段目を切り離します 危険ですのでシートについてください』

 AIが、ことさら機械じみた警告をする。

「ちょ、ちょっと!」

 ハッチの向こうとこっちで抗議の声を上げるけど、それには応えないで、無情にも二段目が切り離される。

 

 ああああ!

 

 切り離された二段目がみるみる小さくなっていき、わたしは、胸ポケットのチカコと御息所といっしょに、速度を増して土星へと飛んでいく!

 みるみる赤茶けた火星が小さくなっていった……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・13『栞の補導委員会』

2022-04-11 06:52:43 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

13『栞の補導委員会』    

 

     


 昼から補導委員会になった。

「最初に問題点を明確にしときます。手島栞の指導忌避についてです」

 梅田生指部長が口火を切って、参加者は、いっせいにA4のプリントに目を通した。

 参加者は、梅田の他、各学年の生指主担三名と、学年主任の牧原、栞の新旧の担任、管理職からは教頭と、特別に校長が加わり九人であった。
 
「指導忌避は何日ですか……?」

 教頭の田中が、ろくにプリントも見ずに聞いた。

「三日です」
「ほんなら、三日の停学で、よろしおまっしゃろ」

 教頭は早くもメガネを外した。

「ちょっと待って下さい。指導忌避に至ったいきさつについて、説明してください」

 乙女先生が、フライングしたランナーを停めるように言った。

「書いたある通りです。本日8時20分ごろ出勤途中の湯浅先生、先生は新年度の手島の担任ですが……」
「とんだ、ババひいてしもたわ」
「湯浅先生が、栞がゲンチャに乗ってるところを目撃、制止しはりましたが、同人はこれを無視、この時、湯浅先生は、同人に指導忌避であることを明確に伝えてはります。ですね?」
「はい、タバコ屋のオッチャンが、その声で店から出てきたぐらいです。本人にも聞こえてます」
「で、また同人が、そこを通ることを予期され、電話でわたしを呼び出され、事情を聞き、指導の要有りと認め、タバコ屋の自販機横で待機。十五分後、再びゲンチャで通りかかった同人を制止。制止のおり転倒しましたが、これは、制止を振り切り逃走をはかろうとしたためでありますが、わたしと湯浅先生で受け止めてやったため、同人は軽い擦過傷を負っただけですみました。直後、現場で指導しようとしましたが、『現状保存! 警察を呼べ!』と激しく指導を忌避。よって、学校まで、連れて帰って現状に至っております」

 梅田は、模範解答を読み上げるように抑揚のない声で説明した。

「……で、罪状は指導忌避。懲戒規定では三日。決まりでんな」

 乙女先生は怒りのあまり、声が出なかった。旧担任の中谷が手をあげた。

「はい、中谷さん……」
「無許可バイトと、禁止されてるゲンチャについては問題にせえへんのですか」

 梅田が大儀そうな顔をした。

「バイトは、野放しが現状です。あえて問題にする必要おまへんやろ。ゲンチャ絡めると、十日を超える停学、それに、中谷さんに出したバイト願いには、ゲンチャ使用申請もあったとか。それ、一カ月もほっときはったんでっしゃろ、触れんほうがええと思いますけど」
「ゲンチャ使用申請は、本人が言うとるだけでしょ。わたしは確認しとりません」

「一言いいかな」

 ブリトラの校長が手をあげた。

「バイトのことは、本人から聞いて、わたしが許可を出しましたが」
「そら、校長あきまへん」

 三年の主担、山本が口を開いた。

「バイトの許可願いは、担任、学年生指主担、学年主任、生指部長、で、教頭通して学校長の許可になってます。手続き無視してもろたら困りまんなあ」
「最終決定は、学校長なんだから、問題ないでしょう。こういう言い方をするのはなんだが、本人から許可願いが出ていながら一カ月も放置しているのも問題だと思います」
「校長はん、職権乱用や、バイト願いの処理期間なんか、生徒手帳にも内規にも、どこにも書いたあらへん」

「オッサン、そんなん、言い訳やろ! 今時役所に行っても、一時間もも待たされへんわ。アマゾンなんか半日で持ってきよるで。それとも、なにか、ここはアマゾン以下のジャングルけ!?」

「何を、いきまいて……」

 中谷が鼻でせせら笑い、山本が同調した。

「まあまあ、バイトは、もうドガチャガになってるし、中谷はんも、一カ月放置はなあ……」
「ボクは、なんにも悪ない!」
「そやから、学校の現状を鑑みて、指導忌避でいきまんねんやろ。学年始めで仕事溜まっとるんや。早よ手え打ちましょや」
「小さなことからコツコツと、教頭はん名言でしたで」

 山本が囃し立て、教頭は仏頂面になった。

「栞も栞やけど、中谷センセがちゃちゃっと……」

 牧原の呟きが中谷に聞こえ、今度は中谷が切れた。

「ボクは間違うてへん! ただでも一年の担任は大変やったんや、バイト願いなんて……せや、出した言うてんのは栞だけだっしゃろ。あいつに何回も言われて受け取ったような気になってたけど……ボ、ボクは見てへん。そうや、そんな気になってただけで、受け取ってません!」
「ほんなら、栞の狂言や言うんけ、ええかげんにさらせよな!?」

 乙女先生が振り上げた拳を、校長が必死で止めた。

「ああ、こわ~!」
「ほんなら、指導忌避。停学三日。賛成の方起立(乙女先生の剣幕が逆効果になって、全員が立っていた)。賛成者多数。本案可決!」

 こうして、明くる日の朝、保護者同伴で停学の申し渡しになったが、栞の保護者から、その日の内に来校する旨が伝えられ、校長は関係の教師に禁足令を出した。むろん「先生方のためです」と枕詞を付けて……。

 

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魔法少女マヂカ・267『明神四巫女の決意』

2022-04-10 10:00:15 | 小説

魔法少女マヂカ・267

『明神四巫女の決意語り手:マヂカ  

 

 

 ご無沙汰いたしております、いつぞやは、日光街道の妖退治にご尽力いただき、誠にありがとうございました。

 

「は、はあ……」

 丁寧なあいさつをされて、ちょっと面食らってしまう。

 神田明神は、関東一円の総鎮守で、その歴史は、このわたし、魔法少女マヂカのそれを超える。

 お遣いの巫女とは言え、慇懃に過ぎるし、何よりも……日光街道の件は、令和の時代の話だ。

 この大正時代の神田明神は知るはずがないのだが。

「順序が合わないと思われるのですね?」

「あ、いや……」

「もっともなことですが、将門さまの御業は時空を超えます。大正のこの時代にあっても、令和での御助力を失念するものではありません」

「そうなのか、いや、そうだろうね。このマヂカも時代を遡っているんだからね。将門さまの力なら、不思議がることも無いよね。それで、ご用件は?」

「はい、すでにご存じの通り、虎の門事件は史実よりも半月早く起こります」

「やっぱり」

「実は、マヂカさんたちのお働きで、かなりの方々の命が救われました。それに伴い、時の流れそのものが力を増して、歴史は良い方向に向かおうとしています。しかし、それに背こうという力も育ってしまい、虎ノ門の一件は、史実のそれを超えて大きくこじれようとしています」

「うん、わたしも、そう思う」

「将門さまは、今度の虎ノ門事件では正面に立とうとなされています」

「将門さまが?」

「はい、帝都の総鎮守。摂政の宮様の一大事を人任せにしておくことはできぬと仰せられて」

「それは、天晴れなお覚悟だけど、この大震災で、相当に被害を被られておられるのでは……」

「はい、長年お仕えしてきた我々には、よく分かっております」

 クロ巫女が我々と言って、その姿が四つになった。

 クロ巫女の他に、アカ巫女、シロ巫女、アオ巫女。

 それぞれが太刀や槍や弓矢の得物を手にしてまなじりを上げている。

「失礼だけど、あなたたち、戦った経験は?」

「大丈夫です、元亀天正の昔には、太田道灌や徳川の軍勢に混じって戦ったこともあります!」

 キリ!

