大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・10『友子のダイハード』

2023-09-07 06:01:25 | 小説7

RE・友子パラドクス

10『友子のダイハード』 

 


 純子の家は品がいい。

 周囲は高級住宅街と言っても、住宅が高級なのであって、住んでいる住人の品位まで保証するものではない。たいがい一代成金の芸能人や、会社の経営者、儲け主義の医者などが多く、自然と、それが家の佇まいにも現れ、家を実際以上に大きく見せたり、国籍不明だったり、建築年代不明であったりで、野心的建築家の住宅展示場を思わせた。

 純子の家は違った。できるだけ小さく見えることをコンセプトにしているようで、建物にも外構にも大理石などという賤しげなものは使われておらず、屋根も三州瓦と、実用的で品がいい。

 一筋離れた道路から紀香と友子は建物とその周辺を観察した。

「お手伝いさんはいないようね」

「早く帰らせたようね……パソコンに、お手伝いさんの勤務記録……いつもより早く帰らせてる……ここんとこずっとだ」

「家政婦会の記録じゃ、二人……まっとうな人たちね」

「リビングに、ご両親、二階に純子ちゃんがいる……柚木先生の記憶通り、真面目で大人しそうな子ね」

「電池切れかけのトモちゃんて感じ」

「いやみですか……どうやら客待ち。それもたちの悪い……」

「じゃ、わたしたちも中に」

 

 セイ!

 

 ほんの一飛びで家の敷地、庭の監視カメラにはダミーの映像をかまし、客間のサッシを解錠して中に潜り込む。

「……来るのは三下。そいつらノシてもラチがあかない。今日は、ちょっと工作して、情報集めることに専念しましょう。わたしは純子ちゃんのとこに行く。ちょっとお出かけすることになるかも知れないけど、よろしく先輩」

「まあ、トモちゃん自身の性能テストだと思って、あまりやりすぎないよう……ム、来たようね、ゲスト」

 まもなく車の気配がして、二人の男が入ってくるのが分かった。上司の知恵がいいのか、車はレンタカーだった。友子はゆっくりと純子の部屋に入った。

「こんにちは……」

「あ、あなたは……?」

 純子は思ったほどには混乱はしなかった。友子が自分と同じ乃木坂学院の制服を着ていたこともあるが、どうやら、元来見かけによらず腹の据わった子なのかもしれない。万一純子がパニックをおこしても大丈夫なように目のビームを「精神安定」にしておいたが、その必要もなさそうだ。

「初めまして、わたし長峰さんと同じクラスに転校してきた鈴木友子。あなたのことが気になってお邪魔したの。よかったら、わけを話してもらえるかしら」

「ありがとう……でも、お話はできないわ」

「どういうわけで、話せないのかな?」

「……そういう約束だから」

 その時、純子の心に浮かんだことから、おおよその事情は承知した友子だが、自分から言うことは控えた。部屋のドアに鍵がかかっていなかったことで、純子の決心が分かったから。

 

「長峰さん。今日は、話し合いじゃない。お約束を実行しにきたんです」

 

 三下Aが、目だけは笑わない笑顔で言った。

「約束した覚えなんか無い。また、そちらの言う実行もさせない。ワッセナー条約にも外為法にも抵触はしていない。偽装していたのはそちらの……ウグ」

 純子の父が言い終わる前に、三下Bが胸ぐらを掴んだ。

「よせ、俺たちは、あくまで契約の履行にきたんだ。では、念のため、契約書の写しを置いていきます。私どもは、仲介業者として、御社の取引先がワッセナー条約にも外為法にも違反していたこと、それに御社がそれに最初から気づいていたこと……」

「嘘だ。わたしは何も知らなかった!」

「証拠はそろっています」

「みんなでっち上げだ」

「法廷では有効な証拠になります。違約金の三十億は期日までにお振り込みねがいます」

「そんなもの!」

「あ、それと、お嬢さんの留学。期日も過ぎていますので、今日お連れいたします。ご心配なく。C国は民主的な国です。そこで心ゆくまでご勉学にいそしんでいただきます。おい」

 Aは、三下Bに二階へ上がるように指示した。

 

「わたし、知らない男の人に部屋を見られるのはイヤなの」

 

 純子が、制服姿に旅行用のキャリーバッグを持って現れた。

「純子、何してんの! 二階で鍵を閉めてなさいって……」

「大丈夫、この人達の顔も立ててあげなきゃ。ね、そうでしょ。今日手ぶらで帰ったら、あなたたちだってただじゃ済まないんだものね」

「何を!」

 Bの目に、あきらかな動揺が見えた。

「じゃ、行きましょうか」

「フフ、もの分かりのいい、お嬢さんだ」

「おあいにく、顔を立てる以上のことをするつもりはないわ。じゃ、お父さんお母さん、行って来るわね」

「「純子(;゚Д゚)!」」

「用意周到、レンタカーね。闇バイトに借りさせて面は割れないようにしてるんだろうけど、純子を迎えに来るには、ちょっとしけてるわね、車もやり方も」

「すまないね、横浜までの辛抱だ。我慢してくれ」

「だったら、高速で行こうよ」

「高速じゃ、カメラに写るんでね」

「フフ、カメラ写りに自信がないんだ。でも、わたしは高速に乗りたいのッ!」

 ブィン!

 純子が、そう言うと、車は勝手にハンドルを切って高速に入ってしまった。

「ど、どうなってるんだ!?」

「兄貴、ブレーキを!」

「だめだ、ブレーキもハンドルも効かない!」

「アハハ、せっかくの高速なんだから、飛ばさなくっちゃ!」

 ブィーーン!

 車は、急加速して、百八十キロまでスピードが上がった。

「こんなに飛ばしたら、警察が……(;'□')」

「大丈夫、スピードレコーダーやカメラのあるとこじゃ、法定速度で行くから」

 と言う間に80キロまでスピードが落ち、三下A・Bの胸にシートベルトが食い込んで肋骨にヒビが入った。そうやって、加速と減速を繰り返して横浜の波止場に着いた。

 

 しかし車は止まらない。

 

 ブィーーンキュルキュル! ズィーーンキュルキュル! ブォーーンキュルキュル!

 岸壁で、完ぺきなカースタントを何度も繰り返した。

「あいつら、張り切りすぎだぜ……」

 C国の大型偽装船のボスは、部下の張り切りように苦笑いした。部下の三下A・Bは、それどころではなかった。肋骨全てにヒビが入り呼吸も困難になってきた。

 純子に化けた友子は、手下たちの首筋を噛んでおいた。手下たちは吸血鬼かと恐れたが、友子は傷口からナノリペアーを二人の体内に注入した。これで、世界中のどこに隠れても居所が知れる。

「お、おたすけ!」「やめてくれぇ!」

「そんなんじゃ、ディズニーランドのジェットコースターも無理ね。いいわ、一瞬減速するから、飛び降りて」

 ヘタレ三下が、命からがら飛び降りると、車は急加速して岸壁を越え、大型偽装船のドテッパラに突っこんだ。激突の寸前に友子は飛び出し、両腕のジュニア波動砲をレベル3でぶちかました。

 

 ドッガーーーン!!

 

 人が見たら、車に仕掛けられたTNT火薬かなにかが爆発したと思っただろう。

 波動砲をかました直後、ブリッジにいるボスの顔が目に入った。殺意と憎しみが滾り頭の血管が切れる寸前だ。

――やりすぎた(^_^;)――

 友子は、怒りに開きっぱなしになったボスの口に唾を飛ばしてナノリペアーを送り込んだ。

 

 友子は、その足で純子の部屋に戻った。

 

「明日から学校に来ても大丈夫よ」

「トモちゃん、リストカットでもやった?」

 紀香が冷やかす。

「あ、ちょっとこすっただけ」

 友子が、一撫ですると傷はきれいに無くなった。

 

 明くる日、C国の大型偽装船の爆発事故と、それに積まれていた長峰興産の商品が発見され、大規模な輸出サギがあることがわかり、長峰興産の無実が証明された。船長以下乗組員は取り調べを受けたが、そこにボスの姿は無く、せっかく助けてやった三下A・Bは水死体で横浜港に浮かんだ。

 そして明くる朝、友子の教室には長峰純子の元気な顔があったのだった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        長欠のクラスメート
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

くノ一その一今のうち・74『王妃と会食』

2023-09-06 11:08:37 | 小説3

くノ一その一今のうち

74『王妃と会食』そのいち 

 

 

 会食も半ばを過ぎて王妃様は、おもしろい話をされた。

 

