ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ペッパー/ジ・アート・オヴ・ペッパー

2024-10-07 21:01:42 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーの全盛期が1950年代後半にあったことは衆目の一致するところと思いますが、この頃の彼は主にコンテンポラリー・レコードから名作群を発表する一方、マイナーレーベルにも少なからぬ作品を残しています。以前に同ブログで紹介したジャズ・ウェスト盤「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」、イントロ盤「モダン・アート」、他にタンパ盤「アート・ペッパー・カルテット」、そして今日ご紹介するオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」等がそうです。特にオメガテープはアート・ペッパーのこの作品でしか名前を聞いたことがないような希少レーベルです。しかもそれらマイナーレーベルへの録音は1956年夏から1957年春頃にかけての短期間に集中しており、いかにペッパーがこの時期に多くのレコーディングセッションをこなしていたかがわかります。

精力的な活動の理由としては、麻薬中毒による2年間の収容生活から復帰したペッパーがブランクを取り戻すべく心機一転張り切ったというのもあるでしょうが、裏の理由としてはクスリ代欲しさの小遣い稼ぎの意図もあったのかもしれません。この頃のペッパーはキャリアの中では比較的安定して活動していた時期ではありますが、それでも麻薬の悪癖を完全に克服できたわけではなく、常時クスリを必要としていました。コンテンポラリーはウェストコーストジャズを代表するレーベルではありましたが、おそらくそこからの収入だけでは足りなかったのかも、と邪推してしまいますね。

本盤は発売当時はLPではなく、オープンリールと言う8ミリテープのような媒体で発売されたもので、長らく幻の音源扱いでしたが、今ではCDで手軽に聴くことができます。録音年月は1957年4月。メンバーは西海岸を代表する黒人ピアニストであるカール・パーキンス(ピアノ)に同じく黒人のベン・タッカー(ベース)、ドラムにはチャック・フローレスと言う布陣で、タッカーとフローレスは「モダン・アート」にも参加しています。

収録曲は全12曲。もともとは2枚のアルバムに分かれていたものをCD1枚にまとめたため、かなりのボリュームです。オープニングの"Holiday Flight"とラストトラックの"Surf Ride"は1952年録音の名盤「サーフ・ライド」からの再演で、5年の月日を経て円熟した演奏となっています。それ以外は基本的に歌モノスタンダード中心ですが、こちらも"Too Close For Comfort”"Long Ago And Far Away""I Can't Believe That You're In Love With Me"など他のペッパー作品で聴かれる曲が収録されています。ペッパーのお気に入り曲だったのでしょう。中では"Long Ago And Far Away"が出色の出来栄えと思います。

それ以外でおススメはまずコール・ポーターの”Begin The Beguine"。スイング時代のアーティ・ショー楽団で有名な曲で、スモールコンボのバージョンは少ないですが、ここではペッパー流の見事な解釈で魅惑のミディアムチューンに仕上がっています。また、ペッパーは黒人ジャズメンの曲もちょくちょく取り上げますが、本作ではバド・パウエルの”Webb City"がそれに当たります。ハードドライビングなチャック・フローレスのドラム演奏に乗せて、ペッパーとカール・パーキンスがノリノリの演奏を繰り広げます。"Body And Soul"のバラード演奏やラテンナンバーの”The Breeze And I”も捨てがたいです。全部で65分弱という異例のボリュームのためさすがに後半にスタンダード曲が続くあたりややダレるのは否めませんが、それでも全体的なクオリティはさすがで、全盛期ペッパーの充実ぶりがよくわかる1枚です。

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ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー

2024-09-26 18:52:09 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーのキャリアが麻薬によってたびたび中断したことはジャズファンなら皆ご承知のことと思います。中でも一番長いのが60年代から70年代前半にかけてのブランクで、10年以上もの間表舞台から姿を消します。1975年に古巣のコンテンポラリーに「リヴィング・レジェンド」を発表して以降、再び怒涛の勢いでアルバムを発表し、奇跡のカムバックと呼ばれたそうですが、私個人的には70年代以降のジャズはほとんど聴かない(自分は70年代生まれのくせに!)ので、晩年のペッパーの演奏についてはよくわかりません。