「クロ巫女!」「アカ巫女!」「シロ巫女!」「アオ巫女!」

「「「「我ら、明神巫女レンジャー!」」」」

 四人揃って戦隊ものめいた決めポーズをとる……まあ、いいんだけどね(^_^;)。

 

 その夜は、いっしょにお風呂に入って高揚したのか、霧子の部屋でパジャマパーティーのようになった。

 

 三人の中では、いちばん先に風呂からあがった霧子が、わたしの部屋から漏れる声を不信がったが「腹話術で独り言」と苦しい言い訳をしておく。

 

 夜半、一面の星空に満月が上っているというのに、突然風が強くなった。

 バタバタン!

 半端に閉めておいた窓が開いたかと思うと、月の逆行を受けて真っ黒なものが飛び込んできた。

 ムギュ!

 風切丸を実体化させる間もなく、そいつは、わたしの顔の上に落ちてきた!

 ああ、いてててててて……

「痛いのはこっち!」

 怒りに震えて目を開けると、ブリンダがわたしの上で目を回していた。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

  

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・12『進行妨害』

2022-04-10 07:56:11 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

12『進行妨害』    

      

 

 生指横のタコ部屋(指導室)からは、罵声が響き渡っていた。校舎中に響き渡り、言葉の内容までは分からないが、そのイントネーションから、聞き慣れた罵詈雑言であることは想像がついた。

「ちょっと、失礼しまっせ」

 言ったときには、もう失礼して、栞の斜め前の椅子に座った。

「佐藤先生、困りまんなあ、あんたの担当ちゃいまっせ」
「梅田先生、女子の指導を男性教師だけでやるのは、ちょと問題や。それに、この子の制服の乱れよう、膝の怪我、女性の生指が付くべきや思いますけど」

 栞は、初めて気が付いたようで、制服の乱れを直し、膝の傷をティッシュで拭った。ティッシュは直ぐに血と泥を吸った。

「まず保健室に行って診てもらいます。状況から見て、まず、わたしが聞くのが順当やと思いますが」
「こんなもん、ただの擦り傷。あとで消毒したらよろしおまんがな」
「この子の傷は、膝だけとちゃう。顔見たら分かりまっしゃろ」
「手島は、いつも……」
「いつも、こんな顔させてたん。話にならん。手島さん、ウチに付いといで」
「佐藤さん!」
「うっさいんじゃ、オッサンら!」

 呆気にとられた、三人のオッサン……いや、男性教諭を置き去りにして、乙女先生は、栞を保健室に連れて行った。

「手島さん、どないしたん!?」

 養護教諭の出水さんも、栞のただならぬ様子を見て、驚きの声を上げた。

「えと……わたしがゲンチャを停めるのと、梅田先生が話しかけられるタイミングが合わなかったんです」
「えらい持って回った言いようやなあ」
「……傷は、擦り傷だけですね。消毒とサビオでええでしょ」
「先生」
「うん?」

 乙女先生と出水先生が同時に返事をした。栞がクスっと笑った。

「ちょっと落ち着いたか。まあ、先生に話してみい」
「ゲンチャは?」
「真美ちゃん先生に頼んどいた。それより話や」
「お気持ちはありがたいんですけど、あの先生らには直接話せんと、こじれるだけです。タコ部屋に戻ります」

「せやから、指導忌避と、無許可のバイク使用なんじゃ、ボケ!」

 梅田の論点は、この二点だけだった。いろいろエゲツナイ大阪弁が混じるので、整理すると以下のようになる。

 朝、出勤途中の新担任湯浅が、団子屋のゲンチャに乗った栞と出くわした。ゲンチャは希望ヶ丘高校では原則禁止である。そこを制服を着たままゲンチャに乗っている栞を発見したのだから、指導しないわけにはいかない。

「こら栞、止まれ!」
「すみません、配達中なんで、また後で!」

 栞は、近所の姫山小学校の入学式用の紅白饅頭を配達の途中であった。指導されていては間に合わない。

「くそ、指導忌避やぞ!」

 湯浅先生は、スマホで梅田に連絡をとり、駆けつけた梅田と二人で自販機の陰に隠れて待ち伏せした。そして、栞が十メートルほど手前に着たときに、飛び出した。

「今度は逃がせへんぞ!」

 びっくりした栞は急ブレーキを掛けたが、ハンドルがぶれて、横転した。

 で、ここからが両者の話が異なる。

○「なに、わざとらしい転けてんねん!」そう言われ、胸ぐらを掴んで引っ張られた。

○「おい、大丈夫か!?」おたつきながらも、起こしてやった。

 どちらが、どちらの言い分かは、お分かりであろうが、その後の言動ははっきりしている。自販機が置いてある店のオジサンが、動画で記録していた(数日後、SNSに出て問題になる)

「進行妨害です。現状保存をして、警察を呼んでください!」

 栞がヘルメットを脱いで叫んだ。

「違反ばっかりしくさって、何言うとんじゃ。さっさと立って学校来い! 湯浅先生、ゲンチャ持ってきてください」

 栞はすでに抵抗はやめていたが、梅田はセーラーの襟首を掴んで数メートル引っ張った。

 栞は、途中遮られながらも、二度冷静に事実を述べた。あとは、オッサン三人の罵声であった。

 最後に、栞は静かに言った。

「バイト許可願いの付則に、配達のための自動二輪使用願いも書いてあったはずです……」
 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・11『栞の凄み』

2022-04-09 08:21:07 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

11『栞の凄み』    

        

 

 校長の対応は早かった。

 栞の一年生の担任であった中谷を呼び出し栞のバイト申請書と、建白書について問いただした。

「バイトは、新学年になったらと思って、ノビノビになってました」
「しかし、実体的に、あの子のバイトは始まっているじゃないですか」
「そんな形式的なぁ。バイトは無届けでやってる生徒はいっぱいいてます」
「あの子は、先生に意見書を出したときに、バイトのことを持ち出されたと聞いておりますが」
「ああ、手島は言い出したら、しつこいんですわ。で、方便でバイトのこと言うたまでで、とがめ立てするつもりはありません」
「しかし、あの子に間違いはないように思いますがね」
「形式はね、先生も話して聞かはったんやったら、あの理想論的なペシミスティックには気いつかはった思いますけど」
「とにかく、わたし宛に預けられた分は読ませていただきます」
「それが、年度末のゴタゴタで……また、探しときますわ。ほんなら、これで」

