大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・トモコパラドクス・18『乃木坂パンケーキ』

2023-09-15 06:54:09 | 小説7

RE・友子パラドクス

18『乃木坂パンケーキ』 

 

 

 優に五十人は並んでいた……と思いきや、角を曲がって最後尾に並ぼうと思ったら、もう八十人ほどが並んでいた!

 部室のプレステ5で紀香VS友子の模擬戦をやり、データをとった二人はいそいそと新装開店の駅前のパンケーキ屋さんに急いだのだ。

 

 乃木坂パンケーキ

 

 おしゃれなキーワードが二つも入っている。

 乃木坂ほど由緒正しく、東京の老若男女から「ちょっとオシャレでイケテル」と思われる地名はない。渋谷も池袋も新宿も人が多すぎて、ポピュラーな割にはゴッタ煮の感じで、たまに足を向けると自分が寄せ鍋の具になったようで、楽しむ前にくたびれてしまう。

 そこへいくと、乃木坂というのは有名なわりには人が多くない。前世紀の終りぐらいまでは「ああ、そういえば……」程度の知名度で、最初に思い浮かぶのは乃木大将の乃木神社。楽しむと言うよりはモノクロのゆかしさを覚える地名であった。これに色を付けたのは乃木坂を冠したアイドルグループと『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ぐらいのもので、まだ、そんなに手垢の付いた地名ではない。なんと言っても自分の学校の所在地なので乃木坂や都乃木の生徒には五割り増しの好感度。

 方やパンケーキは、この春から流行りだした懐かし系のお手軽スィーツ。ごちゃごちゃトッピングしたり、無理やり挟んだりしないプレーンなところが、ひところ流行ったチーズケーキに似ている、価格的にもタイ焼き今川焼のレベルで高校生の財布にも優しく、近ごろでは青山赤坂あたりから足を伸ばす者もいる。

 

「ねえ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 寝ぼけマナコの妙子が、制服のリボンを揺らしながら、乃木坂を駆け下りてきた。

「うわー、こんなのができたんだ。おお~、いま流行の最先端のパンケーキじゃないっすか。こんなに並んじゃって。へー、こだわりのプレーンパンケーキ! これは並ばない手はないですね!」

 妙子は、列さえ出来ていれば並ぼうというオバサンDNAを働かせた。この行儀がいいというか無節操というか、こういうノリにはついて行けない友子であった。

「こう言うときに並ぶ練習して、きたるべき災害時に備えるんじゃあ~りませんか!」

 妙子はポジティブというか、おめでたいというか。ただ「食いたい!」という気持ちから災害対策まで持ち出して、その意欲を見せた。

「あ、大佛クンも浅田麻子も、徳永亮介……長峰さんまで並んでる」

「うちと都乃木(都立乃木坂高校)で半分は占めてるね」

 気が付いたら並ばされている友子。

 高校生の情熱というのは大したものだと思った。現役女子高生とはいえ中身はオバサンの友子、もっとエネルギーの使いようがあるだろうと思う。受験勉強だって、これにくらべれば高尚なものに思えたし、知識として知っている新宿フォークゲリラや、学園紛争は、文化や政治のありようさえ変える可能性があった。
 スマホで調べりゃ通学圏内に五軒ほどはあろうかというパンケーキ、さっきまで紀香とやっていた、模擬戦の方が情熱が湧く。

「……!」

「どうした、友子?」

 紀香が小声で聞いてきた。

――殺気!――

 心で叫ぶと、友子はテレポートしていた。

 また自分の能力を発見した。


 そこは、富士の樹海であった。


 木の間隠れに見える姿は、都乃木の制服を着ていた。

「あなたね、三十年前の事故から、未来の技術で蘇った子って……鈴木友子っていうのね」

 そう言うと、その子の気配は背後に回っていた。

「あなたは……」

 友子は、相手の思念やスペックを読み取ろうとしたが、何一つ分からなかった。

「この惑星の人間は、不安と猜疑心をこんなカタチで現すこともあるのね」

「それって、わたしのこと?」

 また、気配が移動した。

「あなたの中には、人類の不安がとんでもない力として凝縮されている。でもあなたには、パンケーキ屋に並ぶJKへの偏見があるようだけど、他にはこれといって悪意もない。安心したわ……」

「え……宇宙人?」


 振り向くと、誰も居らず、視界が白くなったかと思うとパンケーキ屋の列に戻っていた。

 

―― 友子、テレポしたわね ――

―― ちょっと変なのがいたんで……でも、もう大丈夫 ――

 そう言うしかなかった、相手のことは何も読めなかった。この列のどこかにはいるんだろうけど、もう気配も感じない。ちょっとおかしいけど、缶コーヒーのCMに出てくる宇宙人を連想した。

「あ~、おいしかった。やっぱ、パンケーキはプレーンだね!」

 妙子は無邪気に喜んで、向かい側のホームに行った。

「あの店、市販の業務用のパンケーキ粉に、タイ焼きの残った粉混ぜてるね」

「成分分析したのね」

「タイ焼き屋のおじさん、体こわしたんだね。で、息子が流行に乗ってパンケーキに転業」

「まあ、美味しかったし」

「並んだ甲斐はあったか。ね……友子?」

 あの宇宙人も、このことを調べに?……苦笑する友子であった。
 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
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くノ一その一今のうち・75『航空便と朝食の席』

2023-09-14 10:55:49 | 小説3

くノ一その一今のうち

75『航空便と朝食の席』そのいち 

 

 

 航空便は卒業証書のような筒状で、封を切ると、勢いよく丸まったのが飛び出し、空中でシャキンとした。

 

「ああぁ、やっと楽になったぁ!」

 

 プルンと音を立てて真っ直ぐに伸びたのは、帝国キネマのえいちゃんだった!

「え、えいちゃん!?」

「はい、帝国キネマの長瀬映子、ただいま到着しました('◇')ゞ!」

「え、え、なんで?」

「所長から出向を命ぜられました!」

「出向?」

「はい、この撮影に限りお手伝いするように申しつかって参りました」

「えいちゃんて、大阪限定だと思ってた」

「はい、本来の所属は昭和5年の帝キネで、時代を超えた行動範囲も京阪神に限られているんですが、所長が裏技をつかってくださったんです」

「うらわざ?」

「はい、あて名書きのスタンプを見てください」

「スタンプ……」

 空になった筒のあて名書きとスタンプを見てビックリした!

 

 発送は長瀬郵便局、宛名は高原の国王宮、そして配達日時は今日を指定してある。

 そしてそして、もっとビックリしたのは、差し出された日付。

 昭和5年9月1日

「え、93年も留め置きだったの!?」

「あはは、だから、もうあちこち凝っちゃって。あとでお布団の下に入れて伸ばしていただけると嬉しいです(^_^;)」

「わかったわ、でも、帰る時はどうすんの? あ、もちろん、このまま21世紀に居てもらってもいいんだけど」

「その時は、配達日を昭和5年9月2日にして郵便局に出してください。書留で」

「え、あ、うん分かった」

「お願いしま……キャ!?」

 クルン

 93年間のまるめ癖で、安心したとたんに、元の丸まった状態に戻ってしまった。

 

 アデリア王女に頼んでスチームした上で一晩ガラスに挟んでもらって、本格的に伸ばしてもらった(^_^;)。

 

「ここでの仕事は二つだ」

 撮影隊だけの朝食の席で三村先生が服部半三の顔で言う。

 ただ、まあやだけは王妃がアデリヤ王女共々自室ででの朝食に招いているので、ここには居ない。

「首都に留まってロケハンと撮影の準備に入る者と、西部に向かって敵と戦う者の二組だ」

 なんで、二組に分かれるんだろう?

「我々は、表面は撮影隊だが、実質は木下豊臣家とその傘下に入ってしまった草原の国との戦闘部隊だ」

 うん、それくらいは分かってる。

「これは忍の戦いで表に出ることはないし出すべきでもない。しかし、じつは世界中が注目している戦いなのだ。だから、撮影隊と名乗ってここに我々がいることは、関係国の中枢や諜報機関は掴んでいる」

「それで……」

 徳川社長が、あとを続ける。

「鈴木豊臣家が全力を挙げて、この戦いに臨んでいることを撮影隊である我々が、首都とその周辺で世界に見せつけ、かつ作戦指揮の実質を握る。戦闘部隊は……」

「自分が言います」

 百地社長が身を乗り出す。こんな真剣な社長を見るのは初めてだ。

「桔梗、そのいち、ミヒャエルの三名で敵の本拠地に入ってもらう。目的は、敵の戦意を挫くこと。必要に応じて本部の我々から加勢の人員、あるいは部隊を派遣する。桔梗組の出発はヒトサンマルマル……」

 締めくくろうと、三村、いや服部課長代理が口を開いた時、ダイニングのドアが元気に開いた。

 バァーーン

「このアデリアを忘れてもらっては困るぞ!」

 

 ダイニングのみんなが驚く中、ズカズカと入ってきたアデリア王女は、テーブルの上座にドッカと腰を下ろした。

 

 みんな驚いたりヤレヤレという顔をしたり。

 

 でも、これで予定通りなんだろう。

 もともと、こんな大事な話、忍び語りもせずにやるわけがない。

 ちょっとムカつくのは、このヤラセも含めてわたしには何も伝えられていなかったこと。

 

 まあ、徳川の下請けの百地のアルバイト、仕方がないっちゃ仕方がないんだけど。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
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RE・トモコパラドクス・17『対決、紀香VS友子!』

2023-09-14 07:24:32 | 小説7

RE・友子パラドクス

17『対決、紀香VS友子!』 

 


〔ここまでのストーリー〕

 友子の娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。三十年前、その未来からの特殊部隊によって、友子は一度殺される。しかしこれに抵抗する勢力により義体として一命を取り留めるが、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化が完了したのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」 そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が始まった!

 

 シュバーーーーーン!!

 
 足許でプラズマ弾が炸裂した!

