図書館から借りていた 平岩弓枝著、「はやぶさ新八御用帳(六)春月の雛」(講談社)を読み終えた。本書は、南町奉行所、内与力隼新八郎が活躍する長編時代小説「はやぶさ新八捕物帳シリーズ」の第6弾目の作品で、表題の「春月の雛」の他、「江ノ島弁財天まいり」「狐火」「冬の蛙」「鶏声ヶ窪の仇討」「淀橋の水車」「中川舟番所」「落合清四郎の縁談」の連作短編8篇が収録されている。一話完結、小気味良い筋立ての短編のせいもあり、読みやすく、一気に読破出来る書だ。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に 書き留め置くことにしている。
▢主な登場人物
隼新八郎(新八、内与力、根岸肥前守の懐刀)、郁江(新八郎の妻女)
根岸肥前守鎮衛(やすもり)(南町奉行、新八郎の上司)、
宮下覚右衛門(南町奉行所用心)、高木良右衛門(南町奉行所用人)、
お鯉(南町奉行所奥仕え女中、新八郎の心の恋人)
神谷鹿之助(勘定方、郁江の兄、新八郎の義兄、幼馴染)、
大久保源太(定廻り同心)、大竹金吾(同心)、勘兵衛(元岡っ引き、鬼勘)、
お初(勘兵衛の娘、小かん)、
藤助(岡っ引き)、熊吉(下っ引き)、
▢あらすじ
「江ノ島弁財天まいり」
元岡っ引きの勘兵衛(鬼勘)の娘お初(小かん)が、下っ引きの熊吉を伴って、湯島界隈の弁財講9人、三栖屋(みすみや)太兵衛の母親おらく、女房おきわ、妹お多美、伊勢屋利八、妹お香、野田屋忠次郎、敷島屋勝三郎、名とり煎餅半兵衛の女房およし、娘おたま、に随行、江ノ島詣に出掛けたが、その内の一人およしが変死。事故?、事件?。江ノ島は江戸奉行所支配ではないが、水戸家の奥女中宮城野?が関係、新八郎は、根岸肥前守から江ノ島へ急行するよう下知される。前篇「箱根七湯」で、箱根へ出張し、危うく谷底に突き落とされそうになったことのある新八郎を気遣う肥前守、お鯉。お鯉がそっとお守袋を・・・。聞き取り調査・・・、人間関係・・・、およしを野辺送り後、一行は江戸に戻るが、およしの葬儀準備中、おたまが勝三郎を刺し、喉を突いて死ぬ事件発生。一連の真相は?。南御番所の根岸肥前守の客間に若く美しい宮城野が訪ねてきて、事件の結末を説明する新八郎。「結局は黒星です」、苦笑した新八郎をみて、宮城野が微笑した。「御簾中様がどうして二人そろって弁天様へおまいりをしたのか、とりかえしのつかぬことをしたのではないかとお笑いになりました」、「????」、「弁天様はほんとに意地の悪い・・・」・・、肥前守が面白そうに大声で笑った。新八郎は、脇の下に冷や汗をかいていた。お鯉がお茶を運んできて・・。江ノ島弁財天は、夫婦揃って、あるいは、恋人同士で参詣すると、焼き餅を焼き、かっとなって仲を割るという怖ろしい女神なのだという。
「狐火」
旗本浅野主膳の屋敷で夜な夜な狐火が燃えているという噂が南町奉行(南御番所)にも聞こえてきて、定廻り同心大久保源太と真相探索を始める新八郎だったが・・・。一方で、浅野家に女中奉公している麻布の米問屋喜平の娘、美人のおくみが連絡不能?になっているという。事件?。我が子治之助のため、二度目の夫を拒み、追い出した浅野家の奥方良江の決意?。事件の真相は、新八郎も騙された芝居仕立て?、「女は怖いな」、神谷鹿之助を見送って、新八郎は夜空を眺めた。
「冬の蛙」
旗本立花新兵衛の娘弥生の夫、森山与一郎が将軍の鷹狩で狂犬に噛まれ急死、嫡子が無かったが、弥生は懐妊中。与一郎の弟吉川源五郎には、長男、次男が有り、家督相続が問題となる。次々発生する怪奇事件、真相探索と弥生の身辺警護を依頼された新八郎だが・・・。吉川家の奥方おいま?、森山家の女中浜路?、毒草?、梵字の調伏?・・謎、謎。「もはや、隼殿には、なにもかも御推量であろう。罪はこのおいぼれにある。なにとぞ、なにとぞ・・・」、浜地の処罰・・・・「それは、出来ぬ・・・」とは?・・・、老いた後姿が寂しげに見える。
「鶏声ヶ窪の仇討(けいせいがくぼのあだうち)」
