ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジーン・クイル/3ボーンズ&ア・クイル

2024-09-03 18:45:38 | ジャズ(その他)

本日はかなりマニアックなところで白人アルト奏者ジーン・クイルの作品をご紹介します。15年ほど前に今はなき梅田のワルティ堂島で購入した1枚ですね。レアなジャズ作品がたくさんあって好きなお店でした。ジーン・クイルと言えば、フィル・ウッズとのアルト2本による双頭コンボ、フィル&クイルの片割れとして名前自体はそれなりに知られていると思います(「フィル・トークス・ウィズ・クイル」参照)が、ネームバリュー的には圧倒的にウッズが上で、クイルについては典型的な”じゃない方”の扱いです。

本作はそんな地味なクイルが1958年にルースト・レコードに吹き込んだもので、タイトル通り3人のトロンボーン奏者と共演しています。その3人とはジャケット左側からジミー・クリーヴランド、ジム・ダール、フランク・リハックです。複数のトロンボーン奏者が入った編成自体はビッグバンドではよくありますが、スモールコンボでは非常に珍しいですね。しかも単なるアンサンブル要員ではなく、全員がきちんと各曲でソロを取るのが面白いです。なお、リズムセクションはピアノが曲によってナット・ピアースまたはハンク・ジョーンズ、ベースがホワイティ・ミッチェル(レッド・ミッチェルの弟)、ドラムがチャーリー・パーシップと言う布陣です。

アルバムはまずホレス・シルヴァーの”The Preacher”で幕を開けます。「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」で演奏されたゴスペル調の曲で、白人中心のフロントラインにしては意表を突く選曲ですが、これがなかなか良いです。最初のピアノソロは"白いベイシー"ことナット・ピアースで、その後フランク・リハックのトロンボーンを挟んでクイルのアルト、続いてダール→クリーヴランドと続きます。トロンボーンのソロ順は一応ジャケット裏に全曲分書いてありますが、はっきり言って耳で聴き分けるのは不可能ですね。まあ、誰のソロとか色々考えずにリラックスして聴くのが良いのではないでしょうか?

2曲目以降はオリジナル中心ですが、その中でもおススメは重厚なトロンボーン・アンサブルの後にクイルがもろパーカー風のアドリブを披露する"What's My Name"、トロンボーンによるマイルスの”Denial"風のリフが入るハードドライビングな”Look Ma No Hands”、クリーヴランド作のアップテンポのブルース”Little Beaver”等です。ラストはエリントン楽団の名曲”In A Mellow Tone”をスインギーに演奏して締めます。パーカー直系のパピシュなアルトを聴かせるクイルはもちろんのこと、アンサンブルにソロに活躍するトロンボンチームが素晴らしいですね。地味なメンツだけに購入する前は私もそこまで期待していませんでしたが、聴き込めばなかなか味わいのある1枚です。

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ラテン・ジャズ・クインテット&エリック・ドルフィー/キャリベ

2024-08-29 18:52:01 | ジャズ(その他)

本日は少し変わったところでラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤をご紹介します。一応、主役はラテン・ジャズ・クインテットでそこにドルフィーがゲスト参加した形ですが、彼らを目当てにこのアルバムを買う人はほぼいないでしょう。私も当然ドルフィー目当てで買いました。基本的に前衛ジャズやフリージャズにはあまり理解を示さない私ですが、なぜかドルフィーは昔からそこそこ好きです。ジャズの右も左もわからない20代半ばの頃に名盤紹介に載っていた「アット・ザ・ファイヴ・スポット」2枚セットを買い、何だかよくわからないけれどそのエネルギーに引き込まれました。ただ、全部好きと言うわけでもなく、その後に買ったブルーノート盤「アウト・トゥ・ランチ」はよくわかりませんでした。

主役のラテン・ジャズ・クインテットについても述べておきましょう。詳しいプロフィールは調べてもあまり出てこないのですが、コンガ奏者のファン・アマルベルトが中心となったグループのようです。もう1人、マニー・ラモスという人がティンバレスというドラムのような打楽器を担当しています。この2人が名前的にもラテン系でおそらくキューバとかプエルトリコとかそっち系でしょう。それ以外はジーン・ケイシー(ピアノ)、チャーリー・シモンズ(ヴァイブ)、ビル・エリントン(ベース)と普通のアメリカ人っぽい名前です。いずれにせよ全員他ではあまり聴かない名前ですね。強いて言えばピアノのケイシーがオリヴァー・ネルソンの「ソウル・バトル」でピアノを弾いていたぐらいでしょうか?そんなマイナーグループですが、プレスティッジ系列のニュージャズに2枚作品を残しており、1つが1960年8月録音の本作、もう1枚が「ラテン・ソウル」と言う作品です。物好きな私はそちらも買いましたが、内容は正直イマイチでした・・・

