記憶喪失の青年の帰るところは
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舞鶴の海辺の町で発見された、記憶喪失の青年。
名前も、出身地も何もかも思い出せない彼の身元を辿る手がかりは、
唯一持っていた一本の「扇」だった……。
そして舞台は京都市内へうつり、謎の青年の周囲で不可解な密室殺人が発生する。
事件とともに忽然と姿を消した彼に疑念が向けられるが……。
動機も犯行方法も不明の難事件
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有栖川有栖さんのおなじみ、火村英生&有栖川有栖のシリーズ最新刊にして、
「ロシア紅茶の謎」から始まる国名シリーズ30年目の作品。
私、有栖川有栖さんについては、デビュー作からしっかりと読み続けているので、
なんにしても感慨深いのであります・・・。
その実、内容はあまり覚えていないのですが・・・。
本作は、国名シリーズでも使っていなかった「日本」を用いた記念的作品。
しかもこの「日本扇の謎」という題名は、エラリー・クイーンの幻の著作名。
実際、エラリー・クイーンにはこのような題名の著作はないそうなのですが・・・。
それで、本作の冒頭は、作家・有栖が編集者に依頼されて
「扇」を用いたミステリを書くことになった・・・というところから始まります。
しかしなかなか構想がまとまらず苦戦しているところへ、
火村から誘いがあって、とある屋敷の殺人事件の調査に同行することに。
奇しくもその実際の事件の中に、「扇」が登場するという仕組みです。
なかなか凝っています。
そしてまた、ここに登場するのが、記憶喪失の青年。
彼は自分の名前も出身地も何も覚えていなかったのですが、
持っていた扇が手がかりになり、実家が判明します。
記憶をなくしたまま、その実家に帰った青年。
ところが、青年の居室で不可解な密室殺人事件が起こります。
青年はそれと同時に姿をくらませてしまう。
となれば、青年が犯人なのか?それとも・・・。
なんというか最後まで読んでその青年の運命を思うとき、
切なくてしんみりしてしまいます。
作中、実際には彼は行方不明のままで
直接的に姿を現すところは冒頭付近しかありません。
後は登場人物から見た青年のことが語られるのみ。
それでも、なんだか私たちは彼に感情移入して、好きになってしまうようです。
だからこそ、なんとも悲しい幕切れ。
いつになく感情を揺さぶられたストーリーでした。
「日本扇の謎」有栖川有栖 講談社ノベルス
満足度★★★★☆
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