映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

深夜食堂

2015年12月11日 | 映画(さ行)
うちの近所にもこんな店があるといいな



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安倍夜郎によるコミックが原作で、TVドラマ化されたものの映画版。
と、いうことではありますが、
コミックもドラマも見たことのない私は本作が初体験。
でも、なかなかステキな深夜食堂の雰囲気に浸らせていただきました。



深夜のみ営業している小さな食堂「めしや」。
そこに集う人々の人間模様を描きます。
本作では大きく3部の構成となっていて、

・愛人を亡くし、パトロンを探すたまこ

・無銭飲食がきっかけで、住み込みで働くことになるみちる

・福島へボランティアに通う女性を好きになった男

めしやのマスター(小林薫)は温かくこれらの人々を見守り、
極力口は挟まないのですが、
常連のお客たちが口さがなく感想を差し挟むのが楽しい。



一番初めに「めしや」に骨壷の忘れ物があるのです。
マスターはいつか置いていった人が取りに来るのでは?と思い、
しばらく預かっていたのですが、
やはり誰も取りに来ないので、交番へ届けます。
警察の保管期限も過ぎるとまた引き取り、お寺へ持って行って供養さえする。
そういうお人好しのマスター。
だがしかし、この骨壷には実は物語があって、なんとはその中身は遺骨ではなく・・・。
そこで悲しい事実を私達も一度は知ったような気になるのですが、
なんとその後にまたオチがある。
ここが全編を貫くサイドストーリーとなっていて、面白いですね!





ちょっと変わってる交番のおまわりさん(オダギリジョー)もおかしいし、
最期に登場する田中裕子さんもユニーク。
ちょい出演で、お客の一人に向井理さんも。
近所にこんなお店があれば、私も常連になって週に一度くらいは通いたい・・・。
麦とろ、おいしそうでした~。



映画 深夜食堂 [DVD]
小林薫
アミューズソフト


「深夜食堂」
2015年/日本/119分
監督:松岡錠司
原作:安倍夜郎
出演:小林薫、高岡早紀、柄本時生、多部未華子、余貴美子、筒井道隆

食欲を掻き立てる度★★★★☆
人のぬくもり度★★★★☆
満足度★★★★☆

約束の地

2015年12月10日 | 映画(や行)
時を超えた幻想か???



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35ミリフィルム、四隅が丸い変形スタンダードサイズ、
長回しのワンカットという風変わりなスタイルの本作、
しかし風変わりなのは見た目だけではない。
内容も一筋縄では行きません。



1882年パタゴニア。
デンマーク人エンジニア・ディネセン大尉(ビゴ・モーテンセン)は、
アルゼンチン政府軍の先住民掃討作戦に参加しています。
ある時、野営地に共に来ていた彼の娘インゲボルグが若い男と共に姿を消してしまいます。
ディネセンは、娘を連れ戻そうと後を追いますが、
共に逃げた若い男が重症をおって倒れているのを発見。
しかし、娘はやはり見つからない。
いつしか馬も失い荒野をさまよい歩くディネセン。
そんな時、一匹の犬に導かれた先で、不思議な体験をするのです・・・。



約束の地とは、この国アルゼンチンの伝説で
幸福が約束された「ハウハ」の地のこと。
誰もがそこを探し求めるけれども、たどり着いたものは誰もいないという。
私、何の予備知識もなく本作を見たので、本作の時代背景がよくわかっていなかった。
本作のリサンドロ・アロンソ監督はアルゼンチンの方ですもんね。
南米で先住民がスペイン人などに追いやられ抹殺されていく、
かろうじてそのような歴史を思いうかべながら見ていました。
いづれにしても「人権」など尊重されることがない野蛮な時代。
しかし、物語は予想を裏切り、そのような歴史を離れて、
ただひたすらディネセンが荒野をよろよろと娘を探しさまようシーンばかりが延々と続いていきます。



いつしか現実と幻想が入り乱れ、時空をも超えていく・・・。
驚かされます。
これはそういう物語だったのか!
結局彼が出会ったのは誰だったのだろう。
インゲは生き続けたのか、そこで命絶えたのか、
そもそもすべてが、現代を生きる彼女の幻想だったのかも。
犬、水たまり、おもちゃの人形・・・。
これらの意味するものは・・・?
よくわからないから、ついいろいろ考えてしまう。
印象深い作品です。



本作、殆ど波の音や風の音、鳥のさえずりや草を踏み分ける音・・・、
そのような身の回りの音があるだけなのですが、
途中星空を見上げて夜を過ごすディネセンのシーンで初めて音楽が流れます。
ほんのひととき、彼を癒やすかのように流れる静かな調べ。
(この音楽はビゴ・モーテンセンの自作自演だそうです!)
音楽が入るもう一つはラストシーン。
ラストシーンでもまた驚かされますよ!!

