映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

リバー、流れないでよ

2024年01月10日 | 映画(ら行)

2分間のループ

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上田誠率いる人気劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画第2作。

 

京都、貴船の老舗料理旅館「ふじや」で、仲居として働くミコト。
別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを、女将に呼ばれ、仕事に戻ります。
しかしその2分後、なぜか先ほどと同じ所に立っているのです。
その2分後もまた同じ。

どうやらミコトだけではなく、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちも皆、
同じ時間をループしているのです。

2分経つと時間が巻戻り、全員元いた場所に戻ってしまうのですが、
それぞれの記憶は引き継がれます。
人々は力を合わせてタイムループの原因究明に乗り出しますが、
ミコトは一人複雑な思いを抱えていました・・・。

 

えーとヨーロッパ企画の第一弾というのは「ドロステのはてで僕ら」ですね。
そちらでも2分の時間のずれで、いろいろな騒ぎが巻き起こるのですが、
こちらもやはり2分です。

たった2分が限りなくループというのはあまりにも忙しく、
その2分の間でできることなどそれほどないのでは?と思われるのですが、
本作、ワンシーンワンカットとなっていて、
それは正確に2分間であるとのこと。
そうか、2分間でもけっこう物事は進展できるワケなのね。

ちなみに、本作は貴船神社と料理旅館「ふじや」の全面協力を得て撮影したとのことで、
登場人物たちの移動時間などもリアルなわけで、
コレはなかなか説得力があります。

ミコトのように、2分経つと元いた位置(初期位置)に戻ってしまう場合には
おかしなことが起きているとすぐ気づくのですが、
ずっと同じ場所にいた場合にはなかなかそうはいきません。
例えば部屋で雑炊を食べていた客は、食べても食べても減らない雑炊に驚きあきれます。
また、お風呂に入っていた客はいくら洗ってもシャンプーの泡が消えないと、
泣きそうになっている・・・という具合。
確かにコレはなかなか時間のループだとは気づきにくいのですが、
ミコトたち従業員はきちんと宿泊客たちにも事態を説明して回るというのは、
プロ意識高いですね!

さて、次第にこの現象はこの貴船地区限定で起こっているらしいことに彼らは気づくのですが、
それにしても一体何が原因なのか・・・?
誰かが、貴船神社に願掛けでもしたのか・・・?

なんと意外にもSFチックな展開になっていきますが、まあ、それにしてもユーモラス。
ラブストーリーまで含まれているのは心憎いですね。

ユニークで、楽しくて、また次の作品が楽しみになってきました!

 

<Amazon prime videoにて>

「リバー、流れないでよ」

2023年/日本/86分

監督:山口淳太

原案・脚本:上田誠

出演:藤谷理子、鳥越裕貴、本上まなみ、近藤芳生

ユニーク度★★★★★

満足度★★★★.5


グレイト・ニュー・ワンダフル

2024年01月09日 | 映画(か行)

「あの日」が残した爪痕

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あの同時多発テロから一年後のニューヨークを舞台に、
そこで暮らす人々の五つの物語を交互に描きます。

 

★あの日、崩壊したビルの7階にいた会社員。
たまたま無事な場所にいたため助かったのですが、多くの同僚も失っています。
どうやら心に変調を来し、カウンセリングに通っている様子・・・。

★気難しい10歳の息子に手を焼く中年夫婦。
なんとか普通の生活を続けようと奮闘中。

★ケーキ業界トップを目指す野心的女パティシエ。
一つの大きなプレゼンを目前にしています。

★親友であり、隣人であり、また仕事の同僚でもあるインド出身の二人のSP。
インドから訪問中の将軍の護衛にあたります。

★古雑誌のコラージュが趣味の老主婦と、その夫。
二人に会話らしきものもなく、妻は夫への不満を抱え込んでいるようだけれど・・・。

 

あの日の出来事に直接関わったかどうかに関わらず、
誰もが心に傷を負い葛藤を抱え込んでいます。

平穏な日々は簡単に崩れ落ちてしまう。
多くの人が命を失い、自分が生き残ったことの意味。
口には出さずとも、胸の奥で誰もが問いかけ続けたのではないでしょうか・・・。

