萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第35話 曙空act.3―another,side story「陽はまた昇る」

2012-03-08 22:08:21 | 陽はまた昇るanother,side story
※念のため後半1/3微かにR18(露骨な表現は全くありません)

いま抱いていく、夜と朝の物語





第35話 曙空act.3―another,side story「陽はまた昇る」

英二はミリタリージャケットを脱いだ。
ジャケットの下は、いつもの白いシャツにカーディガンを羽織っている。
先に寮で風呂を済ませてきたのかな?そう見ている周太に英二は微笑んだ。

「さっきね、国村に書類チェックして貰っていただろ?あの間にね、急いで済ませてきたんだ」
「そうなの?…でも、15分も無かったよ、ね?」
「うん、もう全速力だったから、」

きれいな笑顔を見せてくれながら英二はジャケットをハンガーにかけている。
終わるとそのままカウンターに立って、英二はコーヒーのセットを始めた。
気がついて周太は英二の隣に行くと、そっと英二の掌に自分の掌を重ねた。

「待って、英二…あの、俺が淹れるから、」
「大丈夫だよ、周太?今日は当番明けで講習もあったから、疲れているだろ?」

やさしい笑顔が「大丈夫だよ?」と笑いかけてくれる。
けれど周太は英二の手元からカップとコーヒーフィルタを取り上げた。

「ううん、俺が淹れる…だって、約束でしょ?俺がね、一生ずっと、英二にコーヒーを淹れる、って…だから、」

話しながら手元は動かしてコーヒーをセットしていく。
ゆっくり湯を注いで、立ち昇る香と湯気を見つめながら、首筋に熱が昇っていくのがわかる。
きっと今、英二は周太の手元を見つめている。そして紅潮していく首筋を見ている。
どこか緊張しながら気恥ずかしいまま、周太はコーヒーを淹れ終えてマグカップをテーブルへと運んだ。

「あの、お待たせ…熱いから、気をつけて、ね」

見あげた先で切長い目が、じっと周太を見つめてくれている。
やさしい温かい眼差しなのに、どこか哀しげで周太の心が軋んでいく。
この哀しそうな眼差しの理由は何だろう?
きっとこの哀しげな気配が、英二との微かな距離の理由になっている?

「うん、ありがとう、周太」

見つめる想いの真ん中で英二が笑ってくれた。
そしてソファに座るとマグカップを取って、ひとくち飲んで微笑んだ。

「旨い。周太が淹れてくれたコーヒーがね、いちばん旨いね?」
「…よかった、ありがとう、英二」

うれしそうにコーヒーを飲んでくれる横顔がうれしい。
けれどさっきの哀しげな目が気になってしまう。
なぜ英二は、あんな哀しい想いを今している?

―…周太、美代さんの話がなにか、知ってた?

新宿で交わした携帯電話での会話。
あのとき英二はなぜ自分に、この問いかけをしたのだろう?

…英二、もしかして、…

そうかもしれない。
いま気がついたことを周太は心でいちど考え込んだ。
それから隣へと体を向けて、そっと唇を開いた。

「…美代さんはね、英二の真面目なところが好き、って、教えてくれたよ?」

マグカップを持つ英二の手がとまった。
しずかにテーブルへとマグカップが置かれて、けれど英二の目はカップを見つめている。
どこか哀しそうな横顔に周太はそのまま言葉を続けた。

「国村を必ず連れて帰ってくる、そう英二が約束したのが、美代さんは嬉しかったんだ。
そしてね、本当に英二は国村を連れて帰って来た…美代さんはね、雪崩があったことも気がついているんだ。
本当に危険なときでも、約束を守ってくれた英二をね、美代さんは好きになってくれたんだよ…ね、英二…?」

名前を呼んで、周太は英二の顔をそっと覗きこんだ。
きれいな切長い目を見つめて周太は唇を開いた。

「美代さんはね、英二の心を真直ぐ見つめて、好きになってくれたんだ。
だから俺はね、うれしかったんだ…英二の心に恋してくれる人がね、うれしかった。
俺が、大切にしている英二の心をね、素敵だって、好きになって貰えたことがね、うれしかったんだ。
だから英二に知ってほしかったんだ。英二の心をね、愛するひとが俺以外にもいる、そう知ってね、英二に笑ってほしかった…」

きれいな目がゆっくり1つ瞬いて周太を見つめてくれる。
見つめながら、きれいな低い声が静かに想いを声にしてくれた。

「俺はね、周太…俺が、邪魔になったから、だから…美代さんの気持ちを知っていて、デートさせたのかな、って思ったんだ」

やっぱり、そうだった。
きっと誤解をして哀しんでいると周太は思った、その通りだった。
違うよ?瞳でも告げながら周太は本音を口にした。

「俺はね、子供を産めない…だから、美代さんに気後れしたのは、ほんとう。
でも英二を邪魔になんて出来ない、だってね、…俺、本当は、いっぱい泣いたんだ。
自分でね、美代さんにも、英二にも、デートするように勧めたくせにね…落ち込んで、拗ねて…みっともなかった、よ?」

