大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:007『二日後に戻る』

2023-02-12 07:30:59 | 時かける少女

RE・

007『二日後に戻る』   

 

 

 そのまま二日後を迎えた。   

 
 ヤックンに告白させなかったんだから、冴子も穏やかなはずだ。

 昇降口へ下りる階段で冴子に呼び止められることもない。

 従って、昇降口で乱闘になることもなく、不可抗力とは言え冴子を殺してしまうこともない。

 制服のブラウスを朱に染めて逃げ回ることも無ければ、旧校舎の屋上に追い詰められることも無いし、飛び降りて頭蓋を柘榴のように割って脳みそをぶちまけて死ぬこともない。

 
「このまま神社行く?」   

 
 終礼が終わって廊下に出ると冴子が待っていた。

 お祭りの準備と巫女神楽の稽古が佳境に入って来たのだ。三回目の巫女神楽とあって、冴子もわたしもWKだ。

 WK、つまり期待と緊張。

 神社の記録でも三回の巫女神楽をやった例は江戸時代に一度あったきりだそうだ。

 巫女の病気とか事故とかじゃなくて、あまりに美しい少女だったので、神さまも――十八になるまで務めさせよ――とご託宣されたんだとか。その時は一人舞の神楽を三年続けたそうだ。

 わたしと冴子の場合は、単に舞手の子が入院したからなんだけど、それでも評判や期待は上がる。

 冴子は、ヤックンへの想いもあって、三年連続の巫女神楽をやったらチャンスも増えるし、ひょっとしたら江戸時代の先例にあやかって、少しは魅力的になれるかと口には出さないけど思っている。わたしもそうだけど、冴子もラノベとか書くから、そういう伝説めいたことに気持ちが傾斜する。

 
「ちょっと寄ってくとこがあるから、先に行っといて」

「あ、うん。じゃ、そこまで……」

 そう言いかけて、中庭の方へ足を向けたので――あれ?――という顔になる冴子。

「三年の先輩に……」

 あいまいに旧校舎と芸術棟が重なるあたりを指さす。

「そか、じゃ、ヤックンとおさらいしとくね」

「うん、破のところで微妙に合わないから、しっかりやれって言っといて」

「ハ?」

「序破急の破」

「ああ、その破ね。テンポ変わるからむつかしいとこだもんね」

「もう三回目だしね」

「そうだね、きっちり決めたいもんね」

「じゃね」

 自然な形で、冴子とヤックンが一緒になれるようにという思いもあるけど、それは考えない。

 
 とにかく、とりあえずは、志村・中臣両先輩に報告と相談だ。

 旧校舎の扉を開くと、そこはかとなくヒンヤリ。

 わたしは中廊下の奥を目指した……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

 

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せやさかい・387『2683』

2023-02-11 11:37:47 | ノベル

・387

『2683』さくら   

 

 

 2683……何の数字やと思います?

 

 冬物衣料のクリアランス、ティーンの人気ブルゾンが2683円!

 ちゃいます。

 イコカの残高、2683円、そろそろチャージせなあかん。うちのイコカは残高103円で終わってるけど。

 ちゃいます。

 昨日食べたあれこれのカロリー合計、2683キロカロリー。ちょっと食べすぎ。

 ちゃいます。

 うちの家から堺東の駅まで2683メートル……う~ん、そんなもんやけど計ったことないから分かりません。

 

 じつは、令和5年は、紀元2683年なんです!

 

 で、今日は2月11日で、建国記念の日ぃなんです!

 話は、頼子さんロスで落ち込んでたあくる日のこと。

「ちょっと佐藤さん……」

 朝のショートホームルームが終わったら、教室出る足を止めてペコちゃんがオイデオイデする。

 留美ちゃんとメグリンは心配そうに、ソニーはニヤニヤ笑って視線を向けてくる。

 三人の気持ちを一言で表したら――なにやらかしたんやぁ?――ですわ。

 呼ばれたうちも、ちょっとドキドキ。

 せやかて、ペコちゃんは、うちに欠点を宣告した時みたいな憂い顔してるし。ふだんは『さくら』って呼び捨てやし。

「えと、なんですか?」

 

「実はね……」

 

 と、ヒソヒソ話しをされて、一週間後の今朝、大きな姿見の前でメチャ緊張してます!

 同じように、留美ちゃん、メグリン、ソニーの三人も!

 三人とも揃いの巫女服の上に千早いうのんを羽織って、手にはぶどうを逆さに持ったような神楽鈴。

 髪もロン毛のエクステ付けて、地毛との境目を半紙みたいな紙で巻いて熨斗が付いてる。

「これがわたしか!?」

 目ぇ剥いてるのはソニー。

 ソニーはブロンドなんで、黒髪のウィッグ。ペコちゃんは「地毛でも構わないんだけど、ブロンドの付け毛は無いからねぇ」と恐縮してた。

 それで、黒髪のウィッグにしたんやけど、眉毛が合わへん。「じゃあ描くわ」とペンシルで描いたら、今度はまつ毛が合わへん。それで、今度は黒のツケマまでしたら、完全に別人!

「ごめんね、ここまでやらせてぇ」

 ペコちゃんは恐縮のしまくり。

「いや、先生、いいですよ。新しい自分を発見しました!」

「みっともなくないかなあ(;'∀')」

 頭一つ分背の高いメグリンは背中が丸い。

「大丈夫よ、たった五日間だったけど、舞の呼吸はピッタリ合うようになってきたし!」

 ドン!

「は、はい」

 背中に気合いを入れられてピッとすると、うちの頭はメグリンの肩よりも低くなる。まあ、ええけど。

「なんだか『君の名は』の……みたい」

「それ連想したら、巨大隕石が降ってくる!」

「え、あ、どうしよう!」

 留美ちゃんは妄想の世界に入りかけてるしぃ(^_^;)

 

「じゃあ、そろそろ本番、神楽殿に行くよ!」

 

 もう分かってると思うんですけど、うちらは、ペコちゃんの神社でお神楽を舞います。

 今日は建国記念の日ぃで、一般的には休日やねんけど、ペコちゃんの神社では建国祭という行事なんですわ。

 神楽舞をやる氏子のお嬢さんたちの都合が悪くなって、急きょペコちゃんはうちらに頼んだわけです。

 うちの学校はカトリックやし、うちはお寺の子ぉやし、だいたい担任がクラスの生徒に家の用事頼むのは反則めいてるし。

 それで、学院長先生の許可までもらって、うちらに頼んだというわけ。

 学校は、特別な理由によるアルバイトいうことで公に許可してくれる。

 

 渡り廊下を通って静々と神楽殿へ。

 

 昨日までの鬱陶しい曇り空もすっかり晴天になって、神楽殿の前には氏子さんやら一杯の参拝客やら見物のお客さんやら。あ、院長先生まで来てくれて……テイ兄ちゃんとお祖父ちゃんも。

 よし、気合い入れて頑張るぞ!

 

 2683年前のこの日、神武天皇が橿原神宮で即位されて、今の日本が始まったんやそうです。

 うちも一週間前までは知らんかったんやけどね。

 あ、頼子さんと詩(ことは)ちゃんには知らせてません。

 あとで動画を送ってやって、羨ましがらせてやろうと、四人の意見が一致したからね。

 

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

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宇宙戦艦三笠24[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・2・レイマ姫]

2023-02-11 07:28:09 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

24[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・1・レイマ姫]  

 

 

 東北弁とダースベーダー風の衣装は、とっても似つかわしくない。

「まえだおぢが目指すてらピレウス北極どするど、この三笠は、やっと福島あだりだ。というごどだげでもねんだが、言葉はやっぱ訛ってまる、ガースー」


 その間にもダースは、特有の籠ったような声で、荒い息遣いだ。


「訛ってても、貫録あるねぇ。下手に取り巻き連れてかっこつけてないとこなんか、シブいよ!」

 こういうことに関しては、トシは独特の感性で反応する。

「それはだな……ゲホンゲホン、ゼーゼー……」

「大丈夫、ダースさん?」

「なんでもね、歳なんだ。聞ぎぐるすくてすまね、ガースー」

 みかさんの質問に、ダースは年寄りくさく応えた。


「で、御用はなんなのかしら(`Д´)?」


 お誕生会に水を差されたウレシコワは、いささかカドがある。

「折り入って頼みがあるんだ。そえで、みんな集まってらどごろがいど思ってな、ガースー」

「断りもなく現れて、お願いって言われてもねえ」

 天音も、そっぽを向いた。

「まあ、聞くだけ聞いてみようや」

 俺は間に入った。年寄りイジメ的なのは嫌だからな。


「すまね艦長。この暗黒星団は宇宙の大田舎なんだ。ガースー、なんの因果か、星雲の外がらは中の様子は分がね。なんだが、とでづもね暗黒帝国があるみだいに思わぃでら。要は宇宙開闢以来、電波も光も外がらは通さね。ガースー、そえで、宇宙のみんなはおっかねものど思って、寄り付ぎもすね。グリンヘルドやシュトルハーヘンでさえも見向ぎもすね。おめんどが名付げだロンリネスなんて、星どすては一等地なんだぞ、ガースー」