「ハワイの王さまが日本のプリンセスを王子の嫁を迎えようとされたのはご存知ですか?」

 わたしとまあやは初耳で、大人たちは――ああ、あのお話か――という顔をしている。

「さすがにご存知のご様子だけれど、ここはわたくしに……」

「はい、わたしもうる憶えの話ですので」

「どうぞお聞かせください」

 二人の社長は、さすがにソツがない。

「ハワイ王朝末期、明治大帝がご存命だったころ、王さまが日本を親善訪問されて、王さまは『よろしければ、日本のプリンセスのお一人を王子の妃に迎えたいのですが』と大帝に切り出されました。大帝も『それは良いお話です』と喜ばれ、宮内省は内々に皇族のお姫様方の中で適任はいないかと探しにかかりました。惜しくも、その後ハワイはアメリカに併合されて立ち消えになってしまいましが、実現していれば、きっとディズニーがアニメにしていたでしょうねえ『モアナとプリンセスの伝説』とか、ねえ、アデリヤ」

「アハハ、わたし、ジブリ世代でディズニーはあんまり見てないから(^_^;)」

「そうだったわね、じゃあ、うちの話はどうかしら」

「お母さま」

 アデリヤの目が泳いだ。

「うちの五代前の国王は『うちが、ハワイ王の夢を実現しよう!』と、言い回しはいいのだけど、パクリを狙ったんです」

 パクリ(^_^;)

「しかし、度重なる戦争で立ち消えになり、パクリは実現しませんでした。そして、大東亜戦争に日本が敗北して日本の公使が帰国することになったんです」

 微妙に話が飛んだ。

「お母さま、そろそろお昼寝の時間じゃないかしらぁ」

「夕べは一時間余計に寝ておいたから大丈夫よ」

「はい」

「ところが、帰国する間際になって公使が使ってらっしゃったメイドが病気になってしまい、公使はメイドを一人残して日本に帰って行きました。公使といっても捕虜同然だったから仕方がなかったのね」

「先々代の国王夫妻は、このメイドを憐れに思われて、我が国の国籍を与えて看病なさいました。そして二年療養してすっかり良くなると、王子が、このメイドを見染てしまいました。国王は『彼女は日本人なのだから日本に帰してあげよう』と王子を諭しました。しかし、調べてみるとメイドの家族は戦争で全員亡くなっていて、彼女は帰国しても身寄りが一人もいないことが分かったんです」

「まあ……(o; )

 まあやが、もうウルウル。

「それで、そのメイドは我が国の人間として大臣の養女にした上で王子の妃になりました。そして生まれてきたのが、いまのわたしの亭主というわけです。思いがけず、パクリが成功しました」

「え、えと、妃殿下!」

「はい、まあやさん?」

「いまのお話って、国家機密なんじゃ……(;'∀')」

 そうだろ、王家の血筋に外国人の血が混ざってるって、ちょっとヤバイ話だ。

「はい、でも、みんな知っています。そして、とても大事にしていますのよ」

 

 程度の差はあるけど、みんな王妃さまの話に感銘を受けて、我々は指定された自分の部屋に入った。

 

 部屋に行くと、わたしのベッドの上に日本からの航空便が届いていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・9『空飛ぶ女子高生』

2023-09-06 06:56:57 | 小説7

RE・友子パラドクス

9『空飛ぶ女子高生』 

 

 

 カキーーーン!

 

 友子の投げた球は紀香によってホームラン間違いなしの当たりになった!

 友子は全速で球を追いかけ、グラウンドの対角線方向で練習している野球部のところまで追いかけ、バックスタンドと仮定していたバックネットのところで大ジャンプ。バシッっとグラブの音と手応え。勢いでジャージはブラが見えそうなところまでずり上がり、形のいいオヘソが野球部員達に丸見えになった。

 ナイスキャッチ! パチパチパチパチパチパチ(^▽^)

 野球部の諸君から、拍手と賞賛が送られた。

「どーも、すみませんね。本職の邪魔しちゃって(^_^;)」

 友子は頭を掻き掻き、自分たちのダイヤモンドに戻り、ボールを投げ返した。

「オーライ、オーライ……」

 そう言いながら、妙子は少し後退してボールを追う。

 パシ 

「取れたぁ!」

 妙子は、ウサギのように飛び上がって喜んだ。

 

 まるで、本物の野球をやってるみたいだ。

 

「今のを、無対象演技って言うんだ」

 白い歯を見せながら紀香は、妙子から見えないボールを受け取った。

「トモちゃんが入ったら、とたんにボールが見えるようになった」

 あたりまえである。紀香も友子も義体である。だから無対象の見えないボールでも。相手の投球や打球を見て、瞬時に弾道計算をして、着地点に走り、ボールを球速に見合ったリアクションで取る。
 おまけに打ったときや、球を捕ったときの「カキーン」「バシッ」ってな擬音までついている。妙子も、それにつられて目が慣れて、有るはずもないボールが見えたような気がしたのである。

 あとは、三人でダチョウ倶楽部のコントの真似や、AKBの『フライングゲット』やら、自分たちの学校と同じ名前のアイドルグループのパフォーマンスを練習した。これも、義体である友子と紀香には朝飯前。取り込んだダチョウ倶楽部やAKBのパフォーマンスを、そのままやればいいのである。

 さすがに声まで変えることはしなかったが、呼吸や動きはダチョウ倶楽部のままである。まるで森三中がダチョウ倶楽部のモノマネをやったような出来である。

 AKBではさらに勢いづき、友子がM田敦子。紀香がO島優子を完ぺきにコピー。調子に乗って声のボリュ-ムをマイク並にしたので、グラウンド中に響き、そのそっくりぶりに、グラウンドで練習していた運動部の諸君が手を休めて見入ってしまうほどであった。妙子は並の人間ではあるが感化されやすい性格で、声のボリュームだけは及ばなかったものの、S原程度のスタンスを維持できた。

 

「すごっい、今日のは入部して一番おもしろかったです( *´▢`* )!」

 妙子の興奮は着替え中も冷めない。

「よかった、タエちゃん、このごろ練習してても引きがちだったもんね」

「そりゃ、白石先輩一人だけすごいんだもん。部活に来ても凹みますよ」

「でも。トモちゃんもすごいよね。タエちゃんを、あそこまで、その気にさせちゃったんだから」

 紀香は、義体としても友子の力はすごいと思い始めていた。

「でも、演劇部のノリって、あれでいいんですか。お芝居の練習とか」

 友子はマットーな質問をした。

「いいのよ、今時ハンパな創作劇を五十分も我慢して見てるのはオタク化した演劇部だけ。これからの演劇部は違う線狙わなきゃだめだと思うの。演劇の三要素知ってる?」

「えーと?」

 と、妙子。

「戯曲、観客、俳優」

 友子があっさり答えた。

「そう、わたしは、この戯曲をもっと幅のあるものに解釈したいわけよ。硬いドラマだけじゃなくTPOに合わせたパフォーマンスにしたいの。今日やった野球の無対象やらモノマネでも、練習中の運動部の手を止めて観客にしちゃう力があるじゃない」

「わー、今日の白石先輩カッコイイですぅ(#^0^#)!」

「いやー、アハハ」

 

 などと言っているうちに駅前までやってきた。

 

 昨日までタイ焼き屋があった店は閉められていて、○○不動産の看板がかけられていた。

「今度は、どんな店ができるんだろうね」

「駅前にはファストフ-ドのお店が少ないから、その手の店が入るんじゃないかしら」

 友子は、駅から半径百メートルの地図から検索して推論した。

「まあ、我らが新生演劇部のように、先を楽しみにしておこうか」

「オオ、新生演劇部! 新生ファストフ-ド!」

 気炎を上げて地下鉄の駅に向かった。改札に入ると妙子は下りの、友子と紀香は上りのホームに向かった。

「ちょっと付き合ってもらえません」

「友子、そういう趣味?」

「茶化さないで。マジな話なんです」

「どんな?」

「うちのクラスに長峰純子って、長欠の子が居るんです……」

「ちょっと、こんぐらがった事情がありそうね」

「ここからだと、ちょっと距離があるんですけど」

「じゃ、地上からいくことにしょうか」

 二人は、次の駅で降りると手頃なビルの上にジャンプし、時速百キロで街を駆け抜け、5分ほどで、長峰純子の高級住宅についた。

 二人の姿は、たまたま残業していたサラリーマンが目撃し動画サイトに『空飛ぶ女子高生』のタイトルで投稿したがAIに作らせたんだろうと叩かれた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛 聡         クラスの委員長
  • 王 梨香         クラスメート
  • 長峰 純子        長欠のクラスメート
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・051『短縮授業最後の日』

2023-09-05 11:41:49 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

051『短縮授業最後の日   

 

 

 地味なニュースなんですけどね……

 

 短縮授業も今日で終わりという三時間目は二学期初めての自習。

 なんだけども、だれも自習なんかしてなくて、図書室に行ったり、教室でグターっとしている。むろん、わたしもグター組で柱の陰の席で下敷きをパタパタさせてダレている。

 そこに、オデコに汗粒を浮かべながらも生き生きした表情でやってきたのは情報オタクのロコだ。

「ええ……なにい……」

 エアコンなしでは生きていけない令和少女のわたしは、ドロリと顔を起こす。

 ニチャ

 顔と一緒に動かした腕は机の上に汗の魚拓ならぬ腕拓を残した。

 みっともないので、ポケティッシュを出して腕拓を拭いて――しまった、1970年にポケティッシュは無かった――と気づいてソロリと仕舞う。

「これなんですよ!」

 ロコご自慢の情報ノートが開かれる。

 ノートには1970夏と書かれていて、新聞や雑誌の切り抜きがていねいに貼り付けられている。もう見慣れたけど、ロコの意欲はスゴイよ。この子にスマホとかパソコンとか使わせてあげられたらと思う。

「どれどれ……」

 ロコが指差したのは――心臓移植手術の和田教授不起訴に!――という記事だ。

「一時は殺人罪とか言われてましたからねぇ、これで日本も一歩前進ですよ!」

「ああ、そうだね……」

 返事しながら記憶を探る。令和の時代はドナーカードとかもあって、保険証の裏には――いざという時には臓器移植してもいいかい?――的な選択肢があったような気がする。

 でも、そんなに普及はしてないかも。令和でも身内に重篤な心臓疾患の者がいない限り、意識は高くないと思う。

「あらあ、あなたたちも興味あるの!?」

 真知子がロコの後ろから迫ってきた。

「はい! え、ああ、そっちの方ですか」

 真知子もかと思ったら、彼女の視線は違う切り抜きを向いているのに気付いたロコ。

「これは、よく分からないんですよね……」

「ええ、ウーマンリブだよ。この夏最大のニュースだよ!」

 二人が見ているのはミス・アメリカのコンテストに反対した女なの人たちのデモが起こって、アメリカのメディアがウーマンリブと呼んで注目されているという小さな記事。

「ロコはさ、お祭りとか技術系のニュースにしか興味ないと思ってたけど、やっぱ意識高いんだね」

 なんだか真知子は、ロコをより深いところで仲間認定したみたい。

「いやぁ、とりあえず珍しいのは切り抜いちゃうんで、よく分かってないんです」

「ううん、なかなかのもんよ、ロコのアンテナは……うん、そうだ!」

 

 なんだか閃いた真知子は、教室を飛び出して、どこかに行ってしまった。

 5分ほどして帰ってきた真知子は、さっきよりも目をキラキラさせ、後の黒板になにやら書き始めた。

―― 9月12日(土)放課後応接室にて『みんなで楽しく語る会』をやります! 会場:応接室! ――

「なんですか『みんなで楽しく語る会』って?」

 さっそくロコが聞きにいく。

「まえから考えてたんだけどね、部活とかじゃなくて、みんなで気楽にお喋りできる集いみたいなのができないかと思ってたんだ」

 たみ子がロコの頭の上から質問する。

「でも、来週って、まだまだ暑いよぉ」

「それがねぇ、夏休み中に工事されて、冷房完備になったのよ!」

 冷房完備ぃ!?

 教室の八割がたがこっちを向いた。

「PTAがクーラーを寄付してね、とりあえず応接室に付いたのよ。PTAは電気代までは出してくれないから、とりあえず、使用頻度の低い応接室に付けたみたい」

「それはいいですねえ!」

「話題はね、出たとこ勝負。みんなが食いつきそうな話題を投げかけて、あとは流れ次第で千変万化」

「いいですね!」

「面白そうね!」

 ロコとたみ子が正月の飾り餅みたいになって賛意を表明。

「あたしは部活でだめだなあ」

 万博いくのに休んだので佳奈子はダメっぽい。

 他にも何人かがこっちを向いてくれている、10円男はそっぽ向いてるけど。

 

 帰り道、商店街を通ると電器屋のショ-ウィンドウに見慣れた顔が映っている。

 こっちにはお尻を向けているけど、MS銀行のアイさん。

 視線を前に向けると不法駐輪の自転車の間につくも屋のマイさん、駅前書店のレジには寿書房のミーさんが潜んでいた。

 

 え、わたし、今日も狙われてる?

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

   

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・8『乃木坂の白い雲』

2023-09-05 06:59:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

8『乃木坂の白い雲』 

 

 


 連休明けの空にポッカリ雲が浮かんで、乃木坂を学校へ向かう友子は見とれてしまった。

 義体になる何年か前に、両親に連れられていった遊園地のことを思い出していた。

 いま父をやっている一郎は、まだ保育所。ちょこまかとよく動く子で目が離せなかった。友子は、面倒なガキだと思いながら、姉として弟への愛情は十分持っていた。だから遊園地で一郎が急に走り出し「コラぁ!」と言って、背中のリュックを掴まえバランスを崩し姉弟重なって芝生に転んだときも、じゃれ合いながらケラケラ笑えた。その時も、こんな雲が浮かんでいたなあ……そう思ったら、歩道の敷石につまずいて、前を歩いていた担任の柚木先生のお尻を掴んでしまった。

「ウワ[ *Д* ]!」「キャー(≧◇≦)!」

 ダブルの悲鳴に、通学通勤途中のみんなが注目した。

「また、あなたぁ!?」

「あ、すみません。つい雲見て思い出にふけっていたもので……」

「鈴木さんねぇ」

「あ、でもでも、先生って、いつも生徒が危ないというところにいらっしゃるんですね! 偉いです! 教師の鑑です!」

「うう……嬉しいけど、今度は他の先生にしてちょうだい(≧ヘ≦)」

「はい、すみません」

 先生は、さっさと先を急いで行ってしまった。

「どうだった、柚木先生のお尻の感触は?」

 気がつくと、クラスの委員長大佛聡が、落っことしたカバンを拾ってくれてニヤニヤしている。

「その質問はセクハラよ、オサラギサトシ君。委員長としても問題ありだな」

「お、名前、覚えていてくれたんだな、正確に。たいがいのやつはダイブツソウとか読んじゃうんだぜ」

「カバン拾ってくれてアリガト!」

 そう言って、友子はさっさと歩き出した。

「おい、待ってくれよ!」

「まったねえ!」

 友子は、競歩の試合なら世界新のスピードで校門へ向かった。大佛も走って追いかけてくるほどのバカではないようだ。

 

 まだ自分の力がコントロールできていない。

 

 昨日は外交官を危機から救って、ネットへの介入と瞬間の指技と擬態の能力があることが分かった。スゴイと思ったら、さっきみたいにズッコケる。初日は敵を誘い出すための計算した行動だったけど(それで白石紀香は姿を現したけど、もう、敵などという状況ではないことが分かった)今のは完全な不可抗力。どうやら、自分の中にはいろんなモードやスキルがあるようだけど、その種類も切り替え方も分からない友子だ。

 クラスはおろか、この二日あまりで見た生徒や先生の情報は全て記憶してしまった。今も大佛聡の情報が一瞬頭に浮かび、彼が一番好意を持つようなリアクションをしたことなど、友子の意識の中にはなかった。

 これは、デフォルトの親和的プログラムのなせるワザで、三十年ぶりに人と接することができる喜びから増幅されたものだ。本来宿敵である白石紀香が敵ではなく、当面は誰とも戦わずに済むという安心感もプラスになっている。

 

 放課後までには、ほとんどのクラスメートと仲良しになってしまった。

 

 六時間目に柚木先生が授業に来たが、歩き方が微妙におかしい。他の生徒は気づかないが、先生のニュートラルな歩き方を覚えてしまった友子には分かった。朝、友子が掴んだお尻が、目を透視モードにすると青あざになっていることが分かった。

 少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 同時に、先生の気持ちに曇りがあることにも気づいた。

 先生は空席になっている長峰純子という生徒のことが気に掛かっているのだ。

 入学して一週間ほどで来なくなった子だ。電話や家庭訪問をくり返しているがラチがあかないようだ。柚木先生の記憶を基に長峰純子の情報を取り込んだ。長峰興産という大きな会社の社長の一人娘だ。するとネットを介して長峰興産の表と裏の情報が頭に流れ込んできた。

 え、ええ……!?
 
