今年4月22日に図書館に予約(リクエスト)していた、畠山健二著 、「本所おけら長屋(十七)」(PHP文芸文庫)が、やっと先日順番が回ってきて借り、一気に読み終えた。人気の「本所おけら長屋シリーズ」の第17弾目の作品である。本書には 「その壱 かえだま」「その弐 はんぶん」「その参 げんぺい」「その四 みなのこ」の連作短編4篇が収録されている。
「本所おけら長屋シリーズ」は、江戸本所亀沢町の貧乏長屋「おけら長屋」の店子、万造、松吉の「万松コンビ」を筆頭に、左官の八五郎、お里夫婦、粋な後家女お染、浪人の島田鉄斎、等々、貧しいくせにお節介焼きで人情に厚い、個性豊かな面々が、次々巻き起こる問題、事件、騒動を笑いと涙で体当たりし、まーるく収めていくという時代小説だが、とにかく面白い。演芸の台本執筆や演出等の経歴を持たれる著者特有の小気味よい文体、まるで江戸落語、漫才を聞いているようなテンポ良さに引き込まれてしまい、随所で、笑いを堪らえ切れなくなったり、思わず泣かされてしまったりする。「本所おけら長屋シリーズ」のテーマについて、著者は、「品行が悪くても品性が良い」ことだと述べておられるようだが、「いつも馬鹿やっていながら、決して人を裏切ったり騙したりしない」全ての登場人物達に、読者も気持ちよくなり、人の優しさがジーンと心に沁みてくる時代小説になっている。
畠山健二著「本所おけら長屋(十七)」
「その壱 かえだま」
三河の木綿問屋尾張屋の手代作吉が、20年前生き別れた実母お関を探しに江戸にやってきて、おけら長屋の連中のたまり場酒場三祐に現れた。一方で、ダメ息子角太郎に手を焼くシングルマザーお世津がいる。人情とお節介で、放っとけないおけら長屋の面々、さーて、どうする?、万造、松吉、八五郎・・・、てんやわんやの末・・・。
「おっかさん・・・、お元気で。私は振り向きませんよ。辛くなるだけですから。さようなら。おっかさん・・・」
「その弐 はんぶん」
おけら長屋の住人、浪人の島田鉄斎は、おけら長屋にとっては重要な存在になっているが、その鉄斎が、「廻船問屋戸田屋の後家お多江の婿に?、まさか」、情報、噂が、広まり・・・。鉄斎に秘かに思いを寄せるお染は、戸田屋へ・・、その真相は?、
「そうさ。話半分っていうだろう」・・・、お染は、美味しそうに酒を呑んだ。
「その参 げんぺい」
おけら長屋の住人のたまり場三祐の主晋助の一人息子源助と、江戸で一旗上げようと常陸国大洗磯浜から出てきた農家の三男坊三平が、初登場。三祐のお栄が関わって出会い、おけら長屋へ。万造、松吉、「万松コンビ」の企てで・・・・、大爆笑と感涙の物語になっている。演芸作家、演出家の著者の、これでもかこれでもかと笑いの渦を増幅させる漫才の台本をそのまま、持ち込んだような作品とも言える。
「お栄。ありがとうよ。おめいのおかげで、思い残すことなく旅立てらあ。おとっつあんのことは頼んだぜ」
「その四 みなのこ」
おけら長屋の住人、久蔵、お梅夫婦には、亀吉という愛息子がいるが、ある日、寒天長屋の住人、恒太郎、お竹夫婦の子供忠吉に怪我をさせてしまう事件が発生。真相不明のまま、おけら長屋と寒天長屋が対立、男達だけでなく、女達も、喧嘩、大騒動。遊び心旺盛?、もの好きな南町奉行桑原肥前守樽紀は、双方の長屋の大家他、関係者を呼び出して・・・・、
「その方は亀吉だけでなく、千太郎のことも、もちろん忠吉のことも、まるで我が子のようにおもいやった。それは亀吉に深い愛情を注いできた、その方だからできたことなのだ。親というものは、上辺で綺麗事を言っても、とどのつまりは自分の子のことしか考えないものだ。だが、久蔵は違う。すべての子の父親だ。久蔵こそが本物の父親だ。わしはそう思う」、久蔵の目から涙が流れた。・・・・、鉄斎が呟く。「亀吉は、みんなの子だってことですな」、徳兵衛は苦笑いを浮かべながら、小さく頷いた。
(参照)→ PHP研究所(PHP文庫)「本所おけら長屋シリーズ」
次作「本所おけら長屋(十八)」も、すでに予約(リクエスト)済みだが、人気が高く、順番が回ってくるのはいつのことやら。またしばらくは、「本所おけら長屋シリーズ」とは、お別れになりそうだ。