それでも、なんとか折り合いをつけてわたし達は生きていく他ありません。
2005年。
まだまだ人々の心の傷が生々しかった頃の作品ですね。

これらの人々に特別の関係はなくて、それぞれ別途の物語なのですが、
一度だけエレベーターに乗り合わせるシーンがあって、ナイスでした。

 

<Amazon prime videoにて>

「グレイト・ニュー・ワンダフル」

2005年/アメリカ/83分

監督:ダニー・レイナー

出演:マギー・ギレンホール、オリンピア・デュカキス、ジム・カーフィガン、ジュディ・グリア、トム・マッカーシー

 

心の傷度★★★★☆

満足度★★★☆☆


笑いのカイブツ

2024年01月08日 | 映画(わ行)

立ち上がる負のオーラ

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「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの同名私小説を原作としています。

人間関係が不得意なツチヤタカユキは、
テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしています。
毎日気が狂うほどネタを考え続けて6年。
ようやく実力が認められてお笑い劇場の作家見習いになりますが、
あまりにもネタ作りに集中して非常識な行動をとるので、
周囲に理解されず、次第に居場所がなくなってしまいます。

それからしばらくして今度は、ある芸人のラジオ番組にネタを投稿する
「ハガキ職人」として注目を集めるようになり、
その芸人から声をかけられて、上京しますが・・・。

 

「笑い」を追求するツチヤではありますが、当人はクスリとも笑わず、
いつも一人隅っこにいて暗い顔をしてネタを絞り出しているのです。
お笑いへの情熱や努力は人一倍。
しかし、どうにも人間関係が不得意。
せめて人並みの処世術を身につけてさえいれば・・・とは思うものの、
これがツチヤなのだからしようがない。
わかってはいても、本人はそれがまた苦しい・・・。

岡山天音さんは、いうまでもない名バイプレイヤーではありますが、
ここへ来ての主役、終始まとう負のオーラについ引きずり込まれそうになります。
なんて生きづらいのだろう・・・
ただただ、そう思います。

 

息子のことには全く興味がなさそうでいて、
ほんのりとした愛情が垣間見えるお母さん(片岡礼子)、

ただ一人単純にツチヤの頑張りを認めるミカコ(松本穂香)、
自身もダメなヤツながら変なヤツを変なヤツのまま受け入れるピンク(菅田将暉)、

そしてツチヤの才能を認め、なんとか社会に溶け込ませたいと思う西寺(仲野太賀)、

素晴らしい共演陣に囲まれて見応えのある作品となっています。

 

<シネマフロンティアにて>

「笑いのカイブツ」

2023年/日本/116分

監督:滝本憲吾

原作:ツチヤタカユキ

出演:岡山天音、片岡礼子、松本穂香、前田旺志郎、菅田将暉、仲野太賀

 

負のオーラ度★★★★★

満足度★★★★☆

 


いつかの君にもわかること

2024年01月06日 | 映画(あ行)

息子の新しい親を探す父

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窓拭き清掃員33歳ジョンは、4歳の息子マイケルをひとりで育てています。

不治の病に冒され、余命宣告を受けたジョンは、
養子縁組をして自分が亡き後に息子を託すことができる
マイケルの新しい親を探し始めます。

理想的な家族を求めて、何組もの候補と面会するけれど、
息子の未来を架けた決断を前に進むべき道を見失います。
そんなうちにもジョンの体調は悪化していき、気持ちは焦るばかり・・・。

なにしろ、こんなにも幼い子を残して逝かなければならないジョンに対して、
そして愛するたったひとりの父を亡くすマイケルに対して、
切なさがこみ上げて、ともすると涙が流れ落ちてきてしまいます。

養子縁組の世話をするケースワーカーは、
マイケルに対しても「死」の意味をきちんと伝えるべきだと言うのですが、
ジョンはそういう気にはなりません。
こんなにまだ幼いのに、「死」の意味を知るなんて早すぎると思うのです。

けれど、死んだ虫のことを聞くマイケルに、ジョンは説明を避けることができません。
「養子」ということばを度々聞き、いろいろな人と引き合わされることの意味も
マイケルはわからないながら、何かを感じ取ってもいるようで・・・。

これらのことの説明を、ジョンはしないわけには行きません。

前に進むためのつらい説明・・・。

ところでマイケルの母は、というと、どうも異国の人だったようで、
まだマイケルが赤子だった頃にマイケルを置いて国に帰ってしまい、
今はどこにいるのかもわからず、連絡も取れません。
そんなだから、余計に不憫なんですよねえ・・・。

また、養子を受け入れようとする人々もいろいろな事情があるようで・・・。
もう何人も受け入れている人や、子どもができなかったお金持ち・・・。

結局ジョンは、どの人を選ぶのか。
ついマイケルの親になった気持ちでわたし達も考えてしまいます。

とにもかくにも切ない・・・!

 

ガラスふきの仕事をするジョンが、家々の窓から中の人々の生活を垣間見て、
ちょっとほっこりしたりするシーンがステキでした。
中にはごく当たり前の親子の何気ないひとときもあり、
けれどジョンは当人たちが気づいていない「幸せ」な時をそこに見出したりします。

でもそれは窓の向こう側のことで、自分のことではないという、これも切ない光景。
秀逸なシーンです。

「いつかの君にもわかること」

2020年/イタリア、ルーマニア、イギリス/95分

監督・脚本:ウベルト・パゾリーニ

出演:ジェームズ・ノートン、ダニエル・ラモント、アイリーン・オヒギンス

 

切なさ★★★★★

不憫さ★★★★★

満足度★★★★★


「ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ」奈倉有里 

2024年01月05日 | 本(解説)

ことばの白地図の冒険

 

 

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ロシア文学の研究者であり翻訳者である著者が、

自身の留学体験や文芸翻訳の実例をふまえながら、

他言語に身をゆだねる魅力や迷いや醍醐味について語り届ける。

「異文化」の概念を解きほぐしながら、

読書体験という魔法を翻訳することの奥深さを、

読者と一緒に“クエスト方式”で考える。

読書の溢れんばかりの喜びに満ちた一冊。

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本作の著者はロシア文学の研究者であり翻訳者でありますが、
近頃その関連の著作などでも脚光をあびています。
私、先頃直接この方のお話を聞く機会がありまして、
何か少し浮世離れしつつ素晴らしい才能に恵まれた方・・・という印象で、
すっかりファンになってしまい、その著作を色々読んでみたくなりました。

それで今Wikipediaを見てみたら、なんと弟さんはあの逢坂冬馬さん!!

なんとなんと・・・。
そうか、それで共著に「文学キョーダイ!!」というのがあるわけなんですね。

 

さてさて、著者のことについてはこの先もご紹介することがあるかもしれませんので、
とりあえず本作の話。

 

創元社から出ている「あいだで考える」シリーズのうちの一冊であります。

翻訳者になるためにはどうすればいいのか。
それをRPGで「ことばの白地図」を冒険することに例えながら、
自身のロシア語、ロシア文学を学んだ経験に照らして語っていきます。
ゲームをするような感覚で、ちょっとワクワク。

中でも、「文化」について触れているところ。
今、教育委員会が言っているような「異文化」と「自国の文化」の境界を
明確に線引きし、特定の国籍の人々が属するものとするのは、
あまりにも強引であるばかりか、端的に言って不正確である。
・・・と、きっぱりと批判しているあたりがなんとも痛快で気に入りました。
そもそも文化って何?という話ですが、
説明すると長くなるので、ぜひ本巻で確認していただきたい。

 

そして、最後に実際に「翻訳」の話があるのですが、
著者は翻訳にかかる前に原本を10回くらいは読むそうです。
それは原文を読む原語を母語とする読者の読書体験を大切にするため。
原文の読者がどの部分でどのように感じるのか、
それをそのまま翻訳文で再現したいということなのでしょう。
当たり前と思うかも知れませんが、中には非常に「原文に忠実」な翻訳というものもあります。
すなわち、翻訳を読むとその向こうに原文の言い回しや構文が透けて見えるような訳し方。
・・・実は私、若い頃にこういう翻訳に辟易して
すっかり海外物の本を読むのがイヤになってしまったのです。

さすがに近頃はそこまでガチガチの翻訳は見なくなりましたが。
それなので、著者のこう言う考え方には大いに賛成。

ロシア文学などと聞くととても手が出ない感じでしたが、
この際、著者翻訳による本をぜひ読んでみたくなりました!!

