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畠山健二著「本所おけら長屋(十五)」

2021年03月17日 11時26分04秒 | 読書記

図書館に予約(リクエスト)してから数ケ月、先日やっと順番が回って来て借りてきた 畠山健二著「本所おけら長屋(十五)」(PHP文芸文庫)を 読み終えた。


お江戸本所亀沢町にある貧乏長屋「おけら長屋」の住人、万造、松吉の「万松コンビ」を筆頭に 左官の八五郎、お里夫婦、粋な後家女お染、浪人の島田鉄斎、大家の徳兵衛、等々、個性豊かな面々が 貧しいくせにお節介で人情厚く、次々巻き起こる問題、事件、騒動を笑いと涙で体当たりし、まるく収めていくという 人気の「本所おけら長屋シリーズ」の第15弾目の作品だ。まるで江戸落語を聞いているようなテンポ良い会話、小気味良い文体、随所で笑いが堪えられなくなったり、思わず泣かされてしまう、人の優しさが心に沁みる時代小説、一気に読める作品だと思う。
(注)真夜中に読まない方がいいかも知れない。一人で ゲラゲラ笑い出したりしまったり、鼻をすすったりする爺さんは なんだか不気味、気が触れたか?と 勘違いされる恐れ有り。


(参照)→ PHP研究所(PHP文庫)「本所おけら長屋シリーズ」


畠山健二著「本所おけら長屋(十五)」

本書には 「その壱 はるざれ」「その弐 なつぜみ」「その参 あきなす」「その四 ふゆどり」の連作短編4篇が収録されている。

「その壱 はるざれ」
黒石藩徒目付尾形清八郎は 藩主津軽甲斐守高宗から 貧しい百姓を救う手立てとして 下男佐助・お種が作っていた味噌漬を藩の名物にすることを進言、一任されるが 下男夫婦が亡くなり、唯一作り方を知っているその娘お葉を千住の岡場所から身請けする。お葉を探し出し、救出、面倒をみるのは、おけら長屋の住人達、万造、松吉、お染、島田鉄斎、お満、・・・。みんなで材料調達、酒場三祐で味噌漬作りに掛かり出来上がるが お葉が突然行方不明に・・。さあ大変。お染は、お葉を優しく抱きしめ「あんたは さっき死んだんだ。今ここにいるのは生まれ変わったお葉ちゃんなんだよ」・・・。清八郎とお葉、津軽へ向かう道中、「なあお葉、”はるざれ”っていう言葉を知っているか」・・・二人の目の前には 春のうららかな景色がどこまでも続いていた。「はるざれ」とは 春が来て野山がうららかな景色になること。

「その弐 なつぜみ」
おけら長屋住人のお咲を遠縁のお喜代婆さんが訪ねてきた。お喜代の実家は 長桂寺門前で梅大福を売る菓子屋竜泉堂、子供の頃、同じ梅大福を売り犬猿の仲の柳井堂の次男嘉助に思いを寄せ、その思い出を胸に独身を通してきたという話を打ち明ける。すぐさま、おけら長屋の万造、、松吉、お染、三祐のお栄達が、この話に飛びつき、余計なお節介を開始。嘉助は?、すったもんだの大騒ぎ。そして・・。酒場三祐の座敷で聞こえるのは 女たちのすすり泣く声と蝉の鳴き声だった。

「その参 あきなす」
万造が奉公している小さな米問屋石川屋の姑お袖、嫁お菜、二人共気が強く仲が悪いことで評判。「秋茄子は嫁に食わすな」談義。お菜が浅草の今川座の今川勘十郎に熱を上げ、握り飯を届けるようになるとお袖も。事件発生。石川屋のピンチ。真犯人は誰?。万造。松吉が仕掛ける。八百屋の金太も登場させる大芝居で、真犯人を炙り出し、石川屋の汚名も返上。お袖は茄子の漬物に手を伸ばしながら「もう芝居、観に行きません。ねえお菜さん」」「ええ、お義母様、・・・、えっ!あっ!もう無い、私一切れも食べてないのに」「大切な嫁には食べさせないのさ」、目を合わせて微笑む嫁姑を眺めながら、万造は握り飯にかじりついた。

「その四 ふゆどり」
津軽黒石藩の鳥居涼介が江戸に出てきて 島田鉄斎に真剣勝負を申し込むという武士物的な話から始まる。万造、松吉、お染、おけい婆さん、お駒等が絡み 次第に 泣かせる話、笑える話に展開。俯いた涼介の頬に涙が伝わった。「質素な食べ物でも 心が温かい人の作った料理は 食べる人の心も温かくする。心の温かい人の側にいると自分の心も温かくなる」・・・。「鳥居さんか・・・江戸で温まって、また津軽に帰っていくのか。まるで冬鳥みてえな人だったな」。この篇では、おけら長屋の住人で、これまで謎だった浪人、島田鉄斎の過去が全てが明らかになる。なかなか面白い筋立て、読み応えがある。


最近 次作「本所おけら長屋(十六)」が 発刊されているようだが 図書館から借りられるのはいつのことになるのやら、今のところ不明。しばらくは 「本所おけら長屋シリーズ」とはお別れになりそうだ。

 


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