 その情報に友子は慄然とした。

「鈴木さん、十五ページの漢文読んでみて」

 柚木先生が、ボンヤリしている友子に当てた。目の奥には若干の意地悪が籠もっていたが気にもならなかった。

「はい……渭城朝雨潤輕塵 客舎青青柳色新 勧君更盡一杯酒 西出陽關無故人」

 教室中がシーンとなった。

 王維の『送元二使安西』を完全な中国語の発音でやってのけてしまったのだ。

――しまった(-_-;)――

 そう思った時は、華僑の生徒である王梨香(ワンちゃん)が一人感動の眼差しで見つめている。

「鈴木さん。中国語できるの……?」

「あ…………NHKの中国語講座で、ちょっと」

「汝会说汉语! あ、あなたとっても中国語がうまいわ!」

 梨香(ワンちゃん)が感激のあまり、中国語と日本語で賞賛した。

「じゃ、ついでに訳してもらおうかしら」

「は、はい。渭城の朝の雨が軽い砂埃を潤し旅館の前の柳の葉色も雨に洗われて瑞々しい。君にすすめる。昨夜は大いに飲み明かしたが、ここでもう一杯飲んでくれ。西域との境である陽関を出れば、もう友人は一人もいないだろうから……アハハ、こないだ中国語講座で出てきたとこなんです」

「ああ……こ、ここの解説は、又今度にして、白楽天にいきます!」

 やってしまった。と、反省しきりの友子であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛 聡         クラスの委員長
  • 王 梨香         クラスメート
  • 長峰 純子        長欠のクラスメート


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 141『信長版西遊記・山が落ちてきたウキ!』

2023-09-04 15:11:35 | ノベル2

ら 信長転生記

141『信長版西遊記・山が落ちてきたウキ!信長 

 

 

 ドオオオオオオオオオオオン!! グラグラグラグラグラグラグラグラ!!

 

 天地がひっくり返ったような衝撃に馬ごと跳ね上げられ、着地したかと思うと、煎り豆のように激しく揺すられる二人の相棒。

 ブヒヒイイイイイイ! カカッパパパパパパパア!

 ダダダダダダダダ……………ぶ……っかぁ!?

「だ丈夫か!?」と叫んだつもりが、こちらもきちんとした言葉にはならない。

 どころか、もうもうとした砂煙に、まともに目も開けていられない。

 

―― イライラするねえ! こんなんじゃ目を開けていられないだろうが! ――

 

 はるか上空で声がして、俺は寒気がした。

 この寒気は予感だ、同時に叫んだ。

「ウキイイイイイイ!!」

 咄嗟に出た叫びは猿語だ、意味は「ヒラメみたいに伏せろ!」なんだが通じたか?

 この寒気は、近江の千草越えの折りに杉谷善寿坊に狙撃される直前に感じた寒気以上だ、とても禍々しいものが来るぞ!

 

 ビョオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 平手の爺が教えてくれた、過ぐる元寇の折りに吹き渡った神風の百倍はあろうかという大烈風!

 こんな風が吹いては、もう、自分の指の先も見えなくなるだろうと思った。

 ところが、大烈風は器用に砂煙だけを吹き飛ばし、あたりを元日の朝のようにクリアーにした。

 二人は大丈夫かと思うと、砂に四本の脚……馬の脚だ。

 そうか、八戒と沙悟浄は馬ごと逆さまに落ちて埋まってしまったのか!

 助けなければ……と、思ったら、足の周囲がゴソゴソ動いて、馬ぐるみひっくり返って二人が姿を現した。

「ひどい目に遭ったブヒー!」

「砂まみれッパ、あ、悟空も無事だったッパ?」

「よかったブヒ……あれは、ブヒ?」

 落ちてきた巨大なもののその上に、ヒラヒラと舞っている天女のようなやつがいる。

 

「ようやく気が付いたかい、間抜けなやつらだ。やっぱり、間抜けなおまえたちに、この三蔵法師はもったいなさすぎるねえ」

「あ、お師匠さまだブヒ!」

 巨大なものからひらひら浮いてくるものがあると思ったら、天女の小脇に挟まれニコニコと合掌したままの三蔵法師。

「あれを取られちゃ、まずいッパ!」

 オブジェと気づかれたらゴワサンだ。

「そんなに狼狽えるんじゃないよ。この三蔵は、他の坊主たちといっしょに煮込んで、この羅刹女さま専用の美容液にしてやるんだからね。クソ坊主どもにどんな効き目もあるもんかと思っていたが、玉門関で黄風大王をぶちのめした力はなかなかのもんだ。見直してもらってありがたく思いな。さあ、あとは頼んだよ!」

 誰に言ってる?

 思ったとたんに山が動いて、気が削がれる。

 

 グモオオオオオオオオオオオオオオ!

 

 山が吠えた!?

 

『ここからは、このわしが相手だあ!』

 

「「「山が口をきいたウキ! ブヒ! ッパ!」」」

 

 山の頂上がグルッとまわったかと思うと、それは巨大すぎる牛の頭だった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・7『友子の連休』

2023-09-04 07:51:41 | 小説7

RE・友子パラドクス

7『友子の連休』 

 

 


 こどもの日の朝、春奈はゴルフに出かけ一郎は家事にいそしんでいる。

 詳しく言うと、母の春奈は大阪の大手デパートとの契約のための接待ゴルフ。父は新しいルージュの開発プロジェクトのアイデアを練っている。
 父の一郎は、家事をやっているときが一番思索に集中できるのだ。祖父(一郎の父)が早く亡くなり、祖母(一郎の母)が認知症で家事が出来なくなってからの習慣というかクセというか。

 最初はやらざるを得ないからだったが、何事にも打ち込む性格。やがては研究と努力で上達するのが生きがいになり、今では家事のアレコレをこなしている時がもっとも頭脳明晰で、行き詰まっている仕事の打開策やアイデアが閃くのが家事の時間であったりする。テレビでは朝のワイドショーの真っ最中で、売り出し中のアクション女優が技を披露しながらインタビューを受けている。ノリノリで「アチョー!」とか真似しながら洗い物を片付ける一郎。

 
「一郎、そんなに根詰めるとバテちゃうよぉ……」


 二階から降りてきた友子が、パジャマのままでリビングの一郎に声をかけた。食器を整理していた一郎が手を休めて不足そうに言う。

「こうしてるときが一番なんだ。体が家事に集中しているとき、感性がもっとも研ぎ澄まされる。トォー!」

「そりゃそれでいいけどさ……なんだか、申し訳ないわね。わたしの三十年の不在が、一郎に、こんなクセつけさせたんだよね、オリャー!」

「ハオ! 姉ちゃんのせいじゃないよ。あの訳の分からない未来の組織が悪いんだし、俺的には楽しんでるし、気にすんなよ、アイヤー!」

 その未来の組織が利権化して、この三十年の不在には意味が無いんだ……とは言えず「チョワー!」と受ける友子。

 二人で次のアクションのポーズをとった時、ピンポーンとドアホンが鳴った。

「あ、回覧板ですか?」

 と、一郎が応えたときには、友子が玄関を開けている。

「すみません、こんな格好で(^_^;)。回覧板ですね」

「あ、あなたね、今度やってきた娘さんてのは?」

 森久美子というか森三中というか、気のいいオバサンが気楽に声をかけてきた。ちなみに、このオバサンも森さんである。

「はい、友子っていいます。本当は遠縁なんですけど、事情があって義理の親子やらせてもらってます」

「事情……」

「あ、両親が亡くなったんで、こっちのお父さんは、亡くなった父の従兄弟の子……って、ちょっとややこしいですけど(^_^;)」

 友子は、務めて明るく言った。こういうときの友子は、とてもいい子に見える。

「……そうだったのぉ。ごめんなさいね、立ち入ったこと聞いちゃって。お隣同士だから、なんかあったら遠慮無く」

「ありがとうございます……あらあ、近頃空き巣が多いんですね」

 回覧板を見て、友子が眉を顰める。

「そうよ、先月は町内で三件も。ぶっそうね」

「あ、お父さん、ハンコ!」

――オリャー――という声がして、一郎が出てきた。

「あ、どうも森さん(^_^;)。うん、姉ちゃん……」

 ハンコを渡す一郎に、森さんは目を見張った。

「ネエチャン……」

「あはは……わたし母親似なんで、お父さん間違えちゃった」

「あ、友子ちゃん。お隣にはオバサン持っていくわ。起きたとこなんでしょ?」

「あ、すみません。つい連休なんで油断しちゃって」

「その年頃は眠いものよ。じゃ、またよろしくね」

 気のいい森さんは、その足で隣の中野さんの家に回覧板をまわしに行ってくれた。

「気をつけてよね。人前では、ちゃんと友子っていうこと」

「え……言わなかったっけ?」

「言ってない」

 友子は、さっきの会話を再生して一郎に聞かせた。

「ありゃりゃ……」

「こうなったら、二人きりの時でも親子でいこうか。とにかく慣れだから……ん?」

「どうした、姉ちゃ……友子?」

「中野さんちは留守だよ。朝出かけるの確認済み。森さんも郵便受けに回覧板置いていった……なのに、人の気配?」

 思いついたときは庭に出ていた。塀を一跳びすると、中野さんのリビングで物色している空き巣に気づいた。そのまま中に踏み込んでは、リビングをめちゃくちゃにしてしまう。

 そこで、友子は音もなくサッシを開けると玄関に周った。

「なにしてんの、人の家で!」

 ヒ(゜д゜)!

