映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

わたしは最悪。

2022年07月13日 | 映画(わ行)

最高で最悪のシーン

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ユリア(レナーテ・レインスベ)は、30歳。
医師になろうとしていましたが、気が変わって心理学を学び、
そしてまた次には写真家になろうと思っていて、
未だに人生の方向性が定まりません。
そんな彼女は今、年上の恋人・アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と一緒に暮らしています。
アクセルは最近しきりと身を固めたがっている様子。

ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、
若く魅力的なアイヴィン(ハーバート・ノードラム)に出会います。
ほどなくユリヤはアクセルと別れ、新しいアイヴィンとの恋愛に身を委ねますが・・・。

新しい恋にのめり込んで行くユリヤの映像がユニーク。
アクセルの家で、パチンと電気のスイッチを入れると、回りの何もかもが停止。
時間が止まった街をユリヤは軽やかに走り抜けて、アイヴィンの元へ・・・。
自分の欲望にまことに正直に、無邪気に笑みを浮かべて
「最高」の気分で、新しい恋人の元へ向かうユリヤ。
この高揚感が、とても印象的なシーンで表わされているわけです。

けれど実は、その行為は身勝手で、愚かで、「最悪」。
そうした反面的なメッセージを含んだシーンだったのかなあ・・・と思います。

オバサン的視点で見れば、アクセルはパートナーとして最高に思えるのですけどねえ・・・。
ユリヤは本当のことが見えていない。
彼女が大人になるためには、大きな試練が必要だったということか。
なんて言うと、まるでアクセルが踏み台になったみたい。
どうにも、この方が気の毒です・・・。

<シアターキノにて>

「わたしは最悪。」

2021年/ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク/128分

監督:ヨアキム・トリアー

出演:レナーテ・レインスベ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバート・ノードラム

 

最悪の行為度★★★★★

満足度★★★.5

 


「カゲロボ」木皿泉

2022年07月12日 | 本(その他)

密かに人間たちを見続ける存在

 

 

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人間そっくりのロボット「カゲロボ」が
学校や会社、家庭に入り込み、いじめや虐待を監視している
――そんな都市伝説に沸く教室で、カゲロボと噂される女子がいた。
彼女に話しかけた冬は、ある秘密を打ち明けられ……(「はだ」)。

成長の遅い娘のことを「はずれ」と言い、「交換」を頼む母の電話を聞いてしまったミカ。
突然、離婚した父のもとに預けられることになり、
そこでもう一人の「ミカ」の存在を知る……(「かお」)。

何者でもない自分の人生を、誰かが見守ってくれているのだとしたら。
共に怒ってくれるとしたら。
押し潰されそうな心に、刺さって抜けない感動が寄り添う、連作短編集。

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人間そっくりのロボットが私たちの社会の中に紛れ込んでいて、
私たちを監視している・・・
そんな都市伝説がウワサされる世の中。
木皿泉さんの連作短編集です。

 

カゲロボは私たちの生活、特に学校生活ではいじめの場面などをじっと見つめながら、
しかし特に何もしない。
弱い者を助けたりしないし、強者を罰することもない。
いじめる側がひどい目にあうとすれば、
それは自らが撒いたタネでそうなってしまう・・・。

このようなストーリーを見るうちに、
私はカゲロボとはすなわち“神”であるように思えてきました。

 

それぞれの短編には特につながりがないように見えて、
しかし終盤、先の話に繋がる物語が描かれます。
中でも本作中最も印象深い、ネコの足を切断するシーン。
いじめを受けている少年が、加害者に「ネコの足を切れば許してやる」と言われ、
(そもそも、許してやるってなんだ?!)
切羽詰まってやむを得ず実行してしまうのです。

そのネコが、終盤にまた登場。
実はカゲロボらしかったそのネコ。
いや、まさに“神”でしょう・・・。

決して恐い存在ではない。
実はいて欲しいカゲロボなのでした。

 

「カゲロボ」木皿泉 新潮文庫

満足度★★★★☆

 


椿の庭

2022年07月10日 | 映画(た行)