ただ、ペッパーはそれ以前にも何度か麻薬絡みで収監されており、一般的に彼の全盛期と目される1950年代にも約2年間を塀の中で過ごしています。今日ご紹介する「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」はその際の復帰作で、1956年8月6日にジャズ・ウェストと言うマイナーレーベルに吹き込まれたものです。この時点でペッパーはスタン・ケントン楽団での活躍で西海岸随一のアルト吹きとしての評価を確立していましたが、ソロとしてのキャリアはまだあまりなく、実質的にこの後の5年間が彼の黄金時代となります。

メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ラス・フリーマン(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と言った西海岸を代表する面々。ジャック・シェルドンは先日ご紹介した「マイ・フェア・レディ」では歌を歌っていましたが、本職はトランぺッターで本作でもなかなかブリリアントなプレイを聴かせてくれます。ペッパーは自身のリーダー作にトランぺッターを起用することはあまりないですが、シェルドンとはウマが合ったのか1960年の「スマック・アップ」でも共演しています。

全10曲、うちスタンダードは2曲のみで後は全てペッパーのオリジナルです。アルバムはまずオリジナル曲の"Pepper Returns"から始まりますが、聴いていただければわかるようにほぼ”Lover, Come Back To Me"のパクリです。ただ、演奏の方は素晴らしく、のっけから絶好調のペッパーのアドリブに、シェルドンもパワフルなソロで絡みます。続く2曲はスタンダードで、まずベイシー楽団のレパートリーである”Broadway"をペッパー&シェルドンで軽快に料理した後、続く”You Go To My Head"はペッパーがワンホーンで絶品のバラードプレイを聴かせます。

中盤は”Angel Wings"”Funny Blues””Five More"”Minority"とペッパーのオリジナルが続きますが、正直あまり特筆すべきものはないです。ちなみに”Minority”はジジ・グライスの有名な曲とは全く別のマイナーキーの曲です。特筆すべきはペッパーのワンホーンによる美しいバラード”Patricia"。ペッパーには妻に捧げた”Diane"と言う名の名バラードがありますが、この曲は娘のパトリシアちゃんのために書かれたそうです。ペッパーの優しいアルトの音色が胸に沁みます。”Mambo De La Pinta”は曲名から想像つくようにラテンムード全開のホットな演奏。ラストの”Walkin' Out Blues”はペッパー得意の即興のブルースです。この後、ペッパーは1960年までの間に計10枚のリーダー作を録音。生涯で最もクリエイティブな時期を過ごしますが、本作はその皮切りとなる記念碑的な1枚です。

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ヴィクター・フェルドマン・オン・ヴァイブス

2024-09-12 18:16:59 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸の幻のレーベル、モード・レコードからの1枚です。ジャケットは先日の「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」と同じく、ビル・ボックスの描いた眼鏡のおじさんシリーズですね。右手に酒瓶を、左手に指揮棒(?)のようなものを持ったデザインで、右下に"Champagne music for cats who don't drink"と小さく記載されています。何でもcatsは猫以外に”ジャズ狂”と言う意味のスラングがあるらしく、あえて直訳すれば"下戸のジャズ狂のためのシャンペン音楽"てな感じでしょうか?それでもよく意味がわかりませんが・・・

リーダーとなるのはヴィクター・フェルドマンです。後にキャノンボール・アダレイのバンドに抜擢され、そこでは主にピアノを弾いていますが、デビュー当初からヴァイブ奏者としても活躍しています。スタイルは異なりますがエディ・コスタと同じような感じですね。出身は英国ロンドンですが、1955年に渡米し、当初は西海岸に身を落ちつけました。彼のその後の経歴を見るとウェストコーストジャズとはあまり親和性がなさそうなのですが、白人ジャズマンの多いLAの方が移住には適していると判断したのでしょうか?

