東京劣化 地方以上に劇的な首都の人口問題
松谷明彦著 PHP新書 780円+税
著者の松谷さんは、政策研究大学院大学名誉教授で国際都市研究学院理事長。
大蔵省審議官も務められた元官僚。
人口減少研究の第一人者です。
少子高齢化による人口減少は、秋田県や青森県、島根県や鳥取県というイメージでしたが、同書を読むと、人口減少のインパクトは、東京、大阪といった大都市圏であることを知り、ちょっとびっくり。
著者は、日本の農業や集落は維持する術(すべ)があるが、東京をはじめとする大都市は厳しいと主張します。
東京では、2040年は2010年と比較して高齢者が143万人増加すると分析。
そのため、貯蓄率は低下、インフラが維持できず、都市がスラム化するリスクがあると指摘します。
高齢者が家を失い、老人ホームも圧倒的に不足する・・・同書は、楽観的な未来図を描く人たちに警鐘を鳴らします。
◆目次
第1章 東京 これからの現実
第2章 東京劣化現象への誤解
第3章 これからの東京の経済
第4章 なぜ政府は間違えるのか 人口政策の歴史が教えてくれること
第5章 東京劣化への対処 今できること
著者は、国、そして地方公共団体がとる政策を「タブー」として指摘。
国のタブーその1・・・少子化対策 流れは変えられない
国のタブーその2・・・経済成長の追及 国民はどんどん不幸になっていく
国のタブーその3・・・増税による財政再建 社会が崩壊する・・・
地方のタブーその1・・・若者の流出抑制 地方は消滅しない!
地方のタブーその2・・・大都市経済への接近 産業再配置は格差を拡大する
地方のタブーその3・・・市町村合併 集落と農業が破壊される
そして、著者は首都東京の劣化を指摘。
けっこうショッキングです。
1 首都東京のスラム化
2 文化や情報の発信力が弱まる
3 生活環境の悪化
4 国際化への努力を怠った東京の「中流都市」への劣化
著者のかなりネガティブな目論見・・・にわかに信じがたいのですが、さらに続けます。
1 東京は現在の人口を維持できない
2 出生率2.07は達成できない 未婚率に注目すべき
3 東京は世界の情報が集まらない「田舎の都市」
4 日本の経済成長率が世界の最低になることは確実
著者の分析では、戦前の「産めよ増やせよ」と「軍事政府」が高度成長を実現させたと分析します。
そして、戦後の産児制限が、それに拍車をかけたと主張。
かなり厳しい東京の現実ですが、その対策についても具体的に指摘しています。
1 「一人当たり租税収入」と「一人当たり財政支出」で予算編成を
2 「小さな財政」 サービスの水準を維持しつつ、行政コストを縮小する
3 高齢者の生活コストを切り下げる
4 公共賃貸住宅を大量につくれ
おじいさん、おばあさんの街なるかもしれないTOKYO・・・今からちょっと心配ですが、東京という街は、それを乗り越えるパワー、ポテンシャルを持っているように思います。