美しい和の庭と共に・・・

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長年連れ添った夫を亡くし、古い一軒家に暮らす絹子(富司純子)。
娘の忘れ形見である孫娘の渚(シム・ウンギョン)との2人暮らしです。
夫と子どもたちとの想い出がつまったこの家。
庭は美しく手入れされていて、その季節ごとにそれぞれの花が咲き乱れます。
ところが税金対策として、この家を手放さなければならないことになったのです。
どうにも気が進まない絹子でしたが・・・。

しっとりと落ち着いた和風の庭。
藤とツツジが咲き乱れる冒頭シーン、美しいですねえ・・・。
この家には夫婦と娘2人が住んでいたのですが、
長女は韓国の男性と駆け落ちして、渚が生まれたのです。
ところが、その後長女夫婦は事故で亡くなってしまい、
孫の渚がこの家に来て住んでいるというわけ。
渚は日本語を話すことにほぼ不自由はありませんが、読み書きを目下勉強中。
次女・陶子(鈴木京香)は結婚し、家を出ていますが、
ときおりこの実家に顔を出します。
姪の渚にとっても気安い存在。

女ばかりの3代。
これぞ「和」という感じの生活スタイル。
ロケ地は葉山だそうですが、北海道にはこういう家が少ないので、
ちょっと憧れてしまいます。
しかも海が見えるなんて!

それにしても慣れ親しんだ自分の家から去らなければならないというのは、
絹子さんのような年齢ではいかにもつらいですよね。
せめて、この家で亡くなるまで暮らすことができるようにしてくれればいいのに・・・
と私などは思ってしまったのですが、
いやいや、絹子さんはもうすっかりその気なのでした。

作中、金魚やハチなど、この家の庭で生きていたものたちの「死」が描かれます。
そして、ラストには思いがけないショッキングなシーンも。
いわば「家」の死か。

命や、形のあるものはいつか必ず消え去っていく。
それでも、それらは私たちの心の中に受け継がれて残っていく・・・
そういうものなのかも知れません。

絹子さんの生き様は、まさに“椿”。
地に落ちても美しく凜として静か。

富司純子さん、まさにこういう風に年を取りたいと思う女性像でした。
あ、いや、私すでに手遅れですし、そもそも土台がちがうもんなあ・・・。

着物を着替えるシーンなどもあって、
これが実に手慣れていてさすがだなあと思いました。
こういうのを見ると和服に憧れます・・・。
けど、それもすでに手遅れ。
お金がないとダメですし・・・。

<WOWOW視聴にて>

「椿の庭」

2020年/日本/128分

監督・脚本・撮影:上田義彦

出演:富司純子、シム・ウンギョン、鈴木京香、チャン・チェン

 

和風美度★★★★★

満足度★★★.5

 


君は永遠にそいつらより若い

2022年07月09日 | 映画(か行)

正義を声高に言ったりはしないけれど

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就職も決まり、卒業を間近に控え、
手持ち無沙汰でただなんとなく毎日を過ごしていた掘貝佐世(佐久間由衣)。
そんな彼女が、同じ大学の猪乃木楠子(奈緒)と知り合い親しくなっていきます。

また、友人(小日向星一)の友人である穂峰(笠松将)が
命を落とすという出来事もあります。

何気ない日常を描きながら、個々の根底にある“哀しみ”に気づきつつ、
徐々に前へ進むべき理由と力を見出していく佐世の物語。

楠子は過去にいわれない暴力を受けたつらい記憶を持っています。
佐世もまた、楠子ほどではないけれど同様の経験が。
そのことは両者ともに、その後の自分の性格や他者との距離の取り方に
大きく影響していると思っています。

また、佐世は児童福祉司として勤務することが内定しているのですが、
それを目指したのは、とある子どもの行方不明事件が影響しています。
これもまた暴力に対してなすすべがなかった子どもの事件なのではないか・・・。

そしてまた、今大きな問題になりつつあるネグレクトのこと。

子どもや女性が、大人や男性の暴力にあらがえず、心も体も傷つけられてしまう。
そんな人々に少しでも力になりたい・・・という佐世の思いが
次第に浮かび上がり鮮明になっていきます。
こんなところがすごく自然で、納得のいくものでした。