 空き巣は、いきなりの声に、思惑通り庭に面したサッシから外に逃げた。

「待て!」

 ウギャ!

 空き巣は、あっけなく中野さんちの前で友子に取り押さえられてしまった。

「森さん、空き巣。警察呼んで!」

 空き巣は十万馬力の友子に押さえられて身動きもできず、あっさり、駆けつけたお巡りさんに捕まえられた。

 そして、たまたま近所にロケにきていたテレビ局が、これをスクープにしてしまった。

「いやあ、火事場の馬鹿力ですぅ(^_^;)」

 友子は可愛くかわしておいた。

 ただ、夕方のニュースで映し出された友子はパジャマ姿のままで、第二ボタンが外れ、危うく胸が見えてしまいそうであった。


 明くる日の代休。


 家族三人で新宿に出かけた。そして、ここでも友子は事件に巻き込まれてしまった。

 なんと、非番の外交官が某国の陰謀に嵌りかけているのだ!

 外交官は相手をただの商社員と思っている。そばには高級車が停まり、すごい美人が寄り添っていて、ハニートラップの最終仕上げのようだ。

――よし!――

 自分も陰謀の末に一度は殺された、見捨てるわけにはいかない。

 二つのサーバーに侵入、二秒で細工。

 小走りで外交官の後ろに近づいて声をかけた。

「まあ、先生。こんなとこで何やってるんですかぁ?」

 まるでゼミの学生が街で教授に会ったような感じで寄って行く友子。

「「先生?」」

 被害者と加害者が、同時に不審な顔で友子を見た。同時に三人のスマホが鳴る。

「緊急連絡っぽいですね、出なくていいんですか?」

 そういうと、三人は、それぞれスマホを取りだした。

「え!?」「なに!?」「こ、これは!?」

「あなたたちのスパイ行為、ハニートラップ、証拠写真、資料、経歴、載っているのはあなた方のスマホだけじゃないわ。たったいまSNSで世界中にばらまいちゃった。公安にはダイレクトで伝えたし」

「くそ!」

 男がとっさに催涙スプレーを出したが、友子は手首を取ると、男の手首をへし折って取り上げ、ごく微量を男と女の目に吹き付けた。

「ギャ!」「ウギ!」

 そして、車のタイヤに蹴りを入れてパンクさせつつ内ポケットの薬の成分を変換、通りかかったタクシーを止めて、そのスジまで送るように頼んだ。二人がもがきながらも懐の薬を呑んだのを見届けて「よしよし」と頷く友子。

 急にぐったりした客に怯える運ちゃんに「寝てるだけですからぁ」と笑顔で見送って8秒という手際の良さ。

「○○さん。外交官としては、もうおしまいだけど、あの人達みたいに命に関わることはないから。あ、わたしが殺すんじゃないわよ。いま二人が飲み込んだのは、ただの清涼剤。青酸カリは預かった。それから……ああ!?」

 声を上げると、つられて上を向く外交官。その口にすかさず一粒放り込む。

「ング……なんだこれぇ(;'∀')」

「ミント味の睡眠薬……あら、もう寝ちゃった」

 もう一台タクシーを見送って、ショーウインドに映る自分の顔にびっくりした。

 昨日テレビで見たアクション女優にそっくり。

 自分にネットへの介入と瞬間の指技と擬態の能力があると知った瞬間だった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田 麻子        友子のクラスメート
  • 池田 妙子        友子のクラスメート
  • 徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
  • 森さん          お隣りさん
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・431『新学期が始まったんやけど』

2023-09-03 10:00:43 | ノベル

・431

『新学期が始まったんやけどさくら   

 

 

「それでは、移動になられる先生方を紹介します」

 

 長い訓話のあと、校長先生は紅白の司会者みたいに舞台袖をさし示した。

 先生の移動は四月と決まったもんやけど、たまに年度途中のことがある。たいていは紹介だけで終わるんやけど、都合が合うときには本人が挨拶しはる。

 

 え…………!?

 

 出てきた若草色のワンピースにビックリした。

 ペコちゃん先生!?

 校長先生の話に、俯き加減やった生徒たちの顔が上がる。

 年度途中の若い女の先生の移動は、たいてい、いわゆる寿退社。ピーナツの殻を見ただけでお目出度を連想してしまうお年頃。

 せやさかいに――先生、結婚しはるんや!――と思てしまう。

 早手回しに拍手しかける子ぉもおるんやけど、まあまあと制してペコちゃんが口を開く。

「みんなが期待しているようなことではありません(^_^;)。じつは、年度途中ではありますが、不肖月島さやかは進学のために退職することになりました」

 進学? 斜め上の切り出しで、ますます生徒らの興味が高まってくる。

「承知している人もいるでしょうが、わたしの家は、学校の北にある月島神社です。休みの日には、いわゆる巫女服で、境内を掃除したり、お御籤の番をしていたりしているするので知っている人もいるかもしれませんね」

「あ」という声が上がる。

「神社の娘がミッションスクールの先生をやらせてもらって、ほんとうに感謝です。日本は、文化も宗教も平和共存が成し遂げられている珍しくて素敵な国です。共存できているのは、日ごろのみんなの理解と努力があったからです。だから、聖真理愛の先生方や生徒のみなさん。そして、なによりも見守ってくださったマリア様や八百万の神さまたちには、ただただ感謝です。このたび、わたしは宮司、つまり神主ですね。その勉強をするために大学に行くことになりました。卒業したら、赤い袴を水色に替えて、時どきはハタキの親分みたいなのを持って『かしこみかしこみ』ってやります。しばらく大阪を離れますが、二年後には、また神主で神社に戻ってきます。この中には、前任の中学からいっしょだった人も居ますが、こんなわたしによく付いて来てくれました。ほんとうにありがとう。それではお互い、同じ日本のどこかにはいるわけです。これからも、おたがいがんばりましょう!」

 深々とうちらに、そして舞台奥のマリアさまに頭を下げて引っ込んでいかはりました。

 

 新学期のホームルームが終わるや否や、留美ちゃんが教室に来た。

 

 言わんでも分かってる、ペコちゃんに会いに行こと誘いに来たんや。

「「うん」」「…………」

 メグリンと返事して、ソニーは無言で、四人揃って職員室に向かう。

 留美ちゃんはうちと同様中学から、ソニーは高校に来て散策部の顧問として世話になった。

 顔を見て挨拶しとくのはあたりまえ、っちゅうか、なんで事前に言うてくれへんかったんや!

 先生、水くさいでという気持ち。

 

「あ、いま、理事長先生やらPTAの人やらに挨拶してらっしゃる」

 職員室で居合わせた体育の長瀬先生が――ペコちゃんどこやろ?――いう顔してるうちらに説明してくれる。

「さくら、だいじょうぶ?」

「う、うん、10分くらいやったら」

 けど、15分たってもペコちゃんこーへん。

「ごめん、もう時間ないわ!」

 後ろ髪ひかれる思いで駅に走る。

 3時にはスタジオに入って『宇宙戦艦三笠』の収録。

 

 そんで、この一週間、ずっと学校休んでしもた。

 いつも通り、宗武監督の仕事はジリジリ遅れて、そのまま東京に居続けですわ。

 9月3日、今日は、いよいよ『宇宙戦艦三笠』のオンエア。

 栄えある第一回『黎明の時』は、なんとか家のリビングで観ることができた。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・6『友子のスペック』

2023-09-03 06:56:08 | 小説7

RE・友子パラドクス

6『友子のスペック』 

 

 

 

 紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

 

「トモちゃんの娘が、アジア大戦を引き起こすんだ」

「え、ええ!?」

「五十年後の未来。トモちゃんの娘は、アジア大戦で極東方面のリ-ダーになって戦うんだ。最終的には極東地域の指導者になる。それをこころよく思わない人たちが、三十年前に大挙タイムリープして、首都高でトモちゃんとトモちゃんを助けた男、ケインて云うんだけど、いっしょに消そうとした。トモちゃんを消せば娘は生まれてこないからね」

