少女の過酷な旅が意味するもの
* * * * * * * * * *
敬愛する梨木香歩さんの代表作ですが、
なんと、未読であったことに今さら気づき、慌てて読みました。
なぜか読んだような気がしていたのですが、
似たような題名の別の本だったのかも知れません。
高い塀で囲まれた洋館の庭。
一人の少女、照美は、そのほとんど朽ちかけた洋館の秘密の「裏庭」へ入り込み、
不思議な冒険の旅をすることになります。
両親はレストランの仕事で忙しく、ほとんどかまってもらえない照美。
彼女には双子の弟がいたのですが、事故で亡くなってしまったのです。
それ以来、さらに娘に関心を払わなくなってしまった両親。
この世界で満たされない照美は、裏庭という異世界へ誘い込まれるように入って行き、
そこで、テルミィとなって旅をする。
ある大きな目的のために、いろいろな人と道連れになったり別れたり。
様々な困難が立ちふさがります。
・・・というわけで、初めのうちは単によくあるRPGに思えます。
今作が発表されたのが平成8年ということで、もうすっかりRPGもおなじみという時期です。
・・・ところが、読み進むうちに、
RPGと言うにはあまりにも過酷なテルミィの旅に、胸が苦しくなってきます。
著者は、現世の照美の生き辛さを単に環境のせいとはしない。
彼女自身の問題としているのです。
キーワードは、"鎧"と"傷"。
文中に、こんな会話があります。
「鎧をまとってまで、あなたが守ろうとしていたのはなにかしら。
傷つく前の、無垢のあなた?
でも、そうやって鎧にエネルギーをとられていたら、鎧の内側のあなたは永久に変わらないわ。
確かに、あなたの今までの生活や心持ちとは相容れない異質のものが、傷つけるのよね、あなたを。
でも、それは、その異質なものを取り入れてなお生きようとするときの、
あなた自身への準備ともいえるんじゃないかしら、『傷つき』って」
この言葉は、照美が言われたわけではないのですが、
まさに、照美自信の問題でもあるのです。
鎧というのは、梨木香歩さんを語るときに欠かせない、
"自己と他者の境界"の象徴でもあります。
余りにも確固とした境界からは何も生まれないということなのでしょう。
その境界のほころびが"傷"。
それは痛みを伴うものかも知れないけれど、異質なものをと入りれて更に生きると言うこと・・・。
テルミィの旅はこのようなことを体得していく旅なわけです。
この、あちら側の世界とこちらの現実とが全く別個ではなく、
呼応して成り立っているところが素晴らしい。
とは言え、一人の少女の人間としての成長に、かくも過酷な旅が必要とは・・・、
あまりにも厳しい。
だからこそ、今の世は私を含めて、大人になりきれていない人々であふれているのかしらん・・・?
「裏庭」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆
![]() | 裏庭 (新潮文庫) |
梨木 香歩 | |
新潮社 |
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敬愛する梨木香歩さんの代表作ですが、
なんと、未読であったことに今さら気づき、慌てて読みました。
なぜか読んだような気がしていたのですが、
似たような題名の別の本だったのかも知れません。
高い塀で囲まれた洋館の庭。
一人の少女、照美は、そのほとんど朽ちかけた洋館の秘密の「裏庭」へ入り込み、
不思議な冒険の旅をすることになります。
両親はレストランの仕事で忙しく、ほとんどかまってもらえない照美。
彼女には双子の弟がいたのですが、事故で亡くなってしまったのです。
それ以来、さらに娘に関心を払わなくなってしまった両親。
この世界で満たされない照美は、裏庭という異世界へ誘い込まれるように入って行き、
そこで、テルミィとなって旅をする。
ある大きな目的のために、いろいろな人と道連れになったり別れたり。
様々な困難が立ちふさがります。
・・・というわけで、初めのうちは単によくあるRPGに思えます。
今作が発表されたのが平成8年ということで、もうすっかりRPGもおなじみという時期です。
・・・ところが、読み進むうちに、
RPGと言うにはあまりにも過酷なテルミィの旅に、胸が苦しくなってきます。
著者は、現世の照美の生き辛さを単に環境のせいとはしない。
彼女自身の問題としているのです。
キーワードは、"鎧"と"傷"。
文中に、こんな会話があります。
「鎧をまとってまで、あなたが守ろうとしていたのはなにかしら。
傷つく前の、無垢のあなた?
でも、そうやって鎧にエネルギーをとられていたら、鎧の内側のあなたは永久に変わらないわ。
確かに、あなたの今までの生活や心持ちとは相容れない異質のものが、傷つけるのよね、あなたを。
でも、それは、その異質なものを取り入れてなお生きようとするときの、
あなた自身への準備ともいえるんじゃないかしら、『傷つき』って」
この言葉は、照美が言われたわけではないのですが、
まさに、照美自信の問題でもあるのです。
鎧というのは、梨木香歩さんを語るときに欠かせない、
"自己と他者の境界"の象徴でもあります。
余りにも確固とした境界からは何も生まれないということなのでしょう。
その境界のほころびが"傷"。
それは痛みを伴うものかも知れないけれど、異質なものをと入りれて更に生きると言うこと・・・。
テルミィの旅はこのようなことを体得していく旅なわけです。
この、あちら側の世界とこちらの現実とが全く別個ではなく、
呼応して成り立っているところが素晴らしい。
とは言え、一人の少女の人間としての成長に、かくも過酷な旅が必要とは・・・、
あまりにも厳しい。
だからこそ、今の世は私を含めて、大人になりきれていない人々であふれているのかしらん・・・?
「裏庭」梨木香歩 新潮文庫
満足度★★★★☆
大好きな作家さんの未読作品があると、「あら」と思うのと同時に、読めるのがとても嬉しかったりしますよね。
RPG感覚で読んでいると、足元をすくわれるような厳しいストーリーでした。
梨木作品はファンタジーといえども決してほんわかしたりしませんよね。