 中谷が立ちかけた。

「話は、まだ済んでませんよ」
「わたし、三時から時間休。これ以上引き留めたら、不当労働行為だっせ」
「……それは、失礼」

 校長は、中谷の背中を見送りながら、生活指導の梅田に内線電話をかけた。

「あ、校長の水野です」
――なんでっか?
「旧一年A組の手島栞、バイト願いが旧担の中谷さんのところで止まっていたんで、わたしが、直接許可書を渡しておきました。了解しておいてください」
――あ、それはどうもご丁寧に。
「で……もう切っちまったのか」

「今の電話、校長さんちゃいますのん?」
「ああ、細かいトコまで、目配りの利く校長さんですわ。ま、そういうわけで、新入生への言葉は佐藤先生でお願いしますわ」
「せやけど、仮にも生指部長は、梅田さんやねんさかい」
「しかし、指導の先頭に立つのんは、佐藤さんやねんさかい、先生の方が実質的ですわ。まあ、オレも最初は一言二言は言うよってに……」

 そういうと、梅田はパソコンのトランプゲームに熱中しだした。この手の教師は、これ以上言っても無駄なことはよく分かっていたので、乙女先生は生指の自分の机の整理にかかった。

「……別に主担やから言うて、常駐せんでもええですよ」
「主担は、常駐や思てましたさかい」
「あ……荷物ほとんど持ってきてはるんやね。ま、ご自由に……」

 乙女先生は、今時珍しい「平和の鳥」を机に置いた。鳥はジクロメタンが詰まったお腹を振りながら水を飲み始めた。


 明日は入学式という七日にそれは起こった。

 

 入学式の警備計画を、各担当に説明し終えて、生指に戻ろうとしたとき、玄関の方から、手島栞が生指部長の梅田と、新担任の湯浅、学年主任の牧原を従えて歩いてくるのが目に入った。近づくと、栞の制服が少し乱れていることに気がついた。ネクタイが曲がり、セーラー服の胸当てのホックが一つ外れている。さらに気づくと、膝小僧に擦り傷があることが分かった。

「佐藤先生……」
「手島さん……」
「個人的な話は、後にしてくださいね」
「お店のゲンチャ、返しておいていただけませんか」

 栞は、ゲンチャのキーを差し出した。

「さっさと歩け!」

 梅田が、小突いたが、栞は予感していたように、歩き出し。梅田の拳は虚しく空を突いただけだった。

――今のん当たってたら、パワハラとられるで……。

 すれ違ったときに見えた栞の目は、昨日の比ではなく、怒りがスゴミになってしずもっていた……。

 

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せやさかい・294『対面式とオリエンテーション』

2022-04-08 10:11:06 | ノベル

・294

『対面式とオリエンテーション』さくら   

 

 

 今日は朝から対面式。

 

 だれと対面するのかと思たら、二三年生のお姉さま方全員と!

 ペコちゃん先生に先導されて、向かったのは、入学式もやった体育館。

 すでに、二三年生は体育館に入ってて始業式の真っ最中。

 A組の先生が、入り口で、なにやら中の先生に告げると、ザワザワと大勢が移動する気配。

 続いて、静かで荘厳なミサ曲みたいなんが流れる中、A組から入って行く。

 入った時は、まだ移動の真っ最中。

 うちら一年生が入って行くにしたがって、上級生の移動は進んでいき、フロアの真ん中が空いて、両脇に二年と三年、真ん中に一年が収まる。

 パチパチパチパチパチパチパチパチ(*´꒳`*ノノ゙

 その間、お姉さま方や先生方が笑顔で拍手してくれて、めっちゃ感激。

 中学の時みたいに男子は居らへんし、オチャラケたやつも居らへん。

 なんや、にこやかな中にも粛々とした秩序があって、宝塚みたい(#^_^#)。

 

 この対面式のスタイルは、明治時代に学校ができて以来の伝統らしい。

 

「去年は、コロナのために、開校以来続いた、この対面式ができませんでしたが、今年はマスクをしながらでも行うことができました。二年生は、この形で迎えることができませんでしたが、その分、卒業式にはがんばります。がんばりましょう。それでは……」

 壇上の校長先生が指揮者のように両手を挙げる。

 入学おめでとう!!

 なんちゅうこと、二三年生のお姉さま方が、一斉にお祝いの言葉と、前にも増して、割れんばかりの拍手!

 あ、あかん、涙腺崩壊(˃˂)やあ!

 

 式そのものは、あっという間に終わって、続いてオリエンテーション。

 連れていかれたんは、チャペルやおまへんか!

 

 15年の人生でチャペルなんちゅうもんに入るのは初めて!

 入り口はマホガニーとかの観音開きでホールになってて、ホールにもう一つの観音開き。

 

 おお!

 

 荘厳なパイプオルガンが奏でられ、赤じゅうたんのバージンロードがあったら、そのまんま、ごっつい結婚式ができるんちゃうかいうくらいの雰囲気! ドラゴンクェストやったら、ここで旅の記録=セーブしたくなる(^_^;)とこ。

 通路は真ん中の大きいやつの他に、左右に、もう一本づつの通路。

 手際よく、八つのクラスが、それぞれの通路から指定された席に着く。

 照明が凝ってるなあと思たら、正面と両側の窓がステンドグラス!

 配色がええせいか、お日さんの光が、めちゃ凝った照明みたいになって、めちゃめちゃ雰囲気!

 席に着いて、十秒ほどすると、ちょうどパイプオルガンの演奏が終わって、プレーヤーのシスターが立ち上がった……と思たら、そのシスターは学院長やおまへんか!

「本来なら、ここで入学式を行うところでしたが、コロナのために使えませんでした……」

 校長先生と似たようなお話から入らはる。

 なんや、為になるようなことを言うてくれはったようやねんけど、一つも覚えてません。

 

 帰り道、留美ちゃんと今日の感動をピーチクパーチク。

 

「対面式、感動だったよねえ!」

「うんうん!」

「入ってくと、上級生が潮が引くみたいに一年生の場所を空けてくれて、あれって、出エジプト記だよね!」

「え、出エ……?」

「モーゼがさ、ユダヤの民を引き連れて、紅海まで出てくると海の水がザザザーーって左右に開いて、みんなで逃げられるんだよね。文芸部の時『ベンハー』って映画のダイジェスト観たでしょ!?」

「え……あ、せやったせやった」

 いいえ、ぜんぜん覚えてません。たぶん、ダミアを抱っこしてモフモフ遊んでました。

 言わへんけど……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美    さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子    さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー     頼子のガード
        
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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・10『戦闘態勢の栞』

2022-04-08 08:03:35 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

10『戦闘態勢の栞』    

 

    


 栞は、グッと口を引き締めたかと思うと、大粒の涙をこぼした……。

「セーラー服は、わたしの戦闘服です」

 涙を拭おうともせずに、キッパリと栞は言った。庭で、長閑にウグイスが鳴いているのと対照的だった。

「どういう意味やのん?」

 栞の真っ直ぐな姿勢に、乙女先生は好感を持った。

「わたしは、学校と戦っていきます。だから、制服であるセーラー服は戦闘服なんです」
「なんで、学校と戦わなあかんのん?」

 乙女先生は、我知らず、いっそう優しくなっていく。校長は、一見無表情に庭に目をやりながら、穏やかに聞き役にまわった。

「総合選択制をなんとかして欲しいんです」
「総合選択制を?」
「はい。生徒のニーズに合わせて多様な教科を用意しているように見えますが、ただのアリバイです」
「手厳しいねえ」