「ひょっとして、暗黒星団の宣伝してこいとか?」

「いや、図々すいお願いなんだが、ガースー、ピレウスまで、一人同乗させではもらえねびょんか?」

「あ、帝国の皇帝とかならお断りだぜ! せっかく和気藹々とやってるとこに、えらそーなオッサンなんてごめんだからな」

「皇帝どがはいねじゃ。このダース、暗黒星雲の代表だ、ガースー」

「でも、そういうナリしてると、皇帝がいるように思うわ」

「そう思っでもらえるみでぐ、こったナリすてらんだ。なんか、もっと偉ぇ存在がいるみでぐ思うびょん、ガースー」

「……ああ」「なるほどね」

 クルーたちは、変に納得した。

「そえで、お願いどいうのは……ガースー……」

「わーがらしゃべるじゃ!」

 もう一人現れた。純白のローブが良く似合う、見るからに王女だった。

「あ、姫……」

「秘密ばらすてはまいねだ!(ダメです!)」

「最後の秘密は……ガースー」

「しゃべったも同然でねの」

「あのう……ひょっとしてお孫さんですか?」

 樟葉が、遠慮なく核心をついた。

「ほら、分がってまったでねの!」

「すまね。実は、このレイマ姫ピレウスさ連れでいっで欲すいのだ。ガースー、この三笠の遠征は一大叙事詩なるびょん。きっど宇宙のレガスーになるびょん。それに、うぢの王女さまが一緒であったどいうごどになるど、暗黒星団の名前も挙がる。ガースー、姑息な手段ど笑わぃるがもすれねがな。それえも、オラだぢは、王女さ、レイマ姫にかげでみるすかねのだ、ガースー」

「あの、レイア姫じゃないんですか?」

「うんにゃ、レイマ姫だ。著作権の問題だす」

「もう、違います。暗黒星雲の言葉で『希望』って意味があるんだ。ずっちゃ、卑下のすすぎだ」

 

 といういきさつで三笠のクルーが増えた。主だったポストは埋まっているので、レイマは主計長ということになった。

 だが、この見かけは宇宙一可愛く、喋らせると完全に東北弁のレイマ姫は、とんでもない力の持ち主だった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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RE・かの世界この世界:006『二日前・3』

2023-02-11 06:45:03 | 時かける少女

RE・

006『二日前・3』   

 

 

 

 ヤックンの視線を遮るように冴子がわたしの前に座った……。

 以前のわたしだったら、ただの偶然だと思うだろう。

 

 でも、今は違う。

 

 明らかに――わたしのヤックンに近づくな!――と、全身で言っている。

 作業が終わったら、さっさと帰ろう。

 こないだは、ぐずぐず残ってヤックンと二人きりになってしまった。

 告白なんて、そうそうできるもんじゃない。

 二人きりになる状況を避けて決心をはぐらかせれば、なんとかなる。

 ヤックンは冴子のことも嫌いではないはずだ。うまく誘導すれば、冴子の方に向かせることだってできるかもしれない。

 もともと、今日は行けないと言ってあるんだ。さっさと帰っても不自然じゃない。

 

 よし!

 

 最後のお札に取り掛かる、これを仕上げれば帰れるぞ。

「それが最後だよね?」

 仕上げの熨斗を掛けたところで、高階さんが話しかけてきた。

「は、はい」

「野本さん(具合が悪くて休んでる一人)入院することになったんだ」

「入院……じゃ、巫女神楽は?」

 野本さんは、もう一人の遠野さんと二人で今年の巫女神楽をやることになっていたんだ。

「急に申し訳ないんだけど、代わりに入ってもらえないかな」

「え……もう二回もやって……十六だし……」

 巫女神楽は十三歳の女の子がやるのが伝統だ。

「うん、でも、別の子が一から覚えるには時間がね。テレビの取材もあるし……実は、遠野さんも野本さんがやらないんだったら、降りたいって」

 気持ちは分かる、過去二回もやってる私と並んだら緊張はハンパないだろう。

 でも、それだったら冴子に頼んでもいいんじゃないかな。冴子は遠野さんとも近所で顔見知り、わたしとやるよりはましだ。

「冴ちゃんにはOKもらってる。つまり、一昨年と同じ組み合わせでやろうと思うんだ」

 

 うう……神楽のお囃子にはヤックンが入る。とうぜん稽古と本番で何度もいっしょになることになる。

 ヤバいよ、そうそう不自然な距離をとれるもんじゃない。

 

 しかし、断るに十分な理由がない。

 だいいち、高階さんを始め、この夏まつりの世話をしている人たちに迷惑をかけてしまう。

 どうやったら、元の時間に戻れるかは分からないけど、ヤックンの告白を回避しない限り戻れないような気がする。

 

「……分かりました」

 

 数秒置いて返事をする。もどかしさと暗い後悔が胸にわだかまる。

 

 そのあといろいろあって、最悪なことに帰り道がヤックンと二人になってしまった。

 当然、冴子も誘ったんだけど、なんだか不機嫌に断られた。

―― これで、ヤックンに告白させたら、もう、世界の終わりなんだよ! ――

 まさか正直に言うわけにもいかず、ここから逃げ出すわけにもいかず、良い回避方法も見つからないまま、ズルズル、ヤックンと帰ることになった。

 

 そして帰り道。   

 夜道にいくらでもキッカケは有ったというのに、ヤックンは告白してこなかった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  


 

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くノ一その一今のうち・40『甲府城・1』

2023-02-10 11:27:32 | 小説3

くノ一その一今のうち

40『甲府城・1』 

 

 

 二日目は甲府城のロケ。

 

 甲府城って甲府駅のすぐ近くで、つまりは街のど真ん中にある。

 城内にはホテルや明治の大水害の後に建てられた謝恩塔(大きなオベリスク)とかがあって時代劇を撮るのには向いていない。

「こんな風にやります」

 監督が木陰でモニターを指し示す。

 モニターには、カメラが撮っている、ちょっと見上げたアングルで石垣と城門が映っている。

 いかにも、初めてお城に来た者が見上げてため息をつきそうな絵柄で、さすがは監督。

 だけど、後ろには高層のホテルやら電線やらが写り込んでいる。それに、石垣の縁の柵も邪魔。

「こうするとね……」

 監督がクリックすると、ホテルも電線も一瞬で消えて、思わず実際の風景を見てしまう。

 当たり前だけど、実際のホテルも電線も、そこにあり続けている。

「そして、こうやるとね……」

 再び監督がクリックすると、石垣の上に白壁が現れ、白壁の向こうには城内の御殿の屋根やら櫓やらが現れた。

「いやあ、CGって凄いんですねぇ!」

 まあやもビックリ。小さく拍手して喜んでいる。

「まあ、見る奴が見たら、日本中のいろんなお城から集めてきたハメこみって分かっちゃうんだけどね。まあ、お城の前に着いたさな子が見た景色は、こんな感じ。まあ、イメージ持って演ってみてください」

「「「はい」」」

 有るはずの物を隠したり、無いはずの物を出したり、ちょっと忍者の騙し合いに似てると思った。

 

「わざわざ江戸からお越しいただいてありがとうございます。この甲府も風雲急を告げてまいりました、うかうかしていては、御公儀にも日本の国にも為にならぬ者の手に渡るおそれもあります。よろしく探索なさってください」

「はい、及ばずながら、師範からも指名を受けて参りました。千葉さな子、微力を尽くす所存でございます」

「ははは、そんなに畏まらないでください。わたしも成ったばかりの城代です。大きな声ではいえませんが、ほんの去年までは旗本が勤番で務めた名誉職。城代と名前は変わりましたが実質はありません。そんな甲府城代には信玄の埋蔵金など荷が重い。さっさと見つけ出して江戸の金蔵に収めたいというのが本音なんです」

「はい、ご城代さまは道場に通われていたころと変わりませんねえ」

「はは、幕府の人材も払底してきましたかなあ」

「いいえ、ようやく見る目が出てきたのでしょう、軍艦奉行の勝様も八面六臂のご活躍です」

「はは、勝様と比べられては入る穴もありません。では、支配地の見回りもありますので、これにて。ああ、入用のものがありましたら、納戸奉行に申し付けてください、話は通してありますから」

 まあやのさな子に合わせて頭を下げる。ゆっくりと顔をあげると櫓の上には青い空が広がって、トンビがくるりと輪を描いた。

 

 カット!

