映画と本の『たんぽぽ館』

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「あい 永遠に在り」髙田郁

2019年07月28日 | 本(その他)

夫を支え抜く妻

あい―永遠に在り (時代小説文庫)
高田 郁
角川春樹事務所

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上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。
十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。
男の名は、関寛斎。
苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。
しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。
あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。
やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。
幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、
愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。

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北海道にもゆかりのある方の話ということで手に取りました。
実のところ、私はこれまで知らなかたのですが、医師・関寛斎。
上総の貧しい農村の生まれ。
実在の人物で、司馬遼太郎氏などによるこの方の物語もあるのですが、
本作はその妻、あいの視点で描かれています。


あいもまた同郷の貧しい農村の生まれ。
寛斎とは幼なじみということになりますが、
当時のことですから実際に話しをしたこともほとんどなく、
しかし双方年ごろになるとトントンと話は進み結婚。


さて、それにしてもこの関寛斎。
かなりといいますか「超」高潔。
立身出世など目もくれず、貧しい人から治療費は取らないなど、
あくまでも患者のための医師であろうとする。
あいはひたすらそんな夫を敬い、付き従います。
今からするとちょっと歯がゆいくらいですけれど・・・。


艱難辛苦を経ながらも、寛斎は徳島の地で
地元の人々に敬われ比較的豊かで落ち着いた生活を得ます。
しかし、そろそろ引退かという70歳を超えてから、北海道開拓を決意。
しかも行き先は道東、陸別。
陸別といえば北海道でも最も寒いと言われる場所。
ひゃー、よせばいいのに・・・と、つくづく私は思ってしまいます。
しかし、あいは夫の決意を尊重し、むしろ喜び勇んで同行。
でも、実際には陸別の方の準備が整わず、
あいは札幌の滞在地にてその一生を閉じます。
陸別の地を夫とともに開墾することを夢見ながら。
でも、私は陸別まで行かなかったことがむしろ幸いに思えてしまう。
実際、その後寛斎は息子らと共に開拓に励みますが、その労苦たるや・・・。
本編はその具体的なところまでは触れていませんけれど。


あいは生涯十人以上の子を生み、その半数近くを子供の頃か、
あるいは若くして亡くしてしまいます。
出産と育児の繰り返し、夫に従いながら・・・まさに、妻の鏡。
けれど精一杯生きたという満足感に包まれて彼女は旅立ったのでしょうね。
今はこういう生き方に価値を重くは置かなくなってしまっているけれど、
多くの女たちがこうして生きてきたことも事実。
彼女たちが今のフェミニズムをどう見るのか、知りたい気もします。

「あい 永遠に在り」髙田郁 時代小説文庫
満足度★★★★☆