正義を声高に言ったりはしないけれど
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就職も決まり、卒業を間近に控え、
手持ち無沙汰でただなんとなく毎日を過ごしていた掘貝佐世(佐久間由衣)。
そんな彼女が、同じ大学の猪乃木楠子(奈緒)と知り合い親しくなっていきます。
また、友人(小日向星一)の友人である穂峰(笠松将)が
命を落とすという出来事もあります。
何気ない日常を描きながら、個々の根底にある“哀しみ”に気づきつつ、
徐々に前へ進むべき理由と力を見出していく佐世の物語。
楠子は過去にいわれない暴力を受けたつらい記憶を持っています。
佐世もまた、楠子ほどではないけれど同様の経験が。
そのことは両者ともに、その後の自分の性格や他者との距離の取り方に
大きく影響していると思っています。
また、佐世は児童福祉司として勤務することが内定しているのですが、
それを目指したのは、とある子どもの行方不明事件が影響しています。
これもまた暴力に対してなすすべがなかった子どもの事件なのではないか・・・。
そしてまた、今大きな問題になりつつあるネグレクトのこと。
子どもや女性が、大人や男性の暴力にあらがえず、心も体も傷つけられてしまう。
そんな人々に少しでも力になりたい・・・という佐世の思いが
次第に浮かび上がり鮮明になっていきます。
こんなところがすごく自然で、納得のいくものでした。
佐世は、はじめからギンギンに「子どもたちのために頑張りたい!」
などと宣言するような人物では全然なくて、
むしろやる気がなくて頼りない感じだったのです。
人と人とのつながりで、成長していく様も心地よいですね。
普通っぽいけどいい感じの穂峰くんは笠松将さんが演じていて、ラッキー♡と思ったのですが、
なんと始めの方しか登場しません。
最もショッキングな退場の仕方をしてしまいます。
彼の本当の「思い」は、最後まで描かれないのですが、
世の中の不条理に意欲をそがれてしまったのかしら・・・。
ものすごーく切ないです・・・。
正論で正義を声高に言ったりしないけれど、
人々が抱える哀しみに寄り添いながら、
でも、少しでも良い方向に歩みたいと思う。
ごくさりげなくこのようなことを訴えるこの作品、なかなか秀逸だと思います。
つまりは原作がいいということか・・・。
津村記久子さんは好きな作家さんなので、機会があれば読んでみようと思います。
<WOWOW視聴にて>
「君は永遠にそいつらより若い」
2020年/日本/118分
監督・脚本:吉野竜平
原作:津村記久子
出演:佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将
哀しさ★★★★☆
満足度★★★★★