映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「天国でまた会おう 上・下」 ピエール・ルメートル

2015年12月24日 | 本(その他)
馬の首奇譚

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
平岡 敦
早川書房


天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
平岡 敦
早川書房


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1918年11月、休戦が近いと噂される西部戦線。
上官プラデルの悪事に気づいたアルベールは、戦場に生き埋めにされてしまう!
そのとき彼を助けに現われたのは、年下の青年エドゥアールだった。
しかし、アルベールを救った代償はあまりに大きかった。
何もかも失った若者たちを戦後のパリで待つものとは―?
『その女アレックス』の著者が書き上げた、サスペンスあふれる傑作長篇。
フランス最高の文学賞ゴンクール賞受賞。
(上)

第一次世界大戦直後のパリでのしあがる実業家プラデルは、
戦没者追悼墓地の建設で儲けをたくわえていく。
一方、アルベールは生活のため身を粉にして働いていた。
そんな彼にエドゥアールが提案したのは、ある途方もない詐欺の計画だった。
国をゆるがす前代未聞のたくらみは、はたしてどこにたどりつくのか?
日本のミステリ・ランキング一位を独占した人気作家が放つ、
スリルと興奮に満ちた群像劇。
一気読み必至の話題作。
(下)


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単行本と文庫本が同時発売という、ピエール・ルメートルの新作。
ちょっと待って、文庫の上下を買ったら単行本より高かったりして、と一瞬思ったのですが、
安心してください(?)、
上下を買ってもまだ単行本よりはずっとお安いです。
私は、新刊の単行本を買うのは年に何冊かだけなのですが、
図書館に新刊をおかないようにするなどという話もでているようで、
全く腹が立ちますね!!。
どこまで庶民をいじめれば気が済むんだ!!


あわわ、全く話がずれてしまいました。
というわけで、庶民の味方の早川書房さんの英断に拍手しつつ・・・、
さて、本作。
気持ちとしてはヴェルーベン警部のその後を読みたいところですが、
本作は全く別のストーリーです。
ミステリと言うよりはサスペンス・・・、
いえ、むしろ「奇譚」という言葉がぴったりかも。


舞台は1900年代初頭、第一次世界大戦時。
アルベールというやや気弱でき真面目な一兵士の青年が、
プラデルという上官の悪事に気づいてしまったために、
戦場で生き埋めにされかけます。
彼を救い出したのは年下の青年エドゥアール。
が、しかしその直後、厳しい運命がエドゥアールを襲う。
なんと彼は砲弾を受けて、顔に穴が開きながらも生きながらえるという運命を背負ってしまった。
その後まもなく戦争は集結するのですが、彼らの苦しみはここからが始まり。
アルベールは自分の命を救ってくれたエドゥアールの頼みを聞き入れ、
死んだ兵士とエドゥアールの身分証を入れ替えてしまいます。
世間的にはエドゥアールは戦死したことになってしまった。
本当は非常に裕福な家の一人息子にも関わらず、
貧しいアルベールの家に世話になり、モルヒネにひたる毎日。
一方、彼らにこんな運命をもたらした元凶のプラデルは、
戦争での功績を認められ実業家として、戦没者追悼墓地の建設で設けていく。
なんと欲にかられた彼の結婚相手は、名家であるエドゥアールの生家の姉。
・・・おお、いよいよ、話が因縁めいてきました。
そんな時、すっかり生きる意欲をなくしていたエドゥアールが、あることを思いつきます。
それは国家をも巻き込む途方も無い詐欺行為なのですが・・・。


どこまでも真面目で気弱なアルベールにとっては、全く気の毒な出来事ばかり。
エドゥアールに振り回され、本当にどうなってしまうのかとヤキモキしてしまいますが、大丈夫。
ちゃんと納得の行く結末が用意されています。
そして振り返ってみれば、これはアルベールとエドゥアールの物語ではなくて、
エドゥアールとその父親の物語であった、と言っていいと思います。
ずっと互いに反目しあうだけで、理解しあうことができなかった2人が、最期の一瞬に・・・。
この劇的な一瞬が描きたくて書いたストーリーだったのでしょう。
まさしく、これそ「物語」。

確かに、気の毒な青年アルベールがどうなってしまうのか、
それが気になって気になって・・・
まさしく一気読みでした。

「天国でまた会おう 上・下」ピエール・ルメートル ハヤカワミステリ文庫
満足度★★★★★