「一年間授業を受けて、また、上級生のカリキュラムを見て、そう思ったんです。『園芸基礎』一年間園芸好きの先生の趣味に付き合っただけです。『映画から見た世界都市』映画の断片を見て、プリントの空白を埋めただけです。三年生に聞いたら当時担当していた先生が映画好きだったんで、一年間映画の解説ばかりだったそうです。プリントを見せたら、当時のまま。今は先生が替わって、それをなぞっているだけです。『オーラル・A』EATの先生と、英語ごっこをやっただけです。三年間『オーラル』を取った三年生でも、簡単な英会話もできません。こんな、オチャラケた教科が並んで、肝心の国・数・英・社は時間不足のスカスカです。おまけに、週四日間の七限授業。終わったら四時です。SHR、掃除当番なんか入ったら、部活の開始は四時半。下校時間は五時十五分。授業、部活共に成り立ちません。希望ヶ丘青春高校なんて、安出来の青春ドラマみたい……最初は、そうは思ってませんでした。これでも夢を持って入学したんです。でも一年居て分かりました。だから、改善の意見書を、担任の先生を通じて校長先生と、運営委員会宛に出したんです。そうしたら、生徒手帳を振りかざして、このバイトについ注意されました。そして、『意見書』という標題を注意されました。生徒が学校に出すものとして相応しくない……で、古色蒼然とした『建白書』にしたんです。下の者が上の者に具申するという意味です。『教師と生徒の間に上下関係は無い』と言ってハバカラナい、組合の分会長をやっている担任が、そのまま受け取りました。そして、一カ月たった今、まだご返答がいただけません。だから、わたしは、校則を守りながら戦っているんです。だから、このセーラー服は、わたしの戦闘服なんです」

「至急、君が出した『建白書』は読ませてもらうよ。バイト許可書もすぐに善処しよう」

 庭から、目をもどした校長は、栞にきちんと答えた。

「あの……」
「では、仕事に戻らせていただきます」

 乙女先生の言い出しかけた言葉をニベもなく断ち切って、栞は去って行った。

「今のあの子に、その場しのぎの言葉は通じませんよ」
「いえ、あたしは、もっといろいろ聞きたかったんです」
「そうか、担当学年じゃないが、関わってもらうことになるかもしれませんね」

 校長は、すました顔でダンゴをヒトカブリにした。

 校長は、店のパソコンを借りて、栞の『バイト許可証』を作り、女主人の恭ちゃんに渡した。

 門を出るとき、別人のようにクッタクのない笑顔で接客している栞の姿がチラっと見えた……。

 

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銀河太平記・102『元帥モスボール』

2022-04-07 11:36:53 | 小説4

・102

『元帥モスボール』児玉隆三  

 

 

 ここに来るのも四年……いや五年ぶりか。

 

 元帥というのは生涯現役だが、実務的な仕事はほとんどない。

 軍や国家の公的なセレモニーに顔を出したり、時おり宮中に参内して陛下のお相手をするぐらいが仕事で、あとは、道楽を兼ねて近隣の子どもたちに柔・剣道や水泳を教えるぐらいのことだ。それも、火星へ行ってからは副官のヨイチ准尉に任せきり。

 地球に戻ってからは、越萌マイとして妹(コスモスの擬態)のメイと立ち上げた越萌姉妹社の裏表の仕事にかかりっきりで、しだいに児玉元帥との二重生活が困難になってきた。

 そこで、児玉元帥の方は重いパルス症ということにして、この朝霞駐屯地の奥にモスボール保存したということにした。

 モスボールとは、人間で言えば未来における治療回復にかけて冷凍保存するようなものだ。

 死んだわけではないので、葬儀ほどの重さは無いが、それでも法事ほどの身なりと想いで訪れる者がいる。

 

 むろん、本物の児玉は越萌マイの姿で衛門の前に立っている。

 朝霞の奥つ城に保存されているのは、敷島教授が作った精巧なダミーだ。

 

「越萌姉妹社の越萌マイです。児玉元帥のお見舞いに伺わせていただきました」

 衛門の当番兵に来意を告げると、来隊予約と照合してIDを発行してくれる。

「元帥府は営庭脇の通路を真っ直ぐに行かれて、左に折れたところです。徒歩で二三分のところであります」

「ありがとうございます」

 義体の有機外装に手を加えてあるので、古参の当番兵でも、わたしが元帥そのものであるとは知られない。

 営庭に進むと、格技場から子どもたちの声が聞こえる。今日は、剣道指導の日だ。

『では、防具の付け方を教えまーす』

 おや、ヨイチではない声が、子どもたちを指導している。先客があるのだろう、それもVIPだ。

 元帥府への来客の相手は、普通であれば元帥府の当番兵か、駐屯地の広報が行うが、VIPの場合は元帥府先任のヨイチが行う。

 先週、内閣改造があったから、新大臣。あるいは、新任の大使・公使だろうか。

 勝手知ったる元帥府だが、正面玄関の前で佇んでみる。

 満州戦争以来、住み慣れた元帥府だが、訪れるのは、これが最後になるだろう。

 そう思うと、いささかの思いがないわけではない。

「おまたせいたしました、ご案内させていただきます。元帥府の新田です」

 折り目正しく敬礼してくれたのは、若い兵曹の女性隊員だ。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、お進みください」

 

 ホールを抜けて、扉二つ潜ったところがモスボールされたわたしのダミーが眠る部屋だ。

 元の会議室を改造した部屋は、古い言葉でアンバーの光に静もっている。

「元帥の御身体は奥にございますが、こちらにございますのが、モスボールに至るまでの元帥の履歴と、お使いになっていた品々でございます」

「ゆかしいものですね……」

 穏やかに言いながら、おもしろくない。

 ヨイチには、くれぐれも博物館めいた陳列はしないでくれと言っておいたのだが……まあ、仕方がない。

 軍隊というのは組織であり、そのヒエラルヒーを無視した要求は、モスボールされる本人の意向通りにはいかないのだろう。

 奥のモスボールの部屋には女性の先客がいた。

 ヨイチが畏まっているところを見ると、やはり、新大臣か、その奥方か……ここに来るということは、軍部の側に着こうかという国防族、あるいは軍需産業の総帥付近の人間。

 こういうところで、来訪者同士が様子を窺うのは無作法なことだ。

 互いにカプセルの対角線に位置するように気を配る。ヨイチも女性隊員も心得ていて、互いと互いの来客者の立ち位置を調整してくれている。

 部屋を出る時に、その女性が、小さく会釈をしたので、自然に互いが視界の端に留まる。

 

 陛下……!?

