通っている最寄りの図書館が、年1回の蔵書点検等で、1月下旬から2月中旬までの2週間、休館になっているため、あとしばらくは、返却も借受も出来ない。
そこで、なかなか処分出来ずに、書棚にホコリを被って収まっている本で、その内読もうと思っていながら、なかなか手が伸びなかった本を、
「いつ読むの?、今でしょ!」・・、とばかり、引っ張り出した。
かなり前にも、一度読んだ記憶が有るが、ほとんど内容を覚えていない、柴田錬三郎著、「忍者からす」(集英社文庫)。初めて読むようなもので、改めて、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにする。
本書には、南北朝時代、熊野灘の太地の湊で、謎の渡来人、首比達と美女於兎との間に生まれた異形の子は、「鴉」と呼ばれ、やがて、全国3万6000の熊野神社末社を諜報網とする忍者組織「神鴉党」の初代頭領となり、代々、その血を絶やさず、時代の表に出ない陰の存在として活躍するという、作者の奇想天外な発想で描かれた伝奇時代小説、短編9作品が収録されている。
各編とも、荒唐無稽な筋書きでは有るが、歴史上の人物とどこか整合性があるような仕掛けが為されていて、単なる作者の空想とも思えなくなってしまうところに、この小説の面白さがあるようだ。
「忍者からす」
忍者「鴉」のなりたちから物語がはじまっている。
信州高島城の諏訪頼茂の娘雅姫は、父の敵である武田家山本勘助の申し入れに応じ、武田晴信の側室になるが、「熊野誓紙」を受ける。「熊野誓紙」は、熊野権現の忍者「神鴉」によって、正確に実行され、諏訪家の血を引いた勝頼が武田家の世嗣となっていくという筋立てになっている。
「一休禅師」
熊野「神鴉党」の18才の娘が、父親の命で後小松帝と結ばれて子供が出来るが、娘は、父親に背き、子供を忍者とはせず、安国寺に預ける。子供は、菊麻呂と名付けられ、後の一休禅師になるという筋書き。
「山中鹿之介」
三代目「鴉」の四代目「鴉」への遺言は,「滅び行く者に栄光を与えよ」。「熊野誓紙」により、導かれていく 山中鹿之介幸盛の生涯を描いている。尼子家再興を願う鹿之助、織田信長の号令で、羽柴秀吉総大将の中国征伐に加わるが、もはや「神鴉」の加護は無い。
「塚原卜伝」
常陸国塚原土佐守新左衛門安幹の「熊野誓紙」により鹿島神社卜部覚賢のもとに現れたのは、熊野の「女鴉」。忍者「鴉」の武技には、イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、トの7伝が有り、ト伝を会得した小次郎朝孝、塚原卜伝と称し、旅に出て修行を重ねるが、めぐり逢いたい人間は「女鴉」だった。老婆はつぶやいた。「見事な剣聖に成り終せたことよ」
「丸目蔵人」
織田信長に引見した剣聖上泉伊勢守信綱に供が二人いたが、その一人は、「熊野誓紙」により生まれた海賊の子と名乗る丸目蔵人だった。強いばかりが兵法者に非ず、対手をして太刀、槍を引かせることこそ真の兵法者」
「由井正雪」
忍者「鴉」によって救出された、石田三成の娘、木実と、熊野「神鴉党」の若い忍者の間に生まれた子、富士太郎が、やがて、母親木実の遺言状を懐にして、徳川家を転覆しようとする由井正雪になっていくという筋書き。なんとなく、納得してしまう筋書きである。
「幡随院長兵衛」
死んだはずの幡随院長兵衛が遠島、三宅島の断崖ぶちで、流人達を前に自慢話を語るという物語。長兵衛は、自らを豊臣秀頼の忘れ形見であり、熊野灘太地の湊の首比達の館で育ち、熊野「鴉」屋敷で修行、江戸にやってきて、旗本奴等をやっつける町人の味方、町奴として活躍したと豪語する。死んではおらず、些細な罪で捕えられ、島流しになったのだと語る、奇想天外な発想の物語。
「蜀山人」
前代未聞の賄賂政治が行われていた田沼意次の時代、「自来也」なる怪盗が江戸の町に出没、庶民には施し、大店の金庫からは絶妙に金銭を盗んだが、その正体は、蜀山人の号を持つ熊野「神鴉党」の一人の落とし種で、忍者「鴉」に仕込まれた大田直次郎だった。
「国定忠治」
国定忠治の参謀とも言われた日光の円蔵(本名=晃円坊、実は熊野神社の神鴉だったという)の子孫と名乗る山本円五郎が、作者柴田錬三郎を訪ねてきて、ござんす言葉で、国定忠治について語り始めるという、なんとも変わった筋書き。国定忠治、晃円坊の末路までが描かれている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます