昨年から個人的にハイドンがマイブームですが、今日は「パリ交響曲」を取り上げたいと思います。ハイドンの交響曲と言えば93番以降の「ロンドン交響曲」が有名ですが、82番から87番までの6曲の交響曲も「パリ交響曲」と呼ばれ、通の間では人気です。名前の由来はこの6曲がパリを拠点とするコンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックと言うオーケストラのために書かれたためです。このオーケストラは室内楽編成が主流だった当時のオーケストラの中では破格の大編成だったと言われており、結果として曲の内容もそれまでの交響曲から大きく進化しています。ハイドンの交響曲と言えば彼が宮廷音楽家だった頃に書かれた第44番「悲しみ」や第45番「告別」も有名ですが、それらの曲が規模も小さく、内容的にも何となくバロックの名残を感じさせるのに対し、パリ交響曲になると明らかにモーツァルトやベートーヴェンらにつながるものが感じられます。
このパリ交響曲集はカラヤン&ベルリン・フィルや古楽器のシギスヴァルト・クイケンらのCDもありますが、私が購入したのはクルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団の3枚組セットです。では、各曲の内容をかいつまんで見ていきましょう。
まずは第82番。「熊」の愛称で親しまれていますが、由来は第4楽章冒頭の低音が熊のうなり声みたいだからだとか。他の曲もそうですがハイドンの交響曲のニックネームは適当ですね。ただ、曲自体は充実しており、特に第1楽章が素晴らしいです。序奏なしでいきなり力強く始まる勇壮な曲調で、後のベートーヴェンへと続く古典派時代の幕開けを感じさせます。第4楽章も熊のうなり声はこじつけにしても、これまた力強く魅力的な旋律に彩られています。ただ、中間楽章はやや退屈ですかね。以前も述べましたが、ハイドンの交響曲は中間楽章、特に第3楽章のメヌエットがワンパターンで聴いていてついついスキップすることが多いです。
続いて第83番。こちらの愛称は「めんどり」です。第1楽章の冒頭は悲劇的な曲調ですが、それに続いて現れるややユーモラスな旋律が鶏の鳴き声を思わせることから名前が付いたようです。相変わらず適当ですね。第2楽章アンダンテも優雅を通り越してやや暗いくらいで、「熊」と比べて全体的に哀愁漂う印象です。ただ、第4楽章は思わず踊り出したくなるような生き生きとしたヴィヴァーチェです。キビキビとした弦楽アンサンブルがハイドンならではです。
第84番は特に愛称も付いておらず地味な存在ですが、第1楽章に関しては素晴らしい出来です。厳粛な序奏が1分半続いた後、華やかでめくるめく旋律が現れというスタイルはその後のロンドン交響曲でも踏襲され、ハイドンの十八番(おはこ)になります。第2楽章は穏やかなアンダンテ、第3楽章はいつも通りのメヌエットで、第4楽章ヴィヴァーチェもまずまずと言ったところ。
第85番は「王妃」の愛称を持っており、一説には時のフランス王妃マリー・アントワネットがこの曲を気に入っていたからと言われていますが、真偽はよくわかりません。第1楽章は愛らしい副題とは裏腹にメランコリックな旋律で、なんかイメージが違います。ただ、この曲に関しては珍しく第2楽章が最も良く、一転して思わず口ずさみたくなるような親しみやすい旋律。「王妃」の由来も、この楽章の雰囲気から来ているかもしれません。第4楽章は急速調のプレストで締めくくります。
第86番は特に愛称も付いていませんが、個人的にはパリ交響曲の中でもベストの出来だと思います。第1楽章はゆったりした序奏の後に魅惑の旋律が次々と現れる名曲で、中間部の勇ましさはベートーヴェンをも想起させます。第2楽章は一転して厳かな雰囲気のラルゴでこの曲も捨てがたい。第3楽章メヌエットはパリ交響曲の中ではマシな方ですがそれでも単調です。第4楽章は疾走感あふれるアレグロ・コン・スピリートで序盤の弦楽合奏が上り詰めていく感じが圧巻です。中間部のはねるような旋律も魅力的。プロコフィエフの有名な「古典交響曲」はハイドンを意識して書いたとのことですが、この第4楽章なんてまさにそんな感じですね。
最後は第87番。珍しく序奏なしにいきなり主題が始まりますが、まるで第86番フィナーレの続きのような疾走感あふれる曲調です。第2楽章と第3楽章は残念ながら特に聴き所もないのでスキップ。この曲は第4楽章が一番良く、開放感にあふれたヴィヴァーチェで締めくくります。以上全6曲。どれも似たような曲と言えばそうなのですが、聴きこむとそれぞれの魅力がわかってきます。特に第86番はもっと知られても良い名曲ではないでしょうか?