 

 ベージュの控え目なツーピースに身を包んだ女性は、紛れもなく今上陛下。

 モスボールをお気に掛けて、お忍びでご訪問くださったのだ。

 仕方のないこととは言え、カプセルの中はダミーだ。陛下を謀っている。

 あまりの申し訳なさに、わたしは、陛下のお側に寄って、深々と頭を下げる。

 陛下も、いま一度会釈されて、一瞬目が合う。

 陛下は、ニッコリ微笑んで頷かれた。

 

 ……陛下は、全てをご存知だ。

 

 言葉を交わすことも無く、陛下のあと、五分置いて駐屯地を出る。

 どっと汗が噴き出す。

 

 営門を出ると、ちょうど青信号になって、妹の車が滑り込んでくる。

「納得いったかしら?」

「まあね……じゃあ、次に行こうかしら」

「じゃあ、ひとっ飛びにいくわよ」

 車は、パルスエンジンの軽やかな音をさせ、西ノ島に向かって飛び立った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・9『栞のセーラー服』

2022-04-07 08:28:55 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

9『栞のセーラー服』     

      


「お待たせしました……」

 さっきの手島栞が桜饅頭と御手洗ダンゴを盆に載せてやって来た。略式ではあるが、挙措動作に、ちゃんとした行儀作法が身に付いていることが分かる。
 ナリは、制服の上にエプロンを掛け、頭は三角巾。古い目で見れば、昭和の清楚さだが、二十一世紀の今ではメイド喫茶を連想させ、乙女先生は、あまり好ましく思えなかった。

「あんた、うちの生徒やな」
「……は?」
「あ、あたし今度希望ヶ丘に転勤してきた、佐藤。こちらは校長先生。知ってるね」
「はい、校長先生は存じ上げておりました。佐藤先生はお初でしたので失礼しました」
「学年と、お名前は?」
「二年生の手島栞です。新学年のクラスはまだ発表されていませんので分かりません」
「手島さん、バイトすんのはしゃあないけど、制服姿はどないやろ?」
「これは、学校の決まりです」
「アルバイトをするときは、作業などに支障が無い限り、制服が望ましい……たしか、そうなっていたんだよね」
「はい。あの、僭越ですが、校長先生は読んで頂けましたでしょうか、二枚の書類」
「二枚……?」
「ええ、アルバイト許可願いと、教育課程見直しの建白書です」
「バイトの許可願いは受理したよ。もう一つのほうは、僕は知らないな」

 一瞬、栞の目が燃えたような気がした。

「もう提出して一カ月になります……………桜餅、御手洗ダンゴ、ご注文はこれでよろしかったでしょうか?」
「ああ、それよりも手島さん」
「仕事中ですので、これで失礼いたします。どうぞごゆっくり……」

 来たときと同様な挙措動作で、客室を出ていった。

「あの子は、いったい……」

 桜餅を頬ばりながら、乙女先生は校長に聞いた。

「学校に、いささか不満があるようで、一度きちんと話しておかなきゃならないと思っていました」
「ほんなら、今やりましょ!」

 乙女先生は、女亭主である恭ちゃんに話をつけに行った。

「仕事中ですので、手短に願います」

 栞は、エプロンと三角巾を外した姿で、二人の前に現れた。

「バイト許可書……まだ届いていないのかい?」
「はい、まだ頂いていません」
「この学校は、杓子定規にバイト許可書出さしてるんですか?」
「決まりだから守ってるんです。先生たちも……」
「そうだよね」
「何か、言いたそうやね」
「いえ、言い過ぎました。先生が生徒に書類を渡すのに速やかにという但し書きはありませんから……」
「とにかく、僕が許可したのは確かだ、何の問題もない。制服を着てバイトをすることもない。バイトの場合、法に触れない限り、校則よりも職場の服務規程が優先される」
「そやね、これからお花見のお客さんも増えるやろし、セーラー服はなあ……」
「わたしのセーラー服は……」

 新子は、グッと口を引き締めたかと思うと、大粒の涙をこぼした……。

 

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鳴かぬなら 信長転生記 67『懐古の町を目指して』

2022-04-06 12:13:31 | ノベル2

ら 信長転生記

67『懐古の町を目指して』信長 

 

 

 豊盃は、その名の通り三国志南部の豊かな盃のような街で、商業、工業、流通業が盛りだくさんに発達し、その核としての軍都の機能も三国志有数。魏の洛陽、呉の建業、蜀の成都に並ぶ規模と歴史を誇っていて、扶桑(転生国)を平らげれば、ここが首都になるというのが豊盃人の隠れた望みでもある。

 しかし、山手線の内側ほどもある豊盃すべてが豊かであるわけではない。

 歴史が古い、その分だけ、取り残された地域がある。

 

 南西の外れに懐古という、名前からして後ろ向きの町がある。

 かつては、豊盃から長城外に遠征するための拠点で、町と、その周囲からは遠征部隊の兵士志望の者が集まり、ついには集落を形成したことが始まりという尚武の町であった。

 懐古という町の名も。正しくは皆虎と書いた。

 住人のほとんどが兵士志望で、壮丁(成人男性)のことごとくが虎のように勇猛であることから付けられた。

 遠征のための門が東寄りに移転したため、遠征部隊も皆虎には駐留しなくなり、町は予備役や傷病兵たちが、来るはずもない遠征軍の到来を待って、昔を懐かしむ町になり果てている。

 往時の賑わいを知っている豊盃の者たちは、なんとかしてやろうと、定期市を開いて街の衰退を食い止めようとしたが、ボランティアは別にして若者たちが進んで住もうと思うような町ではなくなった。住人たちが老境に差し掛かると、定期市の開催さえ困難になり、発展する豊盃の陰になって、ほとんど顧みられることが無くなってしまった。

「懐古の町で新制部隊のパレードをやるぞ!」

 茶姫が突然の触れを出したのは、装備変更の二日後の朝。

 そのあくる朝には営庭に集合させた部隊を懐古に向かわせたのだ。

 

「なんか、思い付きで動いてない?」

 

 馬首を寄せてきて市が文句を言う。

「俺は、好きだぞ」

「なんで? 触れを出したのは昨日だよ。それを、今日パレードしたって、そんなに人は集まらないでしょ?」

「これはマラソンのようなものだ」

「マラソン?」

 懐古からは街道が延びている。寂びれた旧街道で歩兵部隊の進行には不向きだが、兵のことごとくが騎兵の茶姫部隊には問題がない。

 旧街道は、そのまま蜀の成都、呉の建業、さらに足を伸ばせば洛陽に繋がっている。

「赤備えの騎兵部隊、見た目が華やかだ。噂を聞いた者たちがコースに集まる。成都や建業の鼻先を掠めて洛陽に進めば、人は何事かと思う。やがて、懐古に戻ると知らせておけば、人はゴール地点の懐古に一番多く集まる」

「でも、茶姫の部隊は鉄砲だよ、ミニェー銃装備の軽騎兵だよ、そんなのがやってきたら、呉も蜀も警戒して迎え撃ってくる。三国は、互いに敵同士なんだから」

「その間もなく通り過ぎていく。驚かせて評判をとれば成功だ『魏の茶姫、次は何をする気だ?』とな」

「そんなに上手くいく? 兵站は、どうすんの?」

「バカか?」

「バ、バカ言うな!」

「兵站を伴わないからこそマラソンになる」

「え? ええ?」

「まあ、茶姫のやることを見ていろ」

「むう」

 鼻を鳴らしながら、市は近衛の隊列に戻って行った。

 無任所の気楽さで、俺は部隊の周囲を走りながら茶姫部隊の仕上がりを見物している。

 大したものだ、馬も兵も力に溢れてカッコいい。

 これなら、武田の騎馬軍団に匹敵するかもしれない。そいつが、全員ミニェー銃を装備して、堂々の行進だ。

 沿道には、早くも噂を聞きつけた豊盃の住人たちが見物に並んでいる。

 懐古の町を直前にして、俺は、部隊の最後尾に回った。

 

 ん?

 

 最後尾に遅れること、一丁あまり後ろに砂煙。

 近づいてみると、茶姫部隊の旗印、旗印の下には、必死で馬車を走らせる兵站部隊。

 兵站を連れてきている!?