約束の地 [DVD]
ヴィゴ・モーテンセン,ヴィールビョーク・マリン・アガー,ギタ・ナービュ
ポニーキャニオン


「約束の地」
2014年/アルゼンチン、デンマーク、フランス、メキシコ、アメリカ、ドイツ、ブラジル、オランダ/110分
監督: リサンドロ・アロンソ
出演:ビゴ・モーテンセン、ビールビョーク・マリン・アガー、ギタ・ナービシュ

幻想性★★★★☆
満足度★★★★☆

「幻の声 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理

2015年12月08日 | 本(その他)
宝の山発掘

幻の声―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


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髪結いを本業とする傍ら、北町奉行の定廻り同心・不破友之進のお手先をつとめる伊三次。
芸者のお文に心を残しながら、銭にならない岡っ引き仕事で今日も江戸の町を東奔西走する。
呉服屋の一人娘を誘拐した下手人として名乗り出た元芸者の駒吉は、
どうやら男の罪を被っているらしく……(表題作より)。
伊三次とお文のしっとりとした交情、法では裁けぬ浮世のしがらみ。
人情味溢れる五編を収録。
選考委員満場一致でオール讀物新人賞を受賞した渾身のデビュー作!


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何やら申し訳ない気持ちでいっぱいですが、
宇江佐真理さんの「髪結い伊三次シリーズ」、遅ればせながらやっと読み始めました。
シリーズの分量がかなりになっていたことと、
「伊三次」というのが勝手な想像ながら、年輩のオジサンかと思っていたので、
手を付けていなかったのですが、
あらら、そうではありませんでした。
伊三次はなんと25歳。
だから、私が勝手に想像していた「懐の広い親分肌のオヤジさん」ではなくて、
まだ血気盛んな若者です。
まだ店を持たない通いの髪結いで、同心・不破友之進の髪結いに通ううちに、
ちょっとした調査などを頼まれるようになったということなんですね。
そしてこれは「捕物帳」とか「捕物控」ではなくて、「余話」というのがミソ。
確かに何かしら不審な出来事はあるのですが、
その謎というよりも、そんなことになってしまった人の心情を中心に描いています。
人の心は江戸の世も今も同じ。
いえ、いまのように「人権」だの「自由」という概念がない江戸を舞台としたほうが、
よりくっきりとそのしがらみや人情が浮かび上がります。
だからこそ、時代小説のジャンルは廃れず、人気を保ち続けているわけですね。


伊三次のいいひと、お文さんは芸者で、
互いにいつかは一緒になりたいと思っているのですが、
伊三次はまずきちんと独立した店を持ちたいと思っている。
互いに意地っ張りで素直な気持ちを口にできなかったり、
ちょっと気の揉める仲なのも読者としてはスリリングです。
本巻最後の「星の降る夜」では、
伊三次がようやくためた大金がなんと盗まれてしまうという事件が発生。
きっちり下手人を突き止めた伊三次は、男を死罪にまで追い込もうとするのですが、
事情をくんだ不破同心からそれを諌められるシーンも。
いかにもまだ若い伊三次らしさが伺えるし、
決して優等生ではない、というところがまた魅力的です。
そしてまた、伊三次とお文がそう簡単に一緒にはなれない
という展開もまた、あとを引きます。
長くシリーズが続いたのにも納得。
宝の山を見つけた気分です。
この先もたっぷり味わいながら読ませてもらおうと思います。
私にとっての宇江佐真里さん追悼です。

「幻の声 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★★

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分

2015年12月07日 | 映画(あ行)
映像は単調だけれど、濃密な86分



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高速道路を走る車の中、主人公ただ一人が出演者という
ワンシチュエーションのドラマです。



アイヴァン・ロック(トム・ハーディ)は、妻と二人の息子がいて、
仕事は周りからの信頼も厚い工事の現場監督。
順風満帆の生活でした。
大規模なプロジェクト着工を翌日に控えたその夜、
彼は車の中で、ある電話を受けます。
以前出張先でたった一度関係を持ってしまった女性が妊娠し、
今まさに破水して病院に入ったという知らせ。
彼は直ちに病院へ駆けつけると約束をしますが、
家族とテレビでサッカー観戦をする約束や、
明日の大規模なコンクリート打ちの仕事はどうするのか・・・!!



