私の時空を超越した冒険も、どうやら終わりが近づいたようです。
私しかその不思議なタクシーの搭乗が許されていないにも関わらず、彼をも巻き込んでしまったからです。
私のリップサービスが高じて、この不思議なタクシー、不可知なる世界の住人、未分さんの秘密の一端を漏らしてしまったのが災いしたようです。
しかし…そのもっとも大きな理由は、我々を一つにさせてくれていた、あの甘美なバイブレーションをともなった臨在感が消えつつあるからです。
35年前、あれほど時空を超えてアリアリと現実に浮かび上がらせていたものが、何だか急に霞がかかったようにぼやけだしてきたのです。
そして彼がこの不思議なタクシーの存在をハッキリ知った時、私は消え去らないとならなくなるのです!
これは何とかせねば…幸い今、彼は35年前から現在へ突然テレポートしてしまった事実を飲み込めず、混乱している最中です。
「オ、オジサン…一体こりゃあ、どうなっているんだ! ここはここであってここじゃあない。だとすると…どこだ!さっき売店でテレビを見たが、全く見たことの無いCMばかりだよ! ビールのヤツで歌っているのは、間違いなくノーザン・オールスターズの桑田K助だ! 去年”いとしのマリー”の一発ヒットで終わったと思って久しぶりに見たけど、尋常でないフケぶりなんで驚いたよ!」
―一発ヒットだと! じょ、冗談言っちゃあイカンよ! 勲章もらってんだぞ!…あ、いや…そのう、なんだ、彼は元々ああいう老け顔じゃあないか…
君の気のせいじゃあないかな…それと、この際だから言っておくが、もうテレビとか新聞とかは見ない方がいい…国際秘密結社に牛耳られてんだ!人の頭を混乱させるような事ばかり流しているんだからな…」
「僕は毎年春になると体も心も変調に見舞われるんだ…一寸休みたいんだけど、何故僕のアパートが突然消えちゃったのかなあ?」
―じゃあ、とりあえず近くの公園に行くとしよう。そう言えば…君は確か去年の初めころから変調が有ったと言ってたね…。これは…おそらくクンダリーニが上昇したという事じゃあないかなあ…そこへこのところの気温の上昇に伴って、いよいよアブナイ状態になっているんだと思う
「そ、そのナンダとかいう蛇みたいのが頭から抜けたら悟れるとかいう…」
―そうそう、そうなったらこの苦難多き浮世のことはみな永遠の春の夢だ。
「でも、そうなるってことは、アブナイ目に合う事と引き換えなんでしょ?」
―そうだ…何もかもを委ねる覚悟無しに至高に預かることは出来ないよ!
「何だか僕に今決断の時が巡って来たようです!僕の全人生の焦点が今ここに来ているのです!」
〈私はここで彼に全託してもらい、何とか35年前に戻ってもらおうと、唆していたつもりがこんなにもハマってしまうとは思わなかったのです。そして益々私は調子に乗ってしまいました。)
―そうだ!その調子だ!君に全てを委ねる決心がついたのなら、とっておきのマントラを授けるとしよう…勿論タダで…
「おお、オジサン!いや、いまの僕には貴方はずっと探し求めていた、運命の導師に思えますよ!お、お願いします。その至高の世界へといざなうというマントラを…」
―よ、よし、では耳をかっぽじって聞くがよい!では…いこう、こう称えるんだ…
OOO
す、すると大変な事になってしまいました。ウソから出たマコトと言うか…彼は何か電撃を受けたようになってそのまま気を失ってしまったのです。
彼の身に不測の事態が起こったら…私が消え去らないようにしたことで、君が消えちまったらどうもこうもないじゃないか! 未分さん!何とかしてくださーい!…こうなったら、もう一か八か、あのデタラメのマントラを称えるまでだ!よーし…
OOO
ウーム…
ぴよ、ぴよ、小鳥のさえずりか…
お目覚めのようだ…ラジオでもつけてみようか…懐かしい曲をやってるな…
もんた&ブラザーズ、ダンシング・オールナイト
言葉にすればア…ウソに染まるウ…エッ、こりゃあ、ヤバイ!踊ってる場合じゃない!ここは何時の、どこなんだあ…
「お目覚めかね…」
―あ、貴方は誰ですか?
