本日はかなりマニアックなところで白人アルト奏者ジーン・クイルの作品をご紹介します。15年ほど前に今はなき梅田のワルティ堂島で購入した1枚ですね。レアなジャズ作品がたくさんあって好きなお店でした。ジーン・クイルと言えば、フィル・ウッズとのアルト2本による双頭コンボ、フィル&クイルの片割れとして名前自体はそれなりに知られていると思います(「フィル・トークス・ウィズ・クイル」参照)が、ネームバリュー的には圧倒的にウッズが上で、クイルについては典型的な”じゃない方”の扱いです。
本作はそんな地味なクイルが1958年にルースト・レコードに吹き込んだもので、タイトル通り3人のトロンボーン奏者と共演しています。その3人とはジャケット左側からジミー・クリーヴランド、ジム・ダール、フランク・リハックです。複数のトロンボーン奏者が入った編成自体はビッグバンドではよくありますが、スモールコンボでは非常に珍しいですね。しかも単なるアンサンブル要員ではなく、全員がきちんと各曲でソロを取るのが面白いです。なお、リズムセクションはピアノが曲によってナット・ピアースまたはハンク・ジョーンズ、ベースがホワイティ・ミッチェル(レッド・ミッチェルの弟)、ドラムがチャーリー・パーシップと言う布陣です。
アルバムはまずホレス・シルヴァーの”The Preacher”で幕を開けます。「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」で演奏されたゴスペル調の曲で、白人中心のフロントラインにしては意表を突く選曲ですが、これがなかなか良いです。最初のピアノソロは"白いベイシー"ことナット・ピアースで、その後フランク・リハックのトロンボーンを挟んでクイルのアルト、続いてダール→クリーヴランドと続きます。トロンボーンのソロ順は一応ジャケット裏に全曲分書いてありますが、はっきり言って耳で聴き分けるのは不可能ですね。まあ、誰のソロとか色々考えずにリラックスして聴くのが良いのではないでしょうか?
2曲目以降はオリジナル中心ですが、その中でもおススメは重厚なトロンボーン・アンサブルの後にクイルがもろパーカー風のアドリブを披露する"What's My Name"、トロンボーンによるマイルスの”Denial"風のリフが入るハードドライビングな”Look Ma No Hands”、クリーヴランド作のアップテンポのブルース”Little Beaver”等です。ラストはエリントン楽団の名曲”In A Mellow Tone”をスインギーに演奏して締めます。パーカー直系のパピシュなアルトを聴かせるクイルはもちろんのこと、アンサンブルにソロに活躍するトロンボンチームが素晴らしいですね。地味なメンツだけに購入する前は私もそこまで期待していませんでしたが、聴き込めばなかなか味わいのある1枚です。