ひっきりなしにかかってくる電話と、こちらからかける電話。
ひたすら夜のハイウェイを走る車と主人公だけの映像でありながら、
その焦燥感がビンビンと伝わってきます。
リアルタイムの86分が本作そのままの長さです。
これで仕事を投げ出してしまうのはどうなのか、
と実のところ私も始め思いました。
しかし、彼はクビを宣告されてもなお、とにかく仕事だけは無事にやり遂げようと思い、
彼の部下に電話で指示をし続けます。
その部下は、プレッシャーでお酒を飲み始める始末だったりするのですが・・・。



そんな中アイヴァンの一つのセリフにグッと来てしまいました。

「コンクリートの質がほんの少しでも違ったら、やがて狂いが生じる。
ほんの一センチの狂いでもそこから亀裂が生じてビルが崩壊する。」

これぞ現場を預かるものが常に胸に置くべきことですよね。
これこそがプロだ。
つい、杭打ちデータ改ざんなどという
最近のけしからぬ出来事を思い浮かべてしまったのでした。


このたった86分の間に、彼の家庭も、仕事のキャリアも崩壊・・・。
特別に愛しているというわけでもない、たった一人の女のためにそうまでしなくても
・・・と、思ったりもするのですが、彼の決意は変わらない。
というのも、ほんの束の間、電話のない一時に、
彼はすでに亡くなった自分の父親に向けて悪態をつくのです。
家庭生活も仕事も全くダメだった彼の父。
彼は父親を反面教師として、これまで生きてきたことが伺えます。
実直に、誠実に。
それだからこそ得た現在の平和な家庭、仕事の地位であったのに。
しかしその実直さと誠実さが今は彼の首を絞める。
う~ん、切なくて厳しい。



けれど最後に、状況が大きく変わるわけではないけれど、
なんだか少し救われる気がするラストが、後味の悪さを消し去ります。
不思議ですが、彼の家族の様子や、現場事務所の様子、病院の妊婦の様子が、
まるで映像で見たような感じで印象に残っています。
濃密な86分でした。

オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 [DVD]
スティーヴン・ナイト,スチュアート・フォード,デヴィッド・ジョーダン,スティーヴン・スクランテ
アルバトロス


「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」
2013年/イギリス・アメリカ/86分
監督:スティーブン・ナイト
出演:トム・ハーディ、(以下声のみ)オリビア・コールマン、ルース・ウィルソン、アンドリュー・スコット、ベン・ダニエルズ

焦燥感:★★★★☆
満足度★★★★★

FOUJITA

2015年12月06日 | 映画(は行)
本当は知りたい、フジタの心情



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1920年代、エコールド・パリの寵児、藤田嗣治=レオナール・フジタのストーリーです。
フジタは好きな画家。
でもそのフジタをオダギリジョーが演じるというのに始めは驚きました。
私の中のフジタは、もっと年輩のイメージだったもので・・・。
しかし当然その年輩のフジタにだって若い頃はあったはずで・・・、
ちょうどその20年年代にパリに渡ったフジタは、まさしく若かったのです!



彼の描く乳白色の肌の裸婦は、パリでも非常に注目を得ました。
日本の浮世絵のような雰囲気もあるその作風に、
パリの人々はどこか異国の風を感じたのでしょう。
フジタのオカッパ頭に丸メガネの独特の風貌もまた、狂乱のパリでは目立ったでしょうね。
本作は、フジタ本人の心情には肉薄せず、淡々と状況を描写していきます。
狂乱のパリでのどんちゃん騒ぎのさなかでも、
どこか覚めた目を伺わせるフジタは
実のところ何を見つめていたのか、本作では謎のまま。



