自分らしさを突き詰めて
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昭和の釧路に生まれた秀男は、色白小柄で人形のように愛らしく、
物心つく頃には姉の真似をして自分を「アチシ」と呼んだ。
厳格な父に殴られ、長兄には蔑まれ、周りの子どもに「女になりかけ」とからかわれても、
男らしくなどできず、心の支えは優しい母マツと姉の章子、
そして初恋相手の同級生男子・文次の存在だった。
男の体に違和感がある自分が、自分らしく生きるため、
そして「女の偽物」ではなくいっそ「この世にないもの」になるため、
秀男は高校を中退し家を飛び出していく。
札幌のゲイバーで出会った先輩マヤに教えを仰ぎ、東京、大阪、やがて芸能界へ。
舞台で美しくショーダンスをするのに邪魔な睾丸をとり、
さらには「フランスで陰茎をとる」とマスコミに表明し……。
逆境に負けず、前人未踏の道をいつだって前向きに突き進む秀男に心が奮い立つ、
波瀾万丈な人生エンターテインメント!
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本作の主人公・秀男はカルーセル麻紀さんをモデルとしています。
私は、カルーセル麻紀さんはほとんど名前を知るだけくらいで、
釧路出身というのも本作で始めって知ったくらいです。
今でこそLGBTの立場の方のことについては理解が広まってはいますが、
昭和期の釧路、女言葉を使う少年がど
れだけの非難の視線を浴びたかというのは想像に難くありません。
北海道で釧路とくれば、桜木紫乃さん。
なので、彼女がカルーセル麻紀さんに注目したのも当然ではあります。
それにしてもなんて劇的な人生。
もちろん小説なので、秀男=カルーセル麻紀ではないのでしょうけれど、
その人生遍歴はほとんどそのままを追っているようです。
作中最も強く感じるのは、秀男の「自分らしく」あろうとする思いの強さ。
男らしさとか女らしさとかとは関係ない。
あくまでも自分が一番自分らしく在ることができる自分になろうと思う。
美しい「ショー」のためには、ジャマなものなど取ってしまう。
こうした思い切りの良さ、思いを実現する力こそが、魅力となって光を放ちます。
本作の続編として「孤蝶の城」がすでに刊行されていて、
読みたいですが、多分しばらく先になりそう・・・。
「緋の河」桜木紫乃 新潮文庫
満足度★★★.5
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