 すんでの所で友子はフロア350までジャンプ。

 しかし、すぐに鉄骨をキックして隅田川に飛び込んだ。将来東京タワーと並んで国宝に指定されるスカイツリーを傷つけることはできない。

 川面を超低空で飛んだ友子は、ほんの二秒間だけ、紀香のロックオンを外す事が出来た。

 吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋と、衝撃波を出す寸前の1230㎞でくぐり抜けたが、国技館前で待機していた国防軍のレーダーにひっかかった。

 国防軍のレーダーや統合幕僚部のコンピューターは、紀香がとっくにハッキングしている。国技館前の対地対空兼用ミサイル通称タカミサカリは武者震いをして発射され、両国橋の手前で、友子の後ろ十メートルのところに着弾した。

 ドォォォォン!  

 この爆風で、友子は制服を吹き飛ばされアラレモナイ姿になったが、二発目は意表をついて東に曲がり、タカミサカリは、虚しくNTT浜町ビル前の護岸を破壊しただけだった。

 京葉道路を東に進むと、交差している清澄通りから、吉野家の前に5両、りそな銀行前に6両の10式戦車が並び、一斉に榴弾の飽和攻撃をしかけてきた。

 ヤバイ、粘着榴弾だ!

 あれが当たっても、友子の装甲はぶち破れないが、装甲内部が剥離破壊され、数パーセントの確率で、義体内部が破壊される。気づいたのは交差点から二百メートルの真砂寿司の前だったが、行動を起こしたのは、交差点手前の本所警察の前だった。

 友子にとってはアナログな武器だが、この至近距離で当たれば無事では済まない。かといって戦車を破壊することは出来ない。一両につき三名の乗員、殲滅すれば33名の戦死者を出してしまう。

 両国のマンション前で、両腕のプラズマ砲を空砲にして発射。その反動で、ほとんど九十度の角度で上昇。腕の良いフラッグ車の一弾が当たりそうになったが、友子は、その粘着榴弾を角度をつけて蹴り飛ばした。
 しかし粘着榴弾というのは、避弾形状の装甲でもぶち破れるように先端が丸くできており、友子のローファーの靴底で炸裂した。靴底も装甲になってはいるが内側で剥離破壊が起こり、右脚の生体組織を傷つけ、爆風でタンクトップを引きちぎり、ブラの右肩のストラップを切ってしまった。

 友子は、思い切って東京湾で勝負をつけようとした。

 国防軍の兵士500と武器1200を把握した。その気になれば十秒ほどで全滅させられる。しかし、友子を縛る公選規程はは自衛隊時代の国防軍よりも厳しく、この時代の人間を殺すことはできない。

 まだか(;'∀')!?

 友子は焦った。国防軍の統合幕僚本部のコンピューターにウィルスを送り攪乱しようと、適正なウィルスを秒速三千件で検索し組み替えている。ウィルスを送ることは、容易いが、コンピューターのプログラムそのものを壊すことはできない。周辺諸国の警戒にあたる国防軍の目を潰すことは出来ないのだ。

 ピーピーピー

 やがて横須賀のイージス艦にロックされた。しかし、せいぜいトマホーク。簡単にジャミングできると思った……。

「うそ、ジャミングが効かない!」

 友子は、房総半島を迂回するようにして、太平洋に出ようとした。

 しかし、速度を500ノットまで上げたところで、トマホークに追いつかれてしまった。

 

 パーーーーーーーーーーーーン!

 

 房総沖にきれいな花火のような閃光が走った。

 友子は、ブラのストラップはおろか、生体組織の全部を持って行かれ、完全なスケルトンになった。

 (⊙д⊙)!!?

 気づくと、紀香が至近距離で、プラズマ砲を構えている。

「もう逃げられないわよ、友子」

 紀香がニヤリと笑う。


 クソ!


 友子は、万分の一の可能性にかけて紀香に抱き付いた!

「それは禁じ手だわよ!」

「裏技と呼んでもらいたいわね!」

 そう言って、友子はコントローラーを投げ出した。


 紀香は、悔しそうに固まっていた。


 モニターには、双方生存率二十パーセント、ドロー……と出ていた。

「まあ、これで、データがとれたからいいじゃん」

「ま、まあね……」

 紀香は、やっと汗にまみれたコントローラーを手放した。

「妙子を、法律と歴史に詳しくしてやったツケだもん。仕方ない」

 昨日の現社のテストで、妙子はパニックになり、救急車で病院に担ぎ込まれた。文章としても、理論としても矛盾だらけの日本国憲法の前文と第九条を書きなさいという問題が原因である。

 おかげで、妙子は二十年後内閣参与になったが、さらにその二十年後、敵にもそれに見合う猛者が現れるハメになり、当時、もうカビの生えた『友子脅威論』を持ち出して、未来から紀香に進捗状況の報告を求めてきたのである。

 まさか、本当に戦うわけにはいかないので、プレステ5を部室に持ち込んで、ゲームのアバターを自分たちにして、模擬戦をやってデータをとったのである。街なかでの戦闘を極力さけたのも、後の時代に痕跡や矛盾を残さないためである。

「しかし、よく寝るね、こいつ」

 モニターに映し出された妙子は、自分の部屋で、鼾をかいて爆睡していた。

「今日の数学は、自力でがんばったもんね」


「さ、あたしたちも行こうか。駅前のタイ焼き屋、テイクアウトのパンケーキ屋さんになったみたいだから」

「さっそくデータ収集にいくか!?」

 いそいそと、駅前を目指すカタキ同士であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部

 

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RE・トモコパラドクス・16『放課後の教室でテスト勉強』

2023-09-13 09:20:03 | 小説7

RE・友子パラドクス

16『放課後の教室でテスト勉強』 

 


 明日は中間テストという午後の教室、麻子が唸っている。

 

「も~お……頭に入んない!」

「なに、テンパッテんのよ~?」

 タコウィンナの妙子が麻子の横に寄ってきた。

「授業中は聞き流してたんだけど、じっさい試験になると思うと、ひっかかる」

「「なになに……」」

 妙子と二人で覗き込むと、国語の『矛盾』だった。

 

 いわゆるホコタテの問題を、先生はありきたりに矛盾のエピソードを語るだけで終わった。

 

 なんでも貫く矛と、どんなものでも防ぐ盾を売っている武器屋に「じゃあ、その矛でその盾を突いたらどうなるんだ?」と客が問いかけると、「あ……えと……(;'∀')」と、武器屋はフリーズしてしまったという説明だ。中国の韓非子が言ったという例え話。

 そこまで言うと、先生はさっさと次のページに行ってしまった。まあ、一般常識と言っていい慣用句だ。

「どう躓いたのよ?」

「だって、こういう展開もある……」

 

『この矢を射ったとする。しかし、わたしに当たることは絶対にない。それを証明してみせよう』

『どうして、そんなことが出来るんだ!?』

 そいつは言った。

『この矢が放たれて、わたしに当たるのに一秒かかる』

『うん、そんなもんだろう』

『一秒の半分はいくらかね?』

『0・五秒だ』

『その通り。そして、その半分は0・二五秒、そのまた半分は0・一二五秒だ。つまり、時間は無限に半分にできる。そうだろ?』

『あ、ああ、まあ、そうだな』

『時間は無限に半分に出来るし、無限を超えるなんて不可能だろ?』


「と、言われたら正しいような気がしない?」

「麻子、そこに立ってごらんよ」

 友子は、エアー弓を出して、エアーの矢をつがえて麻子を狙った。

 キリキリキリ……

 友子は弓を引き絞る音までリアルに付けた。

「わ、分かった、分かったよ(≧0≦)!」

「それは良かった(^_^;)」

「怖いというのが分かった」

「「(´・ω・)ん?」」

「時間は永遠に半分に出来るけど、そうすると永遠に怖くなるのが分かった!」

「「アハハハ」」

 麻子は卵焼きのレシピのように、理屈や論理で考える傾向があるようだ。

 

 そして、今度は妙子が詰まってしまった。現代社会で習った日本国憲法だ。 

 

前文: 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。

1: 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2: 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 たった、これだけのことで、みんなサラサラと書き写したが、妙子は矛盾を感じてシャーペンが停まってしまう。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」そんなもの現実には存在しないことは授業の断片や、バラエティー番組の話からでさえ分かる。交戦権を認めないで、どうやったら自衛権が行使できるのか。矛盾の授業のように思考が混乱して、単に書き写すだけのことができなくなってしまった。

 

「交戦権が無ければ自衛権もアウトじゃん。自衛隊は憲法違反で仕方が無いし、これなんかも正しくなるし」

 

 妙子が示したスマホには合格しながら大学への入学を拒否された自衛隊員のことが出ていた。

「みんな国公立の大学だよ『憲法に違反している自衛隊員は憲法の恩恵を受けることはできない』って、めちゃくちゃだけどスジは通っているような気がするわたしって変?」

 現社の先生は「自衛権を巡っては様々な意見がある」ってしめくくっておしまいだった。

「それはね……国権の発動たる戦争と自衛権の行使たる戦争の違いなんだよ」

「「(。´・ω・)ん?」」

「国権の発動たる戦争と云うのは『力による現状変更』って云ってね、武力でよその国の領土を奪う侵略戦争のことで、国連憲章で、ハッキリ禁止されてる。その流れに沿って書かれたのが日本国憲法」

「「うん」」

「自衛権と云うのは『力による現状変更』を仕掛けてきた国に対抗することで、これも国連憲章で認められてる」

「「ああ……」」

「つまり『侵略戦争は二度とやらないけど自衛戦争はやるぞ!』という意思表示で、国連憲章にも世界の常識に則ってるわけさ」

「なるほど」

 論理的思考の麻子は大納得だけど、タコウィンナの妙子は、まだ首をかしげている。

「でも、解説してもらわなきゃ分からないような表現はダメだと思う。話は違うけど『ちょっと残念だ』って遠まわしに全否定する言い方ってあるじゃん。そんな感じ」

「うう~ん、そうだねぇ」

 妙子は部活の『無対象演技練習』にもハマりやすい感覚的な子で、まずは感じて、それから考える。

 授業では、その考えるところでの情報が無くって――いろんな意見がある――と胡麻化すことが多い。

 論理的な卵焼き、直感のタコウィンナ―。

――よし!――

 帰りの地下鉄で居眠りしている妙子に憲法の成立過程の情報をインストールしてやった。

 