<図書館蔵書にて>

「ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ」奈倉有里  創元社

満足度★★★★☆


大名倒産

2024年01月03日 | 映画(た行)

多額の借金を背負って、切腹?

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江戸時代。

越後、丹生山藩の役人の息子、間垣小四郎(神木隆之介)は、
ある日突然、自分が丹生山藩主の後継ぎだと知らされます。
有無を言わさず、江戸の藩屋敷に連れてこられて、
藩主としての務めを果たすようにと、言われるのです。
実の父、前藩主の一狐斎(佐藤浩市)は、
小四郎に国を任せて隠居してしまいました。

いきなり一貧乏侍の小せがれから、一気に藩主となったことに
戸惑いを隠せない小四郎。
(ここからは松平小四郎と名乗ります。)

そして、丹生山藩が25万両(約100億円)もの借金を抱えていることを知り、
呆然となってしまう・・・。
さっそくそのことを伺いに父の元を訪ねれば、父は「大名倒産」せよという。
借金の返済日に藩の倒産を宣言して、踏み倒してしまえというのです。
しかしそれはつまり、小四郎にすべての責任を押しつけて、
切腹させようという腹づもりのようで・・・。

さあ、どーする!?というわけですね。

結局、父と息子の命がけの対決という大きなテーマではありますが、
実はそこにも裏があって、
薄ぎたない幕府老中と商人の癒着が隠されているのでありました。

さて、小四郎の育ての父は、藩の特産物である塩引き鮭を管理するお役人でありまして、
自らも塩引き鮭を作るのが得意。

藩の財政を立て直すには、コレが役立つのでは・・・?
という私の読み通りにストーリーが進むのでした。
ま、これくらいの伏線は読めます。

武士はそもそも、このようにソロバン勘定のことが苦手ですよね。
だから本当に、経済的に窮したことも多かったことでしょう。

小四郎は、藩主になっても人々にフランクに接するので、こぎみよいです。
いつの間にか屋敷内に住み着いているように見える幼馴染みのさよちゃん(杉咲花)も、
ま、現実的ではないけれど可愛いから許す!

ちなみに、小四郎の兄にあたる人物は3人いて、
藩主の後を継ぐはずだった長男は落馬して死去。
次男は病弱、三男はうつけ、ということで
やむなく赤子のうちに外に預けられた小四郎が呼び戻されたということになっております。

この、うつけものに松山ケンイチさんをあてるという
かなり贅沢な配役をしておりますね。
でもこの方、明るくてユニークで、いいわあ。
差別用語でなくそのことを表わすのに「うつけ」というのは良いことばだと思います。

<Amazon prime videoにて>

「大名倒産」

2023年/日本/120分

監督:前田哲

原作:浅田次郎

脚本:丑尾健太郎、稲葉一広

出演:神木隆之介、杉咲花、松山ケンイチ、桜田通、小日向文世、小手伸也、宮崎あおい、浅野忠信、佐藤浩市

財政立て直し度★★★★☆

コミカル★★★★☆

満足度★★★.5

 


65 シックスティ・ファイブ

2024年01月02日 | 映画(さ行)

6500万年!!

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本作の主人公ミルズ(アダム・ドライバー)は、地球の人類ではなくて、
どこか遠い宇宙の惑星の生き物。
・・・といっても人類とそっくりそのままなのですが。

彼は、長期探査ミッションのため宇宙船で飛び立ち、
長い任務を終えて帰還の途に就く所だったのですが、
小惑星帯と衝突し、付近のとある惑星に墜落します。
船体は大破して航行不能。
生き残ったのは、ミルズともうひとり、コアという少女のみ。
さてところでようやくここで、本作の題名の意味が明かされるのですが、
「65」というのは、つまり・・・。
この惑星は6500万年前の地球だったのです!! 
巨大な恐竜たちが闊歩する時代。
そして、恐竜を絶滅させたというあの、巨大隕石の衝突寸前の時!!

