湯の町の人情はやはり温か
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山と海に囲まれた餅湯町。
餅湯温泉を抱え、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。
高校生の怜は、今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていた。
淡々と過ぎていく日常の中で迫る進路の選択。
母親が二人いるという家庭の中で、将来を見詰める怜は果たして……。
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山と海に囲まれた温泉町、餅湯町を舞台とした青春ストーリーです。
主人公は高校生、怜。
温泉街の土産物店を営む母と共に暮らし、
脳みそが筋肉かと思えるようなおバカな友人らと仲良くしているごく平凡な男子・・・。
かと思いつつ読んでいくと、なんと彼には母親が2人いるという。
毎月決まった一週間だけ、彼はもうひとりの母親(?)のもとへ行って、
そこを我が家として過ごすというのが、彼の幼い頃からの日常。
そのことは周囲の皆が知っているのだけれど、
それがどういう意味なのかは、当の本人は何も知らない・・・。
幼い頃からあまりに当然のこととして続けられてきたので、
今さら聞くことができないのです。
そんなある日、怜は、彼を訪ねて来たらしきある男性と出会う。
一目見て怜はわかってしまった。
自分とあまりにもよく似ているコイツは自分の父親だ、と。
決してドロドロした愛憎劇ではありません。
この温泉街の人々、怜の友人たち。
彼らは、言うべきことは言うけれど、言わなくてもいいことは言わない。
2人のお母さんのサバサバした思い。
友人たちのそっと見守り、支えようとする心意気。
何もかもステキです。
平行して語られるのが、この街の博物館にある土器の盗難騒ぎのこと。
レプリカか、偽装か?
紙一重のモノを作成してしまう器用な友人の心境も又面白い。
とても楽しんで読めました。
「エレジーは流れない」三浦しをん 双葉文庫
満足度★★★★☆