映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ほかげ

2024年10月18日 | 映画(は行)

戦後の生活もまた苦渋

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戦後間もない頃。

焼け残った小さな居酒屋に1人住む女(趣里)。
売春を斡旋する男に言われるまま、体を売ってなんとか暮らしていましたが、
とにかく無気力で、男に逆らう気持ちもないようです。
そんな彼女のところへ、食べ物を盗みに来た少年と、
行き場のない復員兵が入り浸るようになり、居着いてしまいます。
やがて復員兵は去り、女は少年との交流を通して、
ほのかな光を見出すのですが・・・。

戦争は終わったものの、誰もがその大きな爪痕に押しつぶされそうになっているのです。
男は生きて帰っては来たものの、
家は焼けて跡形なく、両親もどうなったのかも分らない。
生きる希望も意欲もない。

少年は、つまりは戦災孤児なのでしょう。
生きるために、食べ物を盗んで入手するしかなかった。

そして女は、夫は戦地に行ったまま帰らない。
子どもは幼くして亡くなってしまった。
生きる気力をなくすのも当然ですね。

けれど、少年と暮らすうちに、生きる先に光を見出したように思うのですが・・・。
ままならない事情ができてしまいます。

そして本作にはもうひとり、重要人物がいまして、
これもとある復員兵(森山未來)。
彼は、少年が拾ったという拳銃が入り用で、
少年を連れ出し、ふたりでとある人物の元を訪れます。
彼の戦争体験は悲惨で、そのことをなにかで決着をつけない限り
この先生きていけないというくらいに思い詰めていたのです。

 

終戦間もなくは、平和のありがたみを感じるどころではなく、
多くの人は、亡くなった人、失った生活への思いに、
押しつぶされそうになっていたのかも知れません。
皆、その日食べるものを手に入れるだけで精一杯。

 

私たちはその後の高度成長で、その頃のことをすっかり忘れてしまったかのようです。

戦争で命を失った人を悲惨と思い、戦争はいけないと言うことは普通だけれど、
でも、戦争でもなんとか生き残った人たちも、
亡くなった人たちと変わらず苦しみを背負うようになる、
とも言えるかもしれません。

 

<WOWOW視聴にて>

「ほかげ」

2022年/日本/95分

監督・脚本:塚本晋也

出演:趣里、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛、森山未來

貧困度★★★★☆

悲惨度★★★★☆

満足度★★★☆☆



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