佐世は、はじめからギンギンに「子どもたちのために頑張りたい!」
などと宣言するような人物では全然なくて、
むしろやる気がなくて頼りない感じだったのです。
人と人とのつながりで、成長していく様も心地よいですね。

普通っぽいけどいい感じの穂峰くんは笠松将さんが演じていて、ラッキー♡と思ったのですが、
なんと始めの方しか登場しません。
最もショッキングな退場の仕方をしてしまいます。
彼の本当の「思い」は、最後まで描かれないのですが、
世の中の不条理に意欲をそがれてしまったのかしら・・・。
ものすごーく切ないです・・・。

正論で正義を声高に言ったりしないけれど、
人々が抱える哀しみに寄り添いながら、
でも、少しでも良い方向に歩みたいと思う。
ごくさりげなくこのようなことを訴えるこの作品、なかなか秀逸だと思います。
つまりは原作がいいということか・・・。
津村記久子さんは好きな作家さんなので、機会があれば読んでみようと思います。

 

<WOWOW視聴にて>

「君は永遠にそいつらより若い」

2020年/日本/118分

監督・脚本:吉野竜平

原作:津村記久子

出演:佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将

 

哀しさ★★★★☆

満足度★★★★★

 


恋する寄生虫

2022年07月08日 | 映画(か行)

恋しているのか、させられているのか。

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極度の潔癖症で誰とも人間関係を結べず、孤独に生きる青年、高坂賢吾(林遣都)。
そんな彼が、視線恐怖症で不登校の少女、
佐藤ひじり(小松菜奈)の面倒を見ることになります。

何かと露悪的な態度をとるひじりですが、
その言動や行動は、自分自身の弱さを隠すためと気づき、
賢吾は次第に彼女に共感を抱くようになっていきます。

そしてさらには次第に惹かれあい、初めての恋に落ちていく・・・。
しかし、この恋にはある「秘密」があった・・・。

まあ、題名が題名なので、すでにバレていますが、
この2人はある寄生虫にとりつかれており、
その寄生虫の作用で「惹かれ合う」状況に導かれているというのです・・・。
では、この恋は恋ではなく、強制的にそうさせられているということなのか?
寄生虫を取り除けば、恋は終わってしまうのか?

私は虫は苦手なので、そもそもが気色悪い設定・・・。
SFというか、ファンタジーというか。
全体的にはケレン味はなくて、色調も穏やか、
ひっそり静かな雰囲気です。

2人が親しみを増すに連れて互いの潔癖症や視線恐怖症が薄らいでいく、
というあたりはなかなか素敵な流れでした。
ん~、でも全体を通してなんだかピンとこない。
ま、そういうこと。

<WOWOW視聴にて>

「恋する寄生虫」

2021年/日本/99分

監督:柿本ケンサク

原案:三浦縋

脚本:山室有紀子

出演:林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌

満足度★★☆☆☆

 


「ミステリと言う勿れ 6」田村由美

2022年07月07日 | コミックス

サラツヤにしたからといって、イケメンになるわけではない

 

 

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悩みも事件も解きほぐす青年・久能整
事件に巻き込まれては、いつのまにか人の悩みも謎も解きほぐしてしまう大学生・久能整。
彼は、事件の数々に繋がりがある可能性に気づき、
謎めいた少女・ライカに相談するが…!?

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整くんの、第6巻。

まずは、大晦日、じゃなくて元旦未明ですね。
初詣の後、焼肉屋さんに寄って焼肉初体験する整くんとライカさん。
ところがその焼肉屋さんが実は強盗に入られていて、
脅された店員さんが必死に暗号で整くんとライカさんに助けを求める、という一節。
鋭い二人のことですから、これはすぐに解決。
このエピソードは好きだなあ・・・。
おみくじで凶を引いてしまった整くん、
確かにおかしな事件に巻き込まれてばかりだけれど、
ライカさんと知り合えたのは僥倖です。

 