 

 監督がOKを出して、午前中二つ目の『城代との対面』のシーンが終わる。

 録画を確認したらお昼休み。

 みんなでモニターを見ていると、横に三村紘一。

―― 昼休み城内探索 稲荷櫓の前 ――

 忍び語りは、御城代様のようにくだけてはいなかった……

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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宇宙戦艦三笠23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]

2023-02-10 09:27:08 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]      

 


 今日はヴァリヤーグ、つまりウレシコワの誕生日だ。

 数奇な運命をたどったヴァリヤーグは、ソ連の航空母艦として作られたが、建造費の不足から工事がストップ。その後ソ連の崩壊からウクライナの所管になるが、ウクライナは彼女を空母として完成させる気持ちも費用も無かった。


 持て余したウクライナ政府は、スクラップにするのももったいないので、売りに出すことにした。

 しかし建造途中の新古品空母として売り出したもので価格が高く。また、空母としては時代遅れであったっため買い手が付かず、中国海軍の息のかかったペーパーカンパニーがスクラップとして格安で購入。最初はカジノとして使われる予定だったが、中国は、これを本格的な空母として修復したが、エンジンが商船用のディーゼルしか間に合わず、空母としては必須要件の30ノットの発艦速度が20ノットしか出せず。艦載機は武装した重量では発艦ができないというお粗末さだった。


 世界は、彼女のことを「空母の実物大模型」と揶揄した。


 当の中国も、これをもって主力空母にするつもりは無い。「遼寧」と改名し、いかついガタイで東南アジアの国々に睨みをきかせ、空母としてのノウハウを手に入れるだけで充分であった。現に彼女のデータをもとに設計がしなおされ、山東と福建が建造された。

 妹二人は、中国の最新鋭空母としてやる気満々だったが、カジノになるつもりだった彼女は気持ちが乗らず、無理なワープで故障したのを機に船霊のウレシコワは三笠にやってきたのだ。

 しかし不調のウレシコワはロンリネスでは上陸もできず、三笠の居候になった気分であった。そんな彼女を慰めるために、ロンリネスを発ってから三日目に、クルーのみんなでお誕生会を開いた。

 

「お誕生日、おめでとう!」

 

 船霊のミカさんも神棚から出てきて、俺が乾杯の音頭をとってお誕生会が始まった。

「ありがとう、みんな。あたし、今日が自分の進水式の日だってこと忘れてた」

 泣き笑いの顔で、ヴァリヤーグの船霊ウレシコワは乾杯に応えた。

「1988年11月25日。君は立派に生まれたんだ」

「でも、船を離れちゃって、今は三笠の居候……」

「気にすることないわよ。あたしだって元はボイジャー1号だったけど、今はクレアとして三笠のクルーよ」

「そうよ、今を元気に生きていく気持ちがあれば十分よ!」

「ありがとう。ミカさんもみんなも懐が深くて、とても嬉しい」

「もう120年も船霊やってるからねぇ……わたしも、いろいろあったわ。原因不明の爆発で二度沈んじゃったし、記念艦になったあと、終戦直後にはダンスホールにされたり水族館にされたり。でも、いろいろあることが船霊にとっては勲章のようなものよ」

「そうだよ。オレたちのブンケンも解散直前だったし」

「部室だって、三笠に来る前に軽音にとられちゃったし」

「メンバーも、みんなワケ有だし」

「ミカさん、ひょっとして、宿無しばっか集めてるんじゃない?」

 樟葉が鋭い質問をして、みんなの視線がミカさんに集まった。

「理由は簡単よ」

 みんなの視線が、みかさんに集まった。

「元の乗組員は、本人はおろか、孫だって生きていないでしょ……」

「まあ、120歳だもんねぇ……」

 トシが気の毒そうに目を向ける。

「人に言われるとムカつくかも……」

「こら、謝れトシ」

「ご、ごめん(;'∀')」

「アハハ、冗談冗談(´∀`)。海自のOBや自衛艦の船霊さんたちにも声かけたんだけどね、わたしって天照大神でしょ。みんな敬遠するのよね」

「アマテラス時代のミカさん、見てみたいっす(^▽^)!」

 トシが授業のように手を挙げる。

「いや、いまさらお見せするような姿じゃないわよ(n*´ω`*n)」

「アマテラスの画像ならいっぱいあるぞ」

 懐からスマホを取り出す天音。

「スマホ出しても検索できないでしょ」

「保存したのがあるんだ……ほれ」

「「「「「「おお!」」」」」」

「な、なんか神々しい……」

 ウレシコワが感動する。

 天照大神の画像は大昔のから現代のアニメのまであるんだけど、どれも雲の上に乗っていたり、後光を放っていたり、たくさん神さまを従えていたりして神々しい。

「あの……この甲冑姿で怖い顔をなさっているのは?」
 
 ウレシコワは、言葉まで改めて質問する。

「ああ……弟のスサノオが高天原にやってきた時にね、スサノオって、めちゃくちゃ不良だったから……」

「あ、知ってます知ってます!」

「はい、樟葉くん!」

 樟葉が嬉しそうに手を挙げるのを指名してやる。

「天岩戸とかに籠ったりしたんですよね! それで『アマテラスは凄い! かっこいい! 畏れ多い!』ってことになって、最後は、スサノオの爪とか髭とか抜いて追放するんですよね!」

「そうだそうだ、これが、その時の画像だぞ!」

「「「「「「どれどれ(._.)」」」」」」

「おお、テリブル!」「姫騎士!」「女大魔神!」

「ああ、もう恥ずかしいからやめてえええええ(;`O´)o!」

「いやあ、ごめんごめん(^_^;)」

「でも、いまのミカさんは、なんでJK風なんすか?」

 少しだけ空気をもどして聞いてみる。

「あなたたちのせいですよ!」

「俺たちの?」「あたしたちの?」

「あなたたちブンケンの人たちは、小さいころから三笠で遊んでいたでしょ」

「え?」「あ」「ああ」「そういえば」

「小中学生は無料だし!」「高校生でも300円だし!」「お弁当も食べられたし!」

「でも、ミカさんなんて知らなかったよ」

「わたしは知ってたぞ」

「わたしも」

「トシは?」

「アハハ……」

「男子はバチあたりだぞ!」

「ウフフ、神さまっていうのはね、そうやって、みんなが集まって楽しくしてくれたらエネルギーが溜まるものなのよ」

「それで、JK風になっちゃった?」

「まあ、慣れると、とっても具合がいいしね、もう元には戻れないかも(^_^;)……あら、お二人はどうかなさった?」

 気が付くと、クレアもウレシコワも黙ってしまった。

「ウ……なんかいいよね、この雰囲気」

「うん、わたしなんか、太陽系出てからひとりぼっちだったし」

「三笠に出会えてよかった……」

「うんうん」

 ちょっとシンミリしてきた。

「なにしてるニャ!」「めでたい誕生日ニャ!」「楽しくやるニャ!」「乾杯するニャ!」

 ネコメイドたちに元気づけられ、グラスを持ち直したところで、そいつがメインモニターに現れた。


 ジャジャジャジャーーーーン


 黒い鎧兜に黒マント、どこかで見たことがある。


「お楽すみのどごろ申す訳ね。わっきゃ暗黒星雲、暗黒帝国のダースべだ!」

「ダースベーダー!?」

「いんにゃ、ダース……べだ」

 

 暗黒帝国との関わりが始まった……。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:005『二日前・2』

2023-02-10 07:21:36 | 時かける少女

RE・

005『二日前・2』   

 

 

 頼まれたら引き受けてしまう。

 

 気の弱さか人の良さか。

『女子二人体調不良で来られなくなった、来てくれないかなあ?』

 メールだったら断ることもできたんだけど、直に電話されては断れない。青年部長の高階さんは困り果てたという声だし。

「分かりました、直ぐに行きます……いいえ、大丈夫です」

 そう応えて後悔はなかった。

 神社に行っても回避する方法はあるだろう。お札は女子十三歳から十六歳の女子でなければ触れない。

 それに、記憶では女子の休みは無かったはずだ。前回とは様子が変わっているし。

 注意さえしていればヤックンの告白を回避できるだろう。

 

「遅くなりました、がんばります!」

 

 勢い込んだ挨拶が、我ながらおかしかった。

 奥のテーブルが女子の仕事場。

 まちがって資格のない者、特に男が入り込まないように赤い毛氈が敷かれている。

 八人の女子が向き合って、せっせとお札を作っている。

 神さまの名号印と朱印を押して、乾いたら裏に祭りの日付、そして熨斗を付けて袋に詰める。

 これだけの事なんだけど数が多いし、字体を始め朱印の押し方熨斗の付け方にも型があって、けっこう面倒なんだ。

 わたしも冴子も今年で四年目の十六歳。

 今年で最後。去年は人が足りずに、普通、最初の十三歳で演る巫女神楽を冴子と一緒にやった。

 今年は、めでたく新人の十三歳の子が演るので、二度も務めた私たちは、ま、先生役だ。

 その神楽のお稽古もあるので、お札は早く片づけなきゃならない。

 

 十分ほどして気づいた。      

 

 座っている所が前回といっしょなのだ。向かいに冴子が居て、端っこの二つが空席だ。

 二人休んでいるから変わっているはずと思っていたんだけど……そうか、前回も二人は休んでいたんだ。

 ベテランのわたしが最初からいたから、前回の高階さんは、二人休みと連絡が入っても、慌てて電話なんかしてこなかったんだ。

 

