まさに昭和
* * * * * * * * * * * *
また引き続き、小津安二郎監督作品。
私が生まれる前後の作品が多くて、その時代背景の様々なものに郷愁を覚えたり、
そういえばそうだったと思ったり・・・。
ストーリーもさることながら、私にはいろいろなことに興味が感じられる作品群であります。
さて本作。
スミマセン、完璧、ネタバレになっていますのでご注意。
広島県尾道に暮す老夫婦、周吉(笠智衆)ととみ(東山千栄子)。
東京で暮す子どもたちを訪れるために久々に上京します。
長男・孝一(山村聡)は開業医。
長女・志げ(杉村春子)は美容院を営んでいます。
どちらも忙しくて、二人にかまってはいられない様子。
ただ、戦死した次男の妻・紀子(原節子)だけが、
わざわざ仕事を休んで、二人を東京見物に連れて行ってくれます。
孝一と志げは気が咎めてお金を出し合い、二人を熱海の温泉に行かせるのですが、
安旅館なもので、夜中まで若い人たちが麻雀やらどんちゃん騒ぎやらに興じており、
うるさくて眠れない・・・。
余計疲れてしまったけれど、まあ、みんなの元気な顔も見られたので良かった・・・
と老夫婦は思い、やがて尾道へ帰るのですが・・・。
田舎と都会、夫婦、親子、家族、そして死。
様々なテーマを含んだ良作です。
まずは、この老夫婦がいいですよねえ。
おっとり、ゆったり。
こんな風に丸く年をとれたらいいなあと思うのに、
私はちっともそういうふうになれていません。
都会に住む息子も娘も、忙しそうで、自分たちをたらい回し。
でも、怒りもせずに、迷惑はかけたくないと行って帰って行く。
ヤレヤレ・・・。
しかしそんな中で唯一、血のつながらない紀子だけが心からの真心を見せるのですね。
ここには嫁と姑のいざこざなどかけらもなく。
まあ、死者は平等に二人の心の中にいますからね。
実の親子だからこそ、あけすけな態度になり、
義理の間柄だからこそ心遣いがある、と、そうとも言えるのですが。
とみが泊まりに来て、紀子との会話シーンは双方温かく、
なんだか泣きそうでした。
そして二人が尾道に帰ってからの話が、意外と長いのです。
大きな事件が起こります。
私は「正しい死」を見たような気がしました。
自分が長く暮した家で、家族に囲まれて息を引き取る。
長患いはナシ。
今なら倒れた時点で病院に担ぎ込まれて、点滴やら酸素マスクやらをつけられて、
その後長~くベッドに貼り付けになって、生かされることになるでしょうね。
本作には、私の思う理想の「死」があったのでした。
本作中で、長女・志げが最もあけすけに物を言う人物です。
危篤の連絡を受けて、喪服を持って行こうと言ったり、
父さんが先に逝った方がよかったと言ってみたり。
どの着物を形見に欲しいとねだったり。
とにかく現実的でサバサバしている。
でもそれ、誰しもが心の中では思うこと。
裏表がなくて、私は好きです。
それにしても、当時の尾道~東京は、遠い、遠い・・・。
東京を列車で夜9時頃に発って、広島に着くのが翌日のお昼過ぎくらいでしたね。
これでは確かに、そう簡単には行き来できません。
いやそれを言ったら、私の高校の頃の修学旅行だって、
札幌から函館まで列車、青函連絡船に乗って、青森から寝台列車で上野まで、
そしてその先は新幹線で京都まで行ったのですよ。
遠いことでは全然負けてない!!
うんと若い人が本作を見て何を思うのか、興味があります。
<WOWOW視聴にて>
「東京物語」
1953年/日本/135分
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧、小津安二郎
出演:原節子、笠智衆、東山千栄子、山村聡、杉村春子、三宅邦子、香川京子
時代性★★★★★
満足度★★★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます