大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:013『時の神、空の神』

2023-02-18 07:09:20 | 時かける少女

RE・

013『時の神、空の神』   

 

 

 世界の綻び……このわたしが?

 

 わたしは、ヤックンに告白させないことだけを願っている。

 告白させたら、冴子がブチギレる。

 ブチギレた冴子は鬼になって跳びかかって来る。昇降口の階段をもつれ合いながら転げ落ち、不可抗力とは言えわたしは冴子を殺してしまうんだ。冴子を殺したわたしは旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて死んでしまうんだ。

 それを回避したいために過去に戻っているんだ。

 先輩には悪いけど、自分のためなんだ。世界の綻びと言われても困る。

 
「旅立たなければ、この半日が無限にループするしかないの。108回ループして分かったわ」

「で、でも、この帰り道に冴子が告白するかもしれないし」

「冴子は、そんな子じゃない」

「……知っているでしょ、あの子はヤックンが告白してくれるのでなければ受け入れられないのよ」

 中臣先輩が悲しそうに首を振る。

「で、でも108回もループしているなんて……」

 二人の先輩の言うことを認めれば、なにかとんでもない世界というか段階に足を踏み入れざるを得ない気がして、頑なになる。

「ずっとループするんだ、今すぐ飛べ!」

「時美」

「すまん……」

「その玉垣の上を見てくれる」

「玉垣……」

 
 神社の結界を玉垣という、子どもの背丈ほどの石柱の垣には石柱ごとに奉納者と寄付した金額が彫り込まれている。

 鳥居のすぐ横が、最高額の奉納者である地銀の社名……そこから始まって、数えると108番目の玉垣まで小石が置かれていた。

 
 これは……!?

 
「思い出した?」

「ループし終わると記憶が無くなるから、帰りに鳥居をくぐるたびに小石を載せておくように暗示をかけたの」

 小石を置く自分の姿が機関銃のように蘇る。

「こことは違う世界、わたしたちは『かの世界』と呼んでいる」

「三つ子ビルの一つ一つのブロックのように無数の『かの世界』が寄り集まって宇宙とでもいうべきものを作っているの、そのいくつかの『かの世界』がほころび始めているの」

「それを修正して来て欲しいんだ、修正しなければ、三つ子ビルのように宇宙全体が崩壊してしまう」

「世界の修正だなんて、わたしにはできません。自分の不始末さえ108回かけても直せないのに」

「光子はお話を書くでしょ? もうノートに何冊もプロットを書き溜めているわね」

「子どもの頃のメモを含めると、とうに万を超えるくらいになるだろ」

「その粘りと想像力があれば、きっとできる」

「「必ずできる」」

 すると、コラ画像みたくノートに書き溜めたプロットやストーリーの断片がキラキラと明滅しながら神社の境内を取り巻いて数えきれない流星群のようになった。

 流星群は急速に輪を縮め、先輩とわたしを、ついにはわたしだけを取り巻くようになって、恐ろしくて動けなくなった。

 
「ここにも歪が出始めたわ!」

「時間がない、飛べ!」

 二人は、わたしを挟んで白魔導士のように手をかざしてきた。

「「我ら求めん訴えたり!」」

「ちょ、先輩!」

「「時の神、空の神、時のことわり、空の定めを停め、この者を飛ばせ給え、万の神々援け給ええ! エイ!」」

 
 ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 
 とたんに鳥居を中心に世界が渦を巻いて捩れ、ついにはわたし自身も捩れて意識が飛んでしまった。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

 

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くノ一その一今のうち・41『甲府城・2』

2023-02-17 16:23:10 | 小説3

くノ一その一今のうち

41『甲府城・2』 

 

 

 え、わたしからですか?

 

 待ち合わせの稲荷櫓の前で落ち合うと「ノッチが想うところを聞かせて」と涼しい顔で言われる。

 三村紘一、いや、課長代理なんだから、なにか見通しがあってのことだとお昼ご飯もロケ弁一つで済ませた。

 もう一つや二つ食べたかったんだけど(忍者は食べられるときに食べておく=風魔流極意)、猿飛佐助たち木下の忍者たちとの戦いも予想される。食べ過ぎては体が重くなる。

「僕なりに見えてきたこともあるんだけど、十分とは言えない。被っても構わないからノッチの感想を聞かせてほしいんだけどね」

 脚本家三村紘一として喋っているから優しいんだけど、課長代理服部半三としての狙いが潜んでいる。

 上忍として下忍を教育すると意味もあるだろう、ゴクンと唾を呑んで答える。

「城はJRによって南北に分断されています。これは、単に鉄路施設の適地を選んだためですが、信玄公以来続いてきた武家勢力の命脈を断ち切るという明治政府の底意が窺えます。城址公園としての整備が行き届いていますが、石垣と城門の復元に重点が置かれ、天守閣の復元などの一点豪華主義に走らず、城としての構えに力が注がれていることが見て取れます。その中にあって、この稲荷櫓のみが独立した櫓として復元されています。これは、下を走る列車からの景色を意識したためだと思います。単に、近隣県民のみならず、通過する旅行客にもアピールする狙いがあるんだと思います……」

 パチパチパチパチパチパチ

「素晴らしい、ノッチは明日からでも甲府市の観光課長が務まりそうだ!」

 ムグ……これは誉め言葉ではない。肝心の事が抜けていることを「観光課長が務まりそうだと」冷やかしているんだ。

「ひとつ伺っていいですか?」

「なんなりと、でも、口を尖らせるのは止しましょう」

 プ

 目にもとまらぬ早業で頬っぺたを挟まれて空気が漏れる。

 アハハハ

 いっしょに笑ってしまう。くそ、なんだか年の離れたカップルみたいじゃないか!

「え、えと……あそこ、本丸に謝恩碑があるじゃないですか、明治の大水害で明治天皇が復興援助されたときの」

「ああ、山梨県民の謝恩の心が現われていて、けっこうな石碑だね」

「忠魂碑や兵隊さんのお墓もそうなんですけど、なんで、オベリスクの形になってるんですか?」

「あれはオベリスクでは無いんだ」

「でも、あの形はエジプトに起源があって、ワシントンDCとかにもあるじゃないですか」

 ちょっと主題からは離れているんだけど、カップル擬装としては適当だろう。

「あれは、方尖塔と云ってね、ちゃんと神道に則った様式で、明治の初年には確立されたものなんだ。だから戦後は国家神道に繋がると忌避されて作られなくなった」

 へえ、そうだったんだ。

「でも、謝恩の気持ちを表すなら天守台の方が良かったんじゃないですか、天守台の方が高いし」

「甲府城に天守閣があったという確証は無いんだ。天守台までは作ったんだが、江戸城の天守も明暦の大火で焼けてしまったからね、遠慮があったのかもしれない……うん?」

「なんですか?」

「今度はノッチの手で僕の頬っぺたを挟んでくれないか?」

「え?」

「いいからいいから(^▽^)」

 言われて周囲に気を飛ばした……微かにだけど、こちらを窺う気配が二人分。

「いや、三人分だ」

 やっぱり課長代理は鋭い。ここは年の離れたカップルでいかなきゃ。

 膨れた三村紘一の頬っぺたを両手で挟んで圧を加える。

 

 プゥゥゥ~~

 抜けた空気は口からではなくお尻から出た(#^_^#)。

「もお!」

 直後、三人分の気配は霧消した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・かの世界この世界:012『ループ』

2023-02-17 07:17:04 | 時かける少女

RE・

012『ループ』   

 

 

 いちど帰宅してから神社に向かう。

 
 巫女神楽は三度目だけど、二度目が終わった時に心の糸が切れているので、形はともかく気持ちが入ってこない。

 日数が無いのですごく集中する。

 バイト同然の巫女仕事に力を入れてもと思われるかもしれないけど、わたしも冴子も、そういう性格だから仕方がない。

 左手に榊、右手に神楽鈴を持って、舞台中央で冴子と交差する。

 シャリン! トン!