 ということは……このままだと同じ展開になる、なってしまうよ。

 

 キリがいいのでお茶を飲みに行く。それを潮に座る場所を変えよう。

 お茶を一息で飲み切ると「よし!」と掛け声かけて端っこの空席に回る。

 場所が変わった新鮮さなのか作業は一段とはかどり出した。

 

 あ、ヤバ。

 

 二つ向こうのテーブルで作業をしているヤックンと対面(といめん)になっている。

 正直視線を感じる。視線と言ってもガン見の視線じゃない。作業の合間、視界に入った時にわたしを見ている。時間にしてコンマ何秒……でも分かってしまう。瞬間だけど、籠められた熱量がすごいから分かってしまう。
 
 前回はコクられるまで意識しなかったけど、ヤックンは、こんな視線でわたしを見ていたんだ。

 今さら、元の席に戻るのはあからさまに過ぎる。

 

「ヨッコイショっと……こっち仕事溜まってるね」

 

 ヤックンの視線を遮るように冴子が前に座った……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  


 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 107『ご飯会』

2023-02-09 17:31:21 | ノベル2

ら 信長転生記

107『ご飯会』信長 

 

 

 リビングが盛り上がっている。

 

 転生学園の乙女生徒会長が、持ち前の明るさでもてなしてくれたのが、よほど嬉しかったと見える。

 茶姫の喜びは市の喜び。市が喜んでいれば……まあ、俺もまんざらではない。

 学園では皿鉢料理でもてなしてもらったというので、今日は、そのお返しのご飯会だ。

「満漢全席でもてなしたい!」

 茶姫は、見かけよりも逞しい腕に力こぶをつくった。

「気持ちは分かるがな、うちのリビングでは、料理の半分も並べられんぞ」

 そう言うと、しみじみとリビングを見渡して「満漢十席ぐらいにしておこうか」と、それでも朝早くから市とキッチンに立って、「これで十席か!?」と驚くほどの料理を並べた。

 俺も久々に食欲と意欲が湧いて、料理に見合った器のあれこれが浮かんでくる。

「それって、ぜんぶ現世に置いてきたやつでしょ!」

 市に怒られる。

「しかしなあ、こんなに旨そうな料理を百均の器に盛るというのか?」

「あ、百均バカにしたなあ! っていうか、あんた、百均だったの知ってたの?」

「これでも、天下の織田信長だ!」

「仕方ないでしょ、あんた、すぐにお茶碗握りつぶしたりたたき割ったりするじゃない『是非に及ばず!』とか叫んでさ」

「それはデフォルトだ! お約束の決めポーズだ! 是非に及ばなかったら、次の展開に結びつかんだろーが!」

「それにさあ、三国志からこっち、わたしも疲れちゃってさ、創立記念の休校日にビルトインの食洗器付けちゃったのよ」

「しょ、食洗器だと!?」

「だって、あんた、お酒も飲まないのにご飯食べるの時間かかるでしょ。洗い物大変なのよ。お風呂あがったら、もう水仕事なんかしたくないしい」

「この横着者め! 食洗器は食器が痛むんだぞ!」

「だーかーらー百均なの!」

「だいたい、洗いものをかって出たのは市のほうだろーが」

「それは、お料理作んのは苦手だしぃ……いや、だから、それも含めて、今度は茶姫といっしょに作るからあ」

「だから、せめて食器をだなあ」

「食洗器」

「グヌヌ」

 

 まあまあまあ(^_^;)

 

 あっちゃん(熱田大神)が仲裁に入ってくれた。

「じゃあ、一晩だけ前世の食器貸してあげるからあ」

「え、食器を?」

「わたし、神さまだから」

 考えてみれば、茶姫を出迎えた時も鎧兜をいっぱい出しておったな。

「洗い物は、高校生のご飯会なんだから、みんなで手洗いでいきましょうね」

 

 と、まあ、ご飯会は盛り上がった。

 

 信玄と謙信は、高校生のご飯会だというのに、酒樽を持ち込んで飲みっぱなし。

 武蔵は、料理が取りにくい(満漢十席でも、リビングいっぱい)ので、紐をつけた小柄で料理を引き寄せて喝采を受ける。

 宗易はニコニコと聞き役にまわり、織部は、予想通り器の美しさにため息ばかりついている。

 孫市は鉄砲と日の丸の扇子を取り出して、雑賀鉄砲衆の囃し歌。元は、むくつけき男どもの戯れ歌、それを美少女になった自覚もへったくれもなしにやるもんだから、危ないやら面白いやら。ただ、興がのる度に鉄砲をぶっ放すのには困った。

 乙女さんは、盛り上げながらもバランスのとり方は上手いものだ。さすがは龍馬の姉、飲んでも食べても、人をからかっても、慰めても、怒っても、乙女さんの周囲は日の当たったように明るい。さすがは、理事長から学園の経営を任されているだけのことはある。

 それに引き換え、うちの副会長の石田三成は暗い。暗いから無視。三成と光秀をセットにしたら、きっとブラックホールができると思うぞ。

 元康は、生徒会長の今川義元の機嫌ばかりとってやがる。

 その義元は、初めて見るんだが、薄化粧が気持ち悪い。前世と違って、いまは女、それも美少女なんだから化粧ぐらいしてもおかしくはないんだが、頭の中に(今川義元=キモイ!)という公式ができあがっているのだから仕方がない。

 

 さすがに人あたりしたようで、ちょっとだけ自分の部屋に戻る。

 

 最後は―― 人間五十年~ 下天の内に比べれば~ ――と敦盛の一指し舞って締めくくってやらねばならない。

 コンディションを整えておかねばな。

 

 フト思った。今回の三国志探索は不首尾に終わっている。

 型通りの報告は生徒会にあげてあるが……いいのか?

 今川義元と石田三成だぞ……それに、このご飯会、それぞれの個性が出ていて面白くはある。

 茶姫もみんなの善意に応えられて嬉しそうにはしている。もし、茶姫が望むなら、一生この扶桑の国で過ごすのもいいだろう。

 でも、三国志という問題は放置したままだ。リュドミラ一人をあちらに残して……いいのか?

 本能寺の前夜ほどでは無いが、将軍足利義昭を放置していた時のようにおさまりが悪い。

 

 トントン

 

 その収まりの悪さをピン止めするかのようにドアがノックされた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

 

 

 

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宇宙戦艦三笠22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]

2023-02-09 08:51:03 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]   

 

 

 予想はしていたがスカイツリーは無かった。

 公衆電話がやたらに多く、当然歩きスマホをしている人もいない。ただ、今はほとんど見かけなくなった歩きたばこはそこここに。
 よく見ると、自販機の飲み物が110円。車のデザインとかは良く分からないけど、シートベルトも無いし、なんとなく古臭い感じがした。

「ファッション古い……」

 天音が後部座席で呟いた。

 俺もトシもファッションには疎かったが、渋谷や原宿を通ってもガングロ茶髪にルーズソックスとか腰パンとかは、さすがに古く感じる。日本によく似た外国に来た感じだった。


「いやあ、よく来られましたね。東京を代表して歓迎しますよ」


 鈴木という知事さんだそうで、この人のことはよくわからない。

―― 石原さんの二代前の都知事 ――

 クレアが、三笠のCPに照会してくれたようで、レシーバーにクレアの声がした。

 俺たちには、石原さんより前の知事は、ほとんど歴史上の人物だ。鈴木さんは、見かけはとっつきにくい重役タイプだったが、進んでいろんな話をしてくれた。

 東京に、もう一度オリンピックを誘致したいことを強調していた。24年後に実現しますよ……と言ってみたかったが、なにか過去に干渉するようではばかられた。

 都庁で昼食をごちそうになり、展望台から下界の新宿を見ていた樟葉が耳もとで囁いた。

「街を行く人たち、なんだか変……」

「なにが……」

「5分間隔ぐらいで、同じパターンが……ほら、あの修学旅行の一団、さっきも通ったんだけどね……ほら、あの子またこけた」

「そうなの?」

―― みんな、この星はバーチャルだよ! ――

 クレアが、興奮して言ってきた。

―― 昨日から、この星の主だったことメモリーにしてるんだけどね、人工的なことは信号から人の動きまで、昨日といっしょ。よくできたバーチャルの3DCGみたいなもんだよ…… ――

「ほんとだ、いま飛んでったジェエット機、10分前と機体番号までいっしょだ」

 俺は大胆な行動に出た。

 給仕にきてくれた女の人のスカートを派手にまくってみた!

 なんと、太ももから上は、荒いポリゴンのようにカクカクしていて、真っ黒だった。別に黒いカクカクパンツを穿いているわけじゃない。太ももから上が存在しないのだ。

 そして、その女の人は、何事もなく、そのまま用事を済ますと行ってしまった。

「普通、叫ぶとかするよな……」

 三笠のクルーの疑問は決定的になった。

 そして、あたりの風景が急速にあやふやになり、数秒後には消えてしまった。

 星は荒涼として、荒れた大地が広がっているばかりだった。驚きとやっぱりという気持ちが一度にやってきた。

 三笠のクルーの前に、白いワンピースの少女が現れた。


「ごめんなさい。やっぱり分かってしまったようね」

 

 セミロングの髪を緩い風になぶらせながら詫びる少女。

―― この子はバーチャルじゃないわ ――

「そう、でも人間というわけでもないの」

 え?