 しかし、本番の現社のテスト中、妙子は過呼吸になって倒れてしまった。

 

 救急車に同乗はできなかったが、空飛ぶ女子高生モードで救急車より先に病院についた。途中で連絡をとったので、紀香も来てくれていた。二人でステルス化して病室に入った。

――こりゃ、ナノリペアでも治せないね……仕方ない……――

――日本国憲法は通り一遍の情報じゃ、理解できないわよ。マルクスからこっちの歴史とリベラルの特性を経済やら、SNSを始めとするIT技術の発展と絡めて、それから、地球温暖化の背景や変質、それから……も理解させなきゃ――

――ああ、たいへん(-_-;)――

――自分でやったことでしょ――

 友子は、妙子の額に手を当て、紀香に指摘された全てをインスト-ルしてやった。

 

 麻子は、少し熱を出したが、なんとかインスト-ルに成功し、その日のうちに退院することができた。

 しかし、三十数年後、このために妙子が高名な政治学者になり、歴代最年少の内閣参与になることまでは分からなかった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・052『第一回みんなで楽しく語る会』

2023-09-12 09:55:20 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

052『第一回みんなで楽しく語る会』   

 

 

 普通教室半分ほどの応接室に30人が入った。

 

 ゴォォォォォォォォ

 万博で泊まった宿舎と同じくらいのエアコンが唸っている。昭和のエアコンは、いかにも機械。大きさとデザインもさることながら、その運転音は、戦車の中にいるみたい(乗ったことないけど)。

 メンバーは、わが一年五組を中心に、他のクラスからも20人ほど集まってる。

 まあ、半分はエアコン目当て。なんせ、この時代エアコンなんて一般家庭はもちろんのこと、電車でも付いているのは特急とか新幹線ぐらい。万博見に行って、宿舎の町屋や銭湯では経験済みだけど、学校という日常の中で見ると、その迫力と効果はスゴイよ。

 

「……だからぁ、僕たちは、学校の主人公だって自覚を持たなきゃならないと思う!」

 十円男が、普段の『俺』ではなく『僕』という一人称で演説している。

 さっきまでは――なぜ、女子はスカートを穿かなければならないのか?――という題材で真知子が話していた。

 真知子は主催者として、みんなの気持ちを「まず、喋ってみよう」という空気にしたんだ。

 自分の性別さえ個人の自由で決めていいと言い出す令和と違って、やっとウーマンリブとかがアメリカで出てきたばかり――スカート=女?――という問題提起は、時代の最先端的な感じで、みんな食いついてきた。

 だけど、すぐに「日本の高校生は制服に縛られてるのかも」って誰かが言いだして、半分近くの子が耳を傾け、十円男は一人称を『僕』に替えた。

「うん、加藤君の言うことも分かるけど、制服にはプラスもあると思うんだ」

 委員長の高峰君が穏やかに反論する。

「制服があることで、無駄な被服費がかからない。同じものを着ているから、見かけで人を判断することが抑制されるし、仲間意識を持つことにも役立ってると思う。もし私服だったら、僕みたいな朴念仁でも、なにを着て行こうかと、日に数分は考えてしまう。日に一分悩むとして、一年で6時間余り。文庫なら一冊読めてしまう」

「あ、分かるぅ。靴下一つでも五分は悩む自信ある!」

「あはは、自信かぁ」

「そうよねえ、私服なんて、よそ行きの他は季節にニ三着だもんね」

「ええ、あたしなんか、季節に一着ぐらい!」

「うちは商店街の洋品店だから、私服にしてもらったら売り上げ増えるかもぉ(^_^;)」

「おお、商売人!」

 盛り上がってきた。

「そうじゃなくって、加藤君は、学校における主人公は生徒であるべきと言ってるんだ。ねえ、加藤君」

 知らない男子がヨイショする。

「うん、そうだ。校則やら受験制度に縛られている日本の高校生の有りようこそが考えられるべきなんだ」

「ああ、でもいいかなあ」

 たみ子が授業の時みたいに手を挙げた。

「人間がさ、千何百人か集まってるわけでしょ、学校って。人が大勢集まったら、おのずとルールができるし、必要なんじゃないかなあ」

「うんうん、商店街でも看板の出し方とかルールあるよ」

「ルールを否定するわけじゃないんだ、ルールは自分たちでつくればいい。先生たちに強制されるようなもんじゃないと思うんだ」

 もう一人ヨイショ男が現れる。

「でもぉ、生徒って三年しか学校にいないわけでしょぅ……あ……」

 ツインテールの子がωの口で話す。ヨイショの男たちが、チラリと十円男を見る。

「あ、僕のことなら気にするな、勲章みたいなもんだから」

 アハハと数人の追従笑い、こいつら、十円男にだけ君付けだし。ちょっと気分悪い。

「ええと、今日は第一回だし、あまり一つのことを深堀りしないですすみたいんだけど」

 真知子の提案に『残念』と『そうそう』の反応。

「じゃ、話題変えるね、日本は四季のハッキリした国だけど、みんなはどの季節が好きかなあ? あ、ちなみに、わたしは春なんだけどね」

 春を愛する人は~♪

 だれかが口ずさんで、ちょっと笑い。

 エアコンの恩恵もあり、真知子のリードもしっかりしていて、『第一回みんなで楽しく語る会』は大成功。

 

 最後に会の名前を『ミタカ』の略称で呼ぶことに決めた。

 

 MINNNADE TANOSHIKU KATARU KAI の頭、MI TA KAをとった名前。

「それならミタカカだ、KAIを忘れてる」

 十円男が言ったけど、却下!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

   

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・15『調子に乗り過ぎた』

2023-09-12 06:44:46 | 小説7

RE・友子パラドクス

15『調子に乗り過ぎた』 

 


「いやあ、すいませーん。九州で事故っちゃって。とりあえず、あたしたちだけでも間に合わせました(^◇^;)」

 小野寺潤のスガタカタチでディレクターにあいさつする紀香。

「スタッフの人たちは、事故処理で、まだ宮崎です(^△^;)」

 矢頭萌に化けた友子もかました。

 

「よかったぁ! とにかく衣装つけてメイク。済んだら、すぐに舞台ソデ!」

 

 ディレクターと入れ違いに、総監督の服部八重がやってきた。

「心配したよ~(৹˃ᗝ˂৹)!」

 半泣きで二人をハグしたが2秒後には総監督の顔に戻って指示をする。

「10分はMCで持たしとくから、曲には遅れないでね。ヨロシク!!」

 まなじりあげて舞台に戻る八重。仲間への愛情とプロ根性がバランス良く同居している。さすがはAKRの総監督ではある。

 感心している間もあらばこそ、衣装さんが魔法のように二人を裸にして衣装をつけさせる。これに一分。

 すかさずメイクさんとヘアーメイクさんが取り付いた。普段なら、潤も萌もほとんど自分でやる。紀香と友子にも同じスキルがあるが、それではとても間に合わず。急いでプロがでっち上げる。これに五分、そして、6分30秒後には舞台に立っていた。

「すみませーん、ちょっと衣装破けちゃって、直してました~」

「ちょっと、最近食べ過ぎなのよ。サイズ合わなくなってきたんでしょ」

「そんなことありませ~ん。その証拠に体重計持ってきましたあ」

 萌(友子)が楽屋にあった体重計を舞台に置いた。

「ちょっと潤、乗ってみそ」

「はいはい……先週と同じ○○キロで~すv(´∀`)v」

 ピースサインの潤。

「ちょっとぉ、壊れてんじゃないの」

「じゃ、ヤエさん、乗ってみ」

「いいよ」

 ヤエが乗ると、なんと体重計は八十キロを指した。

「ええ、ウソでしょ!」

 観客席に笑いが満ちる。

 ヤエが乗ると同時に、潤と萌が、片脚を乗せて踏ん張っている。気づいていないのはヤエ一人。やがてそれに気づいて追っかけになるというアドリブをかまして、曲に入った。


《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED!  GO A HED! For The People! For The World! みんなのために!

 アフタースクール校舎の陰で、構えるスマホは正義のシルシ、#を押したらレイブンさ!

 世界中が見放した 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート!

 わたし達は ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED!  GO A HED!  For The People!  For The World!  For The Love!

 ああ~ ああ~ レイブン レイブン レイブン少女隊……ただ今参上(^^ゞ!