 鈴を打ち振ると同時に、右足で床を踏み鳴らし、踏み鳴らした勢いのまま旋回して冴子と向き合う。

 勢いも良く平仄も合って、宮司さんも満足そうに微笑んでいる。

 三間(5・4メートル)向こうの冴子、軽く眉間に力が入って、それがとても美しい。

―― 光子も美しいよ ――

 冴子が目の光だけで言っている。

―― でも、わたし負けないから ――

 そう続いて、さらに冴子の表情が引き締まる。後ろではヤックンがお囃子の中でわたしたちを見ている。

 ヤックンに近づいちゃいけない。ヤックンにコクるきっかけを与えちゃいけない。

 その思いだけでお稽古を終わり、サッサと着替えて宮司さんたちに挨拶。

「お先に失礼します」

 ペコンと一礼、

 視界の端で、ヤックンが立ち上がる気配。

 ダメだ、わたしを誘っちゃ!

「一緒に帰ろ!」

 二人の間に冴子が立ち上がる。冴子も信じられないくらい早く支度を済ませている。

 わたしとヤックンを二人っきりにしたくないんだ。

「そうだね、じゃ、鳥居のとこで待ってる」

 二人とも装束を仕舞えていないので、わたしが先に出る。

 
 鳥居の所で待つこと二分ほど、社務所の陰から二人のシルエット。

 陰気なのはいけない、肩の高さまで手を上げてヒラヒラと振る。冴子も明るく返してくる。

「じゃ、いこっか」

「「うん」」

 声が重なって鳥居を出る。ボス戦のダンジョンに踏み入ったように緊張する。

 ここから帰宅するまでは、親しい友だちを演じなければならない。

 三人揃ってというのは久々のはずなのに、何度もやっているような徒労感がある。

 
 寺井さん

 夜道の斜め前から声が掛かる。

 
「あ、中臣先輩!?」

「こんな時間にごめんなさい、ちょっと部活の事で話があるの。寺井さん借りてもいい?」

「ごめんね。二人で帰ってくれる?」

 少し戸惑ったような顔をしたが、うん、じゃね。と二人連れで帰っていく。

 この帰り道のどこかで、冴子がコクればいいのに……そう思うけど、冴子はヤックンがコクるのを待っているんだ。自分からコクるなんて百年待ってもやらないだろう。

 二人が闇に溶けるのを待って、先輩が口を開く。

「これで、108回目……」

「え、なにがですか?」

「三人で帰るのが」

「え、えと……話が見えないんですけど」

「ヤックンに告白させないまま三人で帰るのが107回あったの。そして家に帰って玄関を開けると、今日の夕方に戻って、また神社に急ぐ」

「え、そんな?」

「学校を帰ってから、この瞬間までがループしてるの」

「ループ?」

「……うん」

「ヤックンに告白させないために、無意識に時間を巻き戻している」

「もう、旅立たなければ無限ループの闇に落ちてしまうぞ」

 いつの間にか志村先輩も現れて、咎めるように腕を組んでいる。

「このままでは、光子、あなたが世界の綻びになってしまうわ」

「そうなったら、今度は光子を……」

「時美」

「すまん……しかし、そこまで事態は進んでいるということだ」

「…………」

 
 二人の真剣さに、ゾゾッと背中を怖気が走った……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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鳴かぬなら 信長転生記 108『御山に登る』

2023-02-16 14:22:34 | ノベル2

ら 信長転生記

108『御山に登る』信長 

 

 

 ユッサ ユッサ ユッサ……

 

 腰の運びが小気味い。

 久々に太刀を佩いて山道を跋渉する。

 山路の緑鮮やかにして、渓流の流れ我が心を洗わんとす、飛鳥山峡に鳴くは警蹕の声に似て、悠久の時を我に感得せしめ、もって、その天命を知らしめるが如し……フ、言葉までが昔に戻りかけている。

 これが本来の姿とはいえ、熱田大神、いや、あっちゃんは寡黙に過ぎる。

 

 ゆうべ、俺の部屋のドアを叩いたあっちゃんは、いつになくシリアスだった。

 

「なんだ、ご飯会はこれからが本番だろう」

「少しだけ真剣な話があるのよ」

「なんだ、そんなマジな顔をすると、まるで神さまのようだぞ」

「…………」

 ジョークに付き合う風もなく、立ったまま間合いを詰めてきた。まるで、本能寺で首になって初めて会った時のような圧を感じる。

 あの時は、見下ろしながらも町娘のような匂いがあって、直ぐに馴染んでしまったが、今のあっちゃんは文字通り熱田大神のままだ。

「茶姫のことなんだけど、このままじゃダメだと思う」

「ダメなのか?」

「学院も学園も、いずれは転生する者ばかり。いわば、前世の悔いや失敗で傷んだ心を癒し、力を養って、来たるべき来世に備えるところよ」

「で、あるな」

「茶姫は、この世界の三国志での務めがある」

「三国志の人間は転生してきているのではないのか?」

「そうだと思うけど、前世の欲を生のまま持ってきている。扶桑のように自分を磨こうというよりは、前世のまま支配、征服することに執着する者が多い」

 そうだ、曹操などは三国どころか、潜在的には、この扶桑の国にまで食指を伸ばそうとしている節がある。

「どうすればいい?」

「分からない」

「分からんのか」

「わたしの本性は草薙剣。本朝においては最も尊い剣だけども、そもそもは天照大神が剣の形で権(かり)に現れたもの」

「それは知っている。ただの思い付きで桶狭間の先勝祈願ははやらん」

「そう。だから、分からない先を知るためには、元々の天照大神であるわたしに合わなければならないのよ」

「どこに行けば会える?」

「あそこよ」

 そう言って、あっちゃんは窓の向こう、転生してから一度も脚を向けたことが無い御山を指さした。

 

「サルのように喋り散らすのも疎ましいが、無言というのもつまらんな……」

 

 あっちゃんは、本来の剣の姿になって腰に収まっている。

 直刀の草薙剣ではおさまりが悪いと思ったが、天下一の神刀、佩き心地がとてもいい。

 鳥居を潜り、二百段はあろうかという石段は中ほどでくの字に曲がり、曲がって上り切った石畳を進んだところで目に見えないこんにゃくのようなものにぶつかった。

 ムニュ

「な、なんだ?」

『結界よ』

「喋れるのか?」

『神域に近づいたから。二礼二拍手一礼すれば通れる』

「分かった……」

 最後の一礼をすると、見た目には変わらないが、目の前に立ちふさがれる圧迫感が無くなり、清々とした気が満ちてきた。

『進んで』

「うん」

 石畳を進むと、さらに石段で、そこを抜けると社が……無かった。

「おや?」

 百坪ほどの清げな芝があって、芝の真ん中に人の頭ほどの石が鎮座している。

『見覚えがあるでしょ?』

「ボンサンか?」

『フフ』

 それは、俺が安土の天守に置いて、城を訪れる偉そうなやつらに拝跪させたボンサンという石そのものだ。

『わたしを石の前に置いて拝跪して』

「俺がか?」

『是非に及ばず』

「真似をしおって……」

 ちょっと嵌められた気がしないでもなかったが、幼いころの市の悪戯に付き合うような感じがして、我ながら素直に拝跪した。

『素直でよろしい、顔を上げて』

「ああ……」

 

 顔をあげると、あっちゃんのお姉さんという感じの巫女服が立っていた。

 なぜか、俺の好きなバニラの香りがしたぞ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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宇宙戦艦三笠28[グリンヘルドの遭難船・1]

2023-02-16 07:43:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

28[グリンヘルドの遭難船・1] 樟葉  

 

 


 ―― 国境の長いトンネルを過ぎると、雪国だった。宇宙の底が白くなった ――


 変なフレーズを口づさんで苦笑してしまった。


「なんだ?」


 艦長席の修一が目だけ向けて聞いてきた。

「ううん、こんな穏やかな宙域に出て、思わず出た感想。でも川端康成の借り物なんで、笑っちゃった」


「雪国か……おれ読んだことないよ」

「わたしは……」「ボクは……」「わっきゃ……」


 星団を抜けてホッとしたのか、わたしの独り言に応えてくれるんだけど、ほとんど同じ。

 元ボイジャーのクレアは、タイトルだけは知っていた。ボイジャーとして打ち上げられたときに、世界文学の中で、ただ一つ入っていた日本小説が、この『雪国』だったんだって。