「あ、わたしもクレアさんの声聞こえてるから」

 レシーバーもして無いのにクレアの声が聞こえてる。

 不思議に警戒心はおこらなかった。かわいい子だし、なんだか申し訳なさそうな顔してるし。

「あなたは……」

「こうちゃん」

 ちょっと微笑ましい。自分の名前にちゃん付けだ。

「おねえちゃんがいるんだけど、今はくたびれて寝てるから、わたしひとりでお礼を言いに来たの。
わざわざ立ち寄ってくれてありがとう。そして、十分なおもてなしもできなくてごめんなさい」

「そ、そんなことないよ(;'∀')」

 トシがワタワタと手を振る。

 ほんの一瞬だけど、こうちゃんの表情が、いや、顔が変わったような気がした。

―― この星に唯一の生命反応。さっきまであったのは、全てバーチャルよ。あ、裏側にも微弱な生命反応があるわ ――

「それはおねえちゃんです。わたしとおねえちゃんは、この星の星霊なんです。自分で言うのもなんだけど、できのいい星で、がんばれば地球のように生命が生まれていたわ」

 そうだろ、水と大気と適当な気温がある。荒れた半球はともかく、生命どころか人類文明が存在していても不思議じゃない。

「おねえちゃんと二人、いつも地球を見ていて『あんなふうになれたらいいね』と思って……でも、時々大災害とか大戦争とか起こるのを見て、それは、とても怖くって……それで、時どき地球の真似っこして遊んでいたんです……」

 なんだか、臆病な高校生みたいで、ちょっと親近感だ。

「でも、わたしたちが想うほど、地球の人たちはわたしたちには関心が無くて、ずっと見ていてくれたのは中国の天文学者の人だけです」

 ああ、安告正のことだな。

「あ、ああ、ごめんなさい。なんか愚痴っぽくなっちゃって(^_^;)。とにかく、立ち寄ってくれてありがとうございます! また、お帰りの時でも、よかったらお立ち寄りください(≧∇≦)!」

 ポン

 いっしゅん真っ赤な顔になったかと思うと、可愛い煙を残して消えてしまった。

 

 三笠に戻ると、クレアがネコメイドたちを助手にして、せわしなく星の解析をやっていた。


「99.999999%地球と同じ……」

「違いを解析……」 

 ミケメがエンターキーを押そうとしたら、ミカさんが現れた。

「止しましょう、あんなに恥ずかしがり屋さんなんだから」

「ああ、それがいいと思う」

 俺が声を掛けると、みんなビックリしたように振り返った。どこまで熱中してるんだ(^_^;)

「あら、お帰りなさい」「「「「お帰りなさいませ!」」」」

「わたしたち、お夕飯の用意をいたします!」

 ピュー

 ネコメイドたちは逃げるように行ってしまう。

「さっき、お礼を言ってた時、こうちゃんの顔が一瞬だけ妹の顔になったような気がした」

「そうか……」「そうなんだ……」「…………」
 
 天音と樟葉がしみじみし、ウレシコワは黙って微笑んだ。

「あ、星の表側からメール!」

 クレアがメインモニターを切り替えると、お袋が高校生の頃に書いていたような丸文字が現れた。

―― ありがとうございました、今度はお目にかかれればと思います。あん(こうちゃんの姉)――

 名前の由来に思い当たり、みんなでクスクス笑って三笠は発進した。


 みかさんは、星に『ろんりねす』と名付けてやった。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:004『二日前・1』

2023-02-09 07:23:24 | 時かける少女

RE・

004『二日前・1』   

 

 

 電話一本するだけでいい。

 眩しい……思わずつぶった目を開くと、「また徹夜……」お母さんが部屋の電気を点けたところだ。めったに完結しない小説のプロット書いているうちに寝落ちしたんだ。

 ブリュンヒルデのキャラ決定で揺れていたんだ。姫騎士属性だけじゃつまらない、くだけすぎたら、ただのドタバタのギャグラノベ。いっそブリュンヒルデの子ども時代から書き起こして、姫騎士としての自覚が生まれる中でキャラが変わっていく……でも大河ドラマになっちゃうし……一人称は「わたし」? いや「自分」? 「姫」? ブリュンヒルデ……ちょっと長い。縮めて「ブリュ」?「ヒルデ」? 旅をさせよう、お供はトール……トールと言えばミョルニルハンマー……あ、ヒルデに持たせたら可愛いかも……そうだ、ハンマーじゃ普通だからトンカチと呼ばせよう! うん、ちょっとトンカチなキャラ、「ヒルデのトンカチぃ!」……可愛いけど、トンカチ少女……ちょっとバカっぽい。

 わたしも冴子も部活で群れたりはしないけど、ラノベが好き。今は、投稿サイトで腕を磨いてる。大学に入ったらサークルに入って同人誌作るつもり。オタクはいいけど腐女子はごめん。そっちには行かない。高校の間は帰宅部で知見と普通女子の属性を高める。だから、昼間は普通に夜はドップリの双極性を心がける。双極性って、躁うつ病に使う言葉だ……ああ、まだまだボキャ貧だ。勉強しよう!

 冴子は和風だ。記紀神話から大正浪漫まで守備範囲は広い。ジャンルが被らないので、お互いをリスペクトできるし、評論しあっても、へたに傷つけあうことも無くていい。

 

 あ……ええ!?

 

 パソコンの右下を見て日付が二日もどったと分かって狼狽える。

 だって、あの時、ああしておけばよかったという後悔はしょっちゅうだけど、実際に戻れることなんてありえない。

 ……かの世部のことは本当?。

 胸から顎にかけての傷も消えていた。ブチギレた冴子の爪にひっかけられて、制服のブラウスを血に染めた傷が。

 テレビは日曜朝のワイドショーをやっている。なんでもかんでも総理大臣のせいにする野党の国対委員長が七面鳥を思わせる表情で与党を批判している。

 でも、明日には野党議員が文科省高級官僚の娘の不正入学に関与していたことが公になって、釈明に追われることになる。

 アジア某国のダムが決壊寸前……これも、明日には決壊して犠牲者が出る。

 日本とK国と某国の合同事業で、それぞれの国の威信をかけたプロジェクト。それが完成寸前の豪雨によってあっさり決壊。

 某国政府とK国は『決壊にいたることはありえない』と発表しているが、日本の企業は沈黙を持って暗に警告している。

 
 一瞬頭をよぎる。

 
 これは壮大なドッキリで、テレビに流れているのは録画したもの。

 だって、時間を巻き戻して有ったことを無かったことにするなんてあり得ない。

 学校で起こった忌まわしいことは、全て暗示をかけられたりして思いこまされているだけなんじゃないか。

 
 以前アイドルグループの番組でこんなのがあった。

 
 体験コーナーで高校の授業を受けさせられたアイドルが――1+1はいくら?――と先生に質問され「2です」と答えて――ええ!?――と、驚かれたり不思議がられたりするというもの。スタッフやスタジオ見学のオーディエンスまでもが――ええ?――という表情になり、1+1=1が正しいと言い出すんだ。

 つまり大掛かりにやられると、常識では考えられないことでも信じてしまうということなんだ。

 テレビを操作して録画を流すなんて、そんなに難しいことじゃない。

 すると、かすかに爆音がして、上空からアナウンスが聞こえてきた。

―― ……本日新装開店のスーパーワンダイでございます、店舗改装のためお休みを頂いておりましたが、本日よりの新装開店。開店セールの特売といたしまして…… ――

 今時めずらしい宣伝飛行だったので鮮明に覚えている。

 それで、家を出るのをニ十分早めてワンダイでお弁当を買っていったんだ。

 ドッキリの為に飛行機までは飛ばさないだろう……いや、今どきの放送局ならそれくらいは。

 どっちつかずのまま、わたしは駅前へ急いだ。

 まさか新装開店のやり直しまではやらないだろう。中学のブラスバンドまで呼んで、紅白の幕に薬玉、それに、あのオバチャンたちの行列……

 ドーーーン! パチパチパチ!

 花火が爆ぜる音がして、通りの向こうに花火の爆炎が三つ四つと花開き、キンキラキンの花吹雪にたくさんのミニパラシュート……その二つが屋上看板のマスコットの鼻の下に引っかかり、鼻血みたいになった。まさか、それまでは再現できないだろう……いや、キチンと鼻血になった!