そして作品は後半、1940年代、日本でのフジタを描きます。
ナチスに蹂躙される寸前のパリから、フジタは帰国していました。
日本も戦時下。
フジタは5人目(!)の妻・君代(中谷美紀)とともに田舎に疎開しています。
そして、戦争協力画を描く。
その作風は、すっかりヨーロッパ風。



そもそも本作の監督、小栗康平氏は、
パリの裸婦と戦時中の戦争協力画のその手法のあまりの違いに驚き、
本作を手掛ける気になったのだといいますから、
パリと日本半分ずつのフジタを描く意味はなるほど、それで納得できます。
しかし、戦争協力画を描くフジタの奥底の心情にもまた肉薄しないまま、
淡々と描写は続きます。
・・・正直言ってこのあたりでもう、眠気が差してきました。



フジタを知ってる方なら、この“戦争協力”のために
彼のその後の人生が大きく変わって行くことも知っています。
そして、本当はその時の彼の心情をこそ知りたいという気持ちが大きいのではないでしょうか。
少なくとも私はそうです。
しかし、本作ではそんなことには触れません。
結局のところ、フジタを知る人にも、知らない人にも、
欲求不満が残ってしまうという作品になっているように思います。
色調が抑えられたその映像は美しかったのですけれど・・・。
これが芸術だ、と言われたらもう、私には返す言葉がありません。



フジタをよく知らないけれど、もう少し良く知りたい方はこちらを・・・→ 藤田嗣治 異邦人の生涯

「FOUJITA」
2015年/日本/126分
監督:小栗康平
出演:オダギリジョー、中谷美紀、アナ・ジラルド、アンジェル・ユモー、マリー・クレメール

静謐度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

「誘拐された犬」スペンサー・クイン 

2015年12月04日 | 本(ミステリ)
まさしく犬!!

誘拐された犬 名犬チェットと探偵バーニー (創元推理文庫)
古草 秀子
東京創元社


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貧乏探偵バーニーと、猫がらみの理由で警察犬訓練所を卒業しそこなった大型犬チェット。
この最強コンビは伯爵夫人に愛犬の警護を依頼されたが、
いかにもな失敗で即クビ。
その後、夫人は愛犬とともに誘拐されてしまう。
そして事件を取材中のバーニーの恋人まで失踪…。
何が起きているのか?
語り手が犬であるからこそ可能になったミステリ!
『チェット、大丈夫か?』改題文庫化。


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書店の店頭で「全世界の犬好きの心を鷲掴みにした」という、うたい文句に心惹かれ、
シリーズの2作目というのにいきなり買ってしまいました。
でも、読み始めてすぐに、このキャッチコピーがウソではないと納得!!


本作は貧乏探偵の相棒、犬のチェットが語り手なのです。
まあ、こういうケースはないわけではない。
でも大抵その語り手は「犬」でありながら完全に「人」の思考をしますね。
犬の姿を借りた人間。
けれども本作、チェットはまさしく「犬」なのです。
パートナーのバーニーや犬用のガム、ベーコンなどが大好き。
頭の上をバーニーがそっと掻いてくれれば嬉しくて
ついしっぽをゆさゆさと振ってしまう。
大抵の人の話は理解できるけれども、
バーニーが来客と込み入った話を始めると、
もうわけがわからなくなって興味を失ってしまう。
顧客の犬のために差し出されたオヤツを、無意識のうちに掠め取ってしまったりも・・・。


犬を飼ったことのある人なら分かる、完璧な犬のしぐさ。
そういうのがもう可愛くて可愛くて・・・。
やめられません。
そしてまた、相棒のバーニーがものすごくいい奴なんですよ! 
チェットの失敗のために仕事のしょっぱなから「クビ」宣告を受けてしまうのですが、
バーニーはそのことを決して他の人に告げ口をしたりしません。
チェット自身が自分の失敗に後悔し、車の隅でうつむき丸くなっているのもおかしいのですが、
その気分を十分に汲んでいるバーニーもナイス!!


いつも一緒のコンビですが、捜査の途中ではぐれてしまうシーンがあります。
チェットはそこでなかなか大変な体験をするのです。
後にようやくまた巡りあうのですが、その間のことをもちろんバーニーに話すことはできない。

「お前はきっと何かを見たんだな。話ができればいいのに・・・」

と、バーニーがつぶやきます。
けれど、バーニーは洞察力がするどいので、
チェットがある車を見て唸り声を上げているのを見て、ピンとくる。
そうして事件解決へつなげていくわけで、全くいいコンビです。


本国ではもう8作目まで出ているそうで、この先も楽しみです。
もちろん、順不同ですが、後ほど一作目の「助手席のチェット」も読みますね!!


