前々回に続いてデクスター・ゴードンです。と言っても時代は20年も遡って1955年の録音。西海岸にあったドゥートーンというマイナーレーベルから発表された作品です。ジャズファンならご存じとは思いますが、50年代のゴードンは低迷期。40年代にワーデル・グレイとのテナーバトルで名声を博しながらも、その後は重度の麻薬中毒に陥り、50年代をほぼ棒に振ってしまいます。唯一の例外が1955年で、この年の後半は一時的に健康を回復し、9月にベツレヘムにリーダー作「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」を吹き込み、同じ月にドラマーのスタン・リーヴィの「ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー」に参加。そしてこの12月に本作「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」を収録します。とは言え、結局それも長続きせず、その後は再び麻薬所持で刑務所を出たり入ったり。完全復活は1960年まで待たないといけません。
メンバーですが、当時のゴードンは生まれ故郷でもあるロサンゼルスに住んでいたため、西海岸で活躍する黒人ミュージシャンがバックを固めています。ピアノがカール・パーキンス、ベースがリロイ・ヴィネガー、ドラムがチャック・トンプソンという面々で、さらに9曲中3曲だけジミー・ロビンソンという正体不明のトランぺッターが参加しています。9曲中スタンダードが5曲、ゴードンのオリジナルが4曲という構成で、前者はバラードが中心。“Cry Me A River”“Don't Worry About Me”“I Should Care”“Tenderly”と言った良く知られた曲をムードたっぷりに歌い上げます。“I Hear Music”だけがアップテンポで、軽快に飛ばすリズムセクションをバックにゴードンが快調にフレーズを繰り出していきます。一方、オリジナルの4曲はどれもこれぞハードバップと言ったナンバーばかり。60年代に復帰して以降のゴードンはスタイルを超越したどっしりとしたブロウを持ち味としますが、この頃のゴードンのプレイは典型的なバップスタイルで、フレージングも細かく、アップテンポの曲でも次々とメロディアスなアドリブを繰り広げていきます。特に疾走感あふれる“Rhythm Mad”“Bonna Rue”が最高ですね。その他、冒頭の明るい“Silver Plated”、ドゥートーン社長のドゥーツィ・ウィリアムズにささげたファンキーな“Blowin' For Dootsie”も捨てがたいです。これだけ素晴らしい演奏ができるにもかかわらずモダンジャズ全盛の50年代をほぼ塀の中で過ごしたゴードン。もし麻薬がなければもっと素晴らしい名演を残してくれたかもしれませんが、一方でこの時期に多くのジャズメンが麻薬が原因で命を縮めたことを考えると、その後完全復活してくれた方を良しとすべきかもしれませんね。