本作は1957年9月にモードに吹き込まれた彼のアメリカでのデビュー作です。翌1958年にコンテンポラリー盤「ジ・アライヴァル・オヴ・ヴィクター・フェルドマン」を発表しており、タイトルだけ見るとそちらの方がデビュー作っぽいですが、時系列的にはこちらの方が先ですね。本作でのフェルドマンは「オン・ヴァイブス」とあるようにヴァイブに専念しており、ピアノには西海岸を代表する黒人ピアニストのカール・パーキンスを起用しています。ベースはリロイ・ヴィネガー、ドラムはスタン・リーヴィです。さらに7曲中後半の3曲(レコードのB面)は管楽器が2本加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)とハロルド・ランド(テナー)が加わったクインテットです。

まず、前半4曲から。オープニングの"Fidelius"はフェルドマンの自作曲。フェルドマンは後にキャノンボール・アダレイに重用されたことからわかるように英国人ながら黒っぽいフィーリングの持ち主ですが、ここでもミルト・ジャクソンを彷彿とさせるファンキーなマレット捌きを見せています。ただ、続く"Squeeze Me"と"Sweet And Lovely"はどちらもスタンダード曲でいたって普通の演奏です。ウェストコーストらしい清涼感あふれる演奏と言えばそうですが、少し物足りないかな。4曲目"Bass Reflex"もフェルドマンのオリジナルですが、MJQ的典雅さを意識した(?)ちょっと不思議な旋律の曲です。

後半3曲はロソリーノとランドが加わることにより、雰囲気が変わります。5曲目"Chart Of My Heart"はボブ・ニューマンと言うよく知らないサックス奏者の曲、6曲目”Wilbert's Tune"はフェルドマンの自作曲でどちらもほのぼのした感じです。この2曲はまずまずと言ったところです。おススメはラストトラックの”Evening In Paris"。クインシー・ジョーンズにも同名の曲がありますが、全く別の曲でこちらはフェルドマンの書き下ろしです。ホレス・シルヴァーの"Nica's Dream"を彷彿とさせる熱血ハードバップで、西海岸No.1トロンボーン奏者ロソリーノの高らかに鳴るトロンボーン、ブラウン&ローチ・クインテットでも鳴らしたランドのテナーとフェルドマンのソウルフルなヴァイブが融合した名曲・名演です。全体の出来は正直可もなく不可もなくなのですが、オープニングの"Fidelius"とラストの”Evening In Paris"のおかげで鑑賞に値する1枚となっています。

 

 

 

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チャーリー・マリアーノ

2024-09-11 18:17:24 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はチャーリー・マリアーノです。彼については以前「トシコ=マリアーノ・カルテット」で取り上げましたが、1959年に日本人ピアニストの秋吉敏子と結婚したことで日本のジャズファンにはよく知られています。60年代は一時期日本に住んでいたこともあるとか(余談ですが歌手のMonday満ちるは彼と秋吉の間に生まれた娘です)。もともとは東海岸ボストンの出身ですが、1950年代半ばは全盛期のウェストコーストジャズに身を投じ、スタン・ケントン楽団やシェリー・マンのバンドでプレイしました。

本作は1956年にベツレヘム・レコードに残された彼のウェストコースト時代の代表作です。ただし、録音自体はケントン楽団の東海岸ツアー中にニューヨークで録音されたもので、メンバーはケントン楽団の同僚であるマックス・ベネット(ベース)とメル・ルイス(ドラム)、東海岸で活躍していたジョン・ウィリアムズ(ピアノ)と東西混成のメンツです。

全8曲、うち6曲が歌モノスタンダードです。ほとんどが定番曲ばかりで一歩間違えればベタなマンネリの演奏になりがちなところですが、カルテットの質の高い演奏のおかげで実に聴き応えのある作品となっています。冒頭からアップテンポに料理されたロジャース&ハートの”Johnny One Note"、ミディアムテンポでゆったり聴かせる”The Very Thought Of You"、マイナーキーの佳曲”King For A Day"と軽快な演奏が続きます。バラード演奏も素晴らしく、後にプラターズによって全米No.1ヒットとなった”Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)"、ジミー・ヴァン・ヒューゼンの名曲”Darn That Dream"をマリアーノが情感たっぷりに歌い上げます。2曲あるマリアーノのオリジナルは前者の”Floormat"がいかにもウェストコーストっぽい快適なミディアムチューン、後者の”Blues"がおそらく即興のブルース演奏です。ラストは再びスタンダードの”I Heard You Cried Last Night"をドライヴ感たっぷりに演奏して終わります。