「誘拐された犬」スペンサー・クイン 創元推理文庫
満足度★★★★★


ゼロの未来

2015年12月03日 | 映画(さ行)
結局は一人では生きられない「私たち」



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コンピューターに支配された近未来が舞台。
・・・と言うと無機質にチリひとつない街や室内の様子を思い浮かべてしまいますが、
本作はそうではありません。
テリー・ギリアム監督が日本の秋葉原にインスパイアされたというだけあって、
色彩てんこ盛りで猥雑。
そうですよね、どんなにテクノロジーが進化しても
人々はやはりあまりにも洗練された環境にはなじめないでしょう。



さて本作、設定自体が不可思議で謎めいていているのですが、
不思議に惹きつけられます。
天才プログラマーのコーエン(クリストフ・ヴァルツ)は、少し心を病んでいます。
自分を「私たち」と複数で呼び、
人に触れられることを嫌い、孤独を好みます。
そんな彼は教会の廃墟にひきこもり、ひたすら「ゼロの定理」を解析しようとする。
そのPCディスプレイの映像は、まるでテレビゲームのよう。
しかしその作業は難解の上に難解、
孤高の天才の彼を持ってしても解析は進まない。
苛立つ彼はハンマーでマシンを打ち壊してしまいますが・・・。
そんな人嫌いの彼が、ある女性に心惹かれたり、
これも天才の少年と心を通わせるようになるにつれて、
「人間」らしさを取り戻してゆく・・・。





なんだかよくわからない作品だと思ったのですが、
こうしてストーリーを書いてみると案外シンプルな話だったのだな、
と今更気が付きました。
とは言え、コーエンが自分を「私たち」と呼ぶのはつまり、
ITや国家に管理・支配される私たちそのもののことを暗喩しているのだろうとか、
コーエンが待ちつづけている「電話」の意味とか・・・
いろいろと興味深い点はあります。
そして人と関わりたくないコーエンが、ボブ少年をマネてピザを取ってみたり、
奇天烈なスーツを身に着けてベインズリーとアクセスしようとするように変わっていく辺りが、
ちょっと微笑ましかったりします。



世界は結局ゼロ=無・・・などという崇高なテーマを言っているようで、
意外と細部は庶民的で猥雑。
そこがテリー・ギリアム監督らしさでしょうか。
だからよく意味がわからなくてもなんだか面白かった。
変に煙にまかれたような気がしない所が良いです。
なんだかマット・デイモンに似ているなーと思った人物が、
本当にマット・デイモンだったりしたのでびっくり!!

クリストフ・ヴァルツは007に出てくる人物より
こちらのスキンヘッドのほうが個性的で、演技にも幅があるように思えます。



ゼロの未来 [DVD]
クリストフ・ヴァルツ,デヴィッド・シューリス,メラニー・ティエリー,ルーカス・ヘッジズ
Happinet(SB)(D)


「ゼロの未来」
2013年/行きリス・ルーマニア・フランス・アメリカ/107分
監督:テリー・ギリアム
出演:クリストフ・ヴァルツ、デビッド・シューリス、メラニー・ティエリー、ルーカス・ヘッジス、マット・デイモン

近未来度★★★★☆
満足度★★★★☆

007 スペクター

2015年12月02日 | 007
持ってるヤツ



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さて、007シリーズ第24作目。
 ダニエル・クレイグ版としては4作目になりますね、007!!
前作からはもう3年なんだ・・・。早いなあ。
 相変わらず、ダニエル・クレイグはスタイリッシュでカッコイイわ~。大人の魅力。



本作の冒頭はいきなり、メキシコなんだよね。
 それも「死者の日」の祭り、パレードの最中。
 人々は思い思いにガイコツの衣装やマスクを身に着けて・・・。
 こんなお祭りがあるなんて知らなかったけど・・・。
賑々しいお祭りの中で、ちょっと緊張感を帯びたマスク姿の男女が、ある建物の中に入っていく。
 ふむふむ、これこそが、ジェームズ・ボンドなんだねえ。
で、そこから続くオープニングの度肝を抜くアクションに次ぐアクション!! 
 ビルは爆破されて倒壊するワ、ヘリコプターの上で格闘するワ・・・
これがオープニングだなんて、なーんて大盤振る舞い。もったいない!!
いやもう、ここでがっしりハートをわし掴みされちゃいます。