そして、次のエピソード。
「羽喰十斗」の事件です。
連続女性殺人事件。
そして、我路くんのお姉さん愛珠の事件にも絡むストーリー。
これはなかなかのミステリです。
十斗は「刺した刃物は手首をひねってから抜くと大量出血する」
などといいながら実行したりする、全くのサイコパス。
このシーンは実に恐い。
テレビドラマでは、北村匠海さんが演じていましたっけ。

ところでこのエピソードには整くんが登場しないのです。
(ちょうどこの事件の裏側で、整くんは広島の狩集家の事件に関わっている。)
そこもなかなか、オシャレですね。
でも結局、愛珠さんに関わった真の黒幕的人物は分からないまま。

一応の解決をつけつつも、続く・・・という所です。

 

「ミステリと言う勿れ 6」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★☆

 


すべてが変わった日

2022年07月06日 | 映画(さ行)

狂った悪意から孫を取り戻す

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元保安官のジョージ(ケビン・コスナー)と妻・マーガレット(ダイアン・レイン)は、
落馬事故で息子のジェームズを失います。

3年後、息子の未亡人ローナとその幼い息子(孫)ジミーは、再婚して家を出ます。
ある日、マーガレットはローナの夫ドニーが、
ローナとジミーに暴力を振るっている所を目撃してしまいます。
気になって訪ねてみると、ドニーは2人を連れてノースダコタの実家へ引っ越してしまったという。
マーガレットは、義理の娘と孫を取り戻すことを決意。
ジョージと共にノースダコタへ向かいます。
そこで待ち受けていたのは、暴力と支配欲で一家を仕切る女家長ブランチだった・・・。

孫とその母親に会いに行くだけなのに、奇妙な緊張感。
それもそのはず、訪ねる先の家は地元でも有名な、ならず者一家で、
特にそれを仕切るのはゴッド・マーザーとも言うべき毒母親。

息子たちは誰もが言いなりで、
自分で考えることもなく、ただ母親のいいなりに残虐な行動をしているだけ。
もう、ローナはそこから逃げ出すこともできず、
こんな中に放っておいたらジミーの将来が心配だし、
第一邪魔者として始末されてしまうかも知れない。
ジョージとマーガレットはもはや命がけとなります。

付近で道を尋ねると、
「誰かにウィーボーイ家のことを聞けば、次の日には向こうからやってくる」という答え。
もはや地元の人々や警察までもを支配しているという、女ボス。
ホント、恐いです。

思わず目を背けてしまうシーンもあって、
それでも勇気を忘れないケビン・コスナーがなんともカッコイイ!!

<WOWOW視聴にて>

「すべてが変わった日」

2020年/アメリカ/113分

監督・脚本:トーマス・ベズーチャ

原作:ラリー・ワトソン

出演:ダイアン・レイン、ケビン・コスナー、レスリー・マンビル、
   ケーリー・カーター、ブーブー・スチュワート

 

暴力性★★★★☆

毒親度★★★★★

満足度★★★.5


ベイビー・ブローカー

2022年07月04日 | 映画(は行)

命を生み出すことの意義

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是枝裕和監督による韓国作品という話題作。

古びたクリーニング店を営むサンヒョン(ソン・ガンホ)。
そして、赤ちゃんポストのある施設で働く、児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。
この2人は、裏家業で「ベイビー・ブローカー」をしています。
赤ちゃんポストに入れられた赤ん坊を、施設職員が引き取るより先に連れ出して、
自分たちで養子を欲しい人たちに渡して報酬を得るというもの。

 

ある雨の夜、若い女・ソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんポストに置いた赤ん坊を、
ドンスがこっそり連れ去ります。
翌日、思い直したソヨンが施設に戻って来ますが、
やむなくドンスは赤ちゃんを連れ出したことを白状。
なり行きで、サンヒョンとドンスにソヨンも同行して、
養父母捜しの旅に出ることに・・・。

さて一方、サンヒョンとドンスを検挙するために尾行を続けていた刑事、
スジンとイは、赤ん坊と現金を交換している決定的瞬間に踏み込むつもりで、
彼らの後を追います。

そしてさらに、怪しい女が彼らを付け狙うのです。
この女は何者、どうして???
そこにはソヨンの重大な事情が・・・!!