 パラシュートは五色あって、そのうちの赤が同じように引っかかるなんてあり得ないだろう。

 店の前は同じようにオバチャンたちの大行列。

 開店の薬玉が割られ、ファンファーレと共にワンダイが新装開店した。

 まだ、どこか半信半疑のわたしは行列に近づく。

 オバチャンパワーは凄い! あれよあれよの間に列に組み込まれ「おねーーちゃんも!」と、前のオバサンがカゴを渡してくれる。一昨日と同じだ……冷凍食品のところでは「ねえ、あのウィンナーとってよ!」、オバチャンに言われて、完全に二日前の流れになってしまう。

 そして、一昨日同様にお弁当用にお握りやお惣菜を買ってしまう。

「そうだ、電話して断らなきゃ」

 スマホを出して、夏祭り実行委員会青年部長さんに電話する……いや、電話じゃ押し切られたら断れない。

 メールにしよう。

―― 急用で行けなくなりました。申し訳ありません ――

 よし、これで行かなくて済む。

 したがって、ヤックンの告白を受けることもなく、ヤックンを想っていた冴子を狂わせることもない……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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銀河太平記・145『強襲』

2023-02-08 13:48:12 | 小説4

・145

『強襲』  

 

 

 チルル空港制圧隊長の胡盛徳大佐は戸惑った。

 

 戸惑いは二つだ。

 A4ガンシップ隊による対地攻撃のあと、二個大隊で強行着陸と空挺部隊による降下。待ち構えていた空港守備隊との戦闘に突入した。

 連隊の全兵員による奇襲は海と空から行われた。空海共に二個大隊。北部攻撃部隊と合わせると一個旅団の兵力だ。

 23世紀の今日でも、二個大隊1000人の空挺部隊の展開には10分はかかる。もたついていては、存外な被害を被る。

 ガンシップ隊による対地攻撃では、まともに反撃されることは無かった。反撃すれば居所が知れてしまい、強烈な航空攻撃が加えられ被害を大きくするからだ。事実、自動で反撃してきた対空ミサイル、レーザー砲の大半を第二撃を放つ前に沈黙せしめ、当方の被害は二機の被撃墜、四機の中破に留まっている。

 警戒しながらの強行着陸も空挺降下も反撃らしい反撃を受けずに、演習のような穏やかさで実施することができた。

 二百数十年前の硫黄島の戦いに似ている。

 胡大佐の電脳部分が三秒で硫黄島の戦史、戦闘詳報を吟味し、人工衛星を通じて軍のコンピューターにも紹介。五秒後には、本日いっぱいの戦闘・戦術計画が立てられ、瞬時に全兵員に共有された。

 硫黄島の戦いでは、米軍は上陸直後には反撃らしい反撃を受けなかったが、島の内部に入るにしたがって、強烈でしたたかなゲリラ攻撃を受け、多大の損害を被ることになった。

 この戦いでも、敵は島のあちこちに坑道をめぐらし、ゲリラ的な攻撃を仕掛けてくるに違いない。島は、元来はパルス鉱の島で。採掘の為に無数の坑道が走っている。同様なことは、沖縄戦でも行われ、米軍は大戦を通じてただ一人の将官の戦死者を出している。

 これは封じ込めるに限る。

 坑道の七割は日ごろの調査で分かっている。若干名のスパイもリクルートしてある。

 空や宇宙からの偵察資料もある。付き合わせれば、おおよその敵の集結地、攻撃ルートは把握できる。

 全滅させる必要はない。押さえさえしておけば、後のことは沖の司令部が判断する。

 島北部の国際空港にも二個大隊が同様の攻撃を加えている。この南部の攻撃と合わせ、有利な方に増援を加え、一気に西之島全体を制圧占領する。残った一方は占領地の確保と牽制に務め、積極的な攻勢には出ない。

 つまり、大規模な強行偵察、あるいは陽動と言っていい作戦なのだ。

 攻撃している側が、自分は主力なのか陽動なのかの自覚が無い。防御する側が分かるはずも無く、敵は、いつまでも戦力を二分したままにせざるを得ず。やがて、弱った方から撃滅される。

 自分のような中級指揮官の立場からでも、この戦いは三日。長くても五日あれば片が付く。伝説の指揮官劉宏将軍(133回 134回『日漢秘密会談』参照)なら、一日で片付くかもしれない。

 惜しい、あの劉宏将軍が大統領などという世俗にまみれず、作戦指揮をとっていただけたらと夢想するほど、基本的に楽勝の特別軍事行動だった。

 それが、作戦開始から二時間になろうというのに、司令部からの判断が下らない。

 まず、このことに戸惑った。

 

 次に戸惑った、いや、驚愕したのは敵の攻撃だ。

 

 敵の大半は滑走路の真下に居た。

 そう、真下も真下、強行着陸した兵員輸送機の真下から湧き出てきた。

 ドン!

 輸送機がグッと持ち上がったかと思うと、滑走路が爆ぜて穴になって輸送機を呑み込んでしまう。

 そして、爆ぜたひび割れの端に、次々に小爆発がおこり、小爆発の穴やひび割れから古典ホラー映画のようにズタボロのゾンビ、いや、ロボットたちが現れた。

 ロボットたちは、爆発によって生体組織が棄損されて見るも無残な姿なのだが、我が方の兵が集まっていると見るや、全力疾走で駆けてきて、爆発していく!

 ロボットというものは、特有のアルゴリズムを持っていて、並列化した情報を元に行動する。人間もハンベによって得られた情報や指示、命令で動くものだが、ロボットのように瞬時の並列化はできない。

 並のロボットなら、こちらもロボット。その並列化したネットワークにアクセスし、比較的に容易く攻撃目標や攻撃ルートを暴露し、短時間のうちに撃破できる。

―― 大隊長! 敵のアルゴリズムが読めません! ――

―― スタンドアローン!? ――

―― 敵は並列化していません! ――

 兵たちは悲鳴のような報告をあげながら、次々に敵ロボット部隊の自爆に巻き込まれていく。

 並列化を解いたロボットは再生できない。

 ロボットというものは、たとえ全損しても電脳のメモリーが健全なら、新たなボディーに移し替えてやれば元に戻る。

 電脳もクラッシュしてしまうような損害でも、リアルタイムでサーバーにリンクしていれば復元は出来る。

―― 大隊長、敵は言語と手話で意思疎通しています ――

―― 言語はなんだ? ――

―― 分かりません! 我が方の言語ライブラリーには無い言語……ウワア! ――

 並列化を解けば連携した戦闘は出来ない。連携なしの戦闘なんて、短時間なら混乱を呼べるが、人もロボットも思考や行動には必ず型ができる。多少の犠牲は出るが、こちらは完全に並列化して情報を共有している。

 じっさい、混乱が収まり、反撃に出ている兵もいる。

 所詮は、追い詰められた者の悪あがき、殲滅は時間の問題だ。

―― 8分 ――

 敵殲滅までの時間が浮かび上がる。ここまでの戦闘を解析して予想される必要時間。

―― 7分 ――

 こちらが全滅するまでの時間。

 サーバーを探ると、北部国際空港を襲撃した部隊も似たような状況。

 インタフェイスに黄色のシグナルが点滅。

 司令部は、次の攻撃の有用性を試算し始めた。

 予備のボディーにインストールしてくれ、次は勝てる!

 ボン!

 衝撃と爆発音がして、意識が無くなった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

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宇宙戦艦三笠21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]

2023-02-08 08:47:47 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]   

 

 


 暗黒星団とは、真っ黒、あるいは真っ暗な星団と言う意味ではない。

 前世紀末に発見されて以来、地球や地球の周回軌道にある電波望遠鏡で観察はされている。

 発見者は中国の安告正(アンコウチャン)。しかし、これといった発見や生命反応のある星が確認されたことが無い。安告正は真面目で清廉な学者であったので、観察に予断を交えることもなく、親が名付けた名前の通り、学会の中では正しきを告げる人で、学者としては不遇のうちに亡くなった。

 告正の死後、注目する学者も減って、面白みのない星団との評価が定着し、研究や観察を続けても宇宙物理学者としての名声が上がったり将来が明るくなる見通しが無いということで、いつしか発見者の安告正をもじって『暗黒星団』と呼ばれるようになった。

 逆に言うと、通り一遍の調査しかなされたことが無く『実際に行ってみれば、なにが飛び出してくるか分からない星団』と、SFやアニメの分野で想像力を逞しくする者もいたが、なんでも逆説やどんでん返しでしかストーリーを組み立てられない貧困クリエーターの戯言と揶揄された。

 まあ、宇宙戦艦ヤマトやガンダムでしか宇宙に飛び出せないリアルでは仕方のないことだがな。


「他の国の船は、この星団を迂回しています」

 アナライザーのクレアが、航跡の残像を検知して、そう言った。

「ここを通らなきゃ、他の船に追いつけないからな」

 みんなの覚悟を促すように腕を組む。皆は、無言をもって賛同の意を示してくれる。

 ピピピ

 受信のシグナルが鳴って、モニターにメッセージが浮かぶ。

 な、なんだこれは!?