「素敵な書き出しですね。雪国の前に『そこは』なんて、余計な言葉を入れてないところがいいですね」

「うん、模試で出た問題が、その『そこは』の有り無しの二択だった。たいていの人は『そこは』って無駄な言葉を付けて覚えてる。文章にぜい肉が付いちゃうし、直ぐ後に『夜の底』で同じ音が出てくるからありえない」

「すごいなあ、文学への愛を感じるぞ」

 天音が素直に感心した。

「修一よりはね。あたしんちブルジョアじゃないから、奨学金で進学すんだ。ある程度の成績でなきゃ奨学金取れないからね」

「オレんちも似たり寄ったりだけど、勉強はしてねえ」

「修一は、それでいい。あんまり先のことを心配してると、人生小さくまとまってしまうからな……」

「なんだか、妙に優しいんだな、樟葉」

「この宙域のせいかな……ピーススペースって、まんまだけど、ほんとに穏やかなとこだな、レイマ」

「ピレウスが付げだのよ。暗黒星団の者はめったに星団の外には出でいがね。出だっきゃ秘密の暗黒星雲でなぐなってまるはんでね。こぃがらの宙域は、みんなピレウス付げだ名前だよ……まだ、グリンヘルドもシュトルハーヘンも大人すくてあったごろのね」

 しばらく穏やかな沈黙が続いた。


 そう……暗黒星団を抜けると、ピースペ-スだったのさ。


 ウレシコワが自分で作ったサモワールで、お茶を配っているときに思わず呟いてしまった。

 その時、コスモレーダーに微かな反応。

「前方0・5パーセクに三隻のクルーザー……エネルギー反応微弱。遭難船の可能性大」

「ぼくも、捉えた。グリンヘルドの哨戒艦の様子」

 トシが、穏やかにつづけた。ナンノ・ヨーダの訓練の賜物か、みんな、普段の任務もテキパキこなせて、艦内生活も穏やかになってきた。

「レーダーを映像に切り替え、拡大」

「ラジャー」

 修一の指示で1000倍の映像にする。

 おお……

 グリンヘルドの三隻は立体としては全く無駄のない球体をしていた。

 なんだか作りかけの雪だるまが放置されているようにも見えた。

 解析すると、意外にも新鋭艦。二隻はロボット艦で、残り一隻に生命反応がある。

―― 危害は加えない。遭難しているのなら救助に向かう。乗船してよろしいか ――

 そう通信を送ると「救助を要請する」と穏やかな女性の声で返ってきた。


 グリンヘルドのクルーザーには、修一とわたしだけで乗り込む。ロボット艦への警戒も緩められないからだ。


 全き球体のどこに入り口があるのか戸惑ったけど、近づくと一点が仄かに光り、近づくと、円形に口が開いた。

 二重の隔壁を通ると、ホログラムの艦内案内図が点滅してブリッジへのルートを示してくれる。

 そして……。

 金魚鉢のようなブリッジに入るとシートをほとんど水平にして、女性のクルーは眠っているように見えた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長



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RE・かの世界この世界:011『世界を助けて(^▽^)』

2023-02-16 07:16:54 | 時かける少女

RE・

011『世界を助けて(^▽^)』   

 

 

 2000人助かると、時美のお母さんは別の人と結婚することになるの。

 

 中臣先輩は、学食でお蕎麦が売り切れだったらラーメンを食べるのというくらいの気楽さで言う。

「時美には生まれて来て欲しいから、やっぱり震災の犠牲者は6000人」

 え?

 さすがに、ギョッとする。

 だって人の命、簡単すぎ……

「ただいまあ(^▽^)」

 先輩が訂正すると、隠れん坊で最後まで隠れおおせた子どものように志村先輩が現れ、年表も元の姿に戻った。

「いくつもの小さな変化を加えると、2000人助けた上で時美が生まれるようにもできるんだけどね、すごく難しい方程式を解くようにしなくちゃならない。たとえできたとしても、遠い将来に別の影響が出る」

 ヤックンの告白を無かったことにして、冴子を殺すことを回避していなければ信じられない話だ。

 それに、二人の先輩はティータイムの雑談のように話すので、まるで切迫感が無い。たった今、ギョッとした気持ちが日向のドライアイスのように消えていく。

「だから、今のところ震災についてはいじらないんだけど、全ての出来事を放置していると……」

 ガラガラガラ!

「わ!」

 三つ子のビルが音を立てて崩壊していく。

 思わずのけ反ったが、モニターに映った3D映像なので、吹き飛ぶ破片や濛々と寄せ来る爆煙に襲われることもない。

「これって、世界が崩壊したことを意味しているんだ」

「歴史は三つ子ビルほど単純じゃないけど、いくつかの出来事を修正しないと世界は崩壊してしまうの」

「かの世部はな、そんな歴史のイレギュラーを修正していく活動をしているんだ」

「それでね、寺井さんには才能があるのよ。歴史を修正していく力が」

「そんな力がわたしに?」

「ついさっき、ヤックンの告白を回避したじゃない。あれが成功していなければ、寺井さんは二宮さんを殺してしまう」

「そして、校内を逃げ回ったあげくに、この旧校舎の屋上に追い詰められ飛び降りて死んでしまうことになる」

「わたしや時美にも力があるけど、屋上に逃げる寺井さんを中廊下奥のここ(部室)へ誘導するのが精いっぱいなのよ」

「だから、ぜひキミに入部してもらって、わたしたちを……」

「「世界を助けてもらいたいの(o^―^o)」」

 
 先輩二人の声が揃ったところで再び意識が遠のいていった。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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銀河太平記・146『連隊長 胡盛徳大佐』

2023-02-15 11:32:05 | 小説4

・146

『連隊長 胡盛徳大佐』  

 

 

 意識が戻ったのは工作艦雷陽のファクトリーのハンガーだ。

 空母のハンガーほどの広さは無い。収容しているのは艦載機ではなくて、ロボットの予備機体だからだ。

 いかつい軍人ロボットでも、飛行機ほどのサイズは無い、せいぜい人の1・5倍。艦載機一機分のスペースに一個小隊50体分は収納できる。工作艦には艦載機で20機分、1000体の予備機体が格納されている。

「お目覚めですね胡大佐、もう五分お待ちください。電脳と各部の調整をします」

「二分でやってくれ、まだ戦闘中だからな」

「では、簡易調整で済ませます。簡易調整の場合は、以後の換装と調整は兵器廠に戻るまでできませんが」

「かまわん」

「では、調整に入ります」

 ピーーーーン

 チェッカーの起動音、聞いてはいたが不快な音だ。軍事用のハイスピードだからだろう、民生用には使えない代物だ。

 戻ってきた聴覚と視覚でハンガーを見渡す。残っている予備機体は一個分隊ほどでしかない。そのうちの半分は自分同様に調整中だ。

 これでは、今度戦死したら復帰するのは本土の兵器廠、まる二日は戦闘に戻れなくなる。

 まあ、二日もあれば島の占領は終わっているだろうがな。

「予備パーツが百体分ありますし、回収した戦死体も戻ってきますから、もう二百体ぐらいには対応できます」

「フランケンシュタインになるのはごめんだ。せいぜい、大事に使わせてもらうさ」

「……あと三十秒です」

 自分よりも先に調整の終わった兵隊どもがハンガーを出ていく。瞬間開いたドアの向こうには重傷のポンコツどもが見える……ずいぶん難しい戦になったもんだ。

「完了です」

「すまん、世話にな……貴様、脚はどうした?」

 世話をしてくれた整備班長は両脚が無く、腰から上を作業台に括り付けてあった。

「北の連隊長にお貸ししました(^_^;)」

「そうか……じゃあ、行ってくる」

「これをどうぞ」

「お札か、謝謝!」

 関帝のお札をポケットに収め、その足で最上甲板に上がると、ごった返す負傷兵をかき分けかき分け、転がっていたジェットを担いで島に飛んだ。

 

 ピシューーーーーン!!

 

 もうすぐチルル空港というところで山頂のカルデラから高出力のパルス波が発せられる。

 ふつうパルス波は目には見えないものだが、よほどの高出力。空気中で触れた水蒸気や埃を瞬間で蒸発させ、それが光と音になっている。

 ドッゴーーーーーン!!

