ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

バラキレフ/交響曲第1番、イスラメイ、タマーラ

2019-03-07 12:19:05 | クラシック(交響曲)
クラシックファンなら「ロシア五人組」という言葉を聞いたことがあると思います。19世紀のロシアの国民音楽の成立に寄与した5人の作曲家のことで、ボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフ、バラキレフ、キュイの5人のことを指します。このうちボロディン、ムソルグスキー、リムスキー=コルサコフの3人については名前を聞いただけで複数の有名曲がパッと思い浮かぶぐらいポピュラーな存在ですが、バラキレフとキュイについては一般的に知られているとは言い難いですね。本日はそのうち前者のバラキレフを取り上げたいと思います。ご紹介するCDはバラキレフの2曲の交響曲のうち第1番の方。その他に彼の代表曲であるピアノ曲「イスラメイ」の管弦楽編曲版、そして交響詩「タマーラ」です。発売レーベルはこういったマイナー作品に無類の強さを発揮するナクソス。演奏はイーゴリ・ゴロフスチン指揮ロシア国立交響楽団です。



まず交響曲第1番ですが、4楽章形式のオーソドックスな構成で、旋律も親しみやすい上にスケールも雄大な、実に堂々とした交響曲です。にもかかわらずほとんど知られていないのは実にもったいない話ですが、チャイコフスキーの交響曲が好きな人は100%気に入ること間違いなしです。とりわけ第3楽章アンダンテはチャイコフスキーの有名な交響曲第5番アンダンテ・カンタービレを彷彿とさせるセンチメンタルな旋律で、もっとポピュラーになっても良いのではないでしょうか?最終楽章の盛り上がりもなかなかのものです。

続く「イスラメイ」はバラキレフの最も有名な曲で、ピアノ独奏で演奏されることが多いですが、彼の弟子であるリャプノフが管弦楽用に編曲し、本CDにはそのバージョンが収録されています。“東洋風幻想曲”という副題が付いているように、カフカスやタタールの民謡にインスピレーションを受けて作曲したそうです。9分弱の作品ですが、全編が魅力的な旋律に彩られた名曲中の名曲です。曲は民族舞曲風の力強い旋律で始まり、2分過ぎに美しい第2主題が現れますが、これがまた胸を焦がすような名旋律で、思わず恍惚としてしまいます。その後は再び冒頭の舞曲に戻ってエネルギッシュなフィナーレを迎えます。ボロディンの「だったん人の踊り」と並んでロシア音楽が生み出した屈指の名曲と言ってよいのではないでしょうか?

最後の交響詩「タマーラ」は20分を超す大作で、これもまたカフカス地方の伝説に題材を取ったエキゾチックな作品です。タマーラとは伝説の女王の名前で、彼女が旅人達を歌声で誘惑し、愛を交わした後、そのままとり殺してしまうという美しくも残酷な話です。この曲も魅力的な旋律が散りばめられており、特に中間部の民族舞曲風の主題、そして消え入るように終わるフィナーレの美しい主題が印象的です。全体的にチャイコフスキーらに比べるとオリエンタルな雰囲気が漂いますが、それもまたバラキレフの魅力と言えるかもしれません。とにかく、全ての曲が名曲揃いで大満足の1枚でした。ナクソスにはもう1枚バレキレフのシリーズがあるので、そちらも近いうちに購入してみようと思います。
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ヒンデミット/画家マティス&ウェーバーの主題による交響的変容

2019-02-14 22:25:29 | クラシック(交響曲)

本日は20世紀のドイツを代表する作曲家であるパウル・ヒンデミットを取り上げたいと思います。ヒンデミットは1895年生まれの1963年没と言うことで時代的には完全に現代の作曲家ですが、同時期のシェーンベルクやウェーベルンらの十二音技法のような難解さはなく、比較的聴きやすい方です。もっともそれは現代の我々から見てであって、時のナチス政府からは“無調の騒音”と非難され、内容も頽廃的であるとして上演禁止の憂き目にあいます。ヒトラーはご存知のとおりワーグナー至上主義でしたので、そんな彼から見れば現代音楽は十把一絡げに悪とされたのでしょう。この一連の騒動は後に“ヒンデミット事件”と呼ばれ、彼を擁護した指揮者のフルトヴェングラーはベルリン・フィルの常任指揮者の座を終われ、ヒンデミット自身もその後アメリカへ亡命する羽目になります。