 惑星ロンリネスから微弱ながら「歓迎」の信号が送られてきたのだ。

 ロンリネスの存在については、そのスケールと軌道は知れていたが、それ以外は影絵を見るように分からなかった。

 つまりはシルエットしか分からなくて、どうせ暗黒星団。生命反応はおろか、大気さえ無いだろうと決めつけていた不毛の惑星だ。

 星団の周囲には、いくつか宇宙船の航跡残滓が見られたが、全て、勢い余ってかすめた程度のもので、星団内部に入り込んだものは無かった。

 間もなく三笠は暗黒星団に突入。入り込むとレーダーもソナーも感度を取り戻し、クレアがせわしくアナライズし始める。

 調べてみると、自転速度は遅く、仮に地球方向から星団に突入しても荒涼とした月面のような半球しか見えていなかったことが分かった。

 世の中には、近づいてみなければ分からないことがある、ということを実感した。

「こんな面を隠していたのか!?」

「見えていなかった半分は地球型です」

「そんなことがあり得るのか?」

 ドリフターズかなにかのコントに、体の前はちゃんと服を着ているのに、後姿は丸裸というのがあった。惑星全体でコントをやっているのか、めっぽう恥ずかしがり屋の惑星なのか。

「地球の1/3程の生命反応があります。寄ってみます?」

 クレアが背中で尋ねる。

「儀礼的に一日だけ立ち寄るか」

「地球に似すぎているのが気になる……」

 ウレシコワ一人が慎重だったが、他のメンバーは、平均的日本人らしいというか、しょせん高校生というか、流れのままに招待を受けることにした。

 地球ソックリの半球は七割の海と三割の陸地でできていて、ちょうど恒星からの光を斜めに受けているせいか、ほんのり恥じらっているようにも見える。

 東西に大陸というか、月面めいた裏側の端っこが見えていて、中央の海には、地球のどこかにありそうな島々が浮かんでいる。

 その中の一つが、関東地方だけをデフォルメした日本列島のような形をしていて、東京湾を思わせるところから電波が発せられている。

 ピピピ ピピ ピピピピ

 寄港地はヨコスカを指定された。着水して近づくと、それは見れば見るほど横須賀に似ていた。

「懐かしいね、島のあそこだけが横須賀にそっくり」

「他の地域は?」

 樟葉が、当然のように聞いた。

「日本のような街が、あちこちに……ただ……」

 クレアの濁した言葉に全員が注目した。

「サーチの結果が出るのに、0・05秒タイムラグがあります」

「原因は?」

「弱いバリアーか……この星の磁場の影響か……三笠からでは確認できないわ」

「ま、とにかく存在するんだから寄るだけ寄ろう。天音、礼砲の用意だ!」

「了解」

 三笠は、21発の礼砲を撃ちながら、ヨコスカに入港した。

 港は横須賀にそっくりだった。港を出入りする船、アメリカ第七艦隊に自衛隊の横須賀基地。三笠公園にある三笠までそっくりだ。

 桟橋には、自衛隊とアメリカ海軍の音楽隊が軍艦マーチとアンカーアウェイの演奏で出迎えてくれた。

 市長、自衛隊、第七艦隊の挨拶を受けたあと、留守番にクレアを残して、全員が、横須賀ホテルに向かった。

「横須賀の街にそっくりなんですけど、ひょっとして、僕たちと同じ人間がいたりするんでしょうか?」

「さあ、どうでしょう。広い意味では地球とパラレルな世界ですが、なにもかもというわけではないと……まあ、ご自分の目で確かめてください」

 出迎えの市長は、にこやかな顔で応えた。

 望み薄だと思った。市長もミスヨコスカも自分たちの世界とは違う人物だったしな。

「ロシアの人は来ないんですか?」

 ウレシコワが淡い期待を込めて聞いた。

「あなたはロシアの方ですか?」

「今はウクライナになっていますが」

「それはそれは、さっそくロシア領事館にお知らせしておきます」

「お聞きになるならウクライナ大使館です」

「え、ああ……」

 市長が助役に耳打ちすると「早急に用意します」と返事するのが聞こえた。

 耳に掛けた骨伝導イヤホンから『ウクライナ大使館が出現しました』とクレアから連絡が入った。

 昼食会のあと、リムジンで、ヨコスカの街を見て回った。

「桜木町駅が昔のままよ……」

 樟葉が呟いた。

「まるで、『コクリコ坂』の時代だな」

 さすがにオリンピックのポスターなどは無かったが、あきらかに20年以上昔の横浜・横須賀の姿だった。

「あたし、自分ち見てくる!」

 天音がたまらなくなってリムジンを降りた。もし20年前のヨコスカなら中東で亡くなったお父さんが生きているだろうからな。


 学校の横を通ってもらった。古い校舎などはそのままで、十分自分たちの学校と言えたが、違和感を感じ、そのまま素通りした。

 ドブ板横丁は、昔の賑やかさがそのままで、アメセコの店などが繁盛していた。

「お父さんがいた……」

 ホテルに帰ると、天音が目を赤くして、ラウンジのソファーに掛けていた。

「会えたのか!?」

 意外だった。日本列島の形もいい加減だったしクリミア大使館も大慌てで用意したみたいだし、そこまでそっくりだとは思わなかったからだ。

「20年前のお父さんとお母さん。あたし知らないふりして道なんか聞いちゃった。娘だなんて言えないもんね……だって、あたしが生まれる前の時代っぽかったもの」

 樟葉も、ブンケンらしく、夕方までトシと二人でヨコスカの街を見て回った。

「ブンケンに残ってた資料そのままの横須賀だったわ」

「多分、20年遅れの地球と同じパラレルワールドじゃないっすかね!?」

 トシも喜んだ。

 三笠に残したクレアに交代しようかと連絡した。

「20年前なら、もう、あたしは打ち上げられていた。だからいいわよ」

 と答えが返ってきた。

 市長の提案で、あくる日はトウキョウに行ってみることになった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
  •  トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
  •  ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
  •  クレア         ボイジャーが擬人化したもの 
  •  ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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RE・かの世界この世界:003『かの世部』

2023-02-08 06:59:19 | 時かける少女

RE・

003『かの世部』   

 

 

 ぼんやりと天井が見えた。

 
 和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の優しい感触。

 自分の部屋で目覚めた感覚……悪い夢を見たんだ……でも、よかったぁ、夢だったんだ。

 ……いけない、起きなきゃ遅刻する!

 人の気配、お母さんに起こされるのは癪だ。

 

「目が覚めたようですね」

 

 え……お母さんじゃない?

 仰向きの視界に入って来たのは、見慣れないセミロング、制服の襟には一つ上の学年章……三年生?

「よかったな、パニックにならないで」

 もう一人の声……目だけ動かすとポニテの三年生。

「あ、あ、あの、わたし……」

「大丈夫みたいだな、起こそうか?」

「え…………」

「「……うんしょ」」

 返事をする前に起こされる。

「すみませ……!?」

 

 起こしてもらって視界に入ったのは、枕もとに血が滲んで無残に破れた制服。

「痛い……」

 同時に胸から顎にかけての痛みが走る。

 これは……冴子の爪にやられた傷……破れた制服……追い詰められて屋上から飛び降りたはず?

「ごめんなさいね、事件が起きる前までは戻せなくって」

「旧館に飛び込んで、廊下を突っ切るか、屋上に行くかで迷ったろ?」

 たしかに、廊下の先は行き止まりだと気づいて屋上に向かったんだ。

 でも……。

「時間を巻き戻して、あなたが廊下を突っ切るという選択肢にいたしましたの」

「廊下の突き当り、一つ手前が、この『かの世部』への入り口になってるんだ」

「めっぽう分かりにくいんですけども、あなたは、うまく気づいて飛び込んできてくれましたのよ」

「おまえは、勘がいい」

 

 え? え? えーーーー!?

 

 事態をよく呑み込めない、でも、でも、冴子を殺してしまったことが現実であることに激しく動揺してしまう。

「そう、心配ですよねぇ。まだ事件は起こったままなんですから」

 二人の先輩は、痛ましそうに眉根を寄せる。

「でもね、ここからは、寺井さん、あなた自身の力でやってみなきゃならないんですの」

「や、やるって……?」

 ポニテ先輩の顔が寄って来る。

「もう少し時間を巻き戻して、事件の原因を取り除きに行かなきゃならない。寺井光子、あんた自身の力でな」

「でも、そのためには『かの世部』に入ってもらわなきゃなりませんのよ」

「とりあえず仮入部でいいから、美空、書類を」

「ほうら、ここにクラスと氏名を書いていただけます?」

 え? え? 訳わかんないよ?