 たった今までいた工作艦が大爆発を起こして、瞬沈しまった。

 あれではスキルもメモリーも転送している余裕はなかっただろう。将校は国防部にメモリーを残しているが、下士官や兵の多くは枝が付いているだけでメモリーとしては残っていない。文字通りの消滅だ。

 特別に将校が優遇されているわけではない。ロボットも民衆レベルでは国や軍を信用していない。下手にメモリーを預ければ、どのように改ざんされるか分かったものではない。漢明もその程度には、そう呼べるなら民主化はされている。

 まあ、枝はつけられているから、生殺与奪の権は握られているがな。

 

 空港に残っていた部下たちはリンクを切ってスタンドアロ-ンになっていた。

 

 これで居所を掴まれることはないが、敵と同様に連携した行動はとれない。

 敵は、事前にスタンドアローンにした状態で作戦を練っているだろうが、こっちは、ただリンクを切っただけで刻々変わる戦況を理解し対応することはできない。

 ピシュンピシュン

 パルス銃の弾線が掠めていく。

「バカ者! 胡盛徳だ! 貴様らの連隊長だ! ドローンと間違えるな!」

 着地した砲撃痕には数名の部下が残っていて、最上級の少尉がアナログ音声で「付近に八十名あまりの味方が残っております」と告げた。

 着地寸前に記録した映像と照合、生死不明の者も合わせ百八体を確認。

 敵は大半が自爆攻撃によってバラバラになった破片。数体がボケて映っている。俺のアイカメラのフレームレートを超える速度で動いている。油断のならない奴らだ。

 山頂のパルス砲は沈黙している。乱れたパルス残滓がショートしたように火花を上げている。

「無理な高出力で壊れてしまっているようです、無力化されています」

「よし、二名ずつの斥候を出す。ナバホ村とフートンの状況を調べる。可能ならば国際空港の様子も探らせろ、この部隊は少尉が指揮……A鉱区2番坑口にまわれ、爆撃で途中で落盤している。しばらくは身を隠せるだろう。通信兵、貴様は、瓦礫を集めて狼煙をあげろ」

「狼煙でありますか?」

「ああ、電波もパルス波もすぐにジャミングをかけられるからな。煙が上がったら、このリズムで煙を切れ」

「……モールス信号」

「二百年前の通信方法だが確実だ。一回やれば十分、すぐに帰ってこい」

「連隊長は?」

「内緒だ、一時間たっても帰ってこなければ、少尉、貴様が連隊の指揮を執れ」

「了解しました!」

「そう気負うな、演習だと思えばいい」

 少尉の肩を叩きながら、満州戦争の頃の自分を思い出す。

 劉宏将軍も、斥候に出る自分に同じことをおっしゃった。

 あとは、俺に将軍の半分も才覚と運があればと願うだけだった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

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宇宙戦艦三笠27[フィフスのクレージードリル(訓練)]

2023-02-15 06:27:13 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

27[フィフスのクレージードリル(訓練)]  

 

 


 最初は、単なるジャンケンだった。

 ロボットが相手だったが、スキルを人間程度に設定してあったので、まあ、十回勝負で六勝四敗というところだった。


「さあ、これが出発点だ」


 と、言われても、先が読めない。

「こんなので訓練になるのか?」

 天音が口を尖らせる。

 天音は父が職業自衛官だったので、横須賀の親類に引き取られるまで、父の転勤に付き合って何度も引っ越している。ゆく先々で頼れる者は自分一人「揉まれているうちに度胸も付いて勘も良くなった」と言っているが、俺は、持って生まれたものだと思う。


 ケンカや勝負ごとに勝った時に「天音の強さは生まれつきだもんな」と言って張り倒されたことがある。

「強いなんて言うなっ!」

 褒めたのに、なんでキレるんだ?


 後で樟葉が話してくれた。


「天音はね、自分が弱くて大人しい子だったら、お父さんはPKOなんかに行って死ぬことは無かったと思ってる」

「あ……」

「いくら自衛隊でも父子家庭の下士官を引っ張っていくことはしないよ。でもね、大変なPKO任務に志願して行ったお父さんは天音の誇りでもあるんだよ」

 高校生になって『二律背反』という言葉を習った。俺の『二律背反』は天音の顔をしている。

 そんなことを思い出したら、ミカさんの頬がポッと赤くなった。みかさんは、今の思い出をエネルギーに変換したんだ。三笠は俺たちの思い出をエネルギーにしている。

 そんなミカさんの足元に四匹の猫がすり寄って来る……こいつら、三笠のネコメイドたちだ(^_^;)。こいつらはミカさんからエネルギー貰ってんのか?

 ミャーー(^▽^)

「今のは人間と同じ設定だったので、君たちの実力がそのまま出ておる。今度はロボットのスキルをマックスに上げる。ロボットは、君たちの表情や息遣いからちょっとした変化まで解析してジャンケンをする。君たちは、そのロボットの解析を読んで対応してもらう」

 

 今度は完敗だった。

 

 ガルルルル

 天音が唸ってる。ほんとはただの勝負好きなのかもな(^_^;)

 振り向くと、ミカさんまで負けている。船霊のみかさんが勝てないのなら、仕方がないと俺たちは思った。

「はああ……だめじゃのう。これが戦闘なら、全滅じゃ」

 ナンノ・ヨーダは四等身の頭を振ってため息をついた。

「だって、ミカさんだって勝てないんだよ(>0<)」

 トシがプータレる。

「船霊は、クルーの能力に合わせて成長する。船霊とはそういうもんだ」

「テヘペロ(๑´ڡ`๑)」

 ミカさんはテヘペロで誤魔化す。ウレシコワは船を下りた船霊だったので、湯気を立てながらも寂しい顔をしている。クレアは、元々前世期のボイジャーだったので、CPの能力が追いついてこない様子だった。

「負けても仕方がないと思っとるじゃろ、しょせんジャンケンは運しだいじゃと。その負けても仕方がないでは、グリンヘルドにもシュトルハーヘンにも勝てん。今度はやり方を変える。参加するロボットを百万にまで増やす。そして、君たちを含め全員に百円を持ってもらう。二人一組で始め、勝った方が勝った者同士でまた一対一の勝負。簡単な計算じゃが、最後の勝者は一億円を手にすることになる。それでは、勝負じゃ!」

 ザワ

 百万のロボットが転送されると圧を感じる。ネコメイドたちは、どこかに消えてしまった。

「オーーーーシ!」

 天音は両の手の平を交差させて組んで覗き込むっちゅう伝統的準備姿勢!

 すると、ロボットの半分以上が真似をするが、関節のリミッターを超えてしまうのか、こんぐらがって取れなくなってしまう。

「おまえたちは、真似せんでいい!」

 ヨーダのこめかみがピクピク震える。

 真似しなかったロボットたちが直してやって、仕切り直し。


 最初はグー、ジャンケン、ポン!!