当ブログで取り上げるのはそんなヒンデミットの代表作である交響曲「画家マティス」と「ウェーバーの主題による交響的変容」。CDはヘルベルト・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団のものです。前者は上述のヒンデミット事件の直接のきっかけともなった曰く付きの作品で、もともとオペラとして作曲されたものを交響曲化したものです。ちなみに画家マティスとは有名なフランスの画家アンリ・マティスではなく、「イーゼンハイムの祭壇画」で有名なルネサンス期のドイツ人画家マティアス・グリューネヴァルトのことです。曲はリヒャルト・シュトラウスあたりをややおどろおどろしくした感じと言えばいいでしょうか?確かに現代的な響きでありますが決して無調ではなく、ちゃんとメロディはあります。特にフィナーレのスペクタキュラーな盛り上がりはなかなかのものです。

続く「ウェーバーの主題による交響的変容」はアメリカ亡命後の1943年に作曲された作品で、文字通りウェーバーの楽曲を素材にヒンデミット風解釈で再構築した作品。ウェーバーの曲といっても以前当ブログでも取り上げた「魔弾の射手」などの有名な曲ではなく、ピアノ連弾集や劇音楽「トゥーランドット」(プッチーニのオペラとは同名異曲)などマイナーな作品を元ネタにしているため、ほぼヒンデミットのオリジナルとして楽しめます。全部で4曲ありますが、中国風のメロディが耳について離れない第2曲、華々しいオーケストレーションで盛り上がる第4曲が特にお薦めです。

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ハイドン/パリ交響曲集

2019-01-18 22:30:23 | クラシック(交響曲)
昨年から個人的にハイドンがマイブームですが、今日は「パリ交響曲」を取り上げたいと思います。ハイドンの交響曲と言えば93番以降の「ロンドン交響曲」が有名ですが、82番から87番までの6曲の交響曲も「パリ交響曲」と呼ばれ、通の間では人気です。名前の由来はこの6曲がパリを拠点とするコンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックと言うオーケストラのために書かれたためです。このオーケストラは室内楽編成が主流だった当時のオーケストラの中では破格の大編成だったと言われており、結果として曲の内容もそれまでの交響曲から大きく進化しています。ハイドンの交響曲と言えば彼が宮廷音楽家だった頃に書かれた第44番「悲しみ」や第45番「告別」も有名ですが、それらの曲が規模も小さく、内容的にも何となくバロックの名残を感じさせるのに対し、パリ交響曲になると明らかにモーツァルトやベートーヴェンらにつながるものが感じられます。

このパリ交響曲集はカラヤン&ベルリン・フィルや古楽器のシギスヴァルト・クイケンらのCDもありますが、私が購入したのはクルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団の3枚組セットです。では、各曲の内容をかいつまんで見ていきましょう。



まずは第82番。「熊」の愛称で親しまれていますが、由来は第4楽章冒頭の低音が熊のうなり声みたいだからだとか。他の曲もそうですがハイドンの交響曲のニックネームは適当ですね。ただ、曲自体は充実しており、特に第1楽章が素晴らしいです。序奏なしでいきなり力強く始まる勇壮な曲調で、後のベートーヴェンへと続く古典派時代の幕開けを感じさせます。第4楽章も熊のうなり声はこじつけにしても、これまた力強く魅力的な旋律に彩られています。ただ、中間楽章はやや退屈ですかね。以前も述べましたが、ハイドンの交響曲は中間楽章、特に第3楽章のメヌエットがワンパターンで聴いていてついついスキップすることが多いです。

続いて第83番。こちらの愛称は「めんどり」です。第1楽章の冒頭は悲劇的な曲調ですが、それに続いて現れるややユーモラスな旋律が鶏の鳴き声を思わせることから名前が付いたようです。相変わらず適当ですね。第2楽章アンダンテも優雅を通り越してやや暗いくらいで、「熊」と比べて全体的に哀愁漂う印象です。ただ、第4楽章は思わず踊り出したくなるような生き生きとしたヴィヴァーチェです。キビキビとした弦楽アンサンブルがハイドンならではです。

第84番は特に愛称も付いておらず地味な存在ですが、第1楽章に関しては素晴らしい出来です。厳粛な序奏が1分半続いた後、華やかでめくるめく旋律が現れというスタイルはその後のロンドン交響曲でも踏襲され、ハイドンの十八番(おはこ)になります。第2楽章は穏やかなアンダンテ、第3楽章はいつも通りのメヌエットで、第4楽章ヴィヴァーチェもまずまずと言ったところ。

