強い閉塞感の中で、生きてゆく「侍」のむなしさ

* * * * * * * *
「たそがれ清兵衛」に引き続く山田洋次監督、藤沢周平原作の時代劇です。
そのため、雰囲気は「たそがれ清兵衛」によく似ています。
東北の小藩に仕える下級武士の片桐(永瀬正敏)。
彼は家の奉公人きえ(松たか子)に密かに好意を抱いていたのですが、身分違い。
そもそもそれが恋というものだとも気づいていない。
やがてきえは商家に嫁いでゆくのですが、
そこの姑にこきつかわれ、病で立ち上がることも出来ないほどに衰弱してしまう。
それを聞きつけた片桐はその足で商家へ乗り込み、強引にきえを連れ帰ってくる。

・・・と、このあたりのほのかな男女の心のお話は、
実はサイドストーリーで、本筋はこちら。
片桐と同じ剣の門下に狭間弥市郎というのがいまして、
この男が藩の江戸屋敷で謀反を起こす。
密かに郷里へ護送され獄中にあった彼は、
巧みにも脱走し、農家に人質をたてて立てこもる。
狭間もなかなかの剣の遣い手であるため、
彼を倒せる男として、片桐に声がかかったのです。
片桐はこの封建社会にあって、もがき続けていました。
彼の父は藩のために切腹に追いやられ、
そのため彼の家は減俸となり生活は楽ではない。
強い身分制度のためにきえとの結婚はのぞめない。
そのうえかつての朋友を殺せと迫られる。
すべてにおいて「自分」の考えなど入り込む余地がない。
そこで生き続けることの意味は・・・?
強い閉塞感の中で、生きてゆく「侍」のむなしさ、
このテーマは「たそがれ清兵衛」や最近の「必死剣鳥刺し」にも通じています。
さあ、片桐は狭間との戦いで、秘伝の「隠し剣鬼の爪」の技を使うのでしょうか?
いえ、その技は別の意外なところで使うことになるのですが・・・・・。

全編を通じて、やわらかな庄内弁。
これが何とも耳に心地よいですね。
藩のお侍たちの会話が何とも長閑でユーモラス。
江戸から来たお役人が、彼らに西洋式の武器の扱いや、
軍隊としての訓練をするシーンがよかった。
彼の使うエゲレス語はまるでちんぷんかんぷん。
いつもすり足で移動する彼らは、手足を大きく振って走ることが出来ない。
何で一斉に右向いたり左向いたりしなきゃならないんだ、といい出す始末。
これだから田舎侍は・・・、とお役人はぼやく。
なんだかんだ言っても、基本的には長く続いた天下太平の世の中。
平和ボケは仕方ないではありませんか。
しかしそこここに、行き詰まった幕藩体制の様子が見え隠れします。
結局片桐にそれでも生き続ける意欲を繋いだのは、きえの存在なんですね。
希望の見えるラストはうれしい。
2004年/日本/131分
監督・脚本:山田洋次
原作:藤沢周平
出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、緒形拳

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「たそがれ清兵衛」に引き続く山田洋次監督、藤沢周平原作の時代劇です。
そのため、雰囲気は「たそがれ清兵衛」によく似ています。
東北の小藩に仕える下級武士の片桐(永瀬正敏)。
彼は家の奉公人きえ(松たか子)に密かに好意を抱いていたのですが、身分違い。
そもそもそれが恋というものだとも気づいていない。
やがてきえは商家に嫁いでゆくのですが、
そこの姑にこきつかわれ、病で立ち上がることも出来ないほどに衰弱してしまう。
それを聞きつけた片桐はその足で商家へ乗り込み、強引にきえを連れ帰ってくる。

・・・と、このあたりのほのかな男女の心のお話は、
実はサイドストーリーで、本筋はこちら。
片桐と同じ剣の門下に狭間弥市郎というのがいまして、
この男が藩の江戸屋敷で謀反を起こす。
密かに郷里へ護送され獄中にあった彼は、
巧みにも脱走し、農家に人質をたてて立てこもる。
狭間もなかなかの剣の遣い手であるため、
彼を倒せる男として、片桐に声がかかったのです。
片桐はこの封建社会にあって、もがき続けていました。
彼の父は藩のために切腹に追いやられ、
そのため彼の家は減俸となり生活は楽ではない。
強い身分制度のためにきえとの結婚はのぞめない。
そのうえかつての朋友を殺せと迫られる。
すべてにおいて「自分」の考えなど入り込む余地がない。
そこで生き続けることの意味は・・・?
強い閉塞感の中で、生きてゆく「侍」のむなしさ、
このテーマは「たそがれ清兵衛」や最近の「必死剣鳥刺し」にも通じています。
さあ、片桐は狭間との戦いで、秘伝の「隠し剣鬼の爪」の技を使うのでしょうか?
いえ、その技は別の意外なところで使うことになるのですが・・・・・。

全編を通じて、やわらかな庄内弁。
これが何とも耳に心地よいですね。
藩のお侍たちの会話が何とも長閑でユーモラス。
江戸から来たお役人が、彼らに西洋式の武器の扱いや、
軍隊としての訓練をするシーンがよかった。
彼の使うエゲレス語はまるでちんぷんかんぷん。
いつもすり足で移動する彼らは、手足を大きく振って走ることが出来ない。
何で一斉に右向いたり左向いたりしなきゃならないんだ、といい出す始末。
これだから田舎侍は・・・、とお役人はぼやく。
なんだかんだ言っても、基本的には長く続いた天下太平の世の中。
平和ボケは仕方ないではありませんか。
しかしそこここに、行き詰まった幕藩体制の様子が見え隠れします。
結局片桐にそれでも生き続ける意欲を繋いだのは、きえの存在なんですね。
希望の見えるラストはうれしい。
![]() | 隠し剣 鬼の爪 通常版 [DVD] |
山田洋次,藤沢周平,迫本淳一,朝間義隆 | |
松竹 |
2004年/日本/131分
監督・脚本:山田洋次
原作:藤沢周平
出演:永瀬正敏、松たか子、吉岡秀隆、小澤征悦、緒形拳