 百万と八人の声がダススターに轟いた。

 無邪気な欲と言うのは恐ろしいもので、数回繰り返しているうちに三笠組の八人が残るようになり、最後の勝者は俺一人になった。

「これで良い。無邪気な欲が勝利に繋がる。これが実戦なら、三笠の大勝利じゃ!」


 が、これで終わりではなかった。


 次に、レフトセーバーの使い方の訓練であった。レフトとは心臓が左側にあることからついた名前だ。
 人間は最後に心臓を守ろうとする。人と並ぶとき左側に人に立たれると、なんとなく落ち着かないことや、喫茶店、映画館のシートが左側から埋まっていくことなどにも現れているんだそうだ。樟葉は単に著作権の問題かと思ったが、ミカさんと目が合うと、ミカさんは、ただニッコリ笑みを返してきただけだ。


「よいか、やみくもにセ-バーを振り回しても勝てやせん。心の中にプレステのコントローラーを思い浮かべよ。そのコントローラーで操作するようにやれば、勝利は疑い無し。励め!」

「でも、なんでプレステのコントローラー? うちXボックスなんだけど」

「プレステはフォーまできておる。フィフスは、それを超えるものじゃからじゃ!」

「プレステは5(ファイブ)まで出てるんだけど」

 自分は持っていないくせに、トシが苦情を言う。

「ファイブは半導体不足で品薄じゃ!」

 ヨーダも負けてはいない(^_^;)

 ダジャレとこじつけみたいだったが、やってみると、なるほど上達が早かった。

 他にも、様々な訓練(ドリル)が課された。中には、ここで書けないような内容も含まれているが、それではつまらないので、その一端を紹介しよう。

 セックスアタックへの耐性訓練と言うのがある。バーチャルではあるが、絶世のイケメンと美少女の誘惑に勝つ訓練だ。三笠のクルーは、みんな高校生という多感な年ごろ、ウレシコワやクレアも入れ物としての体は少女だ。反応は人間と変わらない。

 詳述は省くが、この訓練がもっとも大変だった。三笠組は年頃であるということとラノベのキャラであるということで、この種の誘惑には弱かった。レイマ姫は過去に訓練を受けていた様子だった。で、この訓練が一番つらいことを知っていた様子であるが、この訓練のときだけ標準語になることが可笑しかった。

 かくして、ひと月にわたる訓練が終わり、各自のHPとMPが発表された。ゲームで言えば、初回最後のボス戦の時のような数値だった。

「これからは、実戦が訓練であると思って頑張りたまえ!」

 ナンノ・ヨーダは、そう締めくくった。クルーたちは、まるでチュートリアルを終えたばかりのゲーマーのように新鮮な闘志に燃えていた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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RE・かの世界この世界:010『志村先輩』

2023-02-15 05:48:35 | 時かける少女

RE・

010『志村先輩』   

 

 

 最初に崩れた東側のビルは、結果的に三か国の共同でつくられた。

 

 実際の工事に入ってみると、日本以外の二か国の技術では対応できないことが分かったからだ。

 その時点で二か国を撤収させ、日本企業だけで作るべきだった。

 しかし、メンツを重んじる二か国は継続を固執し、日本企業もことを荒立てることを好まず、東棟の建設に部分参加させた。

 結局二か国が担当したところは、三棟を屋上プールで連結する部分で重量に耐え切れずに挫滅し、東棟全体を傾かせることになったのだ。そして、傾いた東棟は中棟と西棟をも巻き込んで大崩壊に至ったということみたい。

 これは、責任を擦り付け合う、グロテスクな争いになるだろうなあ……。

 

「悲惨な事件だけど、これは、ただのたとえ話なの」

「今から説明することのな……」

「たとえ話……?」

「ああ、この事件は、こじれても会社が潰れたり国の評判が落ちたりするだけのことだ。まあ、崩れる時間帯によっては数千人の犠牲者が出るだろうがな。世界が滅びるようなことにはならない」

「時美、そういう言い方は良くないわ」

「あ、すまん。光子は気にするよな。まあ、これは、ただの前振りだ」

「話を進めましょ」

「ちょっと切り替えるぞ……」

 

 志村先輩が右手を上げると画面が変わった。

 ビルのシルエットはそのままで、シルエットは無数の小部屋に区分けされた。

 小分けされた小部屋には、わたしの知識では分からない……たぶん歴史的な事件が書かれている。

 歴史的な事件と分かるのは、ところどころわたしでも分かる出来事が書かれているからだ。

 

 平安遷都 元寇 太閤検地 サラミスの海戦 コロンブスアメリカ大陸到達 戊辰戦争 アパルトヘイトの終焉 etc……

 

「歴史年表ですか?」

「なんだけどな……」

「よく見て……」

 中臣先輩が呟くと、画面のあちこちがランダムに拡大されていく。

 

 秀吉が幕府を開く  ナポレオンがロンドンを陥落させる  ミッドウェー海戦勝利の日本がハワイを占領  リンカーン大統領暗殺失敗  阪神淡路大震災に米軍のトモダチ作戦  安倍首相暗殺未遂

 

 史実ではないことがチラホラうかがえた。

 

「そう、寺井さんが知っているのとは違う事件が起こった、別の世界の年表」

「たとえばな、阪神淡路大震災のとき首相は村山じゃない可能性もあった。すると、もっと早くアメリカの支援も受けられたし、自衛隊の出動も早くなって、死者は4000人で済んだ」

 あの震災では6000人以上の犠牲者が出ていたはずだ……

「2000人以上の命が救われる……すると、どうなると思う?」

 イタズラっぽい視線を送って来る志村先輩。

「良かったんじゃないですか、2000人も多く助かるんだから」

「すると、こうなる……」

 年表のあちこちが点滅して、事件のいくつかが書き換わった。

「歴史が変わるんですね、先輩……」

 

 振り向くと、志村先輩の姿が無かった。

 

「え、え?」

「2000人助かると、時美は生まれてこないの」

「どうしてですか?」

「時美のお母さんが震災で助かった別の男の人と結婚するから、いまのお父さんと出会う前にね」

 中臣先輩が、シレッと言った。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

 

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宇宙戦艦三笠26[ダススターとヨーダ]

2023-02-14 09:23:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

26[ダススターとヨーダ]  

 

 

 一言で言って、クレーターの中は一見ガランドーだった。

 モニターで拡大すると、ガランドーの中には神経細胞のシナプスのようなものがあって、それぞれがニューロンのような突起を張り出している。突起の先にはゴミのようなものが付いているが、よく分からない。

 なんだ、あのシナプスとニューロンは?

「シナプスはベース(基地)、ニューロンは港の埠頭のようなものよ」

 クレアが冷静に解析してくれる

 ガチーーン

 誘導ビームは――しっかり掴まえたぞ――という感じの牽引ビームに切り替わって、速度は落ちたがレールに載っているような確かさで引っ張られていく。

 三笠は、アルファ星のど真ん中にある巨大シナプスのニューロンの一つに接岸した。

「おお、これは……」

「ニューロンの突起のように見えてたのは、全て戦闘艦や戦闘機だよ……!」

 ニューロンの埠頭を歩きながらトシが、感激の声を上げた。

「いったいどれだけの数なんだ……」

 演習で、レイマが言っていた数字がハッタリでないことがよく分かった。

 いつも、俺の喜怒哀楽に茶々を入れる天音も、それを程よくいなしてくれる樟葉も黙ったままだ。

 クレアは観察と演算のし過ぎで頭に放熱の陽炎が立っている。

 ウレシコワは数歩先の地面だけを見て歩いている。ソ連、ウクライナ、中国と流浪の半生だったので、余計なものは見ないという習慣がついているのかもしれない。

 これだけのベースと戦闘艦艇を持っていても、星として観察するとスカスカ。リアルの星の密度の凄さには及ばない。その星々を数光年、数十光年、数百光年の隔たりをもって、無限に抱えている宇宙というのは、泣きたくなるほどに広大なんだ。

 この旅が終わったら、俺は宗教の一つや二つは起こせるかもかもしれない。

 戦後、真珠湾攻撃体の飛行隊長だった淵田中佐は、戦後キリスト教の伝道者になったし、アポロ計画で月に行った宇宙飛行士の中にも宣教者になった者がいるという。


 埠頭の向こうに人が現れた。


 人型のロボットを二台連れている。ロボットは中学生ぐらいの背丈だが、人間の方は、それよりも低い、いや小さい。

「アルファ星にようこそ。姫には申し訳ありませんが、念のためダススターに寄ってもらいました。お許しを」

「やっぱり、わの考えだげでは頼りねようだね」

「畏れながら、10万機の飽和攻撃のシュミレーションで、船が大破、艦長戦死の結果では、暗黒星団からお出しするわけにはまいりません」

「ハー、やっぱり、あれやるんだが?」

「ベー卿も同意です、殿下」

 レイマ姫は、思い切り嫌な顔(⁎ꈍ﹃ก⁎)をした。

「このアルファ星は、通称ダススターと呼ばれておりましてな。暗黒星雲の中にあるベースの一つです。あなたがたには姫といっしょにフィフスの訓練を受けてもらいます。おお、わたしとしたことが自己紹介を忘れておりましたな」