始めの方で、刑事が「捨てるくらいなら、始めから生むな!!」
と言うシーンがあります。

確かにその言葉には説得力があるのだけれど、
でも本作中全編に、生まれてきた者への敬意というか尊厳を守ろうとする意志に
あふれているように見受けられ、
それでも命を生み出すことには意義があるような気がしてきました。
サンヒョン、ドンス共にお金目当てではあるものの、
少しでも赤ん坊の幸福が見込まれる養父母を探そうとします。
ましてやこの度は当の母親がついているので、なおさら。
いろいろなドタバタがありながら、
本作中の赤ちゃん・ウソンは常に周囲から大切に扱われていました。
昨今ネグレクトによる子どもの死などが報じられることが多いのですが、
そのネグレクトする側の毒親たちこそ、ぜひこの作品を見るべきだと思ってしまいました。

重いテーマですが、ついクスリと笑ってしまうエピソードにも満ちています。
刑事たちが、「おとり捜査」を仕組むのですが、
なぜか失敗してしまうところなどは傑作。
この刑事たちは、とにかく手柄を立てたいがために彼らを尾行するわけですが、
いつのまにかこの一行に共感していくようになります。

サンヒョン、ドンス、ソヨン、赤ん坊、
そしてなぜかついてきてしまった一人の少年も加わり、
すっかり家族のようになってしまう彼ら。
いえ、並みの家族よりも家族らしいチームワーク。
こうした疑似家族の風景は「万引き家族」にも通じますね。

哀しみとおかしみ、温かみの融合する感じは、まさにソン・ガンホさんのなせるところ。
今まさに見るべき作品です。

 

<シネマフロンティアにて>

「ベイビー・ブローカー」

2022年/韓国/130分

監督・脚本:是枝裕和

出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン、イ・ジョヨン

 

疑似家族度★★★★★

ハラハラ度★★★☆☆

満足度★★★★★


ソウルメイト 七月(チーユエ)と安生(アンシェン)

2022年07月03日 | 映画(さ行)

強い絆は生きていた

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人気のネット小説「七月(チーユエ)と安生(アンシェン)」に映画化の話が出るのですが、
作者、七月の居所が分かりません。
そこで、もう一人の主人公のモデルと思われる安生の所に連絡が入ります。
安生は、七月なんて知らないと言うのですが・・・。

そこからは、小説をなぞってストーリーが進みます。
七月と安生は13歳で出会い、すぐに互いになくてはならない親友になります。
でも二人の性格はほとんど正反対。

自由奔放な安生。
真面目で慎重な七月。

やがて思春期に入り、一人の男性を巡り、
二人は愛憎渦巻く関係になっていきます。

・・・と、ここまでは忠実に小説の内容をたどっていくわけですが、
その小説の先に、驚きの真実が待ち構えているのです。

ラストの鮮やかな切り返しはこの二人の強い絆をより際立たせて、
結局はあれだけ渦巻いた男性の存在はどうでもよいものに変わっていきますね。
そして、あんなに慎重で引っ込み思案だった安生が、
初めて自分の殻を破ってイキイキと輝いている。

満足度高いです。
中国作品は、どちらかというと選択の範囲外でしたが、
ちょっと考えを改めなければ・・・と思う次第。

 

<WOWOW視聴にて>

「ソウルメイト 七月(チーユエ)と安生(アンシェン)」

2016年/中国・香港/110分

監督:デレク・ツァン

原作:アニー・ベイビー

出演:チョウ・ドンユイ、マー・スーチェン、トビー・リー

 

ラストの切り返し度★★★★★

満足度★★★★★


「スモールワールズ」一穂ミチ

2022年07月02日 | 本(その他)

小さな世界にあふれる感情

 

 

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最終話に仕掛けられた一話目への伏線。
気付いた瞬間、心を揺さぶる、鳥肌モノの衝撃が襲う!!