甘酒売りと客が喧嘩になり、仲裁に入った侍が弁償し、両方とも姿を消し、死体が置き去りになったという奇怪な事件が発生。町方の事件でありながら、お鯉、根岸肥前守に急き立てられるようにして、新八郎は、事件の真相探索、謎解きを開始する。死体は、東吉?、土井大炊頭の家中の医者の倅宮本左内と称する者に引き取れられるが、実在の人物に非ず。一方で、岡っ引きの藤助の家に、新八郎宛の投げ文「二の午の夜、けいせいがくぼまでお出でください」が。大名の下屋敷で盛んに行わている賭博、盗難事件との関わりは?、伊吉?、徳源院の天清尼とは?、夫の敵討ちを世間に印象付けるためのシナリオ?、1件落着後、根岸肥前守は、新八郎に、「それにしても、女房が盗賊の首領で、亭主は素人と申すのはめずらしいな」、お鯉も気にしていた「天清尼は、美人?・・」。「新八、その方、今一度、天清尼に逢うてみたいとは思わぬか」、しきりとからかわれる新八郎だった。
「春月の雛(しゅんげつのひな)」
根岸肥前守から、突然、「春月の雛の話を知ってるか」と言われ、新八郎は、意味が分からなかったが、人形師春月(しゅんげつ)こと瀬川彦七が作る雛人形のことであること知る。「春月の雛」絡みで、瀬戸物屋西村勘兵衛の娘おいと、絵具染草問屋半田屋次兵衛の女房おきみ、二人の女が死んでいるという。事件?、事故?、新八郎は、その真相を探索するよう下知される。京屋儀兵衛、松太郎、お秀、おとき、三津彦・・、
「京屋の松太郎、人形師春月が殺されました・・・」、大久保源太が知らせにきた。・・・、新八郎の心にひっかかっていたものが、すとんと落ちた。衆道?・・・、お鯉の前ではどうも具合悪い。新八郎は中庭の上の夜空を仰いだ。御番所奥の居間から、肥前守とお鯉の楽しげな声が聞こえてきた。
「淀橋の水車」
お鯉の実家は、淀橋の近くに有り、兄仙之助が団子屋を営んでいるが、お鯉の幼友達、佐久間多七郎の娘おいちからお鯉に相談事が有ることを頼まれた。根岸肥前守は、新八郎とお鯉に、淀橋へ向かうよう下知、お鯉と二人で、遠出することを大竹金吾にからかわれ、照れくさく、妻郁江にはうしろめたくも感じながら出掛けた新八郎。問題は、おいちの妹、おみのの縁談問題だった?、佐久間多七郎は、御先手組同心。妻女おさきとの間に、おいち、おみのが有るが、次女のおみのの縁談先、飯山宗兵衛は、柏木村の大百姓。長男万太郎、次男万次郎。そのおみのが殺された。下手人は?。さらに飯山宗兵衛が死んだ。病死?、殺人?、新八郎の推量、謎解きで、全て明らかになり・・・。浮かぬ顔の新八郎に、肥前守は、「おみのを助けることが出来なかったのは、そちのせいではない」・・・、新八郎は主君の盃を押し頂いて飲み干した。
「中川舟番所」
向島村で隠居している根本肥前守の叔母を訪ねた新八郎、引き籠もりの隠居を、綾瀬川の堤の茶屋に連れ出すが、そこで、偶然、溺れる侍を助けた。落合清四郎と名乗る侍、全く泳げず、水恐怖症?、正直者。実は、直参旗本で、半月後には、中川舟番所に配属になるという。水鍛錬を約束してしまった新八郎だったが・・・。大の男二人が、川で絡み合っている図、いささか憂鬱になってしまう。肥前守のアドバイスも有って、無事、中川舟番所勤務スタートした清四郎が、近くの内藤豊前守信敦下屋敷で発生した火事では、自身で舟を出し、追い詰めらた小夜姫と乳母を救出する等、獅子奮迅の活躍、「おぬし、やったな」、新八郎は、肩を叩いてやりたい気持ちになった。
「落合清四郎の縁談」
前篇「中川舟番所」で、綾瀬川で心中し損ね、溺れているところを新八郎に助けられた、中川舟番所御番衆、落合清四郎、以後、新八郎と水魚の交わりを続けていたが、その清四郎に縁談が有ることを、根岸肥前守から告げられ、「まさか・・・」。「その、まさかじゃよ」。相手は、内藤豊前守信淳の末の妹小夜姫(18歳)だという。野次馬気分の肥前守から、確かめるよう下知された新八郎ではあるが・・・。清四郎の姉で成瀬平左衛門の奥方お登勢の剣幕にたじろぎ・・・。縁談は、破断?。大名と旗本、釣り合わぬは不縁の元というからな・・・。肥前守が考え深そうに、「人は外見では分からぬものじゃ」。清四郎から、菊見かたがた一献を招待された新八郎。そこにいたのは?。男は、無意識の中に母親に似た女を妻にのぞむと言われるが、・・・。それにしても、何もかも承知のくせに、そしらぬ顔で、重い鯛を届けさせた肥前守を、とんだ狸だと思いながら、新八郎は、夕焼けに染まった菊畑に背を向けた。
(つづく)