人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

台風一過のクラシック

2022-09-19 10:27:34 | 回想
最大級の危険な台風が日本列島を襲っている最中とのこと。被害が少ないことを祈ります。

台風と言えば、二度ほど忘れられない思い出があります。
二度とも、同じ場所でその恐ろしい時を過ごしたのです。
昭和54年と平成8年の秋、前の方は生まれ育った東京中野在住の頃、後のは関西に拠点を移していた頃で、帰省を兼ねて東京見物をしていたのです。
その場所とは、今じゃ伝説となっているであろう、中野の、いや中央線沿線のと言うべきか、いやいや東京のと言ってもいい、JR中野駅北口サンモール商店街の路地にあった、その名も「クラシック」という名曲喫茶なのでした。
クラシック音楽を聴かせているから、そういう名なのですが、その佇まいから中の様子も何から何までクラシックなのです。
”レトロな”、という洒落た形容の方が相応しいのでしょうが、そんじゃそこらの”レトロな喫茶店”なんぞ、この店に比べたらただの見せかけ、ギミックにしか感じられません!
店に入る時は、ドタドタと入ってはいけない!...床が抜けそう、音がうるさい(最初、本当に店の人に注意されました!)...
お水は、ワンカップ酒の空き瓶がコップ代わり...コーヒーミルクの器はマヨネーズのキャップ...して、そのレコードは、”しゅー、しゅー、ぶつぶつ”...あんな激しい針の音は聴いたことありません。”音響マニアなんぞ来るな!”、って感じです。
この店のことは、昭和50年頃、大学の級友から教えてもらったのですが、頻繁に通うようになったのは、読書に目覚めた昭和53年頃からだったと思います。
そう、その店は私にとり読書と共にあったのです!
哲学書とか詩集とか、じっつに合うんだなー、分かるでしょう?
で、その台風一過の時、読んでた本はハッキリ覚えてますよ。前のは、買って間もない、ベルジャーエフ「神と人間の実存的弁証法/霊の国とカイゼルの国」(白水社)で、後のは”見神”体験を綴る明治時代の思想家、綱島梁川(りょうせん)文集(岩波文庫)です。(台風と遭遇してなければ多分覚えてないでしょう)
どちらも、ぞくぞくと、ある異様な戦慄を伴うような高揚感に耽っていたこと、今でもアリアリと覚えています。
戦慄というのは、”みしみし”と、強風が吹く度に建物全体が揺れ、外では、”んごーっ”と、凄まじい風と雨の音が轟いていたからに他なりません!...”こんな古い建物大丈夫なんだろうか?”、と。
この世を超えているような、生きた心地がしないような...
何で又、そんな危機感を催す、その店に入ったりするのか?...分かりきった理由は、安いコーヒー代で、長時間も居すわれるからです!...しかし、心のどっかにあの戦慄に満ちた、この世ならぬ世界に耽っていたい、という願望があったのは確かだと思います。
そして、その暴風雨が過ぎ去った後のことも、二度とも忘れ難い映像として残っています。
切れ切れとなった雨雲の間から淡い夕日が差して、真紅から紫へとその空を染めてゆく様の、本当にこの世とは思えぬ美しさに、高揚感はさらに高まったようなのでした。
二回も、台風が来るというので、わざわざその店に行った訳でも無いし、たまたま同じ時に台風が来たとはいえ、何で二回も、その得難い時に恵まれたのかは分かりません。
それから、平成16年に関西から東京に戻り、これからいつでも来れるようになったのもつかの間、その翌年にそこは閉店してしまったのでした。

コメント
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