自分で言っていて恥ずかしくなってくる。
気恥ずかしさに首筋が熱くなってくる、きっともう頬も赤くなっている。
こう赤くなる周太を見つめて、きれいな低い声が微笑んだ。

「拗ねて、みっともない位に、泣いてくれた?周太、」
「ん、…ほんとうにね、…みっともないよ?泣き虫で、弱くて、ずるいんだ、俺は…ごめんね?」

真赤になりながらも周太は素直に本音を話した。
こんなに自分をさらけ出すのは恥ずかしい、こんなことしたことが無い。
けれど、正直なことは決して嫌じゃない。むしろ、すこし呼吸が楽になる?
ささやかな自由に微笑んだ周太に、きれいな笑顔が笑いかけた。

「泣き虫で、弱くて、ずるい周太。可愛いよ?…ほんとうにね、守ってあげたくなる…周太、」

長い腕がそっと肩に背中に回されていく。
やわらかな力が頼もしい腕から伝わって、穏かに抱きしめてくれた。
シャツとカーディガンを透かして伝わる体温が幸せな温もりを与えてくれる。
穏かな安らぎにくるみこまれて周太は微笑んだ。

「ほんとう?英二、こんな俺が…可愛いの?」
「うん、ほんとうにね、可愛い。大好きで、離せなくなって…困るよ、周太?」

すこし腕の力をゆるめて、きれいな笑顔が周太の瞳を覗きこんだ。
離せなくなって欲しいのに?想ったまま周太は口にした。

「ん、…離せなくなって、英二?傍にいてほしい…でも、英二は、困るの?」
「うん、…困るよ、俺。でも、傍にいるよ?安心して、周太」

困ったような笑顔で言ってくれる、そんな顔も英二はきれいだった。
けれど英二はどうして困るの?そう見上げた周太の額へと、やさしいキスがふれてくれた。

「さ、周太?そろそろ眠らないとね、昨夜は当番勤務で、ほとんど寝てないだろ?」

確かに昨夜は慌ただしい金曜の夜で、休憩時間もずれて寝不足でいる。
けれど今夜は眠ることよりも恋人の時を過ごしたい、ふたりきりの時間を見つめたい。
その為に今夜自分は連れ帰った貰った、それなのに英二は眠ろうと言うの?肩透しのように周太は途惑った。

「あ、…ん、そう、だけど…」

途惑うまま返事をする周太を、やさしい笑顔で英二は見つめてくれる。
自分だけが求めているようで、そんな自分が気恥ずかしくて首筋が熱くなっていく。
また赤くなる周太に、きれいな低い声がすこし、おどけたように訊いてくれた。

「ね、周太?ベッドまで、お姫さま抱っこする?」

おひめさまだっこ。
そうあらためて言われると気恥ずかしい。
気恥ずかしくて俯きかけながら、そっと周太は英二の顔を見た。
きっと照れて「抱っこはいらない」と言うだろうな?そんな顔をしている。
でもごめんね?ちょっと笑って周太は、腕を英二の首へと回した。

「ん。抱っこして…」

抱きしめた首筋がすこし赤くなっていく。
こんなふうに英二が気恥ずかしがるのを周太は初めて見た。
こんなふうに英二が赤くなるなんて?どうしたのかなと思いながらも、ちょっと気分が良い。
こんな英二がなんだか嬉しい。嬉しくて周太は、ぎゅっと首に抱きついた。

「ね、英二?はやく抱っこして?…つれていって?」

抱きついている自分もきっと首筋が赤い。気恥ずかしい、けれどなんだか嬉しい。
きっと英二も、この首筋に気がついているだろうな?
うれしい想いに微笑んで周太は、きれいな淡く赤い首筋に頬寄せた。

「…うん、…周太、つれてくよ?」

ささやくように優しい低い声が告げて、長い腕が背中と膝の下へとまわされる。
ふわり体がういて、軽やかに周太は英二に抱き上げられた。
抱き上げられ額にかるく額でふれてくれる、静かに笑いかけてくれる顔がきれいで周太は見つめた。
そんな周太にまた困ったように微笑んで、きれいな低い声が囁くようつぶやいた。

「…そんな顔で、俺のこと見つめないで?周太…困るから、」

さっきも英二は困っている、そして今も。
こんなに困っている英二は初めて周太は見ている。
いま抱きついている首筋はあわく赤くて、きれいな紅潮が白皙の肌を染めている。
こんなふうに赤くなる英二を初めて周太は見た、今日の英二はどうしたのだろう?
そんなに自分は困らせている?不思議で周太は訊いてみた。

