前回に引き続きスティープルチェイスの再発盤ということで、ケニー・ドリューの「ダーク・ビューティ」をご紹介します。ドリューのことは以前にリヴァーサイド盤「パル・ジョーイ」で取り上げたことがあります。50年代から60年代前半にかけて、リヴァーサイドに4枚、ブルーノートに2枚のリーダー作を残し、その他サイドマンとしても多くの作品に顔を出すなどハードバップ期を代表するピアニストの一人でした。ただ、彼も人種問題で騒がしいアメリカに嫌気がさしたのか、早くも1961年にパリに移住。1964年からはコペンハーゲンに定住し、終生を北欧で過ごしました。とは言え、決してのんびり隠居生活を送っていたわけではありません。演奏活動はむしろアメリカ時代よりも活発なぐらいで、70年代から80年代にかけて多くのリーダー作を残しています。
1974年発表の本作「ダーク・ビューティ」はドリューの北欧時代の代表作、と言うよりも彼の全てのキャリアの中でも最も有名かつ評価も高い作品と言っていいでしょう。ニールス・ヘニング・ペデルセン(ベース)、アルバート・ヒース(ドラム)を従えたトリオ作品で、円熟のプレイを繰り広げてくれます。全11曲、オリジナルは4曲だけで後は有名スタンダード中心ですが、決してありきたりの演奏に終わることなく、私のような口うるさいジャズファンをも十分満足させてくれる内容です。特にお薦めはドライブ感抜群の“It Could Happen To You”“Stranger In Paradise”、マイルス・デイヴィスの原曲よりかなりハイテンポな“All Blues”、ペデルセンのベース・ソロが大きくフィーチャーされる“A Felicidade”“Love Letters”あたりですね。50年代のドリューにもリヴァーサイド盤「ケニー・ドリュー・トリオ」等の有名作もありますが、内容的にもこちらの方がより洗練されていると思います。