マリアーノは当時ウェストコーストでプレイしていましたが、スタイル的にはチャーリー・パーカーの影響を強く受けたストレートなバップで、輝きに満ちたフレーズを淀みなく繰り出す様は素晴らしいの一言。個人的にはフィル・ウッズ、ハーブ・ゲラーと並んで”3大白人パーカー派アルト”と勝手に並び称しています。ピアノのジョン・ウィリアムズは”山田太郎”的な名前の特徴のなさがどうも過小評価に結びついていますが、スタン・ゲッツやフィル・ウッズ、ズート・シムズとも共演歴のある名手で、本作でも素晴らしいピアノソロを聴かせてくれます。マックス・ベネット、メル・ルイスも堅実なサポートぶりで、ワンホーン・カルテットの名盤として大いに推奨したい1枚です。

 

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マーティ・ペイチ・カルテット・フィーチャリング・アート・ペッパー

2024-09-02 18:56:52 | ジャズ(ウェストコースト)

ウェストコーストジャズを支えたレーベルと言えばまずパシフィック・ジャズとコンテンポラリーの2つが思い浮かびますが、それ以外にも小さなレーベルがいくつかあります。タンパ・レコードもその一つでロバート・シャーマンと言う人が1955年に設立したものの、たった3年で消滅した泡沫レーベルです。本ブログでは以前に「ア・スウィンギン・ギグ」と言う作品を紹介しましたが、一番有名なのはジャズファンから”タンパのペッパー”と呼ばれるアート・ペッパーの2枚の録音でしょう。それ以外ではピアニストのジェラルド・ウィギンスのトリオ作品や、ヴァルヴトロンボーンのボブ・エネヴォルセンのリーダー作もCD化されており、物好きな私はどちらも買ったのですが内容は特筆すべきものではありませんでした。

さて、”タンパのペッパー”は2種類あり、一つはそのものズバリ「アート・ペッパー・カルテット」でペッパーがラス・フリーマンのトリオをバックに演奏したもの。もう1つが今日ご紹介するアルバムでマーティ・ペイチのリーダー作にペッパーが客演したもので、昔からジャズファンや評論家の中ではこちらの方が評価が高いようです。厳密に言うとペッパーのリーダー作ではないのですが、ジャケットにもペッパーがかなり目立つ形で登場していますので当初から半ばペッパーの作品として売り出していたのでしょうね。ペイチはどちらかと言うとアレンジャーとしての評価が高く、メル・トーメの「シューバート・アレイ」を始めとした一連の名作群や、エラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」等で素晴らしいビッグバンドアレンジを施していますが、ピアニストとしてもリーダー作、サイドマンを問わず多くの作品を残しています。本作ではバディ・クラーク(ベース)とフランク・キャップ(ドラム)を加えたトリオにペッパーを加えた編成です。録音年月は1956年9月です。

全9曲、スタンダードが4曲、オリジナルが5曲と言う構成です。演奏時間は全て2~3分台なので、全部で26分弱しかなく、じっくり腰を据えて鑑賞するという感じではないですね。ただ、短い演奏ながらもペッパーの輝きに満ちたソロを全編で聴くことができます。スタンダードですが"You And The Night And The Music"や"Over The Rainbow"と言った定番曲もありますが、個人的には"All The Things You Are"が出色の出来と思います。ペッパーのソロは原曲のメロディから大きく逸脱することなく、曲の輪郭を残しながらも、彼にしか表現できない美しいフレーズを散りばめることにより、おなじみのスタンダード曲から新たな魅力を引き出しています。

オリジナル曲だとまずはペイチとギタリストのビル・ピットマンの共作である”Sidewinder"が秀逸です。有名なリー・モーガンの曲とはもちろん別曲でウェストコーストらしい爽やかなメロディで、ペッパー→ペイチと鮮やかにソロをリレーします。続く"Abstract Art"もペイチ作の軽快なミディアムチューンです。他ではレーベルのオーナーのロバート・シャーマン自身が書いたメランコリックなバラード"Melancholy Madeline"やペイチ作のアップテンポのブルース曲"Marty's Blues"も一聴に値します。

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