「え、なんで!? ちょ、ちょっ待って。それなら、その子の父親を殺しても同じじゃない、そっちの方を」

「その子の父親は分からないんだよ、これがぁ(-_-;)」

「え、わたしって、そんなふしだら(#'o'#)」

「情報が欠落してるっぽい。はっきりしてるのは、トモちゃんが母親だってこと。でね、スーパーコンピューターのナユタで計算したらね、父親がだれでも、その子は生まれてくることが分かった」

「そんなぁ、ありえないっしょ! 父親が変われば、当然生まれてくる子は違うじゃん、いまどき小学生でも知ってるでしょーに!」

「それがぁ、トモちゃんの遺伝子は強力で、生まれてくる女の子は同じなんだ。トモちゃんの遺伝形質を80パーセント以上受け継いで、同じ行動をとる! どんな男とイタしても!」

「イ、イタしても(#^皿^#)って……あ? アハハハ、ヤダア、せんぱい! だいいちだいいち、わたしって義体だから子供なんてできなくなくない?」

「それが、できるのよ(-_-;)」

「え…………!?」

 友子は、思わずズッコケて、椅子からずり落ちそうになった。

「トモちゃんの義体は、義体技術と生命テクノロジーの結晶なんだ。あんたには生殖能力があるのよ……」

「うそ!?」

 ジィ…………

 紀香は、じっと友子の下腹を見つめた。

「そ、そんなマジマジ見ないで。恥ずかしいし(#><#)」

「トモちゃんの遺伝子情報は、トモちゃんが三十年前に息を引き取る前にCPUに取り込んである。それに合わせて生体組織ができてるから、そういうことも可能だそうよ……」

 友子は、蹲るように自分の下腹に手を当てて、頬を染めた。

「で、じつは、わたしの時代では、トモちゃんの娘は生まれてるんだけどね……」

「え、ええ! 生まれてるの!? いやだ、どうしよう。ね、どんな子!?」

「言えない、禁則事項だから」

「そんな」

「ただ、そんな世界的な指導者になる兆候は、まるでなし。アジアの情勢も落ち着いてるしね。ナユタ2で演算しても、可能性は限りなくゼロ!」

「じゃ、なんでわたしは……」

「そりゃあ、国家的な事業計画だもの。義体産業やら生命工学産業のメンツや利権が絡んでるから、今さら中止はできない」

「地球温暖化と同じ……」

「国連が主導してアンケートもとられたんだけど、アンケートに選択肢は三つだけ。『ある』『ない』『どちらとも言えない』とあって、『どちらとも言えない』は『ある』に集計されてるんだ。まったく温暖化のアンケートといっしょ。で、予算執行上止められない計画だから、一応カタキ役として、この白井紀香が派遣されてるってわけ……どうかした?」

「なんか、虚しくなってきた|||(-_-;)||||」

「まあ、10兆円もかけたプロジェクトだから、簡単に中止にはならないでしょ。それまで、どうなるか分からないけど、お互い仲良くやりましょうってことで。はい、ここにサイン」

「え……?」

「入部届!」

 友子は、しぶしぶ入部届にサインした。

「それから、トモちゃんの筋力は十万馬力。多分空も飛べる」

「鉄腕アトムか(^_^;)」

「あとのスペック、目力は強力」

「おとこ殺し?」

「スペシウム光線出るからね。両手首からはジュニア波動砲、発射の時は手首が百八十度曲がって発射されるから、手首の皮に切れ込みが入って、しばらくはリストカットしたような跡がつくけど、ナノリペアーが三十分ほどで修復してくれる。あとは、わたしにも分からないブラックボックスがいくつか。まあ、自分で、少しずつ覚えることね。はい、ちょうだい」

 入部届をふんだくると、紀香は保護者欄のところにサラサラと母親の春奈そっくりの筆跡でサイン。ハーっと親指に息を吹きかけると、書類に捺印。拇印かと思ったら、きれいに『鈴木』の三文判の跡。

「すごい、手品みたい!」

「一応これでも、トモちゃんのカタキ役。この書類今日中に出したら、目出度く部員三人で、同好会から正規のクラブに昇格さ。じゃ、連休明けからよろしく!」

 

 同窓会館を出ると、街はとっくに黄昏時。

 乃木坂を、ため息つきながら駅へ向かっていくと、紀香が電柱の陰から出てきた。

 

「え、どこから?」

「わたしだって、義体だよ。これくらいは夕飯前」

「プ、朝飯前じゃないの?」

「だって、夕飯前の時間でしょ。ちょっと待っててね」

 紀香は、道を渡って、タイ焼き屋に向かった。

「はい、入部祝い!」

 小倉あんのタイ焼きをくれた。ふと紙袋に目がいった。

「閉店特価……あのお店、閉店なんだ」

「うん、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』からの名物だったんだけどね……」

「そうだよね、理事長先生が、まどかたちのためにたくさん買ってきてくれたんだよね」

「そう、演劇部再出発の日にね。ヘヘ、ゲン担ぎ」

「おいしい……」

「それから、連休明けたら、いちおう先輩だから。言葉遣いとか、気を付けてくれると嬉しいかな」

「ラジャー(^^ゞ!」

 アハハハハ(^O^) ウフフフフ(≧◡≦)

 

 乃木坂に幼なじみが戯れるような影が長く伸びていった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田 麻子        友子のクラスメート
  • 池田 妙子        友子のクラスメート
  • 徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・2・005『ネルといっしょに』

2023-09-02 11:44:42 | カントリーロード

くもやかし物語・2

005『ネルといっしょに』 

 

 

 あ、ところで、なんで電話なんか置いてんのぉ?

 

 食堂からの帰り道、階段を上りながらネルが聞く。

 わたしの机の上には古い黒電話が置いてある。

 いまは通じなくなった交換手さんの黒電話。

 相手が普通の人間だったら「ただのディスプレーだよ」とか適当に言っとくんだけど、ネルはエルフだ。

 エルフってのは、そもそもファンタジーの住人だから、多少の不思議は分かるだろうと思って踊り場のところで立ち止まって話す。

「うちのご先祖に樺太の真岡ってとこで電話交換手をやっていた女の人がいたんだけどね……」

「カラフトのマカオ?」

「アハハ、マオカだよ(^_^;)」

 地名から説明しなくちゃならなかった。

 スマホで地図を出して、樺太がサハリンだというところから説明。

「え、昔は日本領だったんだ!」

 ネルは賢い子で、ざっと読んだだけで、樺太や北方領土の事情を理解してくれた。

「ふうん……ウクライナとかだけじゃなかったんだね、ロシアに領土取られたのは」

「それで、なんで、交換手の女の子は逃げなかったの?」

 交換手の女の人たちが最後まで逃げずに仕事して、最後は毒を呑んで死んだのは理解できないみたい。

 わたしも、うまく説明できなかったし。

 

「さわってもいいかい?」

 

 部屋に戻ると、さっそく黒電話の前に立った。

「あ、うん。なにも聞こえないけどね」

 すぐに受話器を上げるかと思ったら、ネルは、電話機の本体を愛しむように両手で挟んだ。

 お母さんが幼子の頬っぺたを触ってるみたいだ。

「この電話、まだ生きてるような気がするよ」

「え、そうなの?」

「うん、エルフはね、森の木を触ってね、こんな風に話をするんだよ。エルフは長生きだけど、森の木はもっと長生きだからね、いろんなことを話してくれる。この電話にも同じようなのを感じるよ」

「そ、そうなんだ」

「えい!」

「わ(#'〇'#)!」

 急に耳を引っ張られてビックリする。

「ヤクモも耳が伸びたら聞こえるかもぉ(^▽^)」

「も、もう、ネルったら(;`O´)o」

「アハハ、ねえ、探検に行こう!」

「え……でも、夕食後は就寝まで外に出ちゃいけないって……ほら、校則に載ってるよ」

 壁に貼ってある校則を指さす。

「それは学校の外って意味だろ、敷地の中なら構わないさ」

 

 構わないはずなのに、なぜ物置の窓から出るのかは聞かなかった(^_^;)。

 

 学校は王宮の敷地の中にあって、王宮の敷地は山手線の内側よりも広いらしい。

「王宮の敷地ってことで自然環境を護ってるんだ、いいアイデアだ……」

 敷地の半分近くを占めるヤマセン湖の岸辺で、一人ごちるネル。

「月が出ているのに霞んでるね」

「そうだな、この湖は面白いかもしれない……ん……森の中に何かいる」

「あ、ちょ……」

「走るな、気づかれる」

「と、言われてもぉ」

「ごめん」

 30センチは身長差があるので、とうぜん脚の長さも違う訳で、それに気づいたネルはゆっくりにしてくれる。

「ニュンペーだ、隠れるよ」

 ムギュ……押しつぶされそうになる。

「ごめん、力加減がむつかしい」

「ニュンペーって?」

「えと、ニンフのことだ……湖が、ここまで伸びてるんだな、無邪気に水浴びしてる」

「えと……見えないんだけど」

「ああ、ちょっとこっち向いて」

「ウ、なにすんの!」

 ヘッドロックされたかと思うと、右手で目をグリグリされる。

「ほれ、見てみ」

「わあ……きれいな子たちだねぇ」

「よかった、ヤクモは怖がらない子なんだ」

「あはは、以前はふつうに見えてたからね」

「そうか、そうだろうね……でも、ここの敷地は広い。悪い奴もいるかもしれないから深入りはしないようにしよう」

「そだね」

「ちょっと、待ってて」

「え?」

 深入りしないようにって言ったばかりなのに。

 

 ネルは、どんどん森の中に入っていくとニンフのセンターみたいな子と親し気に言葉を交わした。

 なにを話しているんだろう?