二人はこの二つの脅威からの脱出を図ることになります。

ところでこの二人、言葉が通じない。
翻訳機もダメになっていて使えません。
こまかな意思疎通はできないままに、
二人は脱出用の宇宙船が落下している山頂を目指します。

なんと言っても本作の時代設定、状況設定に拍手!!
話には聞く、巨大隕石の衝突寸前の地球だなんて、なんとスリリング。
タイムマシンでではなくて、こんな状況設定もありだったのか。
眼からウロコの気分ですね。

そして、少女とオジサンのコンビ、
少女はお荷物になるだけかと思いきや、さすが昨今の物語、
少女は頭もよくて勇気があって、たくましい。
ミルズは何度か彼女に命を救われます。

ユニークな設定を、興味津々で見ました。
ジュラシックパークばりに恐竜も恐いですよ~。

さてそういうことならば、そのあたり、
恐竜の化石と一緒に宇宙船の残骸の化石もあるかも・・・?

<WOWOW視聴にて>

「65 シックスティ・ファイブ」

2023年/アメリカ/93分

監督・脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ

出演:アダム・ドライバー、アリアナ・グリーンフラット、クロエ・コールマン

 

設定のユニーク度★★★★★

恐竜の恐怖度★★★★☆

満足度★★★.5


「八本目の槍」今村翔吾

2024年01月01日 | 本(その他)

三成の真の姿とは?

 

 

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安土桃山時代の見方が変わる!
誰も書かなかった三成が、ここにいる!
盟友「賤ケ岳七本槍」の眼を通して、浮かび上がる三成の真の姿とは。

過酷な運命を背負った七本槍たちの葛藤、
三成との相克そして信頼が、巧みな構成のなかに描かれ、
三成の言葉には、千年先を見通した新しき世への希望が滲む。
はたして、戦国随一の智謀の男は、何を考え何を思い描いていたのか。

凄まじき〝理〟と熱き〝情〟で、戦国の世に唯一無二の輝きを放った武将の姿を、
史実の深い読みと大胆な想像力で描く傑作。
吉川英治文学新人賞受賞。

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ガッツリの歴史小説。

秀吉の小姓組の中で、特に槍の名手7人を「賤ケ岳七本槍」と呼びました。
本作はその7人それぞれの視点から、ある人物を浮かび上がらせます。

それは石田三成。
三成は特に武術に秀でていたわけではなかったけれど、
八本目の槍に例えてもよいくらいに、賢く先を見通して秀吉を支えていた・・・
ということから来た題名となっています。

 

この7人の眼を通して、というところが本作の素晴らしいところ。
まるで合宿でもしているように希望に燃えた若き彼らの様子からはじまるそれぞれの人生を、
読み応えたっぷりに語っていきます。
そんな中で三成はいかにも独特で皆からは浮いたような存在なのですが、
でもそのずば抜けた頭脳と先を見通す力は、誰もが認め、一目置く存在でもあるのです。

やがて時が過ぎて、いよいよ関ヶ原の戦いに挑む頃には、
それぞれの立場も異なってきていて、
西側につくもの、東側につくものと別れてしまっています。

そして、三成亡き後においてもストーリーは続きますが、
生前三成の残した言葉が気にかかっている者が、
まだ残っている7本槍たちと邂逅し、語り合うことで、
真に三成が目指していたことが浮かび上がる・・・。

 

本作の構成の妙にはうならされてしまいます。
読み応えたっぷり。
これぞ、歴小説の見本!!

図らずも調度、大河ドラマ「どうする家康」と重なる時期のものだったので、
より興味深く読みました。

「八本目の槍」今村翔吾 新潮文庫

満足度★★★★☆