 無事に最初の曲の一番を終わると、あとは、スムーズに流れた。

「ねえ、みんな今日の萌ちゃん、すごいんだよぉ。この子が歌もフリもノーミスでやったのはじめてだよ。これは記念になにかやらなきゃね」

 ヤエが、さっきの復讐。

「みんなで、萌を胴上げしよう!」

 あっと言う間に、みんなに胴上げされてしまう。

「イヤー、おパンツ見えちゃうよ!」

 そう叫びながら、萌は本物の萌が瀕死の重傷で意識が戻ったことに気づいた。

――やばいよ、紀香。二人宮崎で事故って、瀕死の重傷。まだ発見されてない―― 

――今すぐ行こう!――

「じゃ、あたしたちオフなんで、これでお疲れ様で~す」

「なによ、カラオケ付き合うっていったじゃんよ!」

「ワリーワリー(^_^;)」「また今度ね~(^。^;)」

 

 二人は屋上に上ると、ステンレスのダクトカバーを外して、ロケット状に加工して、屋上を飛び立った。

 ビューーーーーーン

 

 現場は空港に近道するための林道だった。

 潤と萌とスタッフの三人は、林道から落ちた谷川で横転した四駆の中にいた。三人ともあちこち骨折の重症、萌だけが意識があった。

 二人は天使の姿に擬態して、三人の怪我をチェックした。

「……天使さん?」

 苦しい息の下から、萌が声をかけた。

「そう、わたしがミカエル。あっちのヒネたのがガブリエル」

――友子、治せそう?――

――全員あちこち骨折。今からナノリペアー注入。萌ちゃんは、肋骨が折れて肺に刺さってる。しゃべらせないで――

 友子は、ハンドパワーで萌の肋骨を元に戻し、車のパーツでギブスを作り、三人にあてがった。

――どうする、今から救急車呼ぶ?――

――だめだよ、ライブにも出ちゃったし治療もしちゃったし――

 仕方なく、二人は車をソロリともとにもどし、ボディーを加工して上空の低温や、空気摩擦に絶えられるようにした。

「いくよ」

「うん」

 怪我人を後部座席に固定して、元四駆の車を空中に浮揚させると、亜音速で東京を目指した。

 当然、自衛隊やら米軍やらのレーダーに映り、自衛隊にはスクランブルまでかけられた。

 仕方なく海面スレスレまで降りてレーダーを躱したが、その分人目に触れて、あちこちで写真に撮られてしまった。

 ようやく相模湾上空でステルス化に成功。三人をそれぞれのマンションやら、アパートに運んだ。

 

「へえ、太平洋側のあちこちでUFO出現……それにしても妙なカタチだな。ねえ、ねえちゃん」

 妻の春奈がいないので、一郎は新聞を見ながら、やっと起きてきた姉に声をかけた。

「UFOはね、焼きそばもピンクレディーも苦労したらしいわよ……」

「なんだか、めずらしくくたびれてるね?」

「うん、ああ……明日から中間テストだからね……」

 そうごまかして、友子は自分の部屋に戻った。

 このあたりが限界なのか、力の配分なのか、身体にぜんぜん力が入らない。

 少し調子に乗り過ぎた。

 布団をかぶりながら、友子は自分の取説が欲しいと思った……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
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鳴かぬなら 信長転生記 142『信長版西遊記・牛魔王の背中』

2023-09-11 10:06:24 | ノベル2

ら 信長転生記

142『信長版西遊・牛魔王の背中信長 

 

 

 頭だけかと思ったら、その下には首と胴が付いていて、その胴は山そのものだ。

 

 ノシ

 

 大地が軋むような音をさせて山のような牛が立ち上がる。

「あんなにデカイのに脚が無いブヒ!」

「ちがうっッパ、砂煙で脚が霞んでるッパ!」

 ドドドド!!

「まずい、こっち来るウキ!」

「逃げるブヒ!」

 馬の首と八戒の腹に押しつぶされそうになりながらも馬腹を蹴る!

「な、なんで真っ直ぐ逃げないブヒ!?」

「あの牛、意外に速いウキ」

「真っ直ぐ逃げてはすぐに追いつかれるッパ! 雪崩を躱す要領なんだなッパ!?」

「そうだがな……」

 グモオオオオオオオオオオオオオオ!

 がぜん速度を上げてきた牛を辛うじて躱す。

 ズザザザザザザザザザ

 砂漠が爆発したかと思うような砂煙を上げて停止したかと思うと、停止いした力を旋回と跳躍の力に変換、こちらが息つく間もなく襲い掛かって来る!

『この牛魔王から逃げられると思うてか!』

 ドドドドオオオオオオオン!!

 かろうじて避けると真反対に逃げ、牛魔王が立ち直る前にさらに直角に折れて牛の視界の外に出る。

『待てえ!!』

「ブヒーー!」

「これでは、キリがないッパ!」

「次がチャンスだウキ!」

 俺も二度躱したことで牛魔王の呼吸が掴めた。

「飛べ!」

 命ずると同時に――変身!――と念じた。

 予想通り頭の緊箍児(きんこじ)の一言主も感応、空中で馬は元の紙飛行機に戻って、キョロキョロする牛魔王の上を小さく旋回した。

「少し小さくなったッパ」

「一割は三蔵法師になっていたからなウキ」

『グオオオ どこに失せおった!?』

 真上を飛んでいるとは気づかずキョロキョロする牛魔王。

「高度が落ちてきたブヒ!」

「八戒が重いッパ」

「重さは変わらないブヒ」

「ジッとしてろ、ウキ!」

 体重を移して紙飛行機を旋回させて牛魔王の背中に着陸させる。

 文字通り山のような化物なので、着陸さえすれば身は隠せる。

 

「……で、どうするのブヒ?」

 

「そうか、羅刹女と牛魔王は夫婦だ、放っておいても羅刹女のところに戻っていくわけだッパ」

「ああ、子どもの頃、平手の爺に聞いた『西遊記』を思い出してなウキ」

「しかし、羅刹女のもとに行くときは人の姿になっているはずだッパ」

「タイミングを見計らって隠れるウキ」

「隠れたその後はブヒ?」

「兄を信じろウキ」

「あんた、大事なとこで失敗してるからブヒ」

「信長でも失敗するのかッパ?」

「ブヒ、荒木村重が裏切った時さぁ、説得に黒田官兵衛に行かせて、黒田官兵衛がそのまま人質になっちゃったのを寝返ったと勘違いしたじゃん」

「そんなことがあったのか?」

「うん、それで、人質に取ってた官兵衛の息子の首を切った」

「え、子供に罪はないだろ」

「それを『さっさと倅の首を切れ!』ってブチギレてぇ」

「黒田官兵衛と言えば、関ヶ原の戦いの時、どさくさに紛れて九州の北半分取っちゃうほど軍事の天才だって、三国志でも有名だぞ。敵に回したらまずいでしょ?」

「官兵衛が人質になってるって分かって、サルがね、別の死んだ子供の首を見せて匿っていたのよ。『上様、このサルの一存にて官兵衛の息子は生かしております!』って、その時のアニキの顔って無かった」

「無事に済んだのぉ?」

「くやしいけど、サルは行き届いていたわよ。言うと同時に戸板に乗せられた官兵衛を連れてきてさ。官兵衛、人質生活で足が動かなくなってたのよ」

「それはヤバイ」

「『有馬の湯が効く、有馬の湯で湯治しろ!』って、あの時の狼狽え方は、めちゃくちゃカッコ悪かった」

「うるさい! おまえら素に戻ってるぞ!」

「ブヒ!」「ッパ!」

 

 やがて、羅刹女の住処の山に到着。牛魔王が人の姿に戻る寸前に飛び降りて、まずは三蔵法師の居場所を探った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

 

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RE・トモコパラドクス・14『退屈な紀香と友子』

2023-09-11 07:14:07 | 小説7

RE・友子パラドクス

14『退屈な紀香と友子』 

 

 

 友子の抹殺者として送り込まれてきた白石紀香には、カタキとしての緊張感がない。

 

「ねえ、そのパフェ、わたしにも一口おくれでないかい?」

 今も、そう言ってヨダレを垂らしている。

「やーねー、あげるからヨダレだけ拭いてくれない」

 紀香は、ハンカチでヨダレを拭うと「いいよ」も待たずに、スプーンでゴッソリと持っていった。

「あ、ああ~(◎△◎)!」

「たっまら~ん、わたしも、こっちにしときゃ良かったぁ(〃▽〃)!」

 友子は三十年前に首都高で事故に装って殺されかけた。将来、友子の娘が極東戦争の元凶になるので、未来の秘密組織が母(になる予定)の友子を抹殺しに来たのだ。

 からくも反対勢力である国防軍秘密組織ミームによって助けられ、ひと月前に蘇った十万馬力の義体。

 超チタン合金の骨格、核融合動力、コアCPUは第五世代の量子コンピューターという化け物。それでありながらボデイーの外郭は生体組織である。人間であったころのDNAをそのまま持っているので、外見は生きていた三十年前の十五歳のまま。そして、生体組織の血管には無数のナノリペアが循環していて、傷ついたりすれば、簡単なものだと数十秒で回復する。

 だからこそ未来の秘密組織に命を狙われる友子だが、さらに未来では友子脅威論はフェイクとされた。しかし、利権化した友子脅威論は容易には解消されず、抹殺のために紀香が送り込まれた。

 しかし皮肉なことに友子が消されては友子脅威論の根拠が無くなるので、逆に友子を保護する立場になってしまい、友子を演劇部に誘い込んで、マッタリ仇と共にJK生活の今日この頃。

 友子も紀香も同クラスの義体であるが、決定的な違いがある。

 友子には生殖能力が残されているのだ。

 どうも、わたしは特別らしい……な~んてことはとっくに忘れて、普通の女子高生として、蛸ウィンナーの妙子と三人で冴えない演劇部をやっている。
 冴えないといっても、友子と紀香の演技力は抜群。擬態能力が高いので、人間なら、たいがいのものには化けられる。先日も不登校と思われていた長峰純子を、それらの能力を駆使してC国の秘密組織から救ったところだ。

 

『あれぇ、どこいっちゃたんだろ!?』

『写真撮りそこねた!』

『あれ、ぜったい小野寺潤と矢頭萌だよね!』

 店の外で女の子達が騒いでいる。

『あっち、探してみよ!』

『オレたちも行くぜ!』

 

 一群は階上のテラスへ上がっていった。

 

「ちょっとやりすぎたかなあ……」

 口の端っこにクリームをつけたまま紀香が反省。

「紀香って、調子こいてサインまでやっちゃうんだもん」

 そう、二人は、ついさっきまで階上のテラスでAKRの小野寺潤と矢頭萌に擬態して遊んでいたのだ。

 最初は、ほんの数分のつもりで、買ったばかりの服を着てグラサンかけて、それなりに身を隠していたが、なんせ本物ではないので緊張感がなく、紀香がグラサンをとって汗を拭いた。

「わ、小野寺潤だ(゚д゚)!」

 ということになり、追いかけ回されてしまい、それを楽しんでいた。

 しかし、階段を降りたところで、熱烈なファンに出会ってしまった。

「仙台から来たんです! 命がけのAKRファンです。こんな目の前で出会えるなんて……きっと、こないだ瑞巌寺にお参りした御利益だわ。お願いです、サインしてください!」