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。
「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。
初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。
人知れず手紙を交わしつづける男と女。
向き合うことができなかった父と子。
大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。
誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

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話題になったベストセラー。
私には初めての作家さん。
6編の短編からなっているのですが、
これがどのストーリーも肌合いというかテイストが異なるのです。

 

始めの「ネオンテトラ」は少しひんやりしている。
夫の浮気に気づいた主婦が素知らぬ顔で夫婦円満を演じている。
コンビニで知り合った家庭に居場所のない少年と心を通わせて行くのですが、
少し自分に気のあるように見えていた少年は、実は姪っ子と関係を結んでいて・・・。
ほとんど修羅場のような展開なのに、彼女は冷静。
熱帯魚の水槽のように、少しひんやりとして静かです。

 

次の「魔王の帰還」は、ちょっぴりユーモラス。
姉が出戻ってきて、再び一緒に暮らすようになる高校生の弟。
やたら体が大きくてガサツそうな姉。
なぜかこの姉妹と、弟の同級生の少女3人で、
「金魚すくい」の大会に出場することに・・・。
姉の出戻りにも弟の高校生活にも、単純には語れないしんどい事情があるのですが、
ユーモラスな語り口に、ちょっぴり勇気をもらう感じがします。

 

4作目「花うた」は、ある2人の手紙のやりとり。
手紙文だけでストーリーが進んでいくのですが、
それがなんと、刑務所にいる殺人犯と、その被害者の妹。
始めは確かに、兄を殺された妹の恨みつらみが描かれていた手紙だったのですが、
次第に様相が変わってきます。
読んでいけば二人の心情の変化は理解できる。
が、それにしても不可解というか、
イヤむしろ気味悪いというように私には感じられたのですが・・・。
どうなのでしょう、これこそは、読む人によって感じ方が異なるのかも。

 

という感じで、それぞれにテイストを変えつつ別個の物語が展開して行くのですが、
どれもほんの少しだけ、前の作品と繋がっているのです。
もしかしたら読み落としてしまうくらいのささやかなつながり。
そしてなんと最後の作品が、一番始めの物語につながっていた!!

無造作のようでいて、企みに満ちた配列。
なんとも、やられます。

 

そしてつまりこれらの物語は、わりと限られた地域で起こったことなのかも知れません。
それなので、「スモールワールズ」なのですね。
私にはそれが小さな「水槽」の中の世界のようにも思えます。

読書の楽しみに応えてくれる本です!!

 

<図書館蔵書にて>

「スモールワールズ」一穂ミチ 講談社

満足度★★★★★


マイ・ダディ

2022年07月01日 | 映画(ま行)

それでも信仰を保てるか?

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小さな教会で牧師を務める御堂一男(ムロツヨシ)。
8年前に妻(奈緖)に先立たれ、
中学生になる一人娘のひかり(中田乃愛)を男手一つで育ててきました。
思春期に入ったひかりは扱いにくくなっては来ましたが、それでも穏やかな日々。

牧師としての収入だけでは不足のため、ガソリンスタンドでバイトをする一男ですが、
優しく穏やか、周囲の人々から慕われています。
しかしある時、娘ひかりが病に冒され、
そのことから思いがけない事実が発覚します・・・。

最愛の妻、最愛の娘。
そのつながりが根底から覆されてしまうような恐ろしい事実。
神を最も信じているはずの一男には、つらすぎること。
それでも一男は信仰を保つことができるのか。
さあ、どうする・・・?!

一男が牧師でなくとも十分につらいことなのですが、
彼が牧師であることで一層問題が深まります。

映画では、妻・江津子の事情も描かれていて、割と納得できるのですが、
何分にもすでに亡くなっている妻は、一男に事情を説明することができない。
なんとも切ないですねえ・・・。

どうにもならない感情を抑え込むムロツヨシさんの演技が圧巻です。
江津子の元カレであるヒロ(毎熊克哉)がマジでクズ男なのが、
しょうもないけどなんだかちょっとおかしい。

探偵役で登場する小栗旬さんもナイスでした。

<WOWOW視聴にて>

「マイ・ダディ」

2021年/日本/116分

監督:金井純一

出演:ムロツヨシ、中田乃愛、奈緒、毎熊克哉、小栗旬

 

切ない事情度★★★★★

満足度★★★★★