第85番は「王妃」の愛称を持っており、一説には時のフランス王妃マリー・アントワネットがこの曲を気に入っていたからと言われていますが、真偽はよくわかりません。第1楽章は愛らしい副題とは裏腹にメランコリックな旋律で、なんかイメージが違います。ただ、この曲に関しては珍しく第2楽章が最も良く、一転して思わず口ずさみたくなるような親しみやすい旋律。「王妃」の由来も、この楽章の雰囲気から来ているかもしれません。第4楽章は急速調のプレストで締めくくります。

第86番は特に愛称も付いていませんが、個人的にはパリ交響曲の中でもベストの出来だと思います。第1楽章はゆったりした序奏の後に魅惑の旋律が次々と現れる名曲で、中間部の勇ましさはベートーヴェンをも想起させます。第2楽章は一転して厳かな雰囲気のラルゴでこの曲も捨てがたい。第3楽章メヌエットはパリ交響曲の中ではマシな方ですがそれでも単調です。第4楽章は疾走感あふれるアレグロ・コン・スピリートで序盤の弦楽合奏が上り詰めていく感じが圧巻です。中間部のはねるような旋律も魅力的。プロコフィエフの有名な「古典交響曲」はハイドンを意識して書いたとのことですが、この第4楽章なんてまさにそんな感じですね。

最後は第87番。珍しく序奏なしにいきなり主題が始まりますが、まるで第86番フィナーレの続きのような疾走感あふれる曲調です。第2楽章と第3楽章は残念ながら特に聴き所もないのでスキップ。この曲は第4楽章が一番良く、開放感にあふれたヴィヴァーチェで締めくくります。以上全6曲。どれも似たような曲と言えばそうなのですが、聴きこむとそれぞれの魅力がわかってきます。特に第86番はもっと知られても良い名曲ではないでしょうか?
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ハイドン/交響曲第89番、90番、91番、協奏交響曲

2018-12-25 12:08:43 | クラシック(交響曲)
久々の更新はハイドンの交響曲集を取り上げます。ハイドンの交響曲に関しては当ブログでもたびたび取り上げてきましたが、104曲あるうちの93番以降が「ロンドン交響曲」と呼ばれで人気です。それとは別に82番から87番までの6曲も「パリ交響曲」と呼ばれ、ロンドン交響曲ほどではないにせよそれなりに評価されています。その一方、その間に挟まれた88番から92番は特に統一的な名称もなく、目立たない存在です。過去ブログでも紹介した88番「V字」と92番「オックスフォード」は副題が付いてることもあってまだ知られている方ですが、89番、90番、91番の3曲に関しては演奏機会も録音もほとんどないのが実情です。ただ、最近個人的にハイドン再評価ブームが高まっていることもあり、タワーレコード限定盤でカール・ベームがウィーン・フィルを指揮した88番~92番の2枚組を買いました。本CDにはこの5曲に加え、同時期に書かれた協奏交響曲も収録されています。うち88番と92番については以前にバーンスタイン盤をアップしているので割愛します。



まずは第89番から。この曲の第2楽章と第4楽章は他の協奏曲からの旋律を転用したらしく、いわば“手抜き”の曲。そのせいか評価は高くないですが、第1楽章はさすがにクオリティが高く、ハイドンらしい華やかな旋律です。とあるホームページで冒頭部分が童謡の♪しょ、しょ、しょ~じょ~じ、と同じと書かれてましたが、言われてみれば確かにそうですね。第2楽章、第3楽章は特に聴き所もないのでスキップしても良いぐらいです。第4楽章は楽しいロンド形式ですが、ハイドンの他の交響曲に比べると少し弱いかもしれません。

続いて第90番。第1楽章はジャーンと重々しい序奏から始まり、続いて魅惑の旋律が次々と現れるこれぞハイドンと言った曲。ここだけ聴くと後のロンドン交響曲の傑作群と比べて遜色ありませんが、違いはこの曲も89番と同じく中間楽章が弱いこと。優しいアンダンテの第2楽章に関してはまだマシですが、第3楽章メネエットは平凡で迷わずスキップです。ただ、第4楽章に関しては文句なしに素晴らしい。思わず踊り出したくなるような楽しいアレグロで、きびきびした弦楽合奏がたまらなく魅力的。3分半過ぎに一旦終わったとみせかけて、まだ続くのもご愛敬です。

