1956年11月5日に18歳4ヶ月でデビュー作「インディード!」をブルーノートに吹き込んだリー・モーガンは、翌日にはサヴォイに「イントロデューシング・リー・モーガン」、翌12月にはブルーノートに「リー・モーガン・セクステット」を録音。トランペットのニュースターとして破竹の快進撃を見せます。この時点でモーガンにはソロとして十分やっていけるだけの実力があったと思うのですが、モーガンは並行してディジー・ガレスピーのビッグバンドにも加入し、1958年まで同楽団に所属します。ビッグバンドでは必ずしも自分の思う通りにプレイできるわけではありませんが、尊敬するガレスピーや他の先輩ジャズマン達との共演は早熟の天才モーガンにとって良い経験となったようです。
今日ご紹介する「ディジー・アトモスフェア」はガレスピー楽団所属時のモーガンが同僚メンバー6人と収録したセッションをスペシャルティと言うR&B専門のレーベルが発売したものです。ボスのガレスピーは不在で、各メンバーが対等の立場で参加したいわゆるリーダーレス・セッションですね。録音は1957年2月18日、西海岸ハリウッドで行われており、おそらくガレスピー楽団のツアー中に機会が設けられたのでしょう。
モーガンはまだ18歳7ヶ月でしたが、そのこともあってかジャケットには登場せず、メンバーの中で年長格のアル・グレイ(トロンボーン)とビリー・ミッチェル(テナー)の写真が使われています。ジャズの世界でも年功序列的なものがあったのでしょうね。ただ、年長と言ってもグレイ31歳、ミッチェル30歳なので十分若いですが・・・その他のメンバーはビリー・ルート(バリトン)が22歳、ウィントン・ケリー(ピアノ)が25歳、ポール・ウェスト(ベース)が23歳、チャーリー・パーシップ(ドラム)が27歳です。ビリー・ルートはつい先日「マンデー・ナイト・アット・バードランド」で紹介したばかりですが、フィラデルフィア出身の白人で、ここではテナーではなくバリトンサックスを吹いています。
ただ、実際の演奏ではやはり一番目立っているのはモーガンですね。特にオープニングトラックの"Dishwater"。イントロからいきなり目の覚めるようなソロを取るウィントン・ケリーも大概凄いのですが、その後に登場するモーガンが圧巻の一言。まさに火の出るような、と言う表現がぴったりの強烈なソロを3分間に渡って見せつけます。これで18歳とは恐るべし。まさに天才ですね。その後に続くビリー・ルートのバリトン、アル・グレイのトロンボーンもなかなかエネルギッシュですが、モーガンのインパクトには負けます。
ところでこの曲の作者はロジャー・スポッツと言う人なのですが、本作収録の全8曲中5曲が彼の曲です。他では聞かない名前ですが、調べたところオハイオ出身の黒人ジャズマンで主に西海岸でアレンジャーとして活躍したとか。ディスコグラフィーには70年代のポルノ映画!?のサントラとか、80年代のビッグバンド作品が出てきましたが、ちょっとよくわからない謎の存在ですよね。ただ、作編曲のセンスはなかなかのもので2曲目”Someoe I Know"はまるでスタンダード曲かと思うような美しいバラードで、モーガンの吹くテーマメロディに続くビリー・ミッチェルのテナーソロと編曲も見事です。その他の”D.D.T.""About Time""Rite Of Swing"はアップテンポの曲で、4管のアンサンブルと各楽器のソロが適度に組み合わさったカッコいい演奏。隠れた才能ここにありって感じですね。スポッツ以外にはガレスピー楽団の同僚であるベニー・ゴルソンも自作曲”Whisper Not"とスタンダードの”Day By Day"でアレンジを手掛けていますが、演奏には参加していません。
各メンバーの演奏に戻りますと一番目立っているのは上述の通りリー・モーガンなのですが、アル・グレイとビリー・ミッチェルも伊達にジャケットに写っているわけではなく、グレイはスタンダードの”Day By Day"でロマンチックなバラード演奏を、ミッチェルはアップテンポの”D.D.T."とスタンダードのバラード”Over The Rainbow"で素晴らしいテナーソロを存分に聴かせてくれます。ビリー・ミッチェルは地味ですがサド・ジョーンズの「マグニフィセント」にも参加していますし、良いテナー奏者ですよね。以上、若き日のモーガンの天才っぷりはもちろんのこと、ロジャー・スポッツの知られざる作編曲の手腕、グレイ、ミッチェル、ケリーらの好演と聴きどころたっぷりの傑作です。