萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

神無月二十三日、楓―Harmony

2020-10-23 13:27:00 | 創作短篇:日花物語
生々流転、その瞬きは 
10月23日誕生花カエデ楓


神無月二十三日、楓―Harmony

木洩日ゆれる、赤あわく、または黄金に。
昔のままに。

「今年もいい色だな、」

微笑んだ唇、かすかに甘く渋く香る。
落ち葉すこし足元かすめて、もう秋が来た。
なんどめだろう?

「訪れる者なくとも、秋は訪なう…だなあ、」

あわい甘い、ほろ苦いような香。
かすかな音かさり、葉擦れの光くすぐる。
この匂いが好きだ、音も光も、だから離れられない。

―こんな詩があったな、

ほら記憶かすめる、香に音に、そして光。
もう遠くなった日に教えてくれた、君の声。

『ワーズワースって、知ってる?』

The spirit of pleasure and youth‘s golden gleam-
And think ye not with radiance more divine
From these remembrances, and from the power
They left behind?

「…黄金やわらかな光、」

ほら唇が詞なぞる、自分の声で。
あの時間は確かにあったと、見あげる梢に色が揺れる。

「おじーちゃんっ!」

澄んだ声まっすぐ、落ち葉かさかさ響きだす。
あわい香ゆれて濃やかになる、その真ん中ぱっと笑顔はじけた。

「みーつけたっ!なにしてるの?」

笑顔ころころ薔薇色ほころぶ、小さな手いっぱい広げてくれる。
それでも前より近くなった笑顔に、右手さしのべ頭を撫でた。

「庭を散歩してたんだよ、透はひとりで来たのかな?」
「うん、もう2年生だもんっ、」

ちいさな手で数字つくって見せてくれる。
その指まだ幼くて、そのくせ長めで微笑んだ。

「透も指が長いんだな、」

ちいさな手そっと掌ふれる。
大きさは違う、けれど重ねた手ふたつ同じ指。

「おじーちゃんも長いねっ、」

ちいさな笑顔ことこと明るんで、その瞳まっすぐ自分を映す。
澄んだ黒い瞳どうしても懐かしくて、もう逢えない面影に笑いかけた。

「おまえの父さんも指が長かったよ、」
「そうなの?」

問いかけてくれる声が透る、ほら?懐かしい。
もう逢えなくて、けれど新たな命が手をつないだ。

「もっと教えてよ?おじーちゃん、バイオリンも、ねっ、」

ほら懐かしい言葉が笑ってくれる。
呼んでくれる名前は変わって、けれど懐かしい眼ざし自分を映す。

『もっと教えて父さん、ここのフィンガリングどうしたらいい?』

黄金きらめく秋の窓、真直ぐな瞳が問いかける。
あの時間また訪れるなんて思えなかった、けれど今、旋律ひそやかに生まれゆく。
【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Books XI,257-388 [Spots of Time]」より抜粋】


楓:カエデ、花言葉「美しい変化、調和、大切な思い出、約束、保存、自制、隠棲、非凡な才能」

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紅葉錦、奥多摩の紅葉

2020-10-23 08:43:06 | 写真:山岳点景
紅葉金襴、木蔭から仰ぐ錦秋の青 
山岳点景:奥多摩の紅葉2012.11


奥多摩は秩父山塊@東京都の山里、黄葉紅葉グラデーションがきれいでした。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:東京都青梅市御岳山2012.11】

リアル山ずーーーーーっと登れていない→ナマりそうでマズイかも、笑
緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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