お次は第91番。第1楽章は90番に比べると全体的に穏やかで優美な印象ですが、サビの部分の激しい弦楽合奏がドラマチックな要素を与えています。第2楽章はこの頃の交響曲の中間楽章の中では白眉の出来で、穏やかで親しみやすい旋律のアンダンテです。ただ、第3楽章メヌエットに関しては相変わらず単調。ハイドンは第3楽章には必ずと言っていいほどメヌエットを置くのですが、残念な出来が多いですね。でも、それも続く第4楽章の前の箸休めと思えば許せます。こちらは第90番をさらに上回る出来で、宝石のようにきらびやかな旋律がぎっしり詰まった名曲中の名曲と言っていいでしょう。今回は取り上げていませんが、続く第92番「オックスフォード」の第4楽章も素晴らしい出来ですし、この頃のハイドンの交響曲は全体的な出来はともかく、最終楽章に関しては全交響曲中でも上位と思いますがいかがでしょうか?

最後は協奏交響曲。こちらは番号は付されていませんが時期的には上記の交響曲と同時期に書かれたものです。協奏交響曲と言えばモーツァルトの二曲(ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲オーボエ、クラリネット、ホルンとファゴットのための協奏交響曲が有名ですが、ハイドンの曲はヴァイオリン、ヴィオラ、オーボエ、ファゴットの4つの楽器が大きくフィーチャーされています。前述のモーツァルトの2曲に比べると演奏機会に恵まれているとは言えませんが内容的には文句なしです。特に第1楽章は宮廷音楽的な華やかさを持った美しい曲で、独奏楽器のソロと弦楽合奏のバランスも絶妙です。第2楽章の穏やかなアンダンテ、躍動感あふれる第3楽章も素晴らしいですね。私は常々モーツァルトに比べてハイドンは過小評価されていると思っているのですが、この協奏交響曲の扱いを見てもまさしくそうですね。もちろんクラシック通の人には知られているのでしょうが、もっと普遍的に知られても良い名曲だと思います。
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メンデルスゾーン/交響曲第2番「讃歌」

2018-10-23 12:23:18 | クラシック(交響曲)
本日はメンデルスゾーンの交響曲第2番をご紹介します。メンデルスゾーンの交響曲については第3番「スコットランド」と第4番「イタリア」が群を抜いて有名で、この第2番については上演機会もそんなに多くはありません。ただ、個人的には第2番が劣っているとは思いませんし、むしろスケールの点では上回っているとさえ思います。この曲の特徴は前半が純粋なオーケストラのみの交響曲、後半が合唱付きの交響曲と2部構成になっていることです。言ってみればメンデルスゾーン版「第九」と言ってもいいかもしれません。メンデルスゾーンは本ブログでも「聖パウロ」「エリヤ」という2つのオラトリオをご紹介したように、声楽の分野でも多くの傑作を残していますので、交響曲と声楽曲を融合させた本作はメンデルスゾーンを象徴する作品と言ってもいいかもしれませんね。



曲はトロンボーンが高らかに壮麗な主題を歌い上げて幕を開けます。この主題は合唱の部分でも繰り返し使われ、フィナーレでも登場するなど本作の基本テーマとも呼べる存在です。続く第2楽章はやや哀調を帯びたアレグレット。続く第3楽章は穏やかなアダージョで後半への橋渡し的な役割を果たしています。後半は神を讃える合唱曲。オープニングの主題を合唱で歌い上げた後、ソプラノ2名とテノール1名も独唱に加えながら神への感謝を歌い上げていきます。中でも感動的なのは第8曲の「夜は過ぎ去った」で、合唱とオーケストラが一体となって空前の盛り上がりを見せます。その後慈愛に満ちたコラール「もろびとよ、心と口と手をもって」でいったんクールダウンした後、フィナーレに向けて再び盛り上がっていきます。最後は冒頭の主題をフルコーラスで歌い上げて幕を閉じます。CDは数こそ多くありませんが、カラヤン、ドホナーニ、サヴァリッシュあたりの巨匠が録音を残しています。私が購入したのはヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮ベルリン・フィルのものです。独唱者に日本人メゾソプラノ歌手の白井光子さんが加わっています。youtubeだとマルクス・シュテンツ指揮オランダ放送フィルのものが視聴可能なので、是非ご一聴あれ。
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