「どうして、困るの?」
「どうしても、だよ?周太、」

綺麗に微笑みながら長い腕が周太をベッドにおろしてくれる。
ブランケットを捲って白いシーツへと抱え移すと、英二は周太をブランケットで包みこんだ。
やわらかな枕に髪をこぼして周太は英二を見あげた、その額へと端正な唇が優しいキスをおとして微笑んだ。

「おやすみ、周太、」

きれいな笑顔を残して英二は、ソファをサイドベッドへと作り始めた。
どうしてそんなことをするの?体を起こすと周太は英二の背中へ問いかけた。

「どうして、英二?…どうして、そんなことしてるの?…ベッドに入ってくれないの?」

ひろやかで端正な背中が微かにふるえて動きが止まる。
真直ぐ見つめている先で、背中向けたまま大好きな声が微笑んだ。

「今日はね、周太も疲れてるだろ?ゆっくり休んだ方がいい、だからベッドを広く使ってほしいんだ。俺が入ったら狭いだろ?」

こんなこと、今まで一度も言ったことない。
警察学校の寮の狭いベッドでだって英二はいつも一緒に寝ていた、まだ友達だったのに。
いまはもう婚約者で、恋人や婚約者は一緒に寝るのだと英二は自分に教えてくれた。
なのに、どうしてこんなこと英二は言うの?どうして一緒に寝てくれない?
こんなこと、わからない。そのままを周太は英二に言った。

「婚約者は、一緒に寝るって言ったの、英二でしょ?…どうして、そんなこと言うの?」
「その時によってはね、ひとりで寝ることもあるよ?だいじょうぶだよ、周太、ここにいるから」

きれいな背中向けたままで英二は微笑んで、またサイドベッドのセッティングを始めた。
その背中も動きも、どこかぎこちない。

…こんなの、嫌、

周太はベッドから脱け出した。
素足のままカーペットを踏んでいく、その気配に端正な背中の動きが止まる。
止まる背中の呼吸の陰から、やわらかい溜息が空気ゆらして名前が呼ばれた。

「…周太、」
「ん、なに?…英二、」

呼ばれた名前に素直に答えて、周太は微笑んだ。
微笑んで見つめる端正な背中が微かにふるえている。
ふるえにそっと周太はふたつの掌でふれた。

「…っ、」

ふれる掌のした呼吸がひとつ止まる。
どうしてそんなにふるえるの?周太は英二の後ろ髪を見あげた。
見あげた先の貌は俯き加減のまま、なにか耐えるような哀しみが翳おとしている。

…どうして哀しいの、ふるえるの?

ふるえる背中に周太は寄りそった。
ひろやかな背中に体ふれる温もりが愛おしい、もっと近づきたい想いが生まれていく。
ふるえる背中よりそって腕を伸ばして、掌シャツの胸に重ねて、ふるえごと英二を抱きしめた。

ことん、ことん、
やわらかな鼓動がふれる背中から周太の胸へと響いてくる。
ひろやかに端整な背中に頬寄せると体温と鼓動が温かい、その鼓動がすこし早くなる。
この音はどこか樹木の水めぐらす音にも似ている?そんな想いと頬ふれる鼓動を周太は慈しんだ。
鼓動聴く耳に背中のふるえ伝って、きれいに低く声が響いた。

「…周太、寒いから…ベッドに、入って?」

綺麗な低い声が気遣ってくれる、その声の奥がすこしふるえている。
どうしてふるえるの?ちいさく周太は微笑んだ。

「ん、英二が一緒なら、入る…ひとりじゃ嫌」

わがままを言うと今日の周太は決めて来た、だから今も素直に微笑んだ。
ひとりじゃ嫌だよ?そんな想いに背中から抱きしめる腕すこし力いれて、掌は白いシャツ越しに英二の胸を抱きしめた。
抱きしめた掌に伝わる鼓動がすこし早くなる、ほっと息つく胸が掌にふれて、困ったように英二が微笑んだ。

「ね、周太…どうして俺がね、ベッド別にしているか、解からないの?」
「わからない、知らない…理由なんて知らない、…ひとりじゃ嫌、一緒にベッドに入って、英二」

なにを英二が言いたいのかなんて知らない。
ただ自分は英二と一緒にいたい、寄りそって眠りたい。
わがままでも構わない、だだ正直に周太は自分のしたいことを英二にねだった。

「お願い、英二?一緒にベッドに入って?…抱きしめて?ひとりは嫌、」
「…周太、」

困ったような、ため息。
けれど吐息の底には嬉しそうな想いが微笑んでいる?ちいさく笑って周太はねだった。

「英二、一緒に寝て?…そうじゃなきゃ俺、床で寝ちゃうから…お願い聴いて、あいしてるんでしょ?」

ほっと吐かれる溜息が「まいったな、」と笑ってくれた。
もう英二は言うこと聴いてくれる?そう見上げた先で困ったまま笑顔がふり向いてくれる。
そして長い腕が周太を抱きしめてくれた。

