天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ 柿本人麻呂歌集
ご存じ人麻呂の異色の作品、万葉集巻七巻頭の有名な歌です。壮大な天空のロマンを彷彿させる見立てで、爽やかです。
万葉仮名の表記は 天海丹 雲之波立 月船 星之林丹 榜隠所見
八月の雨の日々が九月に入ってもすっきりしませんでしたが、このところやっと晴天が戻ってきました。
今宵は中秋の名月、例年よりはずいぶん早いようです。中秋の名月は、早くとも九月の終わりぐらいがぴったりしますが、それでも、無月よりはと、晴れ渡る中空に月の船が白い波を分けて進む姿を拝みたいものと期待していました。願いが叶って長雨の埋め合わせをするかのように、いつもよりは大きな月が晴れ渡る天空をゆっくりと漕ぎ渡る姿を心行くまで堪能させてくれました。
皿倉山頂の観月会も盛り上がったことでしょう。今年は竹取物語の趣向だからと、こちらは地上の観月会のお誘いがありましたが、残念ながらご辞退しました。
もはや、月見酒の風流もなく,一顆の「月餅」を二人で分けて、お茶をいただきました。
地上も月の運行に合わせるかのように、彼岸花がすっくと伸びて、蕾が早くも弾けているものもあります。
指に力が入らず、不様な私の「中秋の名月」より、琳派の月で武蔵野の月や、簾越しの美人をお愉しみください。
上図 酒井道一 月に薄図 下図 渡辺始興 簾に秋月図