 さすがに驚いた。

「やあ、職少佐!」

「おお、検品長! 同行の命令を受けていたのか?」

「いいえ、自分の一存です」

 検品長が、指し示した後ろに付いて来ているのは、品長の部下の荷馬車一つきりだ。

「バカですから、着いていくしかありません(^_^;)」

 愛すべき律義さだ。それ以上ではないが、こういう部下を大事にする茶姫は信頼を勝ち得るだろう。

 バカの足元を見てやりたくて、輜重小隊の周囲を周る。

「一人足らんようだが?」

「あ、曹素さまにご挨拶に出しました」

「挨拶、あんなに邪険にされてか? 移動の手続きは終わっているのだろう?」

「はい、手続き上は。しかし、旧主でもありますし」

「律義者だなあ……茶姫は知っているのか?」

「はい、お知らせしましたら、添え状までいただきまして、検品長、喜びに耐えません!」

「そうか、身をいたわりながら着いてこい」

「はい、職少佐!」

 ピシ

 馬に一鞭あてると、進軍の先頭に戻る。

 砂煙の向こう、懐古の町のくたびれた門が見えてきた。

 

☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)

 

  

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・8『長屋門のダンゴ屋』

2022-04-06 08:50:02 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

8『長屋門のダンゴ屋』     

    

 


「ここですよ」
「こんなところに、お団子屋さん……」

 伊邪那美神社の前で校長に声をかけられた乙女先生は、そのままタクシーに乗って駅前まで戻ってきた。校長が、ぜひ紹介しておきたい店があるというので、付いてきたのだ。

 一見古い北摂の民家であるが、長屋門の軒下に「団子屋 津久茂」の看板がぶら下がっていた。

 長屋門をくぐると、広い庭に、文化財クラスの母屋が、品の良い日本庭園に囲まれて、おとぎ話のように佇んでいた。

「佐藤先生、こっちですよ」

 庭と母屋に見とれていた乙女先生を校長が呼び止めた。

「え……ああ」

 振り向くと、長屋門の内側の壁が取り払われていて、団子屋さんになっていた。

「恭ちゃん。草団子二つ」
「はーい」

 暖簾の向こうの厨房から、若い女性の返事がした。

「いいお店ですねえ」
「ありがとうございます。なんやったら、奥の座敷行かはります?」

 お茶のお盆を持って、恭ちゃんが勧めた。

「いいの?」
「ええ、もうちょとしたら花見帰りお客さんで混みますよって」

 二人は、母屋の座敷に移動した。

「ほんまは、こっち改造してお店にしたいんですけどね。ほんなら、お蕎麦も湯豆腐も大っぴらにやれますねんけど」
「重要文化財じゃね」
「ほんま、釘一本うたれませんからね」
「門の方は、違うんですか?」
「あれは、明治になって改築したもんですよって、ほんまにエライ家に生まれたもんです。ほんなら、すぐにお団子お持ちしますから」

 恭ちゃんは、長屋門のお店へ戻った。

「……あの恭ちゃんが経営してるんですか?」
「ええ、なかなかしっかりした人ですよ。うちの前身のS高校の卒業生です。S高校の敷地はもともとは、この津久茂さんの持ち物だったんですよ。それを、学校を建てるんで、府に譲ってくださったんです。で、ここに赴任した時にご挨拶に伺ってからのお付き合いです」
「校長先生も、押さえるとこは押さえてはりますね」
「いやあ、佐藤先生の神社まわりは思いつかなかった」

 校長は、人のいい笑顔になった。民間時代は営業職だったのかもしれない。

「売ってから、大阪府に希望ヶ丘て、名前付けられたことだけはショックでしたねえ」

 団子を、座卓に置きながら恭ちゃんが言った。

「もともとは、小姫山とか、里山とかいうてたんですけどね」
「ああ……なんか聞いたような」
「神社でですか?」
「ええ……そやったかなあ」

 神社での記憶は、ほとんど飛んでしまっている乙女先生である。

「うち、あの伊邪那美さんとこの氏子総代やってますねんよ」
「恭ちゃんちは、昔からの庄屋さんだもんな」
「はは、江戸時代の話ですよ。今は、お団子屋さんやってなら食べていけません。そやから、氏子総代いうても、なんもでけへんで、廃れてましたやろ」
「いいえ、なかなか趣のある神社で」
「お口のお上手な。わたしらも、神社だけやのうて、なんとかしたい思てますねんけどね……」

 恭ちゃんは、遠くを見るような目になった。乙女先生は、どこかで同じような目をした人に会ったような気がした。イザナミさんと同種の憂いのある目であるが、むろん、乙女先生は思い出せない。

「やあ、お客さんに、しょうもない話してしもて。伊邪那美さんまで行ってもろて、ありがとうございます。ほな、ごゆっくり。あ、お客さんやわ」

 恭ちゃんは、長屋門のお店の方に戻った。

「ボクの元の職業分かりますか」
「どこかの会社の営業でしょ!?」
「はは、光栄だな」
「違いますのん?」 
「文科省の小役人ですよ」

 校長は、ビスケットの小袋を出し、細かく割って、池の鯉にやった。思いの外寂しそうだった。

「その元を質せば、柴又の団子屋のセガレですけどね」
「あ、ふうてんの寅さん!」
「はは、これを言うと、いつも言われますよ。あんな風に生きられればいいんですけどね」

 ビスケットをやり終わっても鯉は、散っていかなかった。

「向こうに、一匹だけ、寄ってこない鯉がいるでしょう」
「ああ、あの岩のところ」
「あいつは、この家の人間からでないと餌を食べないんですよ」
「ニクソイ鯉ですね」
「いつか、飼い慣らしてやろうと……いや、どうも子供じみてますなあ」
「……鯉の滝登り」
「え……?」

 鯉が一匹、驚いて跳ねた。

「あ、いや。なんとなくゴロ合わせです」
「見透かされたかと思いましたよ」
「なにか、青雲の志とか?」
「もう、そんな歳じゃありませんけどね……ボクね、嫌いなんですよ」
「何が?」
「学校の名前」
「うちの?」
「希望ヶ丘青春高校なんて、まるで生徒達が読んでいるライトノベルに出てきそうな名前でしょう」
「わははは、いかにもいかにも」

 乙女先生の豪快な笑い声に、群れていた鯉が、びっくりして散っていった。

「希望ヶ丘高校って、神奈川にあるんですよ。で、取って付けたように、青春をくっつけて……あ、他の先生や生徒たちには……」

 校長が目を上げると、門をくぐってくる女生徒と目が合った。

 これが、手島栞との出会いであった……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・7『神さまのお願い』

2022-04-06 08:46:57 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

7『神さまのお願い』     

    

 


 気が付くと、乙女先生は境内の真ん中に立っている。

「あれ……」
 
 雰囲気がまるで違う。

「これって……別の神社?」

 二の鳥居まで戻ってみると、来たときと同じ五メートルほどの階段。駆け下りて、一の鳥居で、振り返る。


「やっぱし、ここや……」

 石畳の道が「く」の字に曲がって、五メーターほどの石段が続き、二の鳥居。それをくぐると……そこからが違う。ちょっとした野球場ほどの広さの境内は、幼稚園の園庭ほどの広さしかない。拝殿も社務所も、うらさびれている。ただ、境内を取り囲む桜だけは見事に満開であった。

