カンボジアの今を知る
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平凡な顔、運動神経は鈍く、勉強も得意ではない――
何の取り柄もないことに強いコンプレックスを抱いて生きてきた八目晃は、
非正規雇用で給与も安く、ゲームしか夢中になれない無為な生活を送っていた。
唯一の誇りは、高校の同級生で、カリスマ性を持つ野々宮空知と、
美貌の姉妹と親しく付き合ったこと。
だがその空知が、カンボジアで消息を絶ったという。
空知の行方を追い、東南アジアの混沌の中に飛び込んだ晃。
そこで待っていたのは、美貌の三きょうだいの凄絶な過去だった……
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平凡でなんの取り柄もない八目晃。
彼の唯一の誇りは、高校の同級生、野々宮空知と親しく付き合っていたということ。
空知は、ルックスも抜群で優秀。
人を引きつけるカリスマ性があるのです。
なんで自分なんかと親しくしてもらえているのかも謎だと晃は思う。
しかし高校卒業後から次第に疎遠になり、音信も途絶えてしまう。
そんな晃の基に、空知の父が亡くなったとの知らせが入り、
葬儀に出向いてみれば、参列者もまばら。
空知も、美貌の姉と妹も姿が見えない。
そこで空知の母は晃に言います。
カンボジアへ行って消息を絶ったという空知の行方を探してくれないか、と。
ためらいつつも、ちょうどブラックな仕事に嫌気がさしていた所でもあり、
依頼を引き受けて、晃はカンボジアへ旅立つ・・・。
さて、この八目晃くん。
平凡で取り柄がないとは書きましたが、実のところ平凡以下。
怠惰でやる気のないくず男。
捜索のための前金をもらいながら、いつまでも自宅でゲーム三昧。
暴力で脅されてようやく重い腰を上げます。
海外旅行をしたこともナシ。
ろくな下調べもしておらず、
到着していきなり怪しげな宿泊所に連れ込まれたりお金を取られたり。
こんな調子で、探す相手を見つけられるはずもない、
ホントにどうしようもないダメ男。
・・・と、かなりストレスをためつつ読み進んでいきます。
つまりこれは、このダメ男の成長物語なのだろうなあ・・・と思いつつ。
我慢、我慢。
実際にカンボジアは混沌とした地。
多くは貧しい暮らしながら、誰もがスマホを持っていたりする。
そして実際のカンボジアの「今」の様相が現れてきます。
カンボジアといえば思い出すのはあの悪名高いポル・ポト政権ですが、
その後ポル・ポト政権が倒れても決して平和になったわけではない。
権力者が入れ替わるだけで、それぞれの独裁性と弾圧は強く、
滅多なことは口にできないのは同じ。
庶民の生活は変わらず貧しい。
そんな中、晃に力を貸してくれるのは宿のおばあちゃんで、
彼女はポル・ポト政権のときに、かろうじて国を脱出することができて、
難民として受け入れられ日本でしばらく過ごしたことがあるのです。
そのような歴史を知りつつ、様々な困難をなんとかくぐり抜け、
はい、確かに彼は成長していきます。
また、美貌の野々宮空知とその姉妹の出自の秘密が最後には明かされるのですが、
これもドラマティック。
カンボジアの不安定な政治と無関係ではありません。
空知は、高校時代なんの悩みもない平々凡々の晃と共にいることに
安らぎを覚えていたのかも知れませんね・・・。
図書館蔵書にて
「インドラネット」桐野夏生 角川書店
満足度★★★.5
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