「うん、お願い聴くよ?…周太のお願いにはね、絶対に俺、逆らえない…観念するよ、」

抱きしめて笑って、そのまま抱き上げてくれる。
抱き上げて額に額でふれてくれる困ったままの笑顔に、うれしくて周太は微笑んだ。

「ん、観念して?…俺ね、英二にはもう、わがまま言うって決めたんだ…全部、正直に言っちゃう。だから言うこと訊いて?」
「言うこと聴くよ、周太。わがままもね、可愛い、」

お手上げだ観念したよ、そんなふうに切長い目が笑っている。
美しい大きな体、怜悧で賢明、そんな英二が自分に観念してくれる。
それくらい好きでいてくれるの?わがままに周太は訊いてみた。

「わがまま、可愛い、でしょ?…それくらい、俺のこと、好きなんでしょ?あいしてるんでしょ?」
「そうだよ、周太。愛してるよ、…お手上げだよ、」

きれいに笑って英二が答えてくれる。
その顔が嬉しくて微笑みながら周太は、心裡そっと自分にどぎまぎしていた。

…こんなこと、言ったことない、自分で途惑う…すこし怖い、でも、

ほんとうは少し怖い、わがまま言って嫌われたらって怖い。
けれどもう英二には全部を言ってしまいたい、それでも受けとめられたなら自信になる。
愛されている自信が生まれる、そうしたら自分にも愛している想いが生まれる。
お願いどうか愛させてね?すこし気恥ずかしいまま微笑んだ

「ね、英二?…こんなに俺はね、わがままで、…ほんとに、可愛いの?」
「わがまま周太、ほんと可愛い…あんまり可愛いから、困る」

ほんと困るよ?微笑んで周太を抱き上げたまま、ベッドへと英二は入ってくれる。
白いシーツとまくらに周太をうずめてブランケットで包んで、長い腕が抱きしめてくれた。
体にまわされる温もりが嬉しい、微笑んで周太は隣を見つめた。

「ね、英二?さっき、どうして、離せなくなって困る、って言ったの?」

さっき言われて不思議だった言葉。
いつも英二は「離さないよ」と言ってくれる、なのに「困る」と言うなんて?
訊かれて切長い目は困ったように笑うと、周太の瞳を見て微笑んだ。

「周太、きれいになったね。1月の時より、ずっと、」
「ん?…そう、かな…」

さっき浴室の鏡に覗きこんだ自分に、雰囲気が変わったとは思った。
それを「きれいになった」と英二は言ってくれるのだろうか?
褒めてくれるのは嬉しい、けれど自分の問いに対する答えはまだ貰っていない。
なにか答えたくない事なのだろうか?周太は唇を開いた。

「…いつも英二、離さない、って言ってくれるでしょ?でも、なんでさっきは、困るって言ったの?」

どうして言っていることが変わったの?
そんな想いで見つめる隣は、また困ったように静かに微笑んだ。

「うん、…困るんだ、今は。でも周太、安心して?ちゃんと傍にいるよ、守っている。わがまま周太が可愛いから、」

どうして困るの?わがままでもいいの?
なんどでも訊いてみたい質問、確かめてみたい英二の想いの今のかたち。
どうしたら教えてくれるのだろう?

「ん、…ほんとに、わがままで…いいの?」
「うん、わがままが良い、周太。全部を言ってくれたらね、うれしいよ」

やさしい笑顔で笑いかけると、長い腕を伸ばしてルームライトを消してくれる。
ダウンライトだけの朧あわい光が安らかで、ふっと眠りが微笑んだ。
でもまだ眠りたくない、かるく頬を掌で叩くと周太は隣を見つめた。

「ね、英二?…電気、消さないで、眠くなっちゃうから、」
「だめだよ、周太。昨日は競技大会の後に当番勤務だったろ?疲れているはずだよ、周太。ちゃんと眠って?」

きれいな笑顔が「ダメだよ?」と告げてくる。
でも自分は眠りたくない、今夜は英二と心も体も繋げて想いを見つめたくて、ここに来た。
この願いの為に自分は来た、眠りたくない。惹きこまれそうな眠りに抗うように周太は口を開いた。

「嫌…だって、今夜は…えいじに、…」
「おやすみ、周太。明日はね、御岳山に行くんだから…眠って?」

やさしいキスが額にふれる、その温もりが嬉しくて周太は微笑んだ。
そんな周太の微笑みに眠りが睫にふれてくる、瞳がおちて閉じてしまいそうになる。
まだ眠りたくないのに?身じろぎして周太は英二のふところへと頬をうずめた。

「…えいじ、…愛している、よ?…だから、…」

だからお願い、抱きしめて?
この心ごと体を繋いで愛して自分を見つめて?