 境内の端に気配を感じた。見ると小さな祠(ほこら) 

 近寄ると、小さな剥げっちょろげた扁額。かすかに木花開耶小姫と読めた。

――ちょっと見栄を張りました。お願いしたこと、よろしゅうに……。

 伊邪那美の声が、頭の中で鈴を振ったように響いた。

 お願い……そうだ、約束したんだ。ダンプカー三台分の桜の花びらに埋もれながら、

 でも、思い出せない……なんだっけ……。

――思いださんでも、ええんです。心の奥にちゃんと刻ましてもらいましたよってに。

「そういうわけにはいきません。だって、約束したんやから」

 木花開耶小姫をもとにもどす。

 これはダンプ三台分の桜に埋もれる前に聞いた。でも、桜に埋もれながら約束したことが思い出せない……どころか、二柱の神さまの顔もおぼろになってきた。必死で思い出そうとすると、どんどん遠くなっていく。まるで、目覚めたときに、それまでみていた夢が、どんどんおぼろになって消えていくように……。

「わ!」

 思い出しながら一の鳥居をくぐると、突然目の前をタクシーが走り抜けた。それに驚いて、乙女先生の記憶は完全に消えてしまった。

 といっても、記憶喪失になったわけではない。ここでイザナミとコノハナノサクヤコヒメに会った記憶が消えてしまったのである。

 もどかしい思いで鳥居を振り返ると、後ろから声を掛けられた。

「やあ、佐藤先生!」

 走り抜けたタクシーが、電信柱一本ほど前で止まっており、後部座席の窓から、校長の笑顔が覗いていた。

 

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せやさかい・293『大仙公園 I(アイ) のミステリー・2』

2022-04-05 13:02:36 | ノベル

・293

『大仙公園 I(アイ) のミステリー・2』さくら   

 

 

 ここで撮ってくれたのねえ!

 

 大仙公園に着いて、頼子さんの第一声がこれ。

「え?」

 分からんで、いっしゅんアホ顔のあたし。

「あ、わたしたちも楽しかったです!」

 留美ちゃんがなにやらジェスチャーして笑顔で目配せ。

「あ、思い出した!」

 アホのあたしも、留美ちゃんの心配りに二年前の春を思い出す。

 コロナの第二波で、ヤマセンブルグから戻ってこれんようになった頼子先輩のために、留美ちゃんと二人で大仙公園中の桜を撮りまくったんや。

 頼子さんも、お祖母さんの女王陛下も喜んでくれはって、うちも留美ちゃんも中学時代のええ思い出になってる。

 スマホ、まだ持ってへんかったさかい、テイ兄ちゃんのビデオカメラを借りた。

 留美ちゃんは、ちゃんと、そのビデオカメラで撮影する仕草をしてくれてた。スマホの仕草やったら分からへんかったと思う。留美ちゃんは、ほんまに行き届いた子ぉや。

 セイ!

 後ろで掛け声、思わず振り返ると、ソフィーが空中二回転して着地するとこやった。

「なにしてんの?」

「はい、あまりの麗らかさに、ジャンプしたい衝動にかられました。でも、目標も発見出来ました」

 サッと指さした方向は、うちがあてずっぽうに歩いてる方向よりも20度ほどズレてる……っていうか、ハイ、うちの方がズレてました! ごめんなさい!

「ほんとうだ、I が一個多いわよ!」

 アルファベットが並んでるだけやさかいに、裏から見ても I が一個多いのが分かる。

「よし、正体を確認!」

 頼子さんの掛け声で、全員でダッシュ!

 

 ああ、そういうわけか……。

 

 いっしゅんで全員が納得。

 D A I S E N I の最後の I には、PARKと彫り込んであります。

 つまり、DAISENPARK(ダイセンパーク)ということ。

「これデザインした人は、とてもバランス感覚がいいですね」

 ソフィーが腕組みして感心。

「そうだよね、I が一本くることでSが真ん中に来て、とってもバランスがいいよ」

「SはSAKURAのSやんか!」

 え?

 頼子さんとソフィーがポカンとして、留美ちゃんがクスクス笑う。

「あ、そうかさくらのイニシャルだ」

「自分もイニシャルはSです」

 そうか、ソフィーもイニシャルはSや(^_^;)

「わたしも、苗字は榊原だからSだよ」

「グヌヌヌ……」

「あ、でも、さくらは『酒井さくら』だから、ダブルSじゃない!」

「頼子さん、かっしこーい!」

 

「では、記念撮影しましょうか」

 

 いつのまにか、ジョン・スミスもやってきて、みんなでDAISENの前で並んだり、うしろから顔出したりして賑やかなひと時を過ごしました。

 

「ほんなら、ティータイム(^#▽#^)!」

 

 アホみたいに元気な声が聞こえたかと思うと、テイ兄ちゃん。

 月参りが二件あるのんで、今日は無理のハズやったんやけど、どこかで帳尻合わせてきたんやろね、嬉しそうにランチボックスぶら下げてやってきよった。

「テイ兄ちゃん、作ったんですか?」

 頼子さんが目を輝かせる。

 まさか……このクソ坊主は、料理はからっきしのハズやで?

「はい……と言いたいですけど、堺東でスナックやってる友だちが、自分らの花見のついでに作ってくれました」

「すごいですね、テイ兄ちゃんの人脈は!」

 さすが、ヤマセンブルグの王女さま。どう転んでも、褒めるツボは心得てはります。

 

「あ、この味は……」

 サンドイッチをつまんだとこで、留美ちゃんが思いついた。

「え、なに?」

「これ、カラオケスナック『ハンゼイ』でしょ!?」

「あ、ああ」

 あがり症の留美ちゃんの音楽のテストのために、お店借り切って練習したとこや。

 そう言えば、あの時も、サンドイッチが出てた。

 ジョン・スミスが、みんなにお茶を淹れてくれて……え、一人分多い。

「これは、ぼくの先輩の分。花見の好きな人だったんで……」

 そう言って、小さな写真たてを出した。

 チラ見すると、ジョン・スミスと同じユニフォームの男の人。

 あとで、頼子さんに聞くと、ジョージ・クロイツ中佐という人で、領事館の二代前の警備部長。先日ウクライナで亡くなったんやそうです。

 見上げると幸せ色の春霞、アホ言いながらお花見ができる幸せをかみしめました……。

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・6『木花開耶小姫』

2022-04-05 09:19:59 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

6『木花開耶小姫』     

   

 

「お待ち申し上げておりました……」
「よう、おいでくださいました……」

 二人の巫女さんが、ゆかしく丁寧なあいさつをしてくれる。

 乙女先生も頭を下げたが、二人のゆったりとしたテンポに合わず、顔を上げたときには、まだ二人の巫女さんは頭を下げたままで、慌てて頭を下げなおした。すると、桜の香りがあたりに満ち始めた。

「あ……」

 顔を上げると、思わず声に出てしまった。

「これ、急に、こないなことしたら、先生びっくりしやはる……」
「すいません。せめてものお持てなしのつもりやったんです……」

 拝殿は床だけになり、奥に本殿は見えるものの、まわりは一面満開の桜であった。はらはらと桜の花びらが、芳醇な香りとともに舞っている。

 クマリン(C9H6O2)という、桜の香りの成分が頭に浮かんでくる。

「ほほ、先生は、成分で桜の香りを感じはるんですね」

――なんで、わかったの……?

