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『自転車の車輪』
台座の上に自転車から取り外した車輪一つが倒立している。ある意味奇跡的な光景であり、通常ならばこのような形で安定する設置は望めない。
奇跡の環である。
車輪は地上を回転していくものであるが、象徴のように置かれたこの作品の鑑賞者は、倒壊を恐れてこわごわ周囲を及び腰で見るのではないか。自転車の車輪という、それだけでは役に立つこともない廃物に恐れをなす光景というのも洒落ている。
廃物が一つの神秘に変貌したのである。
ここには天然自然の論理の集約があり、環の概念には宇宙や微細な原子に至るまでの基本的な構造原理がある。
デュシャンはこの作品を前に『始まりであり、終わりである』とでも呟いたのではないか。
廃物が恐れおおくも神秘の情景を醸し出し、世界のあり様を伝えている。小さな光景が大きな世界を包み込んでいる、危機を孕みこみながら怪しくも平然と設置させた姿は神々しささえ感じる美しさを秘めている。シンプルにして多くを語りこむこの作品に感服、デュシャンてすごい!!
(写真は『マルセルデュシャン』㈱美術出版社より)
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