続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

D『罠』

2021-08-06 06:41:50 | 美術ノート

   『罠』

 木製コート掛け、本来壁にあるものであるが、床に固定されているという。
 絶対、絶対にあるはずのない物が、フラットな床にあたかも障害物として設置されている、この愚かしさ。

 かつて作品は美しい物、感動を呼ぶものとして壁に掛けられていた。然るべき位置は概ね目の高さであり、それよりもずっと下、あるいはずっと上はない。木製コート掛けも然り、設置されるべき場所は決まっている。
 使用目的、人の日常的な動きによって、位置は確定される。木製コート掛けを床に置く必然性は皆無であり、床に設置されるという偶然は決して有り得ない。

 デュシャンは、決して無い状況を常に探している。決して無い状況は必然性をより強調、思い起こさせる。人の生活における必然を突き詰めて考え、そうあるべきであるという結論に風穴を開けようと凝視している。反目というよりは並べて同じ傾向を打破する、針の孔のような主張を提示している。
 異端は正論ではないのか。
 矛盾というのでもないとすれば、同列に置く資格はなくもない。しかし、不要、障害は存在しうるという主張は気づき難い。

 床に固定されて噴飯物の『罠』(木製コート掛け)は静かに問いかけている。


 写真は『DUCHAMP』 www.taschen.comより


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