 仕方なく、紀香は小野寺潤としてサインしてやった。擬態化すると、擬態した人間のスキルや、あらかたの知識もダウンロ-ドされるので、完ぺきなサインもできるし、本人の感性で行動することもできる。

 潤になりきった紀香は、潤の気持ちのまま、仙台の子をハグまでしてやった。

 そこを道の向かい側の店で買い物をしていた視力2・0のファンに発見されてしまった。

「いたー!」

 そして、二人は慌てて従業員用のドア(パスキーがついていたが、二人には無いも同然)から、商業ビルに飛び込み擬態を解いて制服に着替え、パフェなんぞ食べているのである。

 

 なんで、こんなことをやっているかというと……二人は退屈なのである。

 

 週明けの月曜からは中間テストで、部活もできない。授業内容は義体のCPUに完全に入っている。あとはセ-ブして、どのへんの点数に落としこむか。それは、当日のみんなの出来具合に合わせるだけである。

 

『ちょっと、ほんとに見かけたのかい!?』

『はい、こうやってサインももらいましたし』

『……ほんとだ、これ、潤のサインだよ!』

 一群の人たちが、また階上のテラスに上がっていった。

 でも、今度は、このビルの上にある劇場のスタッフと、AKRのプロデューサーまで混じっていた。

 

 彼らの強い不安と思念が飛び込んできた。

 

 まもなく、上のホールでAKRのライブが開かれる。

 そして、楽屋には、まだ本物の潤と萌が到着していないのだった……!

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
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せやさかい・432『散策部で八尾の条里制を見る』

2023-09-10 15:01:38 | ノベル

・432

『散策部で八尾の条里制を見るさくら   

 

 

 「「「「おお!」」」」

 

 モニターの画像に、散策部の四人は感嘆の声をあげた!

 映ってるのは田んぼと畑、その間に学校やら工場やら資材置き場とかもあるねんけど、そこも元々は田んぼやったことが偲ばれる。

 なんでか言うと、学校も工場も、ほぼ同じ真四角のかたち大きさ、あるいはそれを区切ったものやいうことが分かる。

『これがなぁ、大阪では珍しい条里制の跡なんやぞ』

 車内のスピーカーからテイ兄ちゃんの解説が聞こえて、なるほどなるほどと四人でうなづく。

 車の外では、テイ兄ちゃんが、墨染めの衣のままコントローラーを操作して、上空100メートルぐらいの空に虫が飛んでるみたいにドローンの姿。

「すごいなぁ、地上から見たら、どこにでもある郊外の景色なのに、空から見たら昔の条里制のまんまだ」

 いまや、うちら以上に日本に詳しくなったソニーが感心する。

『……ほんで、あちこちに小さな神社やら祠やらが残ってる』

 テイ兄ちゃんは、器用にドローンを操作させて、あちこちの神社や祠をズームアップしてくれる。

「あ、うちらの車や!」

 神社の駐車場に車が停まってる思たら、うちらのワゴン車。

「せや!」

「ちょ、さくら」

 留美ちゃんの前を無理やり通って車外に。

「どう、見えてる?」

「「「うわ」」」

「驚くことないやろがぁ」

「だって、いきなりさくらのドアップ!」

 テイ兄ちゃんがいちびって、うちの頭をドアップにしたんや。

「イーーー(`皿´;)だ!」

 

 アハハハハハハハ((´◇`))

 

 駐車場を貸してくれた神社にお礼を言うて、八尾市街に入る。

「このあたりは、木村重成のお墓を見に行った時に通ったわね」

 物覚えのええ留美ちゃんが感激。

 たしかに、恩智川を跨ぐと、昭和の雰囲気の街並み。玉櫛川を渡ると昭和でも戦前の雰囲気を残す住宅街。

 そこを坊主ならではの土地勘で、一通やら進入禁止を躱しながら第二の目的地のお屋敷。

 

「ここもすごいなあ……」

 

 ソニーが振り仰ぎながら写真を撮る。きっと、お姉ちゃんのソフィーに見せびらかすんやろね。

 今風の借家やら分譲住宅がならんでる街中に、忽然と茅葺のお屋敷。

 けっこうな規模で、敷地は幼稚園ほどやけど、母屋はお寺の本堂なみの大きさ。

 桜林堂

 控え目に屋号の看板がかかってる。

「あたま打ちそう……」

 入り口は大扉の脇の小さな通用口(?)から。

 無事に入ると、昔ながらの三和土(たたき)の土間。へっついさんやらおくどさんが残ってて、天井の木組は丸出しで、煙出しから、仄かにお日様の光が入ってくる。

「松花堂弁当注文しといたさかい、ゆっくりしよ」

 みんなでお座敷の席に収まる。

「ありがとう、テイ兄ちゃん、お昼までおごってもろて」

「「「ありがとうございます」」」

「ええ、ええ、言い出しべえはボクやねんしなあ」

 そうなんよ、うちも留美ちゃんも仕事がオフ。テイ兄ちゃんも仏教会の会合が延期になって「散策部のみんな空いてるかなあ?」て言いだして、急に春以来お休みになってた部活ができることになった。

 台風一過で、ひところの暑さもマシになって「穴場に行こう!」と、八尾の条里制跡を見に来ることになった。

「条里制って、都が碁盤目状になってることやと思てた」

「それは条坊制と云うんだよ、京都や奈良の区割りには残ってるよ。でも、条里制の跡が、こんな大阪の都心近くに残ってるというのはすごい事だと思う」

「いや、ちゃんと現役の農地なんだから、跡じゃなくて現役そのものだぞ。1000年以上昔の田んぼが、そのまんま田んぼで残ってるというのはすごいことだぞ!」

「そうだよね、駐車場貸していただいた神社も式内社だったし」

「シキナイシャ?」

「えと、延喜式に記載のある神社なんだよ」

「エンギシキ?」

 うちらの会話も、だいぶレベルがあがってきたけど、うちは微妙に遅れてる(^_^;)

「905年に作られた律令の施行細則、つまり、補足説明だな。その中に、全国の大事にすべき神社の一覧があって3000近い神社が登録されているんだ」

「す、すごい」

 式内社もすごいけど、それをスラスラ説明できるソニーは、もっとすごい。

「この桜林堂も、三百年前の庄屋屋敷を使ってるんや。ただ文化財として保護してるより、じっさいに使ったほうが傷めへんし、維持管理の費用も出るさかいなあ」

「うちのお寺もそのくらいやろ、うちもなんかやったら儲かるんやない?」

「お寺で商売やったら、そのぶん税金かかねんぞ。それに、三百年程度のお寺なんか掃いて捨てるほどある。さくらが思うほど値打ちは無い」

「あはは、そうなんや」

「ところで、自分ら、進路はどないすんねん? もう二学期やさかい、心づもりせなあかんねやろ?」

「自分は留学なので、元の勤務に戻ります」

「ああ、ソフィーは現役の軍人さんやったなあ、伍長やったっけ?」

「今月から二等軍曹になりました」

「わ、下士官だ!」

 メグリンが幹部自衛官の娘らしく感動する。

「いや、将来はソフィーといっしょに王室護衛の任務に就くので将校の階級が必要なんです。そのための準備です」

「お姉さんは、どないしてんのん?」

「あ、はい、中尉に昇進して、王立民俗学学校の教官をやっています」

「王立民俗学学校?」

「はい、実質は魔法学校なんですが……」

 説明しながらうちの顔を見るソニー『こんなことも言ってないのか?』という気持ちが籠ってる。

 しゃあないやんか、このごろ声優と学校の掛け持ちで忙しいねんもん。

「古閑さんは?」

「はい……自衛隊に入ります」

「ああ、やっぱりなあ。親子二代の自衛隊やなあ、がんばってな(^▽^)」

「はい、ありがとうございます」

「留美ちゃんは?」

「大学に行きます」

「モデルと役者の道は?」

「はい、いまのお仕事はちゃんと勤め上げて、それが終わったら学生に専念します」

「うん、偉いなあ、ちゃんと見通し持ってて……さくらは?」

「え、あ……」

「おまちどおさまでした、松花堂弁当5つお持ちしましたぁ(^▽^)」

 ラッキー(^▲^;)

 ちょうどウェイトレスのおねえちゃんが注文を持ってきてくれて、言わんですんだ。

 

 せやさかい  第一期 完      

 

            一部内容を『やくもあやかし物語・2』に引き継ぎますご愛読いただければ幸いです

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・13『幸福の黄色いハンカチ』

2023-09-10 07:01:13 | 小説7

RE・友子パラドクス

13『幸福の黄色いハンカチ』 

 

 

 一瞬、自分たちと同じ義体なのではと友子は思った……。

 絶やさぬ笑顔、人の気をそらさぬ話し方。アイドルサイボーグという言葉が頭をよぎったが、そんな人工的な言葉では表せないオーラが二人にはあった。

 

 二人とは、坂東はるかと仲まどかの二人である。

 

 坂東はるかは、家庭事情で、この乃木坂学院を二年で中退している。大阪の府立高校に転校し、いろいろ苦労したようだが、そのことで、十九歳とは思えない大人びた優しさと魅力がある女優だった。

 仲まどかは、この春に乃木坂を卒業したばかりだが、それまで都下有数の伝統的大規模校であった乃木坂の演劇部にいろいろと事故が重なり、わずか三人に減った演劇部を立て直した。そして、その年の都大会で最優秀賞を獲得、全国大会でも優秀賞を取った。

 友子たち現役の演劇部にとっては中興の祖。今でも、部室の真ん中に二人の写真が掲げられているほどだ。

 で、その時の顧問が担任のノッキーこと柚木先生で、事あるごとに二人の思い出を語り、友子たち三人の演劇部員に無邪気な圧力をかけてきた。

 まどかも、はるかの『春の足音』という連ドラにエキストラ出演したことがきっかけになり、まどかと同じNOZOMIプロに所属。全国大会で最優秀が取れなかったのは、彼女が、もうプロと見なされたからだという。