さて、なぜ彼がメキシコなんぞにいたのか。
 それは仕事ではなく、彼の個人的活動だったのだけれど、
 ・・・後にこれは、前任のM(ジュディ・デンチ)が言い残したことと関係することが分かるんだな。
だからこれは単なる前フリではないわけだ。
その後ローマ、オーストリアなど世界各地を点々として、
 ボンドは巨大な悪の組織「スペクター」の存在を知ることになる。
スペクターは、以前のシリーズにも出てきた宿敵の名前なんだよね。
 そしてまたそれは、前作「スカイフォール」のラストで焼け残った写真と、
 これもまた関連することがわかってくるんだね。
それはボンド自身の過去に関係している・・・。
おお!!ミステリアス!!



えーとつまり前作と本作は対になっているんだよね。
 前作「母から見放された兄と、未だに愛されている弟」という軸があった。
 そして本作は「父から見放された兄と、愛され続けた弟」ということになる。
実際の親子関係ではなくて、そういう構造ということだね。
 そうかあ、なるほど~。
イヤイヤ、でもまあそれはほんの隠し味程度のことなので、
 前作を見ていない人でも問題なく楽しめるので、気にしないように。


それから、本作では国家安全保障局の新しいトップ、Cという人物がでてくるのだけれど、
 彼はMI6の「00」部署はもう時代遅れで必要ないなんて言ってる。
それでM(レイフ・ファインズ)を筆頭とする「00」部署解散なんてことになっちゃうんだよね。
 だからボンドは組織の後ろ盾がないままに行動しなければならなくなる。
だがしか~し!
 ボンドには長年親しんだ味方がいるわけですよ。
 ITと最新型小道具(ボンドカーも含めて)担当Q(ベン・ウィショー)。
 マネーペニー(ナオミ・ハリス)。
 そして、M。
今回はQの出番が多くて嬉しかったし、研究室の外に出てきたのもいいよね~。

ボンドガールは、モニカ・ベルッチとレア・セドゥー。
 ボンドガールは大抵いかにもお色気たっぷりという感じなのだけど、
 レア・セドゥーは、ちょっと違う感じ。
 でも個性的でステキでしたー。
女性にも好かれそうな感じだよね。



クリストフ・ヴァルツは個人的にこの間「ゼロの未来」でみたばっかりだったんだけど。
前作、ハビエル・バルデムと比べるとパンチが足りない感じ?
 いっそあの時のままのスキンヘッドが良かったのに。
まあ、まあ・・・。
 でもこんなやつだからこそ、父はボンドの方を、ついかわいがってしまったのだろうけれどね・・。
 それにしてもこれだけの組織を作り上げたのは、ある意味スゴイというか・・・。
あー、前回も思ったんだよね。
 ここまでのし上がるのにどれだけ苦労したか・・・ってさ。
 スゴイじゃん。
 だからあえてボンドに復讐しようなんてさえ思わなければ、
 これからも裏の社会でのうのうとできたのにねえ・・・。
いや、そうマジに考えなくても・・・。
ねえ、これは逆に言うと、つい人から目をかけ手をかけられてしまうジェームズ・ボンドは
 やはり何かを持っているということなんだろうねえ。
そりゃ子供の頃から、かっこ良くて聡明で運動もできるし性格も良かったら、当たり前だよー。
もしかしてそれ、実は他の子から見て嫌なやつだったかも・・・
 だーかーらー、こんなことになっちゃったのか・・・
まあ、というのはこっちのかってな想像で、
 実のところは、これもまたたっぷり楽しめる007でした!!
ダニエル・クレイグ版ボンドはこの先ももっとみたいなあ・・・。
 交代しないで欲しいです。

「007 スペクター」
2015年/アメリカ/148分
監督:サム・メンデス
出演:ダニエル・クレイグ、クリストフ・ヴァルツ、レア・セドゥー、レイフ・ファインズ、モニカ・ベルッチ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス

アクション度★★★★☆
満足度★★★★☆