「…おねが、い…… 」

ふっ、と意識が眠りの底へ墜とされた。
今夜、伝えたい言葉と想いを声に出来ないまま、おだやかな眠りが周太を安らがせていく。
そうして眠りに落ちた周太を、宝物のように英二は抱きよせて微笑んだ。

「周太、…おやすみ、夢の中でも微笑んで?」

ねむる周太の唇に、そっと優しいキスを英二は重ねた。



ふっ、と瞳が披いて周太は目を覚ました。
暗くなった部屋の灯に惹きこまれた眠りは微睡におちこんだ。
けれど微睡は疲れを呑みこむと、そっと意識を解放して目覚めが訪れてくれた。
目覚めた瞳の焦点がゆっくり合っていく、まだ昏い夜が瞳に映る。
ゆるやかに瞳うごかして周太は辺りを見た。

…まだ、夜?

いま見上げる天井も窓のカーテンも夜の昏さに佇んでいる。
いま夜明けまでどのくらい時間が残されているの?
いまの時刻を知りたくて周太は身じろぎをした。

「…周太?」

大好きな声に名前を呼ばれて周太は隣へと顔をあげた。
見つめたむこうで切長い目が驚いたように見つめてくれる。
英二も起きていた、うれしくて周太は腕を伸ばして英二に抱きついた。

「英二、起きていたの?…いま、何時?」
「いま1時位だと思うけど…どうしたの、周太?いつも眠ったら朝まで起きないのに、」

驚いて大きくなった英二の目が可愛い。
いままだ1時、時間はまだある事が幸せで周太は英二に頬を寄せた。

「ん、どうしてもね、今夜は起きていたくて…ね、英二?どうして、困るの?」
「困る?」

さっき、はぐらかされた質問。
どうして「離れられないと困る」のか?これをどう訊いたら教えてくれるだろう。
頬ふれる英二の白皙の肌理を見つめながら、すこし考えて周太は唇を開いた。

「英二はね、俺が離れたら、困らないの?」
「離れてほしくない、でも。周太が、俺から離れたいんなら、…」

言いさして寂しげな微笑みを英二は見せた。
その物憂い笑顔が父と似ている、思わず周太は見惚れて微笑んだ。

「ん、英二、今ね?父とそっくりだった…ね、離れたくないよ、英二から…あ、」

言いかけて周太はふっと気がついた。
もしかして周太が寄せる英二への想いを「父」だと英二は思っているのだろうか?
それが微かに感じる英二との距離感の原因かもしれない?
英二の目を見つめて周太は問いかけた。

「ね、英二?…美代さんにね『恋』について、話したんでしょ?」
「うん、恋って何?って訊かれたからね」

美代から少しだけ訊いた英二の「恋」についての考え。
ここから周太の想いも確認ができるのかもしれない?
きれいに微笑んで周太は頬寄せる英二へとおねだりをした。

「美代さんに話した『恋』についてね、俺にも教えて?」

教えてほしいな?目でもお願いしながら周太は微笑んだ。
そんな周太にふっと笑って英二は口を開いた。

「恋だとね、相手のことを丸ごと知りたくなる…知って、好きで、相手のことを全部、欲しくなる」

話してくれながら長い指が周太の髪をかきあげ撫でてくれる。
気持ちよくて微笑みながら周太は英二の目を見つめた。

「恋したら。その相手にはね、他の人は見てほしくなくなる。
自分だけで、独り占めしたくて、…ふたりきりで、過ごしたい。
ずっと腕のなかから離したくなくて、ちょっと離れるのも哀しくて…苦しい。
ずっと見つめていたい。声聴いて、肌ふれあって…体温を感じて抱きしめていたい。好きだ、って言い続けて…愛してる、って…」

話し終えていく言葉が夜の静謐へと融けこんだ。
この想いを英二の言葉に乗せてみせたい、真直ぐに英二の目を周太は見つめた。

「ほんとうは…英二には、他のひとはね、見てほしくない。
俺だけで英二を独り占めしたい、ふたりきりでいたい…だから今夜もね、奥多摩に連れてきてほしくて…
ずっと英二の腕に抱きしめられたくて、英二の笑顔を見つめたくて、声を聴きたくて…逢いたかったんだ、」

父への想いと英二への想いは、似ているけれど違う。
どうか願いと想いを見つめてね?きれいな切長い目を見つめたまま周太は告げた。

「英二の…肌に、ふれたい…温もりを感じて、抱きしめられたい…」

見つめる切長い目が大きくなった。
そんなに驚くほど意外なの?その意外を確信に変えたくて周太は、真直ぐ想いを告げた。

「好き、英二…愛してる、…すき、」

愛してる。想いと言葉を一緒にこめて、周太は英二の唇へとキスをした。
ふれるだけのキスは、奥多摩鉄道の夜に重ねたように幸せが優しく充ちてくる。
おだやかな温もりと優しい感触の幸せに重ねるキスがあまく微笑んでいく。

