映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「光炎の人 上・下」木内昇 

2020年11月01日 | 本(その他)

ただただ、研究好きの男の運命

 

 

 

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時は日露戦争前夜―
明治の近代化が進む日本で、徳島の貧しき葉煙草農家に生まれた郷司音三郎。
爪に火をともすような暮らしを送る一家を助けるため、
池田の工場に働きに出た音三郎は、そこで電気を使用した技術に出合い、
その目に見えぬ力に魅了され、仕送りするのも忘れ新製品の開発に没頭するようになった。
やがて、開発の熱心さを認められ、大阪の工場に誘われた音三郎は、
技術者としての大きな一歩を踏み出した! (上)

大阪の工場で技術開発にすべてを捧げた郷司音三郎。
これからの世に必要なものは無線機と考え、会社に開発を懇願するが、
あと一歩で製品化というところで頓挫してしまう。
新たな環境を求め、学歴を詐称して東京の軍の機関に潜り込んだ音三郎だったが、
そこで待っていたのは日進月歩の技術革新と、
努力だけでは届かない己の無力な姿だった…。
戦争の足音が近づく中、満州に渡り軍のために無線開発を進める音三郎の運命は?(下)

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私、本作の意図を始めから読み違えていたといいますか・・・、
ある技術者が苦労を乗り越えて開発した技術が最後には世に認められる、
伝記的ストーリーなのだろうと思ったのです。

 

日露戦争前夜、徳島の貧しい家に生まれた音三郎が、池田の工場に働きに出ます。
そこで初めて電気を使用した技術に出会い、魅了され、のめり込んでいくのです。
小学校すらろくに出ていない彼が、全く独学で知識を身につけていきます。
そしてやがて、無線の開発に向かうことになる。

音三郎の原動力は、ただただ好奇心なのでしょう。
当時ようやく広まり始めた“電気”というもの。
その計り知れない可能性に心が釘付けになる。

ただ、それだけに夢中になれていたうちはまだいいのですが、
次第にそれが立身出世の材料になっていくあたりがどうも・・・。

つまり、どうにも私はこの人物に共感できないし、好きになれないのです。
そうしたところがちょっとストレスになりました。
あまりにも意固地でセコい。
家族に対する思いがひどすぎる。
(ひどいと言うより、何もない)

彼の研究は周囲にも認められ、着々と自らの地位を揚げていくのですが、
やがて満州の関東軍に利用されるようになっていく・・・。
音三郎にとっては、自分の技術が戦争に利用されようが何だろうが、
とにかく認められ、自分が賞賛されさえすればよいのです。

この辺で本当に読むのがイヤになってしまったのですが、
しかし、最後まで読んで驚いた。
つまり本作は、立志伝的な話では全然なかったのです!!
私が勝手に思い違いをしていただけ、ということのようです。

つまりこの結末のために、始めから音三郎は好人物には描かれなかったということか・・・。

 

まあ、彼のストーリーはともかくとして、
この時代性が、とてもよく表されていたのは確かです。
戦争こそが景気回復の鍵であり、
経済界や軍部(関東軍)は戦争がしたくてたまらない。
そんな中から日中戦争が始まるという流れがよくわかります。

 

図書館蔵書にて

「光炎の人 上・下」木内昇 角川書店

満足度★★.5

 



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