雀の手箱

折々の記録と墨彩画

付喪神

2015年09月04日 | 塵界茫々



 いつのころから家にあったものかわかりませんが、物置の片付けをしていて台に虫喰いが入っている糸車を見つけました。
 他のものへの影響を懼れて、空調の室外機の上に出し、珍しさもあってそのまま置いていました。気が付くと軒下でも、雨風にさらされて糸車の竹輪もはじけた部分もあり、ばらばらになる寸前でした。お盆が近い折からもあって付喪神を思い浮かべてしまい焼却処分も気が進まないでいました。

 この国では古来、長い年月、百に一つ足りない九十九をつくもと呼び、年老いた女の私のような白髪を「つくも髪」と言ったものですが、それとは別に、器物も百年を経過すると変化(ヘンゲ)となり、人に災いをもたらすことがあるとされていました。九州国立博物館で室町時代の「百鬼夜行絵巻」目にした時から、使い古した道具たちの変化して付喪神となった妖怪が気になっていました。
 それに、北原白秋の詩の「糸車」も独特の雰囲気があって、決してメルヘンな明るいものではありません。どんな人が、どんな思いを抱いて糸をつむいだものかと思いをめぐらし、自分では焼き捨てられずに、庭の手入れに来た造園業者に託したことです。
 今回の台風に重ねて付喪神の災いなどとは言いませんが、奇妙な符合です。

 古い家のことで、百年はとっくに越した什器や道具も多く、老い二人は、変化となるには、まだ少しだけ年数が不足していますが、付喪神が腰を据えて居そうなものばかりです。







註 「陰陽雑記」より、「器物百年を経て化して精霊を得てより、人の心をたぶらかす。これをつくも神と号すといへり。」


  「糸車」 
   糸車、糸車、しづかにふかき手のつむぎ
  その糸車やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。
   金と赤との南瓜(たうなす)のふたつ転がる板の間に、
  「共同医館」の板の間に、
   ひとり座りし留守番のその媼(おうな)こそさみしけれ。

耳もきこえず、目も見えず、
 かくて五月となりぬれば、
微(ほの)かに匂ふ綿くづのそのほこりこそゆかしけれ。
硝子戸棚に白骨(はっこつ)のひとり立てるも珍らかに、
水路のほとり月光の斜に射すもしをらしや。
糸車、糸車、しづかに黙(もだ)す手の紡(つむ)ぎ、
その物思やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。

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4 コメント

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真骨頂 (東風)
2015-09-09 02:17:28
いとぐるま、
ふるい、ふるい家の家霊の宿っているような糸車を拝見して、我が家の蔵の暗い奥にひっそりと黙りこんでいる様々の道具類を思いました。優に百年を超えて眠っているように思い忘れていました。つくも神のことも、読んでいますのに、絵巻物も見に行きましたのに、忘れておりました。雀さんの記憶の確かさ、折に触れて、学 ばれたことがさらさらと流れ出す心の淵の豊かさ。素晴らしく思いました。九十九髪とは雀さんの場合、たぐいまれな豊穣 の象徴でしょうか?文章を読んで、雀さんの真骨頂を見たような気持 ちになりました。おかげさまで私も、我が家の道具類の行く末を考えております。
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糸車のまわる音 ()
2015-09-09 14:02:46
 九十九島もありますね。 
 たいせつにされてきた道具、 糸車をモチーフに描きたいと思いました。 造形に魅かれます。 糸車の回るところを昔見ていたかも知れないのに、 はっきりとは思い出せません。 カラカラと あるいは軋む音を聞く夕べ、 ほの暗い座敷も懐かしく、 白秋の詩が身に沁みます。
 ふくら雀さん 興味深い記事をありがとうございました。
 2008年4月の九博記事も愉しみました。 
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お久しぶりです (ふくら雀)
2015-09-10 07:34:30
東風さん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。
颱風のせいでしょうか今朝コメントを拝見しました。当方、つくも髪を振り立てて介護にあたっていますが、生来の呑気な怠け者ですから、手抜きと、妥協で暮らしています。
化けそうなものばかりに囲まれていても、いにしえの人の思いがこもっていそうなものはなかなか処分が難しいものものですね。

18号は今度は関東を叩きつけているようで、案じています。
貧弱な心の引出しですから、お恥ずかしい限りで、臆面もなくと、娘にたしなめられています。
秋風の気配にお気持ちも晴れることをいのります。
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糸車 (ふくら雀)
2015-09-10 09:00:49
糸車は、殆ど音らしい音も立てずにゆっくりと糸を紡いでいたと思いますが、私もの記憶も定かではありません。白秋の詩の方が強いインパクトを持って思い出されます。

東海 関東を襲った18号、東京も大雨と言っていましたが、障りはございませんでしたでしょうか。案じていました。
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