 

 二人はクラスの授業見学……のはずだったが、みんなの気が散って授業どころでは無くなり、二人を囲んでのお喋り会になってしまった。

「はるかさん。どうしたら、そんなにキレイでいられるんですか(#^_^#)!?」

 蛸ウィンナーの妙子が、まっさきに聞いた。

 瞬間二人の頭に、この数年間の出来事が駆けめぐったのが分かった。親の離婚、突然な転校、自然な流れの中での演劇部への入部、いろんな挫折。
 はるかのことは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』まどかさんのことは『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に書かれている通りだと分かったが、やはり生のエモーションに接すると刺激が違う。

「う~ん、正直言って、わたしもまどかも、進んでこの道に入ったんじゃないんです」

「そう、うちの事務所には、白羽さんて人タラシが居て、二人とも、要は乗せられちゃった……かな?」

 まどかさんが、あっさり片づけようとすると、はるかが付け加えた。

「自分で言うのもなんだけど、わたしもまどかも、目立つ方じゃないけど、真っ直ぐだったように思います。それにオメデタイ(笑)」

「あの話なんか、いいんじゃない?」

 まどかが振る。

「そうね」

 そう言うと、はるかはペットボトルのお茶を半分飲んで、教卓の上に置いた。

「この状態をどう見るかです」

 みんな「?」であった。

「もう半分しか残っていない。と見るか、まだ半分残っているかと見るか」

「わたしたちは、共通していました」

「「まだ半分残っている(^▽^)!」」

 アハハハハハハハハ(((((´□`))))))

 二人がハモって、そして教室のみんなも笑った。

「あと、根拠のない自信ですね」

「最初から自信あったんですか!?」

 麻衣が手を挙げて聞いた。

「そんなもんなかったですよ」

「ただ、半分残っていると思える、お気楽さだけ」

「それを、根拠のない自信にしちゃうんだから、この世界は怖いです(笑)」

 全くの思いつきで、はるかは黒板に図を書いた


①  >      <

②   <    > 


「この外向きと内向きで区切られた空間ってか、その間に線を引いたらどっちが長く見えますか。直感で!」

「「はい、手を挙げて(^▽^)/」」

 二人の呼吸は絶妙だった。圧倒的に①が多かった。ただ一人目立ちたがりの自称「イケメン」の亮介だけが②に手を挙げた。

「答は、両方とも同じなんです。ちょっと定規貸してもらえる?」

 亮介が高々と差し出したが、はるかは友子の五メートルのスケール(部活用に持っていた)を取り上げた。

「徳永君、ごめん。長い方がいいから」

 亮介のそれは三十センチしかなかった(^_^;)。

「まどか、そっち持って、いくら?」

「一メートル三十センチ……かな、下もいっしょ」

「ううん、下の方が二ミリ長くない?」

「ほんとだ」

「おめでとう、徳永君正解!」

「やったー!」

 亮介が無邪気に喜んだ。

「でも、それって誤差の範囲じゃないですか」

 妙子が混ぜっ返す。

「……ともいうそうです(笑)」

「これが根拠のない自信です。プロディユーサーなんかは、こんなところを見ています。むろんプロになれば、他に役者としての勉強は必要ですけど、基本は、このカッコをいかに強力にしていくだけですね」

「じゃ、実験。ちょっと教科書貸してくれる」

 はるかは、中島敦の『山月記』を乙女の恋する心で読んだ。

 

 隴西の李徴は博學才穎……天寶の末年……若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に……(ღ*ˇᴗˇ*)

 

 あんなに、カクカクしてコムツカシイ漢文調の文章を、恋のラブストーリーのようにしてしまった。

 次にまどかが読むと、まるでコメディーの描写のようになり、みんな大いに笑った。

 驚いたのは、この楽しい一時間はまるっきりアドリブで、その場の雰囲気で話題を進めていることだった。友子でも、一分先の二人の心を読むことができなかった。

 

 そして、授業との最大の違いは、みんなが楽しかったこと。

 

 そのあと、講堂で生徒全員を集めて講演会が開かれた、驚いたことに、ここでも二人の心は、ほとんど読めなかった。みんなと、その場その場での会話を楽しんでいる。

 お昼になって、迎えの車が来て、いったん乗ったはるかが降りてきた。

 

「忘れるとこだった。これ、部室に掛けといてくれる!」

 

 渡されたのは、黄色いハンカチ。これは読めた。二人の自伝的ラノベに出てくる幸福の黄色いハンカチだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
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やくもあやかし物語・2・006『ネルを起こして』

2023-09-09 16:27:15 | カントリーロード

くもやかし物語・2

006『ネルを起こして』 

 

 

 目覚ましが鳴る前に起きる。そして、すぐにアラームを解除する。

 

 とっくに起きてるのに『こら、ねぼすけ! はやく起きろ!』って感じで目覚ましに急き立てられるのやだからね。

 ここに来て、まだ目覚ましのお世話になったことはないよ。鳴る前に起きる。

 でも、まんいちってことがあるから、必ずアラームはかけておく。

 解除してから――あ、早まったかな――とも思う。

 ルームメイトのネルはねぼすけ。彼女が来てから、毎朝わたしが起こしてる。

 もう日課と云うかルーチンというか、当たり前になりかけてるんだけどね、目覚ましで起きるというのもいいんじゃないかと思うよ。

 もう、いちいち起こしてなんかいられない。起こすの飽きたよ。だから目覚ましにしたよ。

 そういう方が友だち感が出るんじゃないかなあと思った。

 でも、切った目覚ましをもういっかいかけ直すというのも変だ。逆に意識しすぎてる。

 ああ( ̄Д ̄)

 目覚ましひとつで、これだけ優柔不断になるのは、わたしの方がまだ慣れてないんだよ。学校にもネルというルームメイトにも。

 

 シャーー

 

 窓のカーテンを開ける。

 続いて窓も開けようかと思ったら……見えてしまった!

 湖の岸ちかくの湖面でニンフたちが踊っているのを!

「見えた( ゚Д゚)!!」

 思わず叫んでしまった。

 ドテ!

「あ、ごめん(^_^;)」

 わたしの声にビックリして、それが、ちょうど寝返りをうったところだったので、そのままネルが床に落ちてしまった。

「……なによぉ、こんな朝っぱらからぁ」

「ごめん、でも、見えたんだよ。ニンフが踊ってるのが」

「ええ……?」

「こっちこっち、ほら、岸に近い水の上で踊ってる!」

「どれどれ……」

「ね!」

「ああ……あれは、朝日が波に反射してるだけだよ」

「え?」

「ほら」

 ネルは勢いよく窓を開けて――しっかり見てみろ――という感じで親指で指さした。

 

 アハハハ……

 

 そして、今朝の一時間目はヒギン……ソフィー先生の魔法概論。

 起立礼の挨拶が終わると、いきなり切り出してきた。

「じつはな、魔法は誰でもつかってる」

 ビックリすることを言う。

 クラスの中には初歩的、でも本格的な魔法を使える人もいて、そういう人たちは、それなりに苦労して魔法を憶えたので「誰でも」という言葉に、ちょっと反発の空気。

「例えば『立て』って言うと人は立つ。『こっちを見ろ』と言うと人はこっちを向く」

 なにを当たり前なことをという感じ。

「『立て』も『こっちを見ろ』も、言ってみれば呪文だ」

「でも、言葉と魔法はちがうのではないでしょうか? 言葉は誰でも発しますし」

 メイソン・ヒルという貴族めいた男の子が異を唱える。

「どうしてだ、意志を持って言葉を発し、人にその言葉通りの行動をおこさせる。同じだろう」

「まあ、そう括ってしまえば」

「しかし、先生」

 今度はオリビア・トンプソンという良家のお嬢さん風が手を上げる。

「なんだ、オリビア」

「魔法は誰にでもかけられますが、言葉は同じ言葉を使う人間の間でしか通じません」

「もっともだなオリビア。試してみよう……ボビー」

 先生が指を立てると、気配がして、教壇脇のロッカーの後ろから子犬が現れた。

「この犬に『立て』と命じてみてくれ」

「わたしがですか?」

「ああ」

「立て……立て、立ちなさい! スタンダップ!」

 アウ~~ン

 子犬はあくびするだけだ。

「アハハ、ダメですね」

「わたしがやろう……立て!」

 ワン

 子犬は後ろ足で立った。

「気を付け!」

 ワン

 子犬は人間みたいに前足を背中に回して顎を引いて気を付けの姿勢になった。

「休め!」

 おお!

 見事に休めの姿勢になった。

 パチパチパチ

 可愛いし、ビシッときまっているのでみんなが拍手した。

「お言葉ですが、先生、これは先生がしつけて訓練されたのでは?」

「多少はな……」

 先生、こんどは教室の窓を開けて、指でオイデオイデをする。

 ピピピ チチチ

 雀が二匹窓辺に停まった。

「気を付け!」

 ピピ

 なんと、雀が気を付けした!

「この雀とは面識がない。でも、この程度のことはできる。わたしの先祖は、この雀の目を借りて空から敵の様子を探るようなこともやった。もういいぞ」

 ピピ

 雀は、何事も無かったように飛んで行ってしまった。

「もう一度言う、言葉も魔法も人の意志が籠められている。そして条件が整わなければ、たとえ意思があっても動かせるものではない。そうだろ、言葉が通じるだけの同国人が公園のベンチに座っていて、いきなり片方が『立て』と言って立つものではない。ここが学校で、君たちが一定の敬意をもっているからこそ、授業の最初、起立礼という魔法が成り立ったというわけだ」

 ああ……なんとなく、70%ほど分かったような気がしてきた。

「ちょっと先に進み過ぎてしまった、ここからは民俗学的見地に戻って話をするぞ……」

 残りの30%には踏み込まずに、先生は普通っぽい授業に移っていった。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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RE・トモコパラドクス・12『ルージュの錬金術師』

2023-09-09 06:40:12 | 小説7

RE・友子パラドクス

12『ルージュの錬金術師』 

 

 

 玄関に男物の靴が二足並んでいる。

 

 つまり主人公友子の父であり弟であるというややこしい関係の一郎以外に、男の来客がある。

 靴の片方は24・5EEという日本男性としては小さいサイズで、性格も特に際だって可もなく不可もなしの一郎のもの。もう一方は28・0EEEという少し度を超した大きな靴である。母であり義理の妹である春奈に頼まれて、来客用の昼ご飯と晩ご飯の材料を買って帰ってきた友子は記憶には無いその男の靴のサイズを見て「バカの大足、マヌケの小足」という慣用句が思い浮かんだ。

 

「こんにちは、いらっしゃいませ(;'〇'#)」

 

 女子高生らしく含羞の籠もった挨拶をして、キッチンの方へまわった。

「ありがとう、トモちゃん」

 母であり義妹である春奈が、慣れた主婦の目と営業職の勘で、友子が買ってきた食材が適量であることを見抜いて満足した。

「あら、ちょんがりコーンがこんなに」

「うん、ビールのおつまみにいいかと思って。お父さんの好物だし、余っても保存効くしね」

 と、自分の好物であることは一言も言わないでケロリと説明した。

 ちょんがりコーンは友子が義体になる前の昭和の発売で、当時小学校四年生であった友子は、小学一年生の一郎と取り合いをして負けたことがなかった。義体の娘として戻ってきたとき、一郎は、このちょんがりコーンを箱買いして、とりあえず姉弟として早食い競争をやった。昔と変わらない姉の食べっぷりに目頭が熱くなる一郎を、事情を知らない春奈に説明するのに困った。十五歳の女子高生の姉が、四十五歳の弟に感涙にむせばせたとは言えない。

 

 男二人は、新作のルージュの試作品の絞り込みに頭を捻っていた。

 

「大人っぽい暗い色ってのは、もう出尽くしてるんで、その線はもう捨てました。明るくナチュラルな明色が、これからの主流だと思うんです」

「しかしお偉方の感覚は違うぜ、いまだにアンニュイの美とか言ってるんだもんなあ」

「とりあえず、カラー見本は、これで……」

「とりあえず、リラックスして、クールダウンしてお考え下さい」

 友子は、微糖のコーヒーと、ちょんがりコーンをお盆に載せてもってきた。

「すまん友子。まあ、こいつでも食って、考えよう」

「太田っていいます。先輩に手伝っていただいてルージュの開発やってます」

 一瞬、太田の心に笑顔がよく似合う女の人の顔が浮かんだのを友子は見逃さずデータ化した。

「じゃ、今日はごゆっくり。いえ、しっかり頑張ってください」

 友子がリビングを出ると、太田は、お世辞ではなく友子を褒めた。

「うん、いいですね友子さん。娘らしさの中に成熟した大人の女を予感させます。あ、これは、まだアイデアの段階なんですが、新製品には香料の他に、男を引きつける……あ、いやらしい意味じゃなくて、フト振り返らせるような、そんな成分を入れてみたいと思うんです」

――着想はいい――と思った。

「成分までは絞り込みました。ベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの三つです」

「ほう、それは」

「女性が楽しいと思ったときに出てくるホルモンです。量にもよりますが薬事法には抵触しません」

 友子は「バカの大足」を見なおした。

 お昼は焼き肉とも思ったが、香りや色に関わる感覚が鈍りそうなので、山菜ご飯と素麺のセットにした。一郎は、ただ美味しそうに食べているだけだったが、太田は、素麺に添えておいた大葉の匂いの成分までパソコンで検索するほどの、熱の入れようだった。

「太田、まさかルージュに大葉入れるつもりじゃないだろうな?」

「あ、ついクセで、すぐに成分分析するんです。すみません(^_^;)」

「謝るこたあ、ないよ」

「そうよ。じっと見ると太田さんて、素敵だわ」

 半分応援のつもりで、友子はエールを送った。

「でも、太田さんの彼女って大変でしょうね」

「え、そ、そうですか? あ、いや、そうでしょうね(^〇^;)」

 この時も、友子の心には、その女性の姿が浮かんだ。その名も笑子という分かり易いほど明るい女性である。太田は無意識のうちに笑子に似合うルージュを考えている。

 友子は、太田のパソコンに入っているベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの混合比率を、最適な数字に書き換えてやった。

 昼食を挟んで、さらに仕事は続いた。

 一郎は二百件以上のルージュに関するウェブを開き、成分が公開されている古い物に絞ってサンプルのモデルをバーチャル化した。

「温故知新ですねぇ。方向はボクも同じです。イメージ的には1950年代の無邪気な明るさなんですが、そこに何を足して何を引くのか……」

 色のサンプルは、既発の製品に太田が持ってきた独自サンプルを混合し、AIが生成したモデルに付けてみるのだが、パソコンの3D画像ではイメージに限界がある。

「すみません、奥さんと、よかったらトモちゃんもリアルでつけてもらえませんか」

 太田の頼みに春奈も友子も唇につけて試してみた。

「うう~ん……うう~ん……」

「あ、恥ずかしいです(#´ω`#)」

 至近距離で唇ばかり見られるのは、正直言って笑いそうになる友子だが、正直に言うわけにもいかず、女子高生の平均的な恥じらいを浮かべておしまいにした。春奈も恥ずかしくはあったが、亭主のため会社のため、そして、少しはまんざらでもない気持ちもあって一時間がんばった。

 開発者としての二人の熱気は、まだ五月のリビングに冷房を入れなければならないくらいのもので、友子はちょっとだけ一郎を見直し、素直に協力する春奈を可愛く思った。

 三時半を過ぎたころ、太田は幻覚を見た。

「……このリビングって、二階でしたよね」

「ああ、一階はガレージと、オレの部屋だ」

 太田は、ついさっきリビングの外を歩いている笑子の幻を見た。一瞬こちらを見てニッコリと微笑んだ笑子の唇には理想のルージュが光っていた。太田は記憶が薄れないうちにパソコンで色とグロスをバーチャル化した。

「これだ! この色とグロスです! あとは添加物。すみません先輩。いまから研究室に戻って試作します。あ、奥さんもありがとうございました。トモちゃんにもよろしく!」

 太田は、風のように去っていった。

「あの人の奥さんになる人は大変ね……でも、幸せだと思う」

 春奈が呟いた……。

 

 そのころ、友子は笑子に擬態したまま、姿見に映った姿を見て大納得していた。

「うん、こういう子、いいと思う。でも、あの大足、簡単にはゴールインしないだろうなあ……」

 擬態を解いて窓辺に寄ると、五月晴れの空に綿あめの試作品のような雲が浮いている。

 

 夏の予感……

 

 そう呟いて、夕食の手伝いにキッチンに降りる友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
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銀河太平記・180『城内放送』

2023-09-08 14:50:24 | 小説4

・180

『城内放送』穴山新右衛門 

 

 

 老中首座 老中首座 お上のご用命です至急黒書院までお越しください 繰り返します……

 

 あやうく印判を押し間違えるところだった。

 板倉、酒井の二人の老中もキーを叩く手を停めて城内放送のモニターに目をやる。

 この春にモデルチェンジしたモニターには、初代様から変わらない広報係が笑顔でイレギュラーな呼び出しを繰り返している。

「どういうおつもりだ上様は?」「ちょっと変だな」

 板倉、酒井の老中もデイスプレーの画面から顔を上げる。

 

 普通、城内呼び出しは内線でおこなう。内線で掴まらない場合だけ例外的に城内放送を使うこともあるが、わたしは朝から御用部屋と呼ばれる老中共同執務室に詰めている。

「上様に心づもりがおありなのだろう」「抜き差しならぬご相談、いや、御下命かもしれんなあ」

「一時間で戻らなければ黒書院に電話してくれ」

「「こころえた」」

 

 同輩二人の返事を背中に黒書院への廊下を進む。廊下で出会う役人どもも――なんですか今のは?――という顔をしている。

 城内放送は城内全域に聞こえるばかりではなく、静かにしていれば城外でも聞こえる。風向きによっては半蔵門を超え、近ごろ問題が起こりつつある虎ノ門方面にも届くだろう。この瞬間に黒書院に飽和攻撃が加えられたら、幕府は一瞬で消滅する。

 

「なに用でありましょうか、お上?」

 

「そう尖らないでくれ、新右衛門が心配していることは全て織り込み済みのことだ。いい刺激になるだろ?」

 黒書院の上様は、部屋住みであったころのような気楽さで出鼻をくじかれる。

「赤間関や移民問題で多忙なのです、お手短に願います」

「そうか、ならば簡単に言う。新右衛門、大老職を引き受けてくれ」

「大老職!?」

「地球のあおりをくらって、この火星も安定を欠いている。このままでは、マース戦争以来の戦いが起こる。強い指導力がいる」

「畏れながら、それは、それこそが上様のお役目かと存じます」

「わたしはね、良き表札になろうと思うんだよ」

「権威に徹するということでありますか」

「将軍は権威の源であればいい、新右衛門たち幕閣が相談して国の方向を決め、将軍は、それを裁可する。ゆくゆくは議会の権限を大きくして軍事・外交・政策の全てを議会と、その代表である大老に任せたいと思う」

「立憲君主制の日本化でありますか」

「日本化はまだ先だ」

「英国流?」

「『君臨すれど統治せず』という点に置いてはな。しかし、あれは君臣が対決的だ。イギリスでは議会に国王が臨席するとき、国王はガードに玉座の周囲に爆弾が仕掛けられていないか調べさせ、議会は王宮に人質を差し出す。そんな対立的なものではない。日本化するのが理想だが、あれには二千年の年月が必要だ、この火星の状況で二千年も待てない」