「これ、人の心を読んだりしたら、あきまへんえ」

 年上と思われる巫女さんがたしなめた。

「すいません。素直なお心してはるさかいに、つい……」

 年若の方の巫女さんが、いたずらっぽく笑う。

 桜の香り成分は、五年ほど前の春に、前任校の理科の教師が不器用に乙女先生を口説いたときの切り出しの言葉であった。クマリンというかわいい名前が、その理科の先生のイメージにぴったりなので、乙女先生は今でも、そのおかしさと共に覚えている。

「でも、わたし、クマリンより十歳ほど年上やよ」
「え、ええ……!?」

 クマリンは、正直に驚いていた。でも憎めない驚きようだった。

「と、年の差なんて!」

 頬を桜色に染めてクマリンは言った。桜色がバラ色になる前に、乙女先生は釘を刺した。

「わたしは、これでも既婚者やのん。今は佐藤やけど旧姓は岡目。分かってくれた?」

 クマリンは、息をするのも忘れて驚いていた。

「もしもーし、息しないと窒息して死んでしまうわよ」

 クマリンは息をするのを思い出した。そして乙女先生も、今、思い出した。

――あのころは、まだうまくいっていた。亭主に隠し子がいることは、まだ知らなかったから。茜……思い出は桜色やバラ色を通り越し、鮮やかな、その子の名前の茜色になってしまった。目頭が熱くなる。

「堪忍してくださいね、茜ちゃんのことまで思い出させて……」
「これ……」

 年上の巫女さんが、再びたしなめた。

「あ、あなた達って……?」

 はらはら舞っていた花びらたちがフリーズしたように、空中で静止した。

「わたし……伊邪那美(いざなみ)と申します。この子は木花開耶小姫(このはなのさくやこひめ)」
「え……ええ!?」

 乙女先生は、クマリンと同じ驚き方をした。木花開耶小姫がクスっと笑った。

「これ!」

 木花開耶小姫は、たしなめられっぱなし。伊邪那美の語気も強くなってきた。

「じゃ、お二人は神さま……!?」
「ええ、いちおう……」

 伊邪那美は、きまり悪そうに答えた。

「は、ははー!」

 乙女先生は、深々と頭を下げた。

「あ、そんなかしこまらんといてください」
「どうぞ、お楽に」

 フリーズしていた花びらが、再び舞い始めた。

「……というわけで、この木花開耶小姫をもとにもどしてやっていただけたらなあ……と、思てますのん」

 いつのまにか、桜餅とお茶が出てきて、ちょっとした女子会になってしまった。

「あの、つまり木花開耶小姫さんは、今のうちの学校の敷地においでになっていたんですか?」
「はい。あそこは、もともとは里山で、正式には小姫山て呼んでました」
「もっと正式には木花開耶小姫山」
「ほほ、そんな長ったらしい名前で呼ぶもんは、ここの神主さんが祝詞あげるときぐらいのもんです。普段は、ただの里山」
「もとは、その里山にお祀りされていらっしゃたんですね」
「ええ、ちょうど校門の脇の桜の横に祠がありましたんです」
「学校建てるときに、ここに合祀されたんですけど。ここも祭神のわたしさえ、忘れかけられてしもて……」
「居候の、わたしのことなんか……ウ、ウウ……」

 木花開耶小姫が泣き出した。

「ちょっと、あんた泣かんとってくれる……」
「ええやないですか、人間……いや神さまやけど、泣きたいときは泣いたほうがよろしい。武田鉄矢も言うてます」
「ウ……なんて?」
「悲しみこらえて、微笑むよりも。涙かれるまで、泣くほうがいい~♪」
「ホンマに……?」
「え、ええ! それ、あきません!」

 乙女先生の教師らしい励ましに、伊邪那美さんは驚き、木花開耶小姫は号泣し始めた。

「ウワーン!!!!」

 とたんに、ダンプカー三台分ぐらいの桜の花びらがいっせいに落ちてきて、乙女先生と二柱の神さまは花びらに生き埋めになってしまった……。
  

 

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せやさかい・292『大仙公園 I(アイ) のミステリー・1』

2022-04-04 12:05:14 | ノベル

・292

『大仙公園 I(アイ) のミステリー・1』さくら   

 

 

 ちょっと、なに、これ!?

 

 思わず、叫んでしもた。

 顔洗って、リビングに行くとお祖父ちゃんが写真を見てる。その写真にビックリした!

「さくら、まず挨拶でしょ。お早うございます」

 留美ちゃんに怒られる。

「あ、おはよう、二人とも」

「おはよう、お祖父ちゃん。で、なに、この写真!?」

「ああ、久しぶりに大仙公園行って来てなあ、ほんなら、高校じぶんの友だちに逢うてなあ」

 言われて、初めてお祖父ちゃんの横に知らんジイサンが居てるのに気いつく。

 うちが、びっくりしたんは、ジイサンのツーショットとちがう。

 二人の背景になってる『DAISEN』というモニュメント。

「ああ、これは、ライオンズクラブが堺市に寄付したもんでなあ、うん、一月やったかなあ。ちょっとした撮影スポットになってるんや」

「なるへそ……」

 文字通りのアルファベット。人の背丈ほどで D A I S E N と並んでる。

 小高い芝生公園の真ん中へんで、木々の向こうにごりょうさんが見えて、元々がイケてるロケーション、そこにモニュメントができたもんで、メッチャかっこええ。

「知らなかったねえ」

 うちの十倍くらい情報に強い留美ちゃんやけど、さすがに知らんかったみたい。

「コロナの真っ最中やし、除幕式も関係者だけやったみたいでなあ、まあ、わしみたいなもんが、パチパチ写真撮ってるうちに、だんだん知られて観光スポットになるんとちゃうか」

「ですよね、ハリウッドの文字看板なんて、世界的に有名ですよねえ」

「せやなあ、ハリウッド言うたら、あの山のてっぺんに並んだHOLLYWOODの看板文字思い浮かべるもんねえ」

「あ、でも……」

「「なんや?」」

 お祖父ちゃんと声が揃う。

「DAISENI……Iが余計に付いてるよ」

「「ええ?」」

 ほんまや。

「いやあ、気ぃつかへんかったなあ」

「 I……アイ……愛! 愛の堺市!」

 アハハハ

 笑われてしもた(^_^;)

「でも、I が一文字あるから、Sが真ん中にくるんだよね……」

「スーパー堺! スペシャル堺! とか?」

 スーパーマンのコスの胸には大きなSのエンブレム。なんか、カッコええ!

「スーパー堺て、そんな名前のスーパーマーケットあったような気ぃするで」

「提供は『スーパー堺』でした、とか?」

 アハハハ

 アホ言うてるうちに、閃いた!

「なあ、これをネタに『 I のミステリー!』のタイトルでメールせえへん!?」

「え、なに?」「なんや、それ?」

「明日の昼に、このモニュメントの前に集合かけんねん。『 I のミステリー!』の謎を解く!」

「アハハ、要は、いちびってみんなで遊ぼうってことね」

「うん、そうとも言う」

「イチビリ根性は、高校になっても変わらんなあ」

「なんやてぇ!?」

 振り返ると――オレも入れてくれ――いう顔してテイ兄ちゃんが立っておりました。

 

 

 

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