 ケラケラ笑って、ちょっと羨ましいかも。

 え、ネルがこっちを指さして、ヤバイ、みんなこっち向いたぁ!

 

 シューー

 

 風が吹くような音がしたかと思うと、ネルが戻ってきている。

「裸眼で見えるようになったら会いにおいでってさ」

「裸眼?」

「ほら、グリグリ。100回瞬きする間だけ妖精とかが見えるんだ」

「あ、そうなんだ」

 試しに森の奥を見ると、もうニンフたちは見えなかった。

「気になることを聞いたよ」

「え、なに?」

「実は……ヤバイ、誰か来る。こっちから逃げるよ!」

「ちょ、ネル!」

 

 どこをどう通ったのか分からないルートで部屋に戻る。

 お風呂に入ったら、あちこち蚊にかまれていたよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・5『宿敵 白井紀香!』

2023-09-02 06:44:17 | 小説7

RE・友子パラドクス

5『宿敵 白井紀香!』 

 

 

 最初は雑電を拾ったのかと思った……。 
 
 わたしの義体はかなり高性能で、自分でもスペックの全ては分からないくらい。

 だから、聴覚の点でも、ボンヤリしていると、携帯電話やテレビの電波を拾ってしまって混乱する。人の感情も微弱な電波になるので拾ってしまう。一応フィルターがかかっていて、重要でないものや、無害な物は受信感度を下げて無視というか、一種の環境音と割り切る。

 

『雑電じゃないわよ』

 

 フィルターをかけ直した後、はっきりした意思として伝わってきた。

「だれ……?」

『言葉にしない。思うだけでいい』

『だれ!?』

『あなたの宿敵……』

 シュワッ!

 反射的に友子は十メートル以上ジャンプして、講堂二階の外回廊に着地した。

『過剰反応よ』

 その女生徒は、中庭のベンチに背を向けたまま思念だけを送ってきた。

『今のは誰にも見られていないわ。降りてらっしゃいよ……人間らしく階段を使ってね』

 その女生徒に害意がないことは、直ぐに分かったので、友子も緊張を解いて階段を降りて背中合わせのベンチに座った。すると、その女生徒は親しげに反対側からこちら側にやってきて、すぐ横に座った。

「鈴木友子さんね、よろしく」

『そんな、敵が親しげにして!』

「この近さでいたら、声に出さない方が不自然でしょ。それにトモちゃん、朝から敵を探そうって……ちょっとやりすぎ」

 親しげに、トモちゃんときた。

「あなたは?」

「あ、ごめん。二年B組の白井紀香。演劇部の部長で、一応トモちゃんが探している敵だよ、それも宿敵なのだぞぉ」

「宿敵が、どうして、そんなに穏やかなの?」

「わたしたちの上部組織ね、休戦状態なの。知らなかったでしょ」

「休戦状態……わたしのCPUにはプログラムされてないわよ?」

「トモちゃんを送った組織は、わたしの時代より前のホットな時代の人たち。だから敵対心が強いの」

「白井さんは、もっと新しい時代から来たの?」

「うん。もう、トモちゃんを抹殺しなきゃならないという仮説が崩れた時代」

「え…………じゃ、もう敵じゃないの?」

「それが、ややこしくてね。鈴木友子脅威説は、もう利権化してるの。この時代の地球温暖化説みたいに」

「ああ、あれって二酸化炭素の排出権が利権化したんですよね」

「そ、二十一世紀末には、世紀の大ペテンだって分かるんだけどね。トモちゃん脅威説は、まだ正式には生きてるの。だから予算がつけられて、わたしみたいなのが送られてくるわけよ」

「え~(*o*)!」

「こっち来て」

 わたしは、校内で唯一戦前の建築である同窓会館、その二階に連れていかれた。そこには古い字で「談話室」と看板が掛けられていた。

「ここって……あの談話室ですよね!?」

「そう、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語(星雲書房)』で乃木坂さんが仰げば尊しの歌の中で消えていった記念の場所」

 白井さんが指を動かすと、部屋の壁が素通しになって、一面満開の桜が透けて見え、ハラハラと桜の花びらが舞い散った。

「ウワー、小説通りだ!」

「ね、トモちゃん。演劇部入らない?」

「え(゚д゚)!?」

「あの小説のあと、演劇部はガタガタでね、部員はわたしと、トモちゃんのクラスの妙子しかいないのよ」

「ああ、蛸ウィンナーの?」

「うん。役所のアリバイみたいなことで、この時代にいるけど。目的がないとやってらんないの。今のわたしの目的は演劇部の再建。おねがーい(>ω<*)!」

 紀香は、大げさに手を合わせた。

「う~ん、急な話だから、ちょっと考えさせてください」

「ちっ、まどかは、進んで入部したんだよ( ̄~ ̄)」

「それ、小説の話でしょ」

「これだって、小説じゃん」

「そんな身もフタもないことを(^_^;)」

「だからね」

「とりあえず、わたしは帰ります」

 カバンを掴んで、出口に向かう。とたんに桜吹雪は消えて、元の談話室にもどった。

「その前に、トモちゃん。あんた、自分のスペックやら、そもそもの事件の背景、どこまで知ってんの?」

「ん~、敵を見つけて自分の身と家族を守ること」

「で……?」

「て……それだけ」

「雑だなあ、ちょっと座んなさいよ。レクチャーしてあげるから」

「う、うん……」

 そして、紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田 麻子        友子のクラスメート
  • 池田 妙子        友子のクラスメート
  • 徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・179『赤間関』

2023-09-01 14:32:05 | 小説4

・179

『赤間関』胡蝶 

 

 

 トラコン(虎ノ門コンプレックス)はリトマス試験紙のようなものだ。

 

 虎ノ門ヒルズと呼ばれる地域にある住宅と商業の複合施設で、増加しつつある移民と扶桑人を混住させてスラム化するのを防いでいる。

 今のところは、多民族共生がうまくいって、少々猥雑ではあるが活気のある国際街として外国人旅行者にも人気の街になっている。

 上様直属の隠密としては異例に長く、新設された虎ノ門の大型交番を預かって三年。

 隠密が、他の部局に籍を置くのは、あくまで擬態なんだが。ほとんど本職になってしまった感がある。

 トラコン及びトラヒルが我々の手に余るようなことになった時、それは、扶桑が鎖国する時だ。

 野放図に移民を受け入れていては、扶桑そのものが倒れてしまう。

 だから――ここまで――という時を見極めるために虎ノ門交番があり、そこの所長をわたしが務めている。

 

「殿下」

 

 しばらく使っていなかった敬称で声をかけたので、さすがに緊張の表情を向けられる心子内親王殿下。

「なんでしょうか、胡蝶さん」

 殿下も役職名の所長とは呼ばれない。

「御城にお戻りいただきます」

「いよいよ限界ですか?」

「昨日、殿下と交代で入った北町の同心二人がやられました」

「殺されたんですか!?」

「重傷と軽傷です。奉行所に戻るまでは辛抱していたのでトラコンでは知られていませんが、トラコンにもいろいろ流入して来ている様子です。わたしも任を解かれ、別の任務に就きます」

「そうですか……残念ですが仕方ありませんね。荷物をまとめます」

 

 殿下の準備ができるころには、南町奉行所から後任の所長と所員二名が到着し、引き継ぎもそこそこに御城に戻る。

 

