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「電球交換士の憂鬱」 吉田篤弘

2017年01月18日 | 本(その他)
亡びゆくものへの愛

電球交換士の憂鬱 (文芸書)
吉田 篤弘
徳間書店


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世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。
こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。
人々の未来を明るく灯すはずなのに、
なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。
謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。


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電球交換士。
本作中の主人公、十文字の自称する肩書です。
切れた電球をひたすら交換するのが仕事。
まあ通常切れた電球くらいは自分で交換するわけですが、
でも高所にあったり、どこかの施設で多量な交換が必要なこともありましょう。
特別ないわけでもない仕事だなあ・・・と私などは思いました。
しかしこの十文字が交換する電球には実は秘密がありまして、
「カンザキ」というメーカーの、今は出回っていない往年の名作ランプを使っているのです。
その光は、見る人が見ればわかる、なんとも言えない落ち着きを感じさせる光。
この仕事には一応満足ししている十文字なのですが、
何故か身の回りで怒る面倒事・・・。
度々陥る憂鬱・・・。


吉田篤弘さん独特の、
どこかノスタルジーに彩られた世界観とユーモアを堪能しました。
本作のテーマは、言ってみれば
亡び行くもの、消え行くものへの愛、でしょうか。
まずは「電球」ですよね。
今はすっかりLEDに入れ替わりつつあります。
本作中では他に、銭湯、活版印刷、古い町名、デパート屋上の遊園地、
極めつけは、確かな固有名詞はでてこないけれども、
どこかの都市の古いタワーと、豪華にそびえる新しいタワー。
人は便利さと新しさを求め、知らず知らずのうちに古いものが消え去っていく。
だけれども、そんなに慌てて新しいものに変えなくてもいいんじゃないかな。
昔からのものの良さもあるのじゃないかな。
そんなふうにチョッピリ立ち止まってみたくなる物語です。


「電球交換士の憂鬱」吉田篤弘 徳間書店
満足度★★★★★

図書館蔵書にて


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