「…英二、お願い、…聴いてくれる?」

そっと離れて周太は英二を見つめた。
離れた唇にはキスのあまやかな気配が香ってこそばゆい。
このキスを今夜ずっと重ねたい、想いに見つめる切長い目が微笑んだ。

「周太のお願いはね、俺には『絶対』だよ?だから、聴かせて?」
「ん、…ありがとう、英二、…あの、ね、」

どうかお願い、いま、わがままを言わせて。
ひとつ呼吸して周太は想いを声にした。

「英二、俺を、抱いて?…キスして?名前を呼んで…肌にふれて?…体温で、俺に、ふれて…」

首筋から熱が昇る、頬が熱くなる、頭がぼうっとする。
恥ずかしい、こんなお願いは恥ずかしくて変になる。
それでも周太は真直ぐに英二の目を見つめていた。

「…周太、…だめだよ、」

きれいな低い声が哀しげに拒絶を伝えてくる。
どうしてそんなこと言うの?疑問のままを周太は英二にぶつけた。

「どうして、だめなの?…お願い、聴いてくれないの?」
「周太、俺はね、…あのとき、周太の体を大切に出来なかった、」

周太の疑問に英二が苦しげに言葉を返してくれる。
哀しげな切長い目が周太を見つめながら、きれいな低い声が想いを続けた。

「嫌がっている周太を、俺は…犯したんだ。許せないんだ、自分の事が。
もし、同じことを他の人間が周太にしたら。きっとその相手を俺は、この世の涯までだって追い詰めてしまう。
それくらいにね、許せないって想っていることを、俺は…自分がしてしまったんだ。だから周太、俺にはもう資格が無い、」

きれいな切長い目から、ひとしずく涙がこぼれておちる。
そっと周太は涙へと唇をよせてキスに吸いこんだ。
温かな潮が唇にはこばれとけていく、英二の涙の味に周太は微笑んだ。

「だめ、英二…英二は、俺のお願いにはね、逆らえないんでしょ?…愛してるんでしょ?だから、お願いを聴いて?」
「周太、…でも、」

言いかけた英二の言葉に周太は、そっとキスをした。
ふれる想いと温もりがあまやかに幸せになれる、微笑んで周太は英二の目を覗きこんだ。

「俺を、ほしいでしょ?…お願い、英二?わがままな俺が、可愛いんでしょ?だったら、…お願い、聴いて?」

しずかに周太は体を起こした。
ベッドの上に起きて座りこんで、シャツの胸元に掌を重ねこむ。
掌のした鼓動が早くなっている、こんなの恥ずかしいと心臓が悲鳴をあげそう、息も止まる。
こんなこと考えたことない、したことない。嫌われたらどうしよう?って怖い。

…でも、今、なんだ…きっと、今しかない

この今の瞬間を、わがままを押し通せなかったら一生後悔する。
ふかく1つ呼吸すると周太は、きれいに微笑んだ。

「ね、英二?お願い聴いて、言うこと聴いて?わがままで可愛いんでしょ?だったら…」

きれいに微笑みながら、胸元の掌をいちどだけ、ぎゅっと握りしめた。
にぎりしめた掌に勇気ひとつ、それから、わがままな開き直りが微笑んだ。
わがままな周太が可愛い。そう言ってくれた想いを信じて、ゆっくり掌ほどいていく。
そうしてほどいた掌を周太はシャツのボタンへと掛けた。

「俺のこと、かわいいんでしょ?…だったら、…だきしめて?」

ちいさな音にボタンが1つはずれる。
こんなこと慣れていない、指先がふるえてしまう、恥ずかしくてたまらない。
でも今ここで逃げたくない、わがままで構わない、正直に求めてしまいたい。
ふるえる指先で周太はシャツのボタンを1つずつほどいていった。

「かわいい、なら…今夜、からだごと、かわいがって?…愛してるなら、いうこときいて…英二…」

シャツが肩からおちて露にされる肌が、2月の夜にさらされる。
ベッドから見上げる切長い目がぼうぜんと、この露な肌を見つめている。
こんなこと自分がするなんて考えたことが無かった、けれどいま、なりふり構っていられない。

…恥ずかしい、こんなの…でも、わがままでも、なんでもいい…英二、

愛しているなら今、この肌を見て?
愛しているなら今、この肌へと手を伸ばして?
そして抱きしめて心ごと体を繋いでほしい、あなたへと繋がれたい。
どうかもとめて?頬を紅潮にそめて周太はきれいに微笑んだ。

「英二、抱きしめて?」

切長い目がゆっくり1つ瞬いて周太の瞳を見つめてくれる。
大きな美しい体がゆっくりベッドから起きあがって、周太を抱きしめた。
抱きしめてくる腕の感触に頼もしい力が伝わってくる、鼓動の速さが重なりふれる胸に響いて温かい。
しずかに抱きしめられたまま、白いシーツへと体が沈められる。