 そして、今日は元の小姓頭(隠密9課隊長)として、穴山彦と国境の赤間関に向かっている。

「どうだ、このまま実働部隊に所属しては」

「いやあ、勘弁してください。ぼくはあくまで文官です(^_^;)」

「そうかぁ、交番勤務ではなかなかだったじゃないか」

「いや、ドンパチとか力技とかは一度も無かったですから」

「それが力なんだ。ドンパチやるのは愚の骨頂だ、やらずに済ませるのが真の力だ。停めて……」

 言い切らないうちに車を停めてくれる。

 

 赤間関というのは新しい地名だ。

 

 以前は緯度と経度の座標でしか呼ばれなかった。

 マス漢他五か国と扶桑の間にある砂漠地帯、その扶桑寄りの荒れ地。

 ここで数年前にマース戦争当時の犠牲者のミイラが発見された。ミイラは扶桑軍の兵士のもので惨い扱い方がされた痕が歴然だった。発掘が進むと他にも三か国のミイラが発見され、三年前に戦争史跡に認定され外国人も訪れるようになって、赤間関と名を付けられた。平和が続くようなら史料館も建てられて観光地になったかもしれない。

 その赤間関が不法の移民の流入口になっている。慰霊と称してここを訪れ、そのまま扶桑に居ついてしまうのだ。

 

 黙祷

 

 たとえ任務とはいえ、慰霊碑の前を素通りするわけにはいかない。

 ほんの二十秒ほど首を垂れる……振り返ると、守備隊司令の少佐が立っている。

「先輩が来られるとは思いませんでした!」

 敬礼した手を下ろすや否や少佐は懐かしさを溢れさせた。

「そんなにビックリしてくれたら、エドからやってきた甲斐があると言うもんだな。守備隊長の橘少佐だ。こちらは隠密課の穴山彦だ、わたしの副官をやってもらっている」

「隠密課祐筆の穴山です」

「穴山……ご老中の?」

「息子だ、こいつはゆくゆくは老中になるぞ。サインでももらっておけ」

「勘弁してください、隠密課で老中になったものは居ませんから」

「だからこそ値打ちがあるんじゃないか、今度の任務は目立ってなんぼだ。少佐、敵の目玉は残っているだろうな?」

「はい、五機は破壊しましたが一機は残してあります。外すのに苦労しました」

「すまん、自然な形で露出しなくてはならんのでなあ。その一機はどこだ?」

「は…………」

「そうか。ヒコ、あの三時方向の岩山に石を投げろ」

「え、石をですか?」

 ブィーーーン

 岩の一つに羽が生えたかと思うと、西に向かって飛んで行く。

 ビシ

 監視哨からレーザーが伸びて、あっという間に撃墜してしまう。

「あんなにハッキリ姿を現されては墜とさざるを得ません(-_-;)」

「これで監視は衛星だけになるだろう、ほどよく見せるというのが大事なんだ。さあ、塀の視察に行くぞ」

「「はい」」

 ヒコと少佐が同時に返事をして、国境の塀の視察に向かう。

 当然、敵には見られている。

 

 それでいい、隠密9課のトップが視察しているという事実が大事なんだ。

 隠密9課とは将軍直属、つまりは将軍が直接見ているということと変わりなく、その上で不法移民を送って来るとなれば、ケンカを売っているに等しいからな。

 それに、これだけ露出しておけば、ヒコが実働部隊に回されることも防げると思う。

 ヒコはいつまでも隠密課に留めないで外務奉行に戻してやった方がいいからな。

 

 車が左にハンドルを切ると、先日完成したばかりの塀がうねりながら地平線にまで伸びていた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・4『友子の初登校』

2023-09-01 06:49:36 | 小説7

RE・友子パラドクス

4『友子の初登校』  

 

 

「今日から、クラスに新しい仲間が増えます。みんなよろしくね。じゃ、鈴木さん入ってきて」

 

 柚木先生の紹介で、友子は教室のドアを開けた。

 すでに廊下に人の気配を感じていた生徒達は、拍手と共に好奇心むき出しの目で友子を見た。

 パチパチパチパチパチパチ

 友子は、ほどよく頬を染め、うつむき加減で教壇の隅に立った。

「こんど、お家の事情で乃木坂学院に転校してきた鈴木友子さんです。鈴木さん、一言どうぞ」

 友子は、緊張した顔で、教壇中央をめざしたが、教壇の端のリノリウムの出っ張りに足を取られて、前につんのめり、こともあろうに柚木先生の胸を両手で掴んでしまった。

「キャ(; ゚゚)!」「ウワ(*゚◇゚#)!」「アア~(☉∆☉)!」

 という声が、順に、友子、柚木先生、生徒(主に男子)からあがる。

 数秒フリーズして友子は手を離した。

 柚木先生も、同性とは言え胸を鷲づかみにされたのは初めてなので、かなり動揺した。

 

「おもっさっげね!」

 

 初めて見る担任の動揺、可憐な見かけとは裏腹な友子の方言に、教室は湧いた。

「あ……ども。鈴木友子です。えと盛岡の出身です。隠しておこうと思ったんだけど、柚木先生の胸デッケーんでつい方言が出てしまいました。まんず……まず、これから、よろしくお願いします!」

 ゴツン!

 ペコリと頭を下げると、友子は教卓に思い切り頭をぶつけてしまった。

「いでー……」

 切れてはいなかったが、オデコの真ん中が赤く腫れてきた。

「鈴木さん、よかったら、これ使って(^_^;)」

 イケメン保健委員の徳永亮介が、サビオを二枚くれた。

「ありがとう……」

 指定された席に着くと。友子は鏡を見ながらサビオを貼った。しかし、その貼り方がフルっているので、柚木先生が吹きだし、それで注目した生徒達がまた笑い出した。

「その貼り方……」

「だって、カットバン貼るのオデコだから、少しはメンコク、いえ、可愛くと思って……」

 友子のサビオは、見事な×印に貼られていた。

「盛岡じゃ、カットバンて言うの?」

 隣の席の浅田麻子が、小さな声で聞いた。

「え、東京じゃ、そう言わないの!?」

「声おっきい。バンドエイドって言うのよ」

「ああ、バンドエイド。書いとこ……」

 友子が生真面目に生徒手帳に書き出したので、またみんなが笑った。で、また友子の顔が赤くなった。

 

 噂は昼には学校中に広まった。

 

 なんせ初手からズッコケて柚木先生の胸を鷲づかみにし、オデコに×印のバンドエイドである。職員室でも「柚木さん、あなた着やせするタイプ?」と同僚の女の先生から言われた。

「どうして?」

「だって、鈴木友子が、そう言ってるって。Dはあるってさ」

 そこに運悪く、朝礼で出し忘れた書類を友子自身が持ってきた。

「鈴木さん!」

「はい?」

「人の胸のこと話の種にしないでくれる!」

「いいえ、わたしはなんも……」

「だってね……!」

「あ……男子が、先生の胸でっかかったかって聞くもんだから、わたしよりは大きいって、そんだけ」

 柚木先生は友子の胸に目を落とした。たしかに友子の胸は小さい。

「話に尾ひれが付いたのよ。鈴木さん責めるのは可愛そうよ」

「んでも、先生の胸は大きくっで、わたし感動したんです!」

 友子は地声が大きいので、職員室のみんなが笑った。バーコードの教頭などは、洗面台の鏡に映る柚木先生の胸を、しっかり観察していた。

 

 お昼は、仲良くなった麻子の仲間といっしょにお弁当を食べた。

 

「わあ、友ちゃんて、ちゃんとお弁当作るのね」

「あーー(^_^;)、ただ冷凍庫にあるものチンして詰め込むだけ。お母さん血圧低いから、お弁当は自分」

「でも、ちゃんと玉子焼きなんて焼くんだ」

「チンしてる間に作れっから」

「一個交換していい?」

「うん、どうぞ?」

「あ、プレーンで美味しい」

「液体のお出汁ちょこっと入れるだけ……麻子ちゃんの、甘みと出汁加減が、とってもいい!」

 そこで、五人ほどのグループで玉子焼きの品評会になった。麻子の玉子焼きに人気があった。

「お、懐かしの蛸ウインナー!」

 友子の遠慮のない賞賛に、池田妙子は、惜しげもなく蛸ウインナーを半分くれた。

「お、お醤油の隠し味だ!」

「うん、焼き上げる直前に垂らすの」

 賑やかにお昼も終わり、放課後になると、柚木先生が遅れてきたこともあり、教室の前は友子見物の、主に男子生徒が集まっていた。

 

 思惑通りに進んでいた。

 

 いずれは現れる敵、目だった方が早く見つけられる……。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田麻子         友子のクラスメート
  • 池田妙子         友子のクラスメート
  • 徳永亮介         友子のクラスメート 保健委員
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする