映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

レディ・マエストロ

2019年11月16日 | 映画(ら行)

女性らしさでなく自分らしさ

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女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの半生を描きます。

1926年、ニューヨーク。

オランダからの移民、ウィリー(クリスタン・デ・ブラーン)は、
女性は指揮者になれないと言われながらも、指揮者になる夢を捨てていません。
ナイトクラブでピアノを弾いて稼いだお金を学資として、音楽学校へ通い始めます。
ところが、ある事件により退学を余儀なくされてしまいます。
それでも夢を諦められない彼女は、引き留める恋人をおいて、ベルリンへ。
そこでようやく女性であるウィリーの情熱を汲み、指揮を教えてくれる師と出会います。

 

本作、女性が未知の分野に進出していく苦労を描いているのはもちろんですが、
他にも様々な切り口が顔をのぞかせています。
まずは、彼女はオランダ移民の夫婦の一人娘としてそれまで暮らして来たのですが、
実はこの親は実の親ではなかった。
彼女が私生児だった赤子の時に、実の母親から買われたと言うことがわかります。

だれからも指揮者になんかなれないと言われ、
これまで名乗っていたウィリーという名も本当の名前ではなかった。
・・・と言うことで、ここで相当のアイデンティティの崩壊があるわけです。
けれど、自分の道を着実に歩み始め、本当の名前、アントニア・ブリコを名乗りはじめることで、
彼女は自分らしさを取り戻していくのです。
女性として・・・と言うよりも人間としての再生の物語といえるでしょう。

 

そしてまた、もう一つ。
影ながらアントニアを支える人物のLGBTの問題。
一体性差とは何なんだろう。そして男女差別とは。
根本的なそんな問題も底辺にあることを匂わせます。

 

さて、指揮者のみにかかわらず、男性だけが占めてきた様々な分野へ女性が入っていくときの軋轢、
それはこれまでも他の多くの作品でも見てきました。

男性だけの優越感。
女性蔑視。差別。やっかみ。嫌がらせ。
正面からの女性のシャットアウト。
ありとあらゆる手段で、男たちは女を排除しようとします。
けれどそれは男だけでなく女性の中にもある感情だからやっかいですね。
男社会が「正しい」としか思えなくなっている心の堅さ・・・。
せめて今はそれはないと思いたいですが、どうでしょう・・・?

 

アントニアと恋仲になるのは、歴然と身分差のある富豪の御曹司・フランク(ベンジャミン・ウェインライト)。
はじめは互いにすごく嫌なヤツ。
けれども、次第に心が接近していって・・・。
しかしフランクのプロポーズは「結婚して、子供がほしい。」
全く、アントニアをわかっていません。
結婚よりも自分の夢を貫くアントニアの選択は必然であります。

アントニアの強い自己が輝く作品。

 

<シアターキノにて>

「レディ・マエストロ」

2018/オランダ/139

監督:マリア・ペーテルス

出演:クリスタン・デ・ブラーン、ベンジャミン・ウェインライト、スコット・ターナー・スコフィールド、アネット・マレアブ、レイモンド・ティリ

 

女性進出の困難度★★★★★

満足度★★★★☆



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