さて、ここからがややこしいのですが、実はラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤はもう1枚あります。それが1961年にユナイテッド・アーティスツから発売された「ラテン・ジャズ・クインテット・ウィズ・エリック・ドルフィー」でタイトル名が牛の顔のデザインになったジャケットです。本作に続く共演第2弾かと思いきやそうではなく、実はこのグループは名前だけ同じの全くの別グループのようなのです。リーダーはフェリペ・ディアスと言うヴァイブ奏者で残りのメンバーも全員別人です。よく考えれば”ラテン・ジャズ”なんて固有名詞でも何でもないので名乗ったもん勝ちですよね。しかし、よりにもよってどちらのグループとも個性派のドルフィーと共演するとは、偶然なのかあるいは企図したものか?ちなみに私はこのユナイテッド・アーティスツ(UA)盤も購入しました。こちらの方がスタンダード曲中心で大衆性はありますが、内容的には「キャリベ」の方が優れていると思います。最近CDで再発されたのはこのUA盤の方ですので、購入される際はお間違いのないように。

(キャリベ)        (UA盤)

 

アルバムの内容に移りましょう。1曲目”Caribé”はケイシーのオリジナル。後ろでコンガがリズムを刻むゆったりしたテンポに乗ってまずケイシーがピアノソロを取り、ドルフィーのアルト→シモンズのヴァイブとソロをリレーします。ラテンでも前衛でもない普通のジャズで、なかなかの名曲・名演と思います。2曲目”Blues In 6/8"はアマルベルト作。曲名にブルースとありますがブルースっぽくありません。ヴァイブとアルトが奏でる賑やかなテーマに続きシモンズ→ドルフィーのアルト→ケイシー→アマルベルトのコンガソロと続きます。続くケイシー作"First Bass Line"は曲名通りビル・エリントンのベースが大きくフィーチャーされます。ドルフィーはここではバス・クラリネット(通称バスクラ)を吹きますが、おどろおどろしい音色で一気に前衛音楽感が強まります。ドルフィーのアルトやフルートは多少エキセントリックなソロでも音的に周りの楽器と調和して意外と違和感なく聴けるのですが、バスクラだとトンがって聞こえますね。

4曲目はアマルベルト作”Mambo Ricci"。曲名だけ見ると能天気そうな明るい感じですが、ドルフィーがいきなり先鋭的なアルトソロで暴れます。5曲目”Spring Is Here"はロジャース&ハートの定番曲。本作中唯一のスタンダードで、ドルフィーがフルートで意外とメロディアスなソロを吹きます。シモンズのヴァイブ、ケイシーのピアノも涼しげな感じで、アグレッシブな演奏が続く中での一服の清涼剤という感じでしょうか?ラストの”Sunday Go Meetin'”はいかにもなラテン調のリズムをバックにドルフィーがフルートでぶっ飛んだソロを取ります。続くシモンズ→ケイシーもわりと攻めた感じです。以上、前衛っぽさとラテンっぽさが融合した不思議な感覚の作品です。

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シェリー・マン/2、3、4

2024-08-15 21:48:32 | ジャズ(その他)

本日はシェリー・マンです。マンについては本ブログでも過去にコンテンポラリー盤「アット・ザ・ブラックホーク」やアトランティック盤「ボス・サウンズ!」を取り上げましたが、名ドラマーとして50年代のウェストコースト・ジャズを支えました。ただ、今日ご紹介するインパルス盤はやや毛色の違う1枚です。

録音は1962年2月に東海岸で行われ、共演者にはテナーの重鎮コールマン・ホーキンス、ピアノ兼ヴァイブ奏者のエディ・コスタ、ベテランピアニストのハンク・ジョーンズ、そしてベースのジョージ・デュヴィヴィエと言ったイーストコーストで活躍する面々が名を連ねています。ただ、実はマン自身はマンハッタン生まれの生粋のニューヨーカーで、50年代に入ってLAに移住するまではニューヨークでプレイし、ホーキンスとも共演歴があるそうです。

アルバムタイトルの「2、3、4」は楽器編成のことで、ジャッキー・マクリーンの「4、5&6」と同じです。2とはシェリー・マンとコールマン・ホーキンスのデュオ、3はホーキンスが抜けてマンとエディ・コスタ、ジョージ・デュヴィヴィエによるトリオ。4はコスタの代わりにハンク・ジョーンズが入り、ホーキンス、デュヴィヴィエ、マンから成るカルテットです。

