子供の頃から耳にしていた声優さんがひとり、またひとり、と亡くなって逝く。
野沢那智が亡くなった。享年72歳。
これでアラン・ドロンもアル・パチーノもブルース・ウィリスも悟空の大冒険の三蔵法師もスターウォーズのC3POもチキチキマシン猛レースのナレーションも、もし、新作が出ても日本語バージョンの声は他の人。
野沢那智の軽快で芸達者な声を聞くことはできない。
ま、悟空の大冒険なんか、新作はでないでしょうけど。
原作の手塚治虫も亡くなっていることだし。
ともかく、声優さんの亡くなったショックでは一昨年だったかの広川太一郎以来のショックだ。
あの時は、もしジーン・ワイルダーの新作が製作されたら誰が吹替をするのか、と残念で仕方がなかった。
また、ロバート・レッドフォードの吹き替えもどうするんだ、とも思った。
ただその時は、レッドフォードならまだ野沢那智が存命している、と自分で自分を慰めた。
野沢那智は「裸足で散歩」や「華麗なるヒコーキ野郎」でロバート・レッドフォードの吹き替えをしていたのだ。
広川太一郎も「遠すぎた橋」や「華麗なるギャッツビー」でレッドフォードの吹き替えをしていたのだ。
ところで、この広川太一郎と野沢那智が映画の吹き替えで共演したことがあり、声を聞いているだけではどっちの俳優の役なのか、わからなくなった作品があった。
その映画は「大統領の陰謀」。
ワシントン・ポストの二人の記者がニクソン大統領を退陣にまで追い詰めた取材活動をドラマ化した作品で、実際の記者はこの取材と記事においてピューリッツア賞を受賞している。
このドラマで二人の記者を演じたのがロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマン。
この映画が月曜ロードショーで放送されたと知ったとき、誰が吹き替えをするのか大いに気になった。
なぜなら、ロバート・レッドフォードもダスティン・ホフマンも広川太一郎であったり、野沢那智であったりしたわけで、
「まさか野沢那智の一人芝居じゃあるまい」
とは思わなかったが、非常に気なったのであった。
結局放送されたのを見てみると、ロバート・レッドフォードは広川太一郎でダスティン・ホフマンは野沢那智なのであった。
当時、1978年頃の我が家にはビデオデッキはまだ無かったのでテープレコーダーをテレビのイヤホンジャックに接続して声だけを録音した。
そのテープは今も大切に我が家のカセットテープ収納引出しに保管されている。
荻昌弘の解説が録音されているのも貴重なテープだ。
解説が終わるとドラマが始まる。
画面の無い音声だけの「大統領の陰謀」は、ロバート・レッドフォードが話しているのかダスティン・ホフマンが話しているのか、慣れるまで全くわからないものなのであった。
どうしても、広川太一郎と野沢那智の声なので、聞いているだけではどっちがホフマンでどっちがレッドフォードなのかわからない。
やがて、つっけんどな話し方で演じる野沢那智の声の方が高卒で叩き上げの記者になったカール・バーンスタイン記者を演じているダスティン・ホフマンであることに慣れ、各々の俳優の顔を想像しながらドラマを混乱せずに楽しめるようになったのであった。
ということで、また一人、お気に入りの声優さんがいなくなった。
まるで知人の声を聞けなくなったようで、とっても寂しい。
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