「周太、…」

切ない声が名前を呼んでくれる。
こんな声を英二が出すなんて自分は知らない、初めて聞く声に周太は微笑んだ。

「ん、…えいじ?」

微笑んで呼んだ名前に綺麗な笑顔が咲いてくれる。
きれいな笑顔へと周太は両掌を伸ばして、そっと顔をくるんで近寄せた。

「えいじ、…すき、」

ふたりのくちびるが重なりふれあう。
ふれるキスが温かい、あまやかな温もりがやさしい。
キスだけで心が蕩かされていく、求めていた想いの幸せが温かい。
やさしい穏やかな感触のまま周太は英二を抱きしめた。

「愛してる、英二…好き、だから、…」
「うん、…周太、」

抱きよせて近寄せた端正な貌が、幸せそうに微笑んだ。
美しい体がゆるやかに身を起こすと、白いシャツを脱いで床へとこぼした。
白皙の肌あわい光にまばゆかせて、首にかけた合鍵を外すとサイドテーブルに長い腕がことんと置いた。

「周太、愛してる、…ずっと、愛してるよ?」

きれいに幸せが英二の顔に笑った。



2度めの目覚めが訪れたのは、きれいな曙の光の部屋だった。
透明な朝の息吹がカーテンから笑いかけてくれる。
光の笑顔がうれしくて気恥ずかしくて、そっと白いベッドカバーをひきよせた。
朝の光ふれる肌を白いリネンにくるみながら、しずかに睫あげて周太は隣の貌を見た。
見とめた想いの真ん中で、きれいな幸せな笑顔が大らかに華やいで、きれいな低い声が告げた。

「おはよう、周太。…俺の、花嫁さん…」

きれいな低い声こぼれる想いと一緒に、白皙の頬ひとつ涙がこぼれた。
あふれる光にふれ煌めきながら英二の涙が幸せな笑顔につたっていく。
きれいな笑顔が幸せでくるんで心ごと体が温まる、きれいな涙が愛しさを心に呼び起こす。
幸せと愛しさに微笑で、そっと周太は涙にキスをした。

「おはようございます、英二?…あの、花婿さん?」

スカビオサの白い花は「朝の花嫁」白いレースのような可憐な花。
この白い花の言葉に、小春日和の台所で贈られた赤い花と白い花を編んだ花束が甦る。
やさしい清楚な冬と春の花々に英二は想いをこめて、婚約の花束をメッセージカードと一緒に贈ってくれた。
あの花束には「朝の花嫁」が微笑んでいた、そして英二の想いが花々に輝いていた。
あの想いに昨夜は応えることが出来た、再び心と体を繋いで想いを結び合えた。
甦った英二との繋がりが幸せで周太はきれいに微笑んだ。

「俺の婚約者さん、未来の、夫?…おはようございます、」
「周太…俺のこと、夫、って言ってくれるの?」

綺麗な低い声が問いかける。
切長い目は真直ぐに瞳みつめて穏やかに笑っている。
この今の瞬間に微笑んで、きれいに周太は笑いかけた。

「ん。…だって、婚約者でしょ?…いつか、夫、になるんでしょ?…毎朝、こうするんでしょ、」

この言葉を唇が声にするごと首筋も頬も熱くなっていく。
きっと今もう真赤になっている?恥ずかしくて周太は白いリネンをそっと掌でかきあわせた。
その掌を長い指の掌がくるみこんで、宝物のように手にとると英二は幸せに笑ってくれた。

「うん、…周太が許してくれるなら、夫になりたい。毎朝、こうしたい…周太、」

長い指にくるんだ掌に綺麗なくちびるがキスおとす。
あまやかな吐息の温もりふれる掌が幸せで恥ずかしくて、周太は額まで紅潮にそまった。
うれしい、けれど本当に自分に言ってくれている?確かめたくて周太は想いを口にした。

「…ん、あの…わがままだけど、いいの?…ずるいし、よわむしで泣き虫だよ?…すぐ、拗ねるし」
「いいよ?」

きれいな大らかな笑顔が華やいだ。
キスした掌を惹きよせ抱きよせて、切長い目が瞳を覗きこんでくれる。
見つめた瞳を視線で結ばせて、綺麗な低い声が楽しそうに告げてくれた。

「泣き顔も可愛い、きれいな涙にはキスしたい。
拗ねて嫉妬されると愛されてるって想えて嬉しいよ?ずるくて弱いのは小悪魔みたいで、艶っぽくてどきどきする。
そしてね、わがまま周太は可愛くて、大胆な誘惑は色っぽくて、きれいだ…そんな周太にね、俺、…恋して緊張したよ」

話してくれながら英二の首筋があわく赤くなっていく。
今までにない英二の反応が不思議で周太は質問をした。

「ん、…恋して、緊張したの?」
「そうだよ、周太。たぶん俺、今も首筋が赤いんじゃないかな?こんなの初めてだけど…。俺、ときめいたんだ。わがまま周太に」
「…わがままな俺に、ときめいたの?」

