図書館から借りていた、平岩弓枝著 「江戸の娘」(角川文庫)を読み終えた。
本書には、表題作「江戸の娘」の他、「狂歌師」、「絵島の恋」、「日野富子」、「鬼盗夜ばなし」、「出島阿蘭陀屋敷」、「奏者斬り」の、短編時代小説7篇が収録されている。
主に、歴史上実在した人物を題材にしながら、著者の大胆かつ闊達な空想力で膨らませて、短編ながら、面白く、感動的に描いている作品である。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。
「狂歌師」
▢主な登場人物
曙夢彦(あけぼのゆめひこ、直次郎、料亭江戸膳の次男坊)
楠木白根(くすのきしらね、小島源之助)、
朱楽管江(あけらかんこう、山崎郷助)
須原屋伊八(板元)、近江屋本十郎(板元)、
▢あらすじ等
江戸時代の有名な狂歌三大家、大田南畝(蜀山人)、朱楽管江、唐衣橘洲(かんごろもきっしゅう)をモデルにしながら、著者が、大胆、自由闊達に空想をめぐらし、アレンジした時代小説。
「狂歌」とは、江戸時代に流行った、五七五七七の短歌形式で風刺やユーモア的文芸。一躍人気のトップに躍り出た曙夢彦と、狂歌第一人者を自負する楠木白根の先輩、後輩、ライバル関係の話。
「絵島の恋」
▢主な登場人物
絵島(月光院に仕える大奥年寄)
月光院(お喜世、将軍家宣の側室、左京の方、将軍家継の生母)、
間部詮房(御側用人)、
天英院(煕子(ひろこ)、将軍家宣の正室)
交竹院(奥医師)
生島新五郎(歌舞伎役者)、
秋元但馬守(老中筆頭)
▢あらすじ等
有名な江戸中期に有った絵島生島事件を題材にしながら、著者の空想力で一風変わった味付けで、アレンジされた時代小説。
史実として伝えられている話では、大奥年寄の絵島が、前将軍の墓参りに出かけ、その際に当時人気者だった役者、生島新五郎の歌舞伎を観に行って、そのあとに絵島は宴会に出て、江戸城の門限に間に合わなくて、これが大奥の風紀の乱れと評判になり、1000人以上の関係者が処罰されたとされているが、本篇では、大奥に出入り出来る男、御側用人間部詮房と、月光院にスポットが当てられている。
「日野富子」
▢主な登場人物
日野富子(前内大臣日野家の姫、足利義政の正室)
日野勝光(日野富子の兄)、
足利義政(室町幕府八大将軍)、
足利義尚(義政と富子の子)、義視、義植(よしたね)
お今(義政の愛妾、今参りの局)、義尚、義視、義植(よしたね)
重子(足利義政の生母、日野富子の祖叔母)
細川勝元(管領)、山名宗全、
▢あらすじ等
数多の作家によっても描かれている、室町時代、八代将軍足利義政の正室となり、応仁の乱の元凶等とイメージされている日野富子を題材にした作品である。兄の日野勝光、夫である足利義政、愛人の細川勝元、子の足利義尚、次々と政略に利用され、裏切られ、魔性の女と化し、巨万の富を抱えながら、ひっそりと、56歳でその生涯を閉じた富子。
もはや、魔性は彼女のどこにも残らなかった。
・・・で終わっている
「鬼盗夜はなし」
▢主な登場人物
茨木(いばらぎ)、
媼(おうな、茨木の母親)
渡辺源次綱(摂津守源頼光朝臣の四天王の一人)
軽部の遠助、
▢あらすじ等
これも、平安時代の有名な話で、京の都の一条橋で渡辺綱が鬼の腕を斬り、後日鬼が腕を取り返しに来るという話を題材にしながら、著者は、大胆な空想力で、鬼とされた茨木とその母親の物語とし、軽部の遠助の登場で、読者には、ミステリー性を残している。
裸になった遠助の右腕は、肩の所からすっぽりと切り落とされて無かった。風も、月も、もう秋である。
・・・・で終わっている。
「出島阿蘭陀屋敷」
▢主な登場人物
きぬえ(長崎丸山の遊女)、おふじ(遣り手)
ヤン・キュルシュウス、
アキレス・ハンフウキ
貞吉(出島通詞)
▢あらすじ等
長崎丸山の遊女きぬえは、出島の阿蘭陀屋敷の阿蘭陀人ヤン・キュルシュウスを相手にしていた。ある時、ヤンから、その使用人で、体臭の強い黒人のアキレス・ハンフウキに三味線を教えてやってくれと頼まれるのだったが・・・・。アキレスが、出島を脱走?、きぬえは?
アキレスときぬえは、海原の中の一つの点であった。
・・・・で終わっている。
「奏者斬り」
▢主な登場人物
松平出羽守治郷(はるさと、雲州松江藩十八万石七代藩主、不昧公(ふまいこう))
お静(治郷の側室)
本多権八(松江藩藩士)、朝日丹波(松江藩老臣)、
石倉半之丞(松江藩藩士)、雪路(半之丞の妹)
村井六斎(茶道教授、石料理屋「ほととぎす」の主、水野六左衛門)
▢あらすじ等
雲州松江藩藩主松平出羽守治郷は、藩士達には、実戦的な武芸の鍛錬を課し、自らは茶道等にも通じ、風流大名でもあり、号を「不昧(ふまい)」と称し、「不昧公(ふまいこう)」とも呼ばれていた。他藩から比べ、藩政は隆盛し、藩内は平和だったが、あるとき、松江に村井六斎なる浪人が流れ着き、茶道を教え、懐石料理屋を開き、藩士石倉半之丞の妹雪路と懇ろになった。藩主治郷は、慈悲、情を掛け、村井六斎を、城内で行った月見の宴の出張調理をさせたのだったが、その直後、六斎は出奔。何故だ?。六斎の正体は?。
翌年、参勤交代で江戸に出府した松江藩藩主一行に、待ち構えるように、老中から呼び出しが・・・。
その意味は・・、
一藩の浮沈に関わる「申し開き」の役割を願い出たのは、石倉半之丞。
「天晴れ、武士の鏡」、数日後、不昧公は、乾坤二巻」の空間に、「是を以て、『奏者斬り』の一手と名付く」と朱筆で書き加えた。
「江戸の娘」(表題作)
▢主な登場人物
お鶴(料亭「鶴伊勢屋」の娘)、
高橋章二郎(旗本の次男坊)
平治郎(料亭「鶴伊勢屋」の主)、孝太郎(平治郎の長男、お鶴の兄)
おはる(平治郎の姉、お鶴の伯母)、
ひな鶴(花魁)、
▢あらすじ等
主人公のお鶴は、普段は、恥ずかしがり屋で控え目な娘だが、いざことが起きるとおきゃんで気が強くなる娘。時は幕末、恋に落ちたお鶴と章次郎が、時代の波に飲み込まれ、やがて明治を迎えるという筋書きの作品。
すでに、数年掛かって読み終えている「御宿かわせみ」シリーズの原点とも言える作品とされている。さしづめ、章二郎が、与力の次男坊神林東吾に、お鶴が、同心の娘るいに、繋がっているのだろうか。