「この爺っちゃは、暗黒星団一のジョーダンマスターだす。ジョーダンでしゃべっても冗談の通ずるふとでねはんで、そのづもりで」

 レイマが前フリをした。

「わたしは、地球で言えば大統領補佐官兼特殊部隊の指揮官と教官を兼ねたことをやっとります。名前はナンノ・ヨーダ。ナンノが苗字で、ヨーダが名前です」

「で……ナンノ先生、我々が受ける、そのフィフスの訓練とは、どういうものなんだろうか?」

 天音が恐る恐る聞いた。恐る恐るでもタメ口だけどな。ウレシコワは黙ってついてくる。大昔のソ連を擬人化したような沈黙だ。クレアは五感のスイッチを切ったのか、頭に陽炎をたてることもなく、外交的笑顔になり、トシは早くも疲れが出たのか背中が丸い。

 ミカさんは分身を同伴させてくれた。日本の神さまは便利で、分祀という形で、いくらでも分身がきいた。ミカさんは年季の入ったアルカイックスマイルだ。

 埠頭を過ぎると、管制塔のような建物の中に入った。

「このダススターには、君たちが考えているより一桁多い艦艇と作戦機がいる。きたるべきグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いに備えてのことです」

「この暗黒星団は、グリンヘルドもシュトルハーヘンも敬遠してるんじゃないですか?」

「今の段階ではのう。しかし、将来は分からん。げんにこうして三笠の諸君が、ここにいる。君たちが来られるということは、敵がいつ来てもおかしくない……ですなレイマ姫」

「……んだの、ヨーダ」

 それから、三笠のクルーたちはフィフスの訓練に入った。なんでフィフスというのか不思議だったが、答えは簡単だった。

「フォース(4th)の上をいくものだからです」

「ああ、5th(五番目)」

 簡単に言えば第六感を磨き、その5thにふさわしい魔術を身につけることらしい。

 五番目で第六感……それなら、6th(シクスス)とか言えばいいのに。

―― ヨーダのジョーク ――と、レイマが囁く。

「第六感というのは、閃くもので、人の意思ではコントロールができません。意志によって、自由に操れるのがフィフスなのです。コントロールできる第六感、故に、その手前のフィフスというわけですな」

 えーーほんとかなあ(^_^;) なるほどぉ むむむ  反応はさまざま。

 で、その最初は、ナンノ・ヨーダが連れていた二台のロボットとジャンケンすることから始まった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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RE・かの世界この世界:009『三つ子ビルのたとえ』

2023-02-14 07:15:55 | 時かける少女

RE・

009『三つ子ビルのたとえ』   

 

 

 落ち着いてくると部室の様子が分かって来た。

 
 教室一つ分ほどの部室は畳敷きで窓が無い。三方が障子と襖で、そこを開けると廊下とか別室に繋がっているのかもしれないけど、なんだか、そこには興味を持たない方がいいような気がする。

 中臣先輩が立ち上がって、つられて首を巡らすと、驚いたことに上段……というのかしら、一段高くなっていて、壁面は全体が床の間みたい。三つも掛け軸が掛かっていて、その横は違い棚で、香炉やら漆塗りの文箱みたいなのが上品に置いてある。

 これって、時代劇とかである……書院だったっけ、お殿様が太刀持ちのお小姓なんかを侍らせて家来と話をしたりするところだ。大河ドラマのセットみたいだ。

 中臣先輩は、襖の向こうへ行ったかと思うと、お盆に茶道で使うようなお茶碗を載せて戻ってきた。

 制服姿なんだけど、お作法に則っているんだろうか、とても和の雰囲気。摺り足で歩くし、畳の縁は踏まないし。

 その黒髪とあいまって、大名屋敷の奥女中さんのような雰囲気だ。

 
「まあ、これをお上がりなさい。気持ちが落ち着くわ」

 
 前回と違って落ち着いているつもりだったけど、一服いただくと、自分でも分かるほどに呼吸も拍動も、春のお花畑のように穏やかになってきた。

「落ち着かないと、これからの話は理解できないからな」

 労いのつもりなんだろうけど、志村先輩が言うと緊張してしまう。

「は、はひ(*°∀°)」

「ほらぁ、寺井さん緊張しちゃったじゃないの」

「すまん、大事な話だから、慎重に説明しなくてはと思ったんだ。それに、ここは雰囲気が重い」

 もっともだ。うちの学校は古いけど、旧校舎とはいえ、こんな部屋があるのは、そぐわないよ。と云うか怪しいよ。

 無駄に広いのは元々は作法室かなんかだったからなのかもしれない。そうだよね、学校で畳敷きって言えば作法室か、今は使われなくなった宿直室くらいしかありえないし、旧校舎の暗い雰囲気からはかけ離れてる。おとぎ話とかで、洞窟の奥を進んだら桃源郷に出くわした的な怪しさ。でも、それを口にしたら全部台無しになるような危うさ。そんな感じ。

「これを見てくれるかしら」

 志村先輩が上段の間を示すと、掛け軸があったところが大型のモニターに替わっていて、どこかアジアの大都市を映している。

「大きな三つ子ビルがあるでしょ」

「あ、ニュースで見たことがあります。東アジア最大のビルとかで、屋上がプールになっていて三つを繋いでいるんですよね」

「ああ、先月から右側のビルが立ち入り禁止になってる」

「え、そうなんですか?」

「ええ、傾き始めているの、いずれ、他の二つも使われなくなるわ」

「そうなんですか?」

「日本の他に三つの国の建設会社が入って出来たビルなんだが、技術の差や手抜き工事のために完成直後から傾き始めてな」

「これを見て」

 中臣先輩が手を動かすと、屋上のプールが3Dの大写しになった。

「あ、あれ?」

 プールの水は片側に寄ってしまって、反対側ではプールの底が露出している。

「東側のビルが沈下し始めてプールが傾いているの」

「主に、某国の手抜きが原因なんだが、いくら他の部分が良くできていても、こういうダメな部分があると、使い物にならなくなる」

「三カ月後には、こうなるわ」

 音は押えられていたけど、東側が崩れ始め、それに連れて他の二つも崩壊し始めた。

 うわ!

 3Dの画像なんだけど、崩壊の風圧が感じられ、中臣先輩の髪を乱暴にかきまわし、先輩は幽霊のようなザンバラ髪になってしまった。

「あ、髪の毛食べちゃった」

「トレードマークなんだろうが、美空は影響を受けやすい。切るかまとめるかしたほうが良くないか?」

「だ、大丈夫よ……さあ、話はここからです……あ、あ~、ペッ、髪が……こんどは絡んで……」

「やっぱ、切ろう」

「あ、いや、それは……」

「覚悟しろ!」

「と、時美さん、それは無体です!」

 志村先輩が中臣先輩を追いかけて、不思議な説明は中断してしまった(^_^;)。

 いったい、なんなんだろうね、ここは?

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・007『ショーウィンドウの写真たちから』

2023-02-13 11:57:34 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

007『ショーウィンドウの写真たちから』   

 

 

「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」

 

 家に帰るまで、写真館のあれこれが頭に浮かぶ。

 

 ショーウィンドウには、七五三の子どものや、袴姿の女子学生や、結婚式やら、記念の家族写真やら、人や家族の想いがこもった大小の写真たちが並んでいた。ドアの向こうにはスタジオが覗いていている。

 写真なんて、スマホやデジカメでしか撮ったことが無いから、ちょっと新鮮。

 半分以上はカラー写真なんだけど、白黒の写真もあった。昔の写真だからなのか、そういう仕様なのかは分からない。

 令和の時代にも、わざとセピア色にしてレトロ感出した写真もあるしね。

 ……みんな真面目な顔で写ってた。校長室に並んでる歴代校長の写真みたい。

 振り袖姿で微かに微笑んでる……いや、恥じらってる写真。これは見合い写真かなあ……いい感じ。

 ちょっと上を向いてニコニコしている赤ちゃん。

 あれは、カメラの後ろでお母さんとかがあやしてるんだろうなあ、写真屋さんも「ここからハトが出まちゅよお(^▽^)/」とか、赤ちゃんが笑った瞬間を見事にとらえてる。

 B5くらいの小さな写真には梅沢ナントカさんみたいな役者さんの写真。女形さんなんだろうけど、とってもきれい。

 自衛隊の隊員さんの写真。椅子に腰かけ、手は膝の上でグーにして、ちょっと凛々しい。

 その横にも自衛隊……ちょっと制服が違う。え、昔の軍人さん?

 1970年でも、戦後だよ、えと……25年は経ってる……割にはクリア。

 下に『古くなったお写真の復元いたします』と張り紙、なるほど。

 写真たちの間からスタジオや店内の様子が見える。

 カウンターにはレトロなレジ。小さな写真を張ったパーテーションの後ろに手入れの行き届いた観葉植物。その向こうは薄暗くて、たぶんスタジオ。スタジオの全貌は見えないけど、ごっついスタンドの付いたカメラ。柄のところにライトが付いてアンブレラ式のレフ板? キャスター付きの衣装掛けには七五三の名残か子ども用の着物。床は、カメラの下から鈍色のパンチカーペット、天井には黒い骨組みがあって、小さなスポットライトがスタジオの奥を狙っている。

 とっても雰囲気だった。

 

 プロに撮ってもらう写真もいいなあと思いながら家路につく。

 

 歩道に段差があるのも、不愛想な駅員にも、加速減速の度にガックンとくる電車にも慣れた。

 わたしって順応性高いのかもしれない。

 伝言板をチラ見すると―― 先に行く K ――が消えていた。

 Kさんが確認したのか、6時間経ってしまったのか、1970年というのは想像力を掻き立てられるね。

 

 で、家に帰ると「お祖母ちゃん、うちは写真館で写真とか撮ったことある?」と聞いてみたわけです。

 

「写真館?」

「うん、証明写真。説明会で写真館行って撮ってこいって、で、写真館下見したら、いい写真がいっぱいあって」

「ああ、昔はそうだったね……ええと……あったかなあ……」

 お祖母ちゃんが指を振ると、あちこちの引き出しやら物入がゴソゴソ騒ぎだして一枚の写真を吐き出した。

「あ、見せて見せて!」

「ちょっと古いけどね……」

「え……どれどれ……おお!……て、なんかボケボケになったよ」

 それは、ショーウィンドウで見た自衛隊の隊員さんに似た姿のお祖母ちゃん。椅子に掛けてオスマシなんだけど、数秒きれいに見えて直ぐにボケボケになってしまった。

「あ、間違えた!」

「なにぃ、この写真?」

「これはね……ちょっと危ない任務に就く前に撮る写真なんだよ」

「え、お祖母ちゃんて、ドジだから内勤だったんじゃないの?」

「最初からってわけじゃないさ。最前線のバリバリだったこともある」

「お祖母ちゃんも実戦部隊にいたんだ……でも、なんで、こんなにボケボケ?」

「これは魔法写真でね、魂ごと魔法少女を写すのよ。任務で殉職してもね、この写真があれば50%の力で蘇らせることができるのよ」

「ええ! 命が二つになるってこと!?」

「まあね、完全回復には時間がかかるけどね。お祖母ちゃんは仮死状態だったから、少しはは写真に残ったんだけど、完全に死んでしまったら、全部消えてしまう」

「そうなんだ……」

「ほら、これなんか、どうよ」

「どれどれ……わ、かわいい!」

 それは、お仲間らしい四人といっしょに校庭みたいなところで撮った写真だ。

 魔法少女のコスも初々しくて、入隊したての女性自衛官的緊張感の写真。

「ああ、でも写真館で撮ったんじゃないんだね」

「まあ、あんまり写真は撮らなかったからね。さあ、晩御飯にしよう、二回も説明会に行ったからペコペコだろ?」

「え、ああ……なんか、お腹空いたのも忘れるくらいかも」

「そう、今日は志忠屋に行くつもりだったんだけどねえ」

「え、それ先に言ってよ! ぜったい行くから!」

「じゃ、用意しといで、お祖母ちゃん予約しとくら」

「うん!」

 

 長かった一日は、食べたいメニューのアレコレが頭に浮かんで目出度く終わりました。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
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宇宙戦艦三笠25[暗黒星団とど根性レイマ姫]

2023-02-13 07:24:40 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

25[暗黒星団とど根性レイマ姫]  

 

 


「ただ今の戦闘ぉ、三笠大破ぁ、航行不能ぉ。艦長と砲術長戦死だ~す( ´ ▽ ` )」

 可愛い顔で、レイマ姫は宣告した。


「今の設定ありえねーよ! 両舷から10万機の飽和攻撃なんて、攻撃側も味方の弾くらって、二割がたの損失は出てるっての! なあ、クレア!?」

 子どもみたいに拳を上げるトシ。

「あ、えと、10万機の戦闘機を、一度に管制して攻撃する能力は、わたしの知っている限り、ありえません」

「そりゃ、クレアさんは、元ボイジャーでぇ、相当の宇宙情報持ってらげども、全ででねわ。わんど暗黒星団観測すた限りは、グリンヘルドもシュトルハーヘンも、こぃぐらいの戦闘は普通にこなすだ」

「でも、同士討ちの二割に、三笠が撃破した分を入れれば6万機の喪失よ。部隊としては壊滅。次の作戦に差し支えるわ」

「そうだ。仮にあたしたちを撃破したとしても、他の国の艦隊がいるぞ。それに対する準備も……」

 樟葉も天音も自分の立場から反論する。

「でもさ、考えてみたら、そのありえないことでソ連は壊滅したんだよ。レーガンの際限もない軍備拡張に、ソ連はかなわなかった」

 ウレシコワはソ連時代の感覚でレイマの肩を持つ。

「なんど、日本人の末裔だべな。第二次大戦で、負げるど分がってながら、神風やったんだべな。あれ、アメリカは想定外であったって、恐れてながらも尊敬すてらってダースのお祖父ぢゃんも褒めぢゃーよ」

「あ、でも、俺たちは寒冷化防止装置を取りに行くんだから……」

「分がってらわ艦長。死んでまったっきゃなんにもなねものね。い、わーがしゃべりでのは、それぐらいの前向ぎな敢闘精神で取り組まねばぁ、腕は上がねっていうごどなのよ。見でけ、この数字!」

 レイマがクリックすると、モニターに数字が現れた。

 損失:485  損傷:2707  戦死搭乗員:3044

「え! いつの結果だったっけ!?」

 知らない数字らしく、クレアは真剣な顔でモニターを見上げる。

「こぃは、大東亜戦争で米軍が被ったB29の被害よ」

 喪失と損傷を合わせると3000機を超える。

「3192だ」

 天音が正確な数字を言う。さすが砲術長。

 もう一度クリックすると、2505という数字が出てきた。

 ?

「終戦までに製造されだったB29の数だよ」

「え、間違ってないか、撃墜撃破が生産機数よりも多いぞ」

「撃破されだのは修理すて、まだ使ったはんでね」

「それでも、3044人の戦死はけっこうな数字よね……」

 樟葉は、機体の被害よりも戦死者の数を気にして眉を顰める。

「なんどの先人は、困難な戦況の中で、こんきの成果上げであったのよ」

「で、でも、日本は負けちまったんだろ。そんなこと自慢にならねえよ」

 トシが口を尖らせる。

「そうがなあ、ニ十一世紀の今日までのスパンで考えだっきゃね。大東亜戦争って野球さ例えだっきゃ、せいぜい二回の裏。いまの繁栄やら世界がらの尊敬考えだっきゃ十分勝ってらど思うわよ」

 あ、なんか意表を突かれた感じがしたぞ。

「でも、何百光年も離れた暗黒星団が、そこまで地球の事を気にかけてるって、なんか……不思議」

「そう? だって、観察すてあったはんでごそ、こうやって出会えだ時さ、いっぱいお話がでぎるでね。ウクライナだって、自分の戦争さ必死の時さ、世界の穀物状況や日本の北方領土のごど気にかげでらでね(^▽^)」

「あ……」

 レイマは、ちゃんとウレシコワの、ウレシコワ自身でも揺れているアイデンテティーを踏まえて話しをくれている。こいつは、ただのギャップ萌えのお姫様ではないかもしれない。

「あはは、みんな熱心さ聞いでけるはんで、つい生意気しゃべってまったぁ(*ノωノ)。話戻すわね。ま、最初のエクササイズはグリンヘルドの攻撃だげで瞬殺さぃであったはんで、進歩ってば進歩じゃね。もう一回クレアさんとスミュレーションすなおすてけでみるはんで。天音砲術長もよろすくだ」

「お、おう、任しとけ!」


―― 可愛い顔して、あの子、わりとやるもんだねと…… ――


 俺の頭には、祖父ちゃんが歌っていた懐メロのイントロが、リフレインした。

「あ……!」

「どうかした、レイマ姫」

 トシが、急に立ちあがったレイマ姫に声を掛ける。CICに走りかけていた天音も、思わず振り返った。

「申す訳ね、わんつか寄り道すてもらえねだびょんか」

 こめかみを押えて、めちゃくちゃ可愛い顔でお願いするレイマは反則だ!

