本日は黒人女性歌手ロレツ・アレキサンドリアをご紹介します。エラ、サラ、カーメンら大御所と呼ばれる人達ほどの知名度はないですが、なかなかの実力者でそれなりに固定ファンもいる存在です。出身はシカゴでもともとはゴスペルを歌っていたようですが、50年代後半にジャズ歌手としてでデビュー。シカゴの名門アーゴ・レコードに4枚の作品を発表した後、1964年にインパルスに吹き込んだのが今日ご紹介する「ザ・グレイト」です。なお、タイトルですがジャケットにはLorez Alexandria The Greatと続けて書かれており、おそらく有名な古代マケドニアのアレクサンドロス大王(英語だとAlexander The Great)に引っかけたものと思われます。
セッションは3つに分かれており、10曲中3曲がビル・マークスというあまり良く知らない人がアレンジャーを務めたビッグバンドが伴奏を務めています。パーソネルを見るとバド・シャンクやヴィクター・フェルドマンら大物も加わっているようですが、ソロは取らないので存在感が希薄です。他は10曲中4曲がウィントン・ケリー(ピアノ)、アル・マッキボン(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)のトリオがバックを務め、さらに残りの3曲で上記のトリオにポール・ホーン(アルト&フルート)とレイ・クロフォード(ギター)が加わったクインテットによる伴奏です。ただしうち2曲はアル・マッキボンではなくポール・チェンバースがベースを弾いています。
アルバムはビル・マークスのアレンジによる"Show Me"から始まります。人気ミュージカル「マイ・フェア・レディ」からの選曲で、ちょうどこの年にオードリー・ヘップバーンによる映画も公開され、話題になっていたのでしょう。マークス絡みは全てこの「マイ・フェア・レディ」からで、他に"Get Me To The Church On Time""I've Grown Accustomed To His Face"が選ばれています。ロレツはハスキーがかった独特の声質でゴスペル仕込みのパンチの効いたソウルフルなヴォーカルを聴かせます。中でも静かなイントロから後半に向けて徐々にビッグバンドで盛り上がる"Get Me To The Church On Time"が秀逸です。
2曲目"I've Never Been In Love Before"はウィントン・ケリー・トリオをバックにした演奏で、途中でケリーのスインギーなソロも挟まれます。他はバラードの”Over The Rainbow”、拳を利かせて歌う”The Best Is Yet To Come"、軽快な”Give Me The Simple Life"もケリー・トリオを従えた曲です。ただ、個人的にはポール・ホーンとレイ・クロフォードを加えたクインテット入りの曲がお気に入りです。エリントンの名曲"Satin Doll"ではクロフォードのギター、ホーンのアルトソロを挟んでロレツが独特のリズム感で歌います。ホーンのフルートをフィーチャーした"My One And Only Love"はまずまずですが、ラストの”I'm Through With Love"が本作のベストトラックと言って良い素晴らしい出来。恋の終わりを歌った切ないバラードをロレツがエモーショナルに歌い切ります。クロフォードのギター、ホーンのフルートも彼女の名唱に彩りを添えています。ロレツはインパルスにもう1枚本作の続編と言うべき「モア・オヴ・ザ・グレイト」も残しており、そちらもなかなかおススメです。