「それでは?」

「強いて例えればプロシャ、皇帝の指導力を残しつつ国家指導の実質を宰相が預かるという形だ」

「この新右衛門にビスマルクに成れと?」

「その顔にビスマルクのヒゲをつけたら、扶桑の子どもはみんな逃げ出すぞ」

「ムム、ならば、新右衛門からも申し上げます」

「なんだ、たいていのことでは凹まんぞ」

「早く御台所様をお迎えなさいませ、お世継ぎを設けるのは将軍の大事な務めでございますぞ」

「それは、今少し火星が安定してからだ。いざとなったら、弟のところから養子をとればいい」

「それは……幸い、ここは黒書院、白書院ならいざしらず、お互いにティータイムの余談ということにしておきましょう」

「ムム……白書院は幕府正式の対面の場、あそこで言ってしまえば完全に命令になってしまう」

「では、仕事も溜まっておりますので、これにて……」

「よし、ならば、奥の院で話そう」

「お、奥の院でございますか……!?」

「あそこならば、将軍私的な場所である。文句はあるまい」

「ムム……」

「あそこで違えれば……おお、想像するだに震えがくる。のう、新右衛門」

「…………上様(-_-;)」

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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RE・トモコパラドクス・11『新型スマホの特別機能』

2023-09-08 06:41:47 | 小説7

RE・友子パラドクス

11『新型スマホの特別機能』 

 

 

 この人には笑顔が似合うと思った。

 

 この人とは、我らが担任の柚木先生である。

 今朝の柚木先生は、久々にクラス全員が揃ったので、教室に入ってきたときから終始笑顔である。

 しかし、ストレートに長峰純子に声を掛けたりはしない。やっと復帰した不登校生には普通に接するのが一番と教師のイロハと自覚しているのだ。それでも長欠だった順子が登校してくれた喜びを隠せないでいる。いい先生なのだ。それだけで、アラフォーの柚木先生は日ごろ気にしている目の小じわも忘れ、女子高生のように華やいで見える。

 人間は人柄と気持ちなんだ。嬉しさは生徒にも伝染して、先生の笑顔を自然なものと受け止めて、冷やかす者などいなかった。

 うん、人間は人柄と気持ちなんだ。

 うん、この感じで臨んだら、次で二けたになる見合いもうまくいくかもしれない。

 うん、しかし、熱気と興奮で小じわのファンデが粉になって飛散し始めると、少しばかり悲惨になってきた。

 友子は、こんな先生が、こんな時につけたら栄えるような、それでいて強靭なファンデやルージュがあればいいなあ……と、弟であり父親である一郎の感覚で思った。一郎はいま仕事で、新しいコスメの研究にとりくんでいる真っ最中なのだ。

 飛び散るファンデに気付き、冷めかけた興奮をブーストするため、先生は半ば焦って、こんなことを言った。

「終礼で言うつもりだったんだけどぉ、来週の月曜日に卒業生で女優の仲まどかさんと坂東はるかさんが取材を兼ねて、来校されま~す!」

―― キャー!! ――

 教室に歓声が満ちた。

 坂東はるかと言えば、『春の足音』という連続ドラマで彗星の如く現れた女優で、今やドラマや映画に、この人の名前を聞かない日はないというくらい。家庭事情で中退したけれども乃木坂学院を心から愛してくれている先輩だ。

 仲まどかは、乃木坂演劇部中興の祖といわれ、女子大生をやりながら女優としても坂東はるかと肩を並べる先輩。

 二人はもともと南千住の幼なじみ同士で、ノンフィクション小説『はるか 訳あり転校生の7カ月』『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の主役でもあって、有名卒業生の中でも現役生の人気はピカイチだ。

「演劇部って言えば、鈴木さんと浅田さんがそうよね、わたしも一応顧問だしぃ。月曜はよろしくね」

 友子は無意識のうちに、先生や生徒達が放っている嬉しいときのホルモンであるベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの含有率を測定なんかしてしまった。

 休み時間に、そのホルモンをナノリペアに作らせ、試してみたら効果てきめん、肌にいっそうの張りと潤いが出てきたばかりか、男を誘うフェロモンまで増加しているのには驚いた。廊下ですれ違った大佛聡の目の色が変わったので、友子は急いで数値を戻した。

 

 友子のクラスは、おおむね良い子が集まっているが、おのずと個性がある。

 

 蛸ウィンナーの池田妙子は。最後の楽しみに取っておいた蛸ウィンナーを口に放り込むと、ニヤニヤとポケットから買ったばかりの新型スマホを取りだした。

「へえ、これ昨日発売されたばかりの~!」

 すっかり元気になった長峰純子がキャピキャピとしゃべり出した。本来は、こんなに明るい子なんだ。助けてあげてよかった! 柚木先生の時以上に胸が熱くなった。

「それって、ホログラムが撮れるんだよね!?」

「そうなんだよぅ……ドーヨ!」

 なんとスマホの画面の上に実物大のガトーショコラが浮き出した。

「昨日、このスマホを買った記念にアキバのお店で買って写したの」

「写しただけ?」

「もちろん、あとは美味しく頂きました」

「タエちゃんが?」

「ううん、兄貴が。スマホ買うのに一昨日の晩から並んで、買った興奮で、限定何個のガトーショコラも並んで買っちゃって、その記念に写して食べちゃった。で、罰に、今日は、あたしが独占!」

 女の子達がキャーキャー言ってると、つい友子もしゃしゃり出て幸せを増幅したくなる。

「これ、他にも機能ついてるよ!」

「ほんと!?」

「うん……」

 友子はイジリながら、無意識にスマホを細工してしまった。

「ほら、ここクリックすると匂いがする」

「……ほんとだ、高級チョコの匂いだ!」

 どれどれぇ(^▽^) みんなも集まって来る。

 で、友子に悪意は無かった。ただ自分の能力がコントロールできなかっただけなのである。


 放課後、紀香と二人で部室に向かっていると、教室のある校舎の方から、すごい悲鳴が聞こえてきた。

 キャアアアア


「友子、なんかやらかしたんでしょ!?」

「え、ええ?」

 義体である友子と紀香には、悲鳴によって人の状況が分かる。今のは命に関わるような危険なものではない。ただ、とんでもないものに出くわした時に出る悲鳴である。

「ん、この臭い分子……」

「あ……!」

 友子は、ダッシュで教室に向かった、そして、その臭い分子の元を発見した。

 妙子の机には、例のスマホが放置され、みんながそれを遠巻きにしていた。

 友子は、スマホに匂い再生機能と共に、時間経過機能まで付けてしまっていた。

 確かにガトーショコラのホログラムは出ていたが、食後十数時間たった……その姿と臭いであった。
 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        長欠のクラスメート
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RE・かの世界この世界:205『与一の馬』

2023-09-07 14:11:34 | 時かける少女

RE・

205『与一の馬』テル 

 

 

 さて、困った。

 

 与一さんが加わって意気軒高な『黄泉の国を目指す神々の会』なんだけれど、オノコロ島で発足した時は神々はイザナミさんとヒルデの二人に人間のにわたしが付いているだけだったが、今や人間の方が多い。名称を変えた方がいいかもしれない。それに……

桃太郎二号:「お、おれだって神さまだぞ、なあ、イザナギのおっさん(;'∀')?」

イザナギ:「たしかに桃太郎は、大吉備津日子命のモデルだけどねぇ……」

ケイト:「おまえは二号だろーが」

桃太郎二号:「うっせー!」

イザナギ:「みんな和気あいあいとやってるわけですし、『黄泉の国を目指す会』ではどうでしょう?」

ケイト:「目指すと会の間に寂しさを感じるなあ」

イザナギ:「ああ、それなら『黄泉の国を目指す有志の会』では」

ケイト:「町内会の慰安旅行みたいだ」

タングニョ-スト:「迫力がありませんね」

ヒルデ:「ならば『ゃ』を入れよう」

みんな:『や』?

ヒルデ:「いや、小文字の『ゃ』だ」

みんな:「小文字の『ゃ』?」

雪舟ねずみ:「ああ『黄泉の国を目指す勇者の会』!」

みんな:「「「「おお!」」」」

桃太郎二号:「かっこよくなった!」

テル(わたし):「いや、そのことだけじゃなくて、これから中国山地を超えるための足がなあ」

雪舟ねずみ:「あ、その件につきましてはご案じ無く、市役所の要請もあって黄泉平坂まで行く許可は出ています」

テル:「いいのかい?」

雪舟ねずみ:「はい、岡山も島根も神話の国、まるっとこみこみで売り出そうと言う方針になりました」

与一:「わたしは馬で行きます、壇ノ浦から乗ってきた馬がありますから」

ヒルデ:「馬……どこに繋いでおられた?」

与一:「放してあります、近くに繋いでいては追手に知られてしまいますので。那須の里で慣らした馬ですので、呼べばやってきます」

 ピーーー

 与一が口笛を吹くと、琵琶股斑模様(びわまたまだらもよう)の見事な馬が駆けてきた。

与一:「これは……わたしの馬ではない!?」

みんな:「「「「ええ」」」」

ヒルデ:「そう言えば、屋島で扇を落とした時の馬は栗毛であったように思うぞ」

与一:「どういうことだ?」

 みんなが訝しんでいると、薮の中で「それについては、わたしが説明するピョン!」と声がした。

与一:「なに奴!?」

桃太郎二号:「あ、おめえは!?」

ケイト:「因幡の白兎!」

因幡の白兎:「いま説明するから、その物騒なものは仕舞ってよ」

与一:「仕舞うかどうかは、話し次第だ、人の馬をなんとした!?」

 我々には温厚に対応した与一だが、人が変わったように尖がっている。やはり武士、武士の表道具と言っていい馬にはきびしいのだろう。

因幡の白兎:「ある神さまに頼まれたんだ……」

与一:「ある神さまだと?」

因幡の白兎:「じつは……」

 

 因幡の白兎の話は、意外な、でも、ちょっと泣かせる話だった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ

 

 

 

 

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