「私かい?、忘れたのか…私は35…万年前の君だ!」
―じゃあ、今は…
「今、今はオールタイムだ!過去も現在も未来も…全て未だ分離していない。そのラジオのように35年前のリクエスト、何時の時代のリクエストにも応じられるよ。」
―ハア、これはリクエストだったんですか…と、ところであいつはどうなりましたか?
「35年前の君のことだね、彼なら今頃戻って”ここはどこ?今はいつ?”とか周囲に聞きまくって、困らしているところだろう。…では事のあらましを話そう…そもそもこの時空を超えた旅というのは彼からのリクエストから始まったのだ。彼は35年前の今頃、夜中に突然君もよく知ってる思いがけない喜びの訪れを受けたのだ。そして目に随喜の涙を浮かべながらこう健気にも祈っていた。
”どうか神様、ご先祖様天来の恩寵が降り注がれますように”…とね…」
―わ、分かったーッ!思い出しましたよ!あの小雨模様の真夜中、ジッとしていられなくなって街中を徘徊してたんですよ!」
「そうだ。彼はとっくにその恩寵に預かっていながら、全く自覚などしてなかった。そして就職して世の中にもまれたら、きっとその有難い感覚は消えてしまうと思い込んでいた。違うかね。」
―あれは確か、その後色っぽい姉ちゃんと会って、エモーションが込み上げてくるうちに消えてしまったと思ったのですが…いや就活で面接を受けている時、”この世は幻想だらけです!”とか浮世離れしたこと言って、担当から苦笑を買ってるうちにそうなったのかなあ…
「どっちにしろ、君は彼に本当の彼の進路を見定めさせるために35年前に赴いたのだ。それが彼のリクエストによるものなのだ」
―じゃあ、D会との出会い、関西行きも…
「そう、君が唆した…彼は迷いながらも自分と何ものかによって、方向づけられた運命をどうしたってたどらざるを得ない…私が君にそうしたようにね…」
―あ、貴方はもしや…
「私はじきに消え去らねばならない!君に知られた以上は…ウン、このとっておきのマントラと共に…ではあらゆる時代の、あらゆる世界の永遠の君よ…さらば又会おう…」
OOO
ウーム…
お目覚めです…謎のオジサンの夢を見たような…謎のマントラ何だったっけ…”ラッスンゴレライ”みたいな…
ハッキリしてるのは夢でも現実でも…これは同じです。”ジンジン”
終わり
私しかその不思議なタクシーの搭乗が許されていないにも関わらず、彼をも巻き込んでしまったからです。
私のリップサービスが高じて、この不思議なタクシー、不可知なる世界の住人、未分さんの秘密の一端を漏らしてしまったのが災いしたようです。
しかし…そのもっとも大きな理由は、我々を一つにさせてくれていた、あの甘美なバイブレーションをともなった臨在感が消えつつあるからです。
35年前、あれほど時空を超えてアリアリと現実に浮かび上がらせていたものが、何だか急に霞がかかったようにぼやけだしてきたのです。
そして彼がこの不思議なタクシーの存在をハッキリ知った時、私は消え去らないとならなくなるのです!
これは何とかせねば…幸い今、彼は35年前から現在へ突然テレポートしてしまった事実を飲み込めず、混乱している最中です。
「オ、オジサン…一体こりゃあ、どうなっているんだ! ここはここであってここじゃあない。だとすると…どこだ!さっき売店でテレビを見たが、全く見たことの無いCMばかりだよ! ビールのヤツで歌っているのは、間違いなくノーザン・オールスターズの桑田K助だ! 去年”いとしのマリー”の一発ヒットで終わったと思って久しぶりに見たけど、尋常でないフケぶりなんで驚いたよ!」
―一発ヒットだと! じょ、冗談言っちゃあイカンよ! 勲章もらってんだぞ!…あ、いや…そのう、なんだ、彼は元々ああいう老け顔じゃあないか…
君の気のせいじゃあないかな…それと、この際だから言っておくが、もうテレビとか新聞とかは見ない方がいい…国際秘密結社に牛耳られてんだ!人の頭を混乱させるような事ばかり流しているんだからな…」
「僕は毎年春になると体も心も変調に見舞われるんだ…一寸休みたいんだけど、何故僕のアパートが突然消えちゃったのかなあ?」
―じゃあ、とりあえず近くの公園に行くとしよう。そう言えば…君は確か去年の初めころから変調が有ったと言ってたね…。これは…おそらくクンダリーニが上昇したという事じゃあないかなあ…そこへこのところの気温の上昇に伴って、いよいよアブナイ状態になっているんだと思う
「そ、そのナンダとかいう蛇みたいのが頭から抜けたら悟れるとかいう…」
―そうそう、そうなったらこの苦難多き浮世のことはみな永遠の春の夢だ。
「でも、そうなるってことは、アブナイ目に合う事と引き換えなんでしょ?」
―そうだ…何もかもを委ねる覚悟無しに至高に預かることは出来ないよ!
「何だか僕に今決断の時が巡って来たようです!僕の全人生の焦点が今ここに来ているのです!」
〈私はここで彼に全託してもらい、何とか35年前に戻ってもらおうと、唆していたつもりがこんなにもハマってしまうとは思わなかったのです。そして益々私は調子に乗ってしまいました。)
―そうだ!その調子だ!君に全てを委ねる決心がついたのなら、とっておきのマントラを授けるとしよう…勿論タダで…
「おお、オジサン!いや、いまの僕には貴方はずっと探し求めていた、運命の導師に思えますよ!お、お願いします。その至高の世界へといざなうというマントラを…」
―よ、よし、では耳をかっぽじって聞くがよい!では…いこう、こう称えるんだ…
OOO
す、すると大変な事になってしまいました。ウソから出たマコトと言うか…彼は何か電撃を受けたようになってそのまま気を失ってしまったのです。
彼の身に不測の事態が起こったら…私が消え去らないようにしたことで、君が消えちまったらどうもこうもないじゃないか! 未分さん!何とかしてくださーい!…こうなったら、もう一か八か、あのデタラメのマントラを称えるまでだ!よーし…
OOO
ウーム…
ぴよ、ぴよ、小鳥のさえずりか…
お目覚めのようだ…ラジオでもつけてみようか…懐かしい曲をやってるな…
もんた&ブラザーズ、ダンシング・オールナイト
言葉にすればア…ウソに染まるウ…エッ、こりゃあ、ヤバイ!踊ってる場合じゃない!ここは何時の、どこなんだあ…
「お目覚めかね…」
―あ、貴方は誰ですか?
「私かい?、忘れたのか…私は35…万年前の君だ!」
―じゃあ、今は…
「今、今はオールタイムだ!過去も現在も未来も…全て未だ分離していない。そのラジオのように35年前のリクエスト、何時の時代のリクエストにも応じられるよ。」
―ハア、これはリクエストだったんですか…と、ところであいつはどうなりましたか?
「35年前の君のことだね、彼なら今頃戻って”ここはどこ?今はいつ?”とか周囲に聞きまくって、困らしているところだろう。…では事のあらましを話そう…そもそもこの時空を超えた旅というのは彼からのリクエストから始まったのだ。彼は35年前の今頃、夜中に突然君もよく知ってる思いがけない喜びの訪れを受けたのだ。そして目に随喜の涙を浮かべながらこう健気にも祈っていた。
”どうか神様、ご先祖様天来の恩寵が降り注がれますように”…とね…」
―わ、分かったーッ!思い出しましたよ!あの小雨模様の真夜中、ジッとしていられなくなって街中を徘徊してたんですよ!」
「そうだ。彼はとっくにその恩寵に預かっていながら、全く自覚などしてなかった。そして就職して世の中にもまれたら、きっとその有難い感覚は消えてしまうと思い込んでいた。違うかね。」
―あれは確か、その後色っぽい姉ちゃんと会って、エモーションが込み上げてくるうちに消えてしまったと思ったのですが…いや就活で面接を受けている時、”この世は幻想だらけです!”とか浮世離れしたこと言って、担当から苦笑を買ってるうちにそうなったのかなあ…
「どっちにしろ、君は彼に本当の彼の進路を見定めさせるために35年前に赴いたのだ。それが彼のリクエストによるものなのだ」
―じゃあ、D会との出会い、関西行きも…
「そう、君が唆した…彼は迷いながらも自分と何ものかによって、方向づけられた運命をどうしたってたどらざるを得ない…私が君にそうしたようにね…」
―あ、貴方はもしや…
「私はじきに消え去らねばならない!君に知られた以上は…ウン、このとっておきのマントラと共に…ではあらゆる時代の、あらゆる世界の永遠の君よ…さらば又会おう…」
OOO
ウーム…
お目覚めです…謎のオジサンの夢を見たような…謎のマントラ何だったっけ…”ラッスンゴレライ”みたいな…
ハッキリしてるのは夢でも現実でも…これは同じです。”ジンジン”
終わり