「ええとね、わたし達『かの世部』の部員でして、わたくしが部長の中臣美空(なかとみみそら)、ポニテールのほうが副部長の志村時美(しむらときみ)ですの、よろしくね光子さん(^o^)」

 

 ドタドタドタ……ドタドタドタ……

 

 天井の斜め上あたりで何人もの人がイライラと駆け回る音がした。

「先生たち戻って来たみたいだぞ」

「「急いで!」」

「は、はい」

 慌てて入部届にサインした。

 
 とたんに光が溢れて目を開けていられなくなった……。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・006『二度目の合格者説明会』

2023-02-07 14:30:35 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

006『二度目の合格者説明会』   

 

 

「しっかり聞いて、しっかりメモを取ってくれればいいよ」

 

 受付の先生に正直に言うと、そう指示されて受験番号の振ってあるパイプ椅子に腰かける。

 見ると、わたしの他にも保護者同伴ではない子がチラホラ居て、ちょっと安心。

 ホッとすると直ぐにスマホを出してしまう。

―― 保護者同伴でなくても大丈夫だったけど、マジ、ビビったよ(;'∀') ――

 お祖母ちゃんにライン打ってスクロール……よし、とりあえず未読はない。

 習慣で天気予報をチェックして、Yahooニュースをチラ見……ヤバイ!

 1970年にスマホは無いんだ!

 まあ、この時代の人には手鏡にしか見えないようになってる。この時代でもスマホを使えるようにしてくれているんだけど、ちょっと用心しなくっちゃねえ。

 落ち着いてスマホを仕舞った手で、資料の入った袋を開ける。

 ホーーー

 五十三年前でも中身は変わらない。

 ひょっとしたらね、伝説のガリ刷りじゃないかと期待したのよ。

 小さいころに、古い荷物整理してたら黄ばんだ更紙に手書きっぽい字の文集やらプリントやら出てきて、お祖母ちゃんに見せたら「あ、わたしのだ!」と喜んでた。

 お祖母ちゃんは文芸部で、年に二三回、ガリ刷りで文集を出していたんだって。ま、同人誌的なものらしい。

 何か温かみがあって、だから、ちょっと期待したんだけど、ちゃんとした活字の印刷物。

 ん?

 ちょっと雑なのがある。入学者案内は活字なんだけど、選択教科の説明プリントはフォントが貧相というか雑。微妙に傾いてるのやらあるしね。

 制服の案内は……へたくそなイラスト。アニメのラフみたいというか作画崩壊というか、そういうレベルの男女の制服姿。

 でも、しっかり、私好みの昔の制服だよ。

 リボンじゃなくてボータイだし、ジャンスカ風のチョッキの部分、仕組みと着脱方法も書いてあってナルホドだ。

 袋を覗くと、B5サイズの正誤表。これがガリ刷り!

 オフホワイトの紙に青インクのカクカク文字で、いい雰囲気。

 

 ピーーーーーーーーン!!

 

 クラブ紹介の冊子を見ようとしたら、すごいハウリングの音。

 おまけにボコボコ音をさせて! オッサンがマイク叩いてるし!

「アーアー、お待たせしました、ただいまより、昭和四十五年度の合格者説明会を始めます」

 市役所の窓口に居ますって感じのおじさん……教頭先生が説明を始める。

 中身は、令和5年の説明会で聞いたのとほとんど同じ。

 ただね、学校のホームページとかの説明は無し。まあ、ネットが無いから当然なんだけど、微妙に『なんか忘れてます感』が残る。

「各種書類や証明書に貼る個人写真が必要ですが、これは制服が出来た後に、制服着用のうえ、指定の写真館……ええと、案内8ページにあります、三つの写真館のいずれかでお撮りいただき、入学者説明会の日に持参してください。他の写真館で撮って頂いても構いませんが、指定の写真館よりも割高になります……」

 え、自分で撮りに行くの?

 写真なんて、ほんのこないだの中学までは写真屋さんが学校に来て撮ってくれてた。

 写真館とかで写真とか撮ったことないし。普通だったら、友だち同士で撮りに行ったりするんだろうけど、この時代に友だちなんかいないし。

 よし、プリントに地図も載ってるし、駅前商店街の写真館、見て帰ろう。

 

 ということで、説明会のあと、令和ではパスした制服の採寸をやってもらって正門に向かう。

 

 ドスン! 

 

 いきなり斜め後ろからぶつかられてこけそうになる。

「「キャ!」」

「ごめんなさい!」

 知らない中学の制服、すぐに、こっち向いて謝ってくれる。

「えと……みんな何してるの?」 

 その子を含めて数人の子が空を眺めてる。見渡すと、同じように同じ方向を見上げている人たちがいる。

 合格者や在校生、中には、先生や制服の業者の人たちまで。正門の外でも空を見上げてる人が居る。

「あ、もうじきジャンボが、この上を飛ぶんですよ(^_^;)」

「ジャンボ?」

「ジャンボジェット! 体験飛行で東京の上グルって飛ぶんですって」

 ものは付き合いなので、いっしょに空を見上げる。

 クチュン!

 まぶしいんだろう、可愛いクシャミをする。

 

 ゴーーーー

 

 やがて南の方から音がして、珍しくも無いジェット機が飛んでくる。

 

 おお…… 大きい…… うわあ…… 素てきぃ…… かっこいい…… 乗ってみたいぃ……

 

 真上を通って、姿が見えなくなるまで見上げている人たち。

 ジャンボジェットよりも、感動している人たちが新鮮で、ちょっと校舎の裏に行ってググってみる。

 ……なるほど、初めて日本に来たんだ。

 え?

 もっとびっくりしたのは、令和ではジャンボがとっくに退役して引退してること。

 でも、新幹線の旧型が引退するようなもので、特別にファンでなければ興味ないよねえ。

 フフ( ´艸`)

 でも、古い制服に憧れて50年以上前の高校に通おうっていうんだ。こっちの方が、よっぽど変わり者なのかもね。

 帰りは、商店街で写真館の場所を確認して帰った。

 たかが証明写真撮るのに入るのは、ちょっと億劫だなあと思った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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宇宙戦艦三笠20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]

2023-02-07 09:21:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]   

 

 

 

 Расцветали яблони и груши……Поплыли туманы над рекой;……Выходила на берег Катюша……


 彼女は小さく「カチューシャ」を口ずさみながら、やってきた。

「なんだかメーテルみたい……」

 天音呟いたとおり、黒のコートに黒の毛皮帽にブーツといういでたちで、艦首の甲板に佇んでいる。

 艦首のそこだけが黄昏色に染まって横殴りに雪さえ降っている。俺は、広瀬中佐の戦死を知って、はるばるペテルブルグからシベリア鉄道に揺られ、大連駅のプラットホームに降り立ったアリアヅナのように思えた。

「遼寧のウレシコワさんです……」

 クレアが冷静に、しかし語尾は濁して呟いた。

「なんだか、ワケありだな」

「あんなとこ寒いよ!」

「ちょっと!」

 トシは、天音が止めるのも聞かずにブリッジを降り、艦首のウレシコワの元に駆けた。遼寧として発見した時は「放っておこうよ」と言っていたのに、訳の分からん奴だ。

「なんだか、トシ君、鉄郎みたいね」

 船霊のみかさんといっしょにミケメたちネコメイドも現れて、あっという間にウレシコワ歓迎の形ができてしまった。

「やれやれ」

 これ以上抱え込んで大丈夫かという気持ちもあったけど、この雰囲気を無下にすることもできない。

 テキサスジェーンといい、ボイジャーのクレアといい、宇宙戦艦三笠は宇宙的規模で頼られるように出来ているのかもしれない。

 

「遼寧では、つっけんどんでごめんなさい」

 

 ブリッジに着くと、以前のウレシコワと、打って変わった穏やかさで頭を下げた。

「ブリッジじゃ狭いわ、長官室でお話しましよう」

 みかさんの提案で艦尾の長官室に向かった。ウレシコワが艦内に入ってから、心なし……いや、はっきり寒い。

「ウレシコワ、どうしてこんなに寒いの?」

「ごめんなさい。たぶん、あたしの心が寒いから……」

 メーテル風の暖かそうなコートは見せかけだけではなかったようだ。

 

 長官室はスチームが効いて、そんなウレシコワをさえ包み込むような温かさになっていた。

 

「なにか、暖かいものを頂きながら、お話しましようか?」

「じゃ、わたしに作らせて」

 ミカさんの提案に、ウレシコワは全員分のボルシチ風鍋を作った。甲斐甲斐しく給仕をするウレシコワだが、どこか屈託がある。

「いつまでも、三笠にいてくれていいのよ」

 ミカさんの言葉は、クルーたちにもウレシコワにも意外だった。

「なにもかも、お見通しのようね……」

 ウレシコワは、安堵したようにオタマを置いた。

「いっしょにピレウスに行きましょう。ピレウスへの旅は、どこが勝ってもいい。どこかの国の船が、寒冷化防止装置を受け取れればいいの。これは全人類と、全ての船霊の戦いなんだから」

「わたしは、三笠に勝ってほしい。わたしもクルーとして働くわ。三笠こそ勝つべき船なのよ」

「どこが勝っても、誰が船霊でも、それは地球の勝利よ」

 そう言うと、ミカさんは、オタマを置いて所在無げなウレシコワの手を取った。

 ネコメイドたちが食後のお茶を給仕してくれる。

 そのティーカップの紅茶が微かに揺れて、三笠は増速した。


 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
  •  トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
  •  ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
  •  クレア         ボイジャーが擬人化したもの 
  •  ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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