ホーソーンがかかわった過去の事件
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テムズ川沿いの高級住宅地リヴァービュー・クロースで、
金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された。
昔の英国の村を思わせる敷地で住人たちが穏やかに暮らす
――この理想的な環境を乱す新参者の被害者に、
住人全員が我慢を重ねてきていた。
誰もが動機を持っているといえる難事件を前にして、
警察は探偵ホーソーンを招聘するが……。
あらゆる期待を超えつづける〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊!
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アンソニー・ホロヴィッツの〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ最新刊!
著者の本は心地よくポンポンと続きが出ますね。
もうすっかりおなじみのホーソーンとホロヴィッツのコンビです。
もと刑事のホーソーンが警察の捜査協力という形で、事件解決に乗り出しますが、
著者と同名のアンソニー・ホロヴィッツがその助手役となり捜査に同行。
そしてその記録を小説として発表するのです。
ホロヴィッツは、こういう場合の探偵役と助手役は
気心の知れたコンビであるべきと思うのですが、
いまだにホーソーンはよそよそしく、親しく自分のことを語ろうとしない。
それでついイラついてしまうホロヴィッツですが、
それでもこれまでのシリーズ4作の中で、
徐々にホーソーンの人となりが解き明かされては来ています。
さて、本作。
これまでは事件と同時進行で物語が語られてきたのですが、
本作はホーソーンの過去の事件。
ホロヴィッツは当時の資料やらメモをどっさり渡されただけで、
結局犯人は誰だったのか教えてもらえないまま、原稿を書き始めます。
そして、その当時(すでにホーソーンは警察を辞めていた)、
ホーソーンがダドリーという男とコンビを組んでいたと知って、
ホロヴィッツはショックを受けます。
そんな話は今まで聞いたこともないし、
ホーソーンみたいな男とコンビを組めるのは自分くらいしかいない・・・
という思いがあったのでしょうね。
ともあれ、その過去の事件というのは、
テムズ川沿いの高級住宅地リヴァービュー・クロースで、
金融業界のやり手がクロスボウの矢を喉に突き立てられて殺された、というもの。
容疑者は同じ敷地に住む住人たち。
彼らにはそれぞれ殺人の動機がある・・・。
ということで、ここのパーツはこのシリーズ初の三人称形式。
これまではすべてホロヴィッツ自身が語り手でしたが、
この過去の事件では、ホロヴィッツは現場に立ち会ってはいないわけで、
そういうことになります。
そして、現在進行中の出来事、
ホロヴィッツが資料をもらって原稿を書き始め、
真相を語ろうとしないホーソーンにイラつく・・・というようなパーツは、
いつものホロヴィッツ視点の一人称となって、
交互に本作の内容が語られて行きます。
終盤、煮詰まったホロヴィッツが現在のリヴァービュー・クロースを訪れるというシーンがあって、
そこで初めて彼は、当時のそこに住んでいた人々の生活を身近なものとして感じるのですが、
それは読み手の私も同様。
なんだかとても感慨深いシーンでした。
思いがけない結末もまた、ナイスです。
「死はすぐそばに」アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 創元推理文庫
満足度★★★★★