映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

杉原千畝

2015年12月16日 | 映画(さ行)
ただの善意の人でなく



* * * * * * * * * *

ナチスに迫害されたユダヤ人難民にビザを発給し、救いの手を差し伸べ、
日本の「シンドラー」とも呼ばれた外交官、杉原千畝(ちうね)の物語です。


私、かなり以前にTVドラマでこの方の話を見たのを覚えていまして、
その時の杉原千畝役は反町隆史さんでした。
でも本作を見て、やはり唐沢寿明さんのほうがピッタリ!と思いました。



杉原千畝氏は外交官と言っても単なるお役人でなく
インテリジェンス・オフィサーという役割で、
つまり諜報活動も行っていたということなんですね。
先のテレビドラマにはそういうことは触れられていなかったと思うのですが、
世界各国、特にソ連の動向に目を光らせ、
日本本国に伝えることを役割としていたわけです。
重要なところは暗号を使ったりもしていました。
なかなか、スリリングでもあります。



さて、1939年、杉原千畝(唐沢寿明)は妻(小雪)と子供たちを伴い、
リトアニア日本領事館に赴任します。
そんな時、ナチスの迫害を逃れ、ポーランドからユダヤ人難民がなだれ込んでくるのです。
彼らを救いたいという思いは誰にもありながら、どうすることもできない。
そんな時にまず、オランダ大使館が南米のオランダ領の土地への入国を彼らに許可します。
しかし、どうやってそこまで行くのか。
ナチスドイツの支配下にあるところは通ることができません。
しかしその時点ではソ連を通過することはできる。
その先は・・・?
日本を通過できればよいのです。
だから、通過のためのビザで良いのでなんとか発給してもらいたい、と
領事館の前にユダヤ難民が押しかけてきたのです。



杉原は、その旨を本国に連絡しますが許可が降りません。
しかし、ついに杉原は独断でビザを発行することを決意。
というのも、もうまもなくこのリトアニアもナチスの支配下に置かれることがわかっていて
一刻の猶予もならなかったのです。
一旦決意してからは、自らのクビをかけてビザを出しまくること約2000通。
ビザと言っても、たった一枚の紙切れ。
このたった一枚の紙切れで人の命が救えるのなら・・・
という杉原の思いの結果です。
そしてまた、杉原のその思いを汲みとって、
後押しをする人々も現れるのが、なんとも心地よいです。



私、濱田岳さんのところで泣けてしまいました。
いやー、おとぼけの役が多いですが、やっぱり名優だったんですね!!
それにしても、このような判断を杉原個人にさせてしまった日本政府。
またせっかくの杉原の情報も無視して太平洋戦争になだれ込んだ日本政府。
なんとも情けないですね・・・。
こんな時代の日本人にこんな方がいた、ということのほうが奇跡に思えます。
単に善意の人でなく、はっきりとした自分の意志のあるリベラルな人物、
杉原千畝氏の姿がくっきりと浮かび上がった、素敵な作品でした。



「杉原千畝」
2015年/日本/139分
監督:チェリン・グラック
出演:唐沢寿明、小雪、小日向文世、塚本高史、濱田岳、ボリス・シッツ
歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