わがままを言って、ときめかれる?
ときめく、は、憧れて恋して緊張して、心臓の鼓動が早くなること。
たしかに英二の鼓動は早かった、いまも首筋が赤くそまっている。けれど、自分に?
不思議で見つめる先で、白皙の頬をうす赤くした英二がきれいに笑った。

「うん、ときめいたよ?すごくね。ちょっと反則だったよ、周太?
恥ずかしそうにしながら艶っぽく言うんだもん、『愛してるなら言うこと聴いて』って上から目線でさ。
可愛くて、きれいで凛としてね。女王さまみたいだったよ、周太。もう俺、好きにしてください、って降参しちゃった。お手上げ、」

女王さま、だなんて、はずかしい。
わがまま押し通そうと決めた、でもやっぱり恥ずかしい。気恥ずかしくて真赤になりながら周太は睫を伏せた。

「じょおうさまなんて、…いや、もう…はずかしい…」

恥ずかしくてリネンに顔をうずめたい。
けれど掌を長い指にくるまれて動かせなくて周太はただ俯いた。

「ほら、そうやって気恥ずかしがるだろ?周太。それがね、反則だよ。
わがまま言いながらね、頬が赤いなんてさ、可愛くてしょうがないだろ?ツンデレ周太が復活した感じだったよ。
しかも艶っぽいツンデレなんてさ?反則過ぎるよ、周太。もう俺ね、ツンデレ女王さま周太の、恋の奴隷になっちゃった」

うれしそうな幸せそうな声が俯けた赤い首筋にふってくる。
わがまま押し通しただけなのに、こんな反応になるなんて?
予想外の反応に途惑いながら周太はすっかり困惑して、そっと英二の貌を見た。

「…よろこんでるの?えいじ、」
「うん、大喜びだよ?俺ってちょっとマゾなのかな、ね、周太?」

こんなしつもんなんてこたえたらいいの?
でも喜んで幸せそうな英二の笑顔はうれしくて、すこし周太は微笑んだ。

「ん…わからないけど、でも…えいじがよろこんでくれるのはうれしいけど」
「うん。これからもね、ツンデレ女王さま周太でいてね?なんでも言うこと聴くからさ、ね、周太?もっと俺を恋の奴隷にしてよ、」
「…婚約者で、未来の夫?じゃ、ないの?」
「婚約者で、未来の夫で、恋の奴隷だよ?いいだろ、こういうのって。ね、周太?」

きれいな笑顔が華やいで抱きよせてくれる。
こんなの恥ずかしい、けれど幸せだなと心から微笑んでしまう。
こんなふうに英二は「わがまま、ずるい、弱い」まで温かな懐に抱きこんでしまった。
こんな居心地のいい懐を愛さないでなんていられる?おだやかな曙の光のなかで周太は、愛する懐に安らいだ。
おだやかな深い森のような香が頬から肩からくるみこんでくれる。
大好きな香に微笑んだ周太の瞳を、切長い目がそっと覗きこんだ。

「そしてね、周太?俺はこういう周太も知ってるよ。
周太は子供の純粋無垢なまま、繊細でやさしい。やさしいから、相手を気遣い過ぎる。
だからいつも想うことが言えなくて、苦しくなって泣いてしまう。自分が悪いずるいって責めてしまう。
やさしいから切り捨てられない、だから俺と国村のどちらも捨てられない、選べない。そんな周太がね、俺は愛しい」

ずるくて弱くて泣き虫のわがまま、途惑って子供のままでいる自分。
こんな自分のありのままを、真直ぐに英二は見てくれている?

「…ほんとう?…そんな俺で、いいの?」
「そんな周太が大好きだよ、ときめくよ、そしてね、本当に愛してる。どうしていいか自分で解らないくらい、愛してる」

素直に想いを告げながら長い指の掌が頬をくるんでくれる。
まるで宝物をあつかうよう頬をつつんで、きれいな切長い目が見つめてくれる。
そして美しい低い声で名前を呼んでくれた。

「…周太、…俺の運命のひとはね、君だよ。愛してる、」

あまやかな穏やかなキスがそっと唇をふさいだ。
やさしい温かなキスの幸せに周太の睫がそっと下りていく。
ゆるやかに瞑っていく視界あざやかに曙の光あふれる朝が微笑んだ。
そうして瞑られた瞳には赤と白の花束こめた想いが目を覚ます。

“あなただけが、自分の真実も想いも知っている
そんなあなただから、心から尊敬し友情を想い真剣に愛してしまった
この純粋な情熱のまま、あなただけが欲しい。あなたの愛を信じたい。
純粋で美しい瞳のあなたに相応しいのは自分だけ、どうか変わらぬ愛と純潔の約束を交わしてほしい
毎夜に愛し吐息を交して、どうか毎朝に花嫁として、あなたを見つめたい
だから約束する「あなたを愛していると最高峰から永遠に告げていく」すべてに負けない心を信じてほしい“

いま、光あふれる奥多摩の朝に、小春日和の台所で贈られた想いは甦った。




(to be continued)

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