とかく日本のジャズファンから過小評価されがちのウェストコーストジャズですが、それでもアート・ペッパー、チェット・ベイカー、バド・シャンクは知名度もありますし、評価も確立しているような気がします。次に来るコンテ・カンドリ、フランク・ロソリーノ、リッチー・カミューカ、ハーブ・ゲラーあたりも玄人筋には評価が高いですね。ただ、西海岸には他にも実力派のジャズメンがたくさんいます。今日ご紹介するベツレヘムのオムニバス企画盤「ジャズ・シティ・ワークショップ」はそんなマイナーな面々の痛快な演奏が収められた1枚です。1955年録音でメンバーはハービー・ハーパー(トロンボーン)、ラリー・バンカー(ヴァイブ)、マーティ・ペイチ(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、フランク・キャップ(ドラム)、ジャック・コスタンゾ(ボンゴ)の6人。正直名前だけで「おっ?」と思わせるプレイヤーは1人もいませんね。アレンジャーとして有名なペイチもピアノの評価はそこまで高くないですし、バンカーもヴァイブよりドラマーの印象が強く、ハーパーはモードにリーダー作がありますが、逆に言うとそれぐらいしか聴いたことがない。でも、内容は期待を大きく上回る出来でした。
全8曲。スタンダード曲が中心ですが、アップテンポとバラードがうまく組み合わされて非常に聴きやすい構成です。特に1曲目の“Zing! Went The Strings Of My Heart”、ラストの“Them There Eyes”などアップテンポの曲では、アレンジ重視でアドリブが弱いというウェストコーストジャズへの偏見を吹き飛ばすようなパワフルな演奏が繰り広げられます。ペイチの自作曲“The Natives Are Restless Tonight”ではさらにジャック・コスタンゾのラテン・パーカッションが大きくフィーチャーされ、野性的なリズムで曲を盛り上げます。他ではいかにもウェストコーストらしい明るく健康的な“Serenade In Blue”、トロンボーンによるバラード演奏が美しい“Laura”、そして1曲だけミッキー・リンという女性シンガーが加わったスインギーな“That Old Black Magic”など名演ぞろいです。ウェストコーストジャズの隠れ名盤として自信を持ってお薦めしたいと思います。