図書館から借りていた 藤沢周平著 「逆軍の旗」(青樹社)を 読み終えた。本書には、表題の「逆軍の旗」の他、「上意改まる」「二人の失踪人」「幻にあらず」の、短編時代小説4篇が収録されている。「あとがき」で、著者は、「ありもしないことを書き綴っていると、たまに本当のことを書きたくなる。この本には、概ねそうした小説がおさめられている。しかし、本当にあったとことと言っても、こうした小説が歴史的事実を叙述しているわけではない。歴史的事実とされている材料を下敷きにした小説という意味である」と、記述している
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に 書き留め置くことにしている。
「逆軍の旗」
主な登場人物・明智光秀(惟任日向守)、明智秀満、吉蔵、紹巴(じょうは)、羽柴秀吉、織田信長、
誰でも知っている「本能寺の変」前後の、明智光秀の葛藤、決断、心情を描写した作品。本能寺の変や山崎の戦い自体の詳細な様子やその後の顛末については、描かれていない。細川藤孝、筒井順慶等の動向が思わしくなく、暗い気持ちを抱えたまま、山崎の戦いに向かうところで終わっている。
「俺一個は紛れもなく叛逆者だ。だが将も兵も、望んだのは叛逆ではなく天下だった」(中略)「樹の間から麓に敷いた陣が押したてている夥しい明智軍の旗幟が見えた。風がないため、旗幟はことごとくうなだれ、光秀の眼に葬列の旗でもあるかのように、異様に映った。」
「上意改まる」
主な登場人物・片岡杢助、片岡藤右衛門、片岡理兵衛(家老、藤右衛門の長兄)、小林多兵衛(藤右衛門の次兄)、北条六右衛門(大目付)、郷見(さとみ)(六右衛門の娘)、戸沢伝右衛門(家老)、戸沢市兵衛、戸沢能登守正誠、
戸沢藩(新庄藩)で対立する家老、片岡家と戸沢家。戸沢伝右衛門の陰謀に嵌った片岡家が、一族滅ぼされるという悲惨な内容。一方で、常日頃、片岡家とは反目しあい、犬猿の仲だった大目付北条六右衛門が、戸沢派閥内でありながら、戸沢家老の陰謀を阻止しようと動いたりし、片岡藤右衛門と密会を重ねていた、六右衛門の娘郷見(さとみ)は、藤右衛門を追って・・・、
「二人の失踪人」
主な登場人物・孫之丞、丑太、安五郎、村上源之進、庄助、孫之助、
南部藩雫石(現在の岩手県雫石)の静かな村で旅籠を営んでいた孫之丞が、仙台浪人を名乗る男に殺された。孫之丞の長男安五郎、次男丑太は共に、村から姿を消したが、見事、水戸藩那珂湊で親の仇、村上源之進を討ち果したという話だが、仇討ち後の水戸藩、南部藩の行政上の取り扱い法がかなりこと細かく描かれていて、興味深い。
「幻にあらず」
主な登場人物・上杉治憲(はるのり)(松太郎→直丸勝興→治憲、後の上杉鷹山)、上杉重定、竹俣美作当網(みまさかまさつな)、藁科松伯(わらしなしょうはく)、莅戸善政(のぞきよしまさ)、森平右衛門利真(としざね)、
江戸家老に就任した竹俣当綱、辣腕をふるい、森平右衛門粛清、領地返上寸前に追い詰めらた藩財政建て直しに明け暮れ、疲れ果て、奉行職から身を引こうとしている竹俣当綱に対し、
「幻ではないぞ、当網」、思わず治憲は、叱咤するように言った。藩立て直しに、ちらとでも疑問を持った自分を叱った声でもあった。藩主には身をひく場所はない。」
というくだりがある。有能、名君と知られた藩主上杉治憲、辣腕竹俣当綱にしても、なかなか解消することの出来なかった上杉家の窮乏ぶりが、描かれた作品で、以前読んだ「漆の実のみのる国」と重なってくる。
振り返り記事
藤沢周平著 「漆の実のみのる国」(上)(下)
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