「じつはぁ……(-_-;)」


 レイマ姫は、暗黒星団の防衛軍があるアルファ星からサイコ通信が入ってきたと言って目を伏せた。


「艦長、申すわげねが、アルファ星さ寄ってもらえねだびょんか」

 納得はしたものの、あの厳しい演習が始まるのかとゲンナリしていたクルーたちは、レイマ姫の予定変更を歓迎した。


「見たところ、大きさも環境も月と変わりません。地表はクレーターが多くて、人工構造物は感知できません」

 クレアの観察だった。

「あの星のどこに、秘密基地があるんだ?」

「近づげば、分がるわ(ಠ_ಠ )」

 レイマ姫は、快活そうに、でも目は真剣……というより、厄介なことになるなという色をしていた。


「え……え、そんな!?」


 クレアが驚きの声を上げた。

「分がった?」

「容積のわりに質量が小さい、小さすぎです。たった今感知しました。たった今まで月と同じ数値だったのに……」

 三笠のアナライザーCPUは、あいかわらず月と変わらないデータを表示していた。

「10万キロさ近づぐど、クレアさんみだいな優秀なアナライザーには、分がってまるんだぁ。アルファ星は人工の星だびょん」

 デススターか!?


 周回軌道に乗ると、極に近いクレーターが開くのが分かった。

「「「「おお!」」」」

「構造物は、全て星の内部にあるのか……」

 俺たちは驚きの声を上げた。

 三笠は誘導ビームに従ってクレーターの中に入って行った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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RE・かの世界この世界:008『旧校舎の中廊下』

2023-02-13 07:00:18 | 時かける少女

RE・

008『旧校舎の中廊下』   

 

 

 それは予感していた。

 

 旧校舎の中廊下のドアは、どれも目をつぶったように閉まっているのだ。

 授業に使われることが無くなって久しく、倉庫になっている他はいくつかが部室として使われているらしいけど、廃部になったりマイナーな部活で、人の出入りはほとんどない。

 ギシ……ギシ……

 ずっと奥の方だと記憶しているので、板張りの廊下を踏みしめながら、手前のドアから試してみる。

 そして、一番奥のドアまで試してみるが、開くドアは無かった。

 

 やっぱりだ。

 

 予感はしていたんだけど、常識的な選択肢から試してみるのは性格なのかもしれない。

 

 二階?

 

 そう思って打ち消す。

 記憶をたどっても階段を上がったのは、最初に屋上を目指した時だけだ。

 真っ直ぐ屋上に上がり、迫って来る足音に耐えられなくなって飛び降りたんだ。

 一瞬、頭蓋骨が割れるイメージ、フルフル首を振って、廊下の奥に視線を戻す。

 

 そうだ。

 

 わたしの脳みそは段階を踏まなければ思い出さないようだ。

 ドアなんか開けていない。

 追い詰められて、ドシンと壁にぶつかって……

 奥の壁から押していって、三か所目でビンゴだった。

 

 キャ!

 

 どういう仕掛けか、フッと壁が無くなって、タタラを踏んで転げ落ちた。

 ドサリと畳の感触、顔を上げると志村・中臣両先輩が座敷童のように座っている。

 

「お帰りなさい」

「とりあえずは回避できたみただな」

 

 曖昧な笑顔を向ける両先輩、まるでVRのスリラーゲームの一コマのよう。

 前回のことがなかったら、悲鳴を上げて気絶していただろう。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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パペッティア・006『ドーン!!』

2023-02-12 09:27:30 | トモコパラドクス

ペッティア    

006『ドーン!!』晋三 

 

 

 みなみ大尉は車を路肩に停めると、まりあを引きずるようにして路地に跳び込んだ。

「どこへ行くんですか!?」

「シェルター! 万全じゃないけど地上にいるよりはまし!」

 ズウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 ビルの谷底から見える四角い空を巨大な何かがよぎった。

「みなみさん、あれは!?」

「ヨミよ」

「あれが……」

「さ、急ぐわよ!」

 俺もぶったまげた。二十年前に東京とその周辺を壊滅させたヨミのことは知識としては知っていたが現物を見るのは初めてだ。


 瞬間見えたそれは、巨大なクジラを連想させて圧倒的ではあったけど、かっこいいと感動してしまった。
 流行りのレトロ表現でいうところの仮想現実に慣れた俺たちは、瞬間圧倒されても、ゲームの中でラスボスに出会ったぐらいにしか感じない。


 しかし、路地を出て二つの角を曲がって目に飛び込んできた光景は、凶暴なリアルだった。

「う、なんてこと……」

 それまで敏捷に夏子をリードしてきたみなみ大尉は立ちつくしてしまった。

 夏子は大尉に手を繋がれたまま青ざめてしまい、俺は胸ポケットの中で妹の止まらない震えを感じていた。

 仮想現実は視覚的にはリアルと区別がつかないが、そのリアルは視覚とグローブを通した触覚だけだ。目の前のリアルには全身で感じる熱と臭いがある。

 そこは、大地に骨格があったとしたら大きく陥没骨折をしたような感じだ。

「シェルターが壊滅している……」


 陥没骨折の亀裂からはホコリとも煙ともつかないものが噴きあがり、それは見る見るうちに炎に取って代わられた。
 それが数百メートル離れた交差点には圧を持った熱と臭いとして届いてくる。

「ウッ、この臭い」

 夏子は制服の襟を引き寄せて鼻と口を覆った。

「崩れた鉄筋とコンクリートが焼ける臭い…………人が焼ける臭いも混ざってるわ」

「中の人たちは?」

「過去にこうむったどんなヨミの攻撃からも耐えられるように作られている……」

「あ、あれは?」

 その時、西の方角から大量のミサイルが飛んでくる音がした。

「軍の攻撃が始まったの?」

「ええ、でも時間稼ぎにしかならない……伏せて! 耳を塞いで口を開けて!」

「は、はい!」

 やがてミサイル群が飛んで行った彼方に小さな太陽のような光のドームが膨らんだ。

 ドーーーーーーーーーーーーン!!

 ウグ!

 閃光! 衝撃! 

 地面と夏子の胸に挟まれて過去帳の俺も息が詰まりそうになる。

 遅れてハリケーンのような暴風がやってきて、ありとあらゆる破片やゴミやホコリを巻き起こしながら吹き荒れ、あたりは真夜中のようになった。

 五分……ひょっとして一時間かもしれない時間が過ぎて、ようやく曇り空ぐらいに回復してみなみ大尉は顔を上げた。

「さ、もう一つ向こうの交差点で救援を待つわよ」

「は、はい」

 

 そして、やがてやってきたオスプレイに救助されて現場を離れた。

 

 数キロ離れた海上にヨミの上半分が突き出ている。なんだかオデンの出汁の中に一つだけ残った玉子のように見える。

「やっつけたんですか?」

「球体だから、まだ生きてる。球体はヨミの避難姿勢だからね。球体が一番衝撃に強いの。ダメージを受けてはいるけど、ヨミはすぐに復活する……」

 そう言われると、玉子に似たヨミは僅かに鼓動しているように見えた。

「怖い?」

「えと……オスプレイの振動です」

「頼もしいわ、ナッツ」

 大尉は夏子の頭をワシャワシャと撫でた。

 普段は、こういう子供にするようなことをされると嫌がる夏子だったが、ベースに着くまで大人しくしていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉

 

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