内容もなかなか挑戦的です。1曲目の"Take The A Train"はエリントン楽団のおなじみのスタンダード曲ですが、序盤からマンがスローテンポでリズムを刻む中、ハンク・ジョーンズがアグレッシブなピアノソロを取り、次いでホーキンスのテナーソロが始まるやミディアムテンポに転調します。最後は再びスローテンポで終わります。2曲目"The Sicks Of Us"はさらに変わっていて、コスタのヴァイブとドラム、ベースのトリオです。曲自体もエキセントリックでかなり実験的な音楽です。

3曲目"Slowly"はカルテット編成。この曲が最もオーソドックスな演奏でコールマン・ホーキンスのダンディズム溢れるバラードプレイが素晴らしいです。何だかんだ言ってこういう演奏が安心しますね。4曲目"Lean On Me"はトリオ編成。エディ・コスタが今度はピアノを弾いています。序盤はスインギーなソロですが、中盤になると低音を駆使した独特のうねうねしたソロを聴かせます。5曲目"Cherokee"も1曲目同様に変わったテンポ設定の演奏。マンのアグレッシブなドラムをバックにホーキンスがマイペースで悠然としたテナーソロを取ります。6曲目"Me And The Drums"はマンとホーキンスのデュオ。最初はホーキンスがピアノを弾き、次いでテナー1本でマンのドラムと渡り合います。曲自体はおそらく即興演奏です。以上、色々な楽器編成や演奏方法でジャズの可能性にチャレンジしていますが、個人的には"Slowly""Lean On Me"のような普通の演奏が好きです。

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ロイ・ヘインズ/アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン

2024-08-04 21:55:21 | ジャズ(その他)

先日、ベニー・ゴルソンのところで存命中のジャスジャイアンツ達について述べましたが、その中でも最長寿はドラマーのロイ・ヘインズです。1925年3月13日生まれで現在99歳!さすがに最近は音楽活動は行っていないようですが、80代半ばまでは作品を発表していたというから恐れ入ります。活動開始は1940年代半ばまで遡り、チャーリー・パーカーやバド・パウエル、ワーデル・グレイらビバップ期の天才達との共演歴もあるまさに生き字引的存在です。

その後の経歴を見るとサラ・ヴォーンの歌伴を務める一方で、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツら主流派からエリック・ドルフィーら前衛寄りのジャズまで幅広いジャンルのジャズメンと共演するなどドラマーとしてオールラウンドの活躍を見せています。リーダー名義の作品も意外と多く、プレスティッジ系列の「ウィ・スリー」「クラックリン」、パシフィック・ジャズ盤の「ピープル」、そして本日ご紹介するインパルス盤「アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン」が代表作です。

1962年5月録音の本作はジャズ界きっての鬼才と言われる盲目のマルチリード奏者ローランド・カークをゲストに迎えたカルテット作品。ジャケット左端で楽器をたくさん抱えているのがそうですね。ちなみに残りのメンバーは左から順にピアノのトミー・フラナガン、ドラムのシンバルを手に持つリーダーのヘインズ、そしてベースのヘンリー・グライムスです。

全7曲。スタンダード4曲、オリジナル3曲と言う構成。オリジナル曲は1960年と言う時代を反映してモード色の強い内容ですが、スタンダード曲の方もオーソドックスなスタイルとは一味も二味も違います。理由はやはりカークの存在でしょう。1曲目"Moon Ray"はスイング時代の人気バンドだったアーティー・ショー楽団の曲なんですが、最初こそカークがテナーで普通にテーマメロディーを吹くのですが、アドリブになるとマンゼロと言うあまり聞き馴染みのない管楽器を吹き始め、さらにはテナーとマンゼロを2本同時に口にくわえて吹いたりします。続く定番の歌モノ"Fly Me To The Moon"も同様で最初はメロディアスなのですが途中からマンゼロでかなりエキセントリックなアドリブを繰り出します。

ただ、注意しておきたいのは本作でのカークのプレイは決して前衛ジャズではないと言うこと。60年代になると徐々にフリージャズも市民権を得始めますが、それら無調の音楽とは違い、ここでのカークのソロはエキセントリックではあるもののちゃんとメロディを吹いてます。そもそも共演のトミー・フラナガンがモダンジャズの王道を行くピアニストですからね。各曲のソロでもカークが多少ぶっ飛んだプレイをしても前後をフラナガンがきっちり抑揚の効いたピアノソロでまとめています。特に5曲目"If I Should Lose You"なんかはカークがストリッチと言うサックスの変形楽器を吹きますが、そこまで激しいアドリブもなく意外と普通に聴けるジャズです。リーダーのヘインズについての言及が少なくなりましたが、作曲者としてオリジナル曲3曲を提供していると同時に、演奏面では全編を通じて熟練のドラミングでリズムを刻むだけでなく、隋所で卓越したドラムソロを披露し、演奏全体を引き締めています。

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ウィナーズ・サークル

2024-06-10 20:54:01 | ジャズ(その他)

本日はベツレヘム・レコードの企画盤「ウィナーズ・サークル」を取り上げたいと思います。権威あるジャズ専門誌ダウン・ビートの1957年度読者投票の各楽器の若手部門・ベテラン部門の受賞者(=ウィナー)達を集めたセッションで、合計13名ものジャズマンが顔を揃えています。セッションは1957年9月と10月の2回に分けて行われており、9月のセッションがアート・ファーマー(トランペット)、ロルフ・キューン(クラリネット)、エディ・コスタ(ピアノ&ヴァイブ)、ケニー・バレル(ギター)、オスカー・ペティフォード(ベース)、エド・シグペン(ドラム)の6人。10月のセッションがドナルド・バード(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー)、ジーン・クイル(アルト)、アル・コーン(バリトン)、フランク・リハック(トロンボーン)、フレディ・グリーン(ギター)、コスタ(ピアノ)、ペティフォード(ベース)、シグペンまたはフィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るノネット(9人編成)です。全曲に参加しているのはエディ・コスタとオスカー・ペティフォードの2人で、おそらくビバップ期から活躍するベテランのペティフォードが実質的なリーダーではないかと推察します。

ジャズファン的にはコルトレーンやドナルド・バード、アート・ファーマーらハードバップの俊英達がどんなプレイを繰り広げるか期待に胸が膨らみますが、あくまで大勢いるメンバーの一員でソロを取るにしても短時間です。一部のCDでは帯などで本作をコルトレーン作品のように紹介しているものもありますが、実際は半分の曲しか登場しないので要注意です。サウンド的にもハードバップと言うよりやや室内楽的な要素の入った小型ビッグバンドと言った感じで、ハリー・タブスと言う人がアレンジャーを務めています。他では聞かない名前ですがいったい何者なんでしょうか?

全8曲。奇数曲が9月のセッション、偶数曲が10月のセッションです。比較すると9月のセッションがより室内楽的な雰囲気が強く、ロルフ・キューンのクラリネットとエディ・コスタのMJQを思わせるヴァイブが独特の雰囲気を醸し出しています。アート・ファーマーやケニー・バレルも普段の熱きハードバッパーぶりを封印して、室内楽的な演奏に徹していますね。オープニングの幻想的なスローバラード"Lazy Afternoon"、曲名通り涼やかな雰囲気の3曲目”Seabreeze"、愛らしいスイングジャズ風の5曲目"She Didn't Say Yes"、ほのぼのしたブルースの7曲目"At Home With The Blues"とそれぞれ質の高い演奏揃いです。

10月のセッションはコルトレーンやドナルド・バードも加わった分厚い5管編成で、いくぶんダイナミズムが増しているような気がします。バードが高らかに奏でるテーマが印象的な2曲目"Not So Sleepy"、コルトレーンの飛翔するソロを皮切りにホーン陣が軽快にソロをリレーする4曲目"Love And The Weather"、リラックスした雰囲気のラストトラック"Turtle Walk"とどれも水準以上の出来ですが、私のイチ押しは6曲目"If I'm Lucky I'll Be The One"。カーメン・マクレエの1955年のベツレヘム盤に収録されていたバラード曲で、フランク・リハックの美しいトロンボーンソロで始まり、バードのテーマ演奏→クイルのアルト→コスタのピアノソロを経て、コルトレーンがため息の出るような美しいソロを聴かせてくれます。後を受けるバードの輝かしいトランペット、コーンのバリトンも素晴らしく、まさに珠玉の名演です。先ほど本作をコルトレーン目当てで買うのは要注意と言いましたが、限られた出番ながらコルトレーンのプレイはやはり際立っており、彼のソロをビッグバンド的アレンジの中で楽しめる貴重な作品となっています。それ以外のメンバーの演奏も一級品